配当還元方式による相続税評価について不動産税理士が解説
税理士の見解
「配当還元方式のポイント」
・配当還元方式自体は難しくないが、評価方法が原則的評価方法なのか、配当還元方式なのかの判断は専門家に相談することが望ましい
目次
皆さん、こんにちは。
マルイシ税理士法人の税理士の鈴木雅人です。
不動産投資をしている方の中には、法人で運営されて方も多いと思います。
ご自身が設立された法人は同族会社となり、相続の際には非上場株式として相続人自身で相続税評価額を計算しなければなりません。
その評価方法には、原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式)と特例的評価方式の2種類あり、配合還元方式は特例的評価方式に該当します。
今回は、配当還元方式により評価するケースと、株価の算出方法について解説します。
配当還元方式とは?
配当還元方式は、同族株主以外の株主が取得した株式を評価する際に用いる評価方法です。
会社を経営できる権利がない少数株主は、実質的に配当金を得る目的で株式を保有しています。
そのため相続税において、同族株主以外の株主が取得した株式は配当金額から株価を評価します。
配当還元方式の株式の計算方法
配当還元方式の計算式は以下の通りです。
配当還元方式の計算式
「1株あたりの年配当金額」は、課税時期の直前期と直前々期で支払われた配当金額の平均値です。
配当金額は通常期に支払われるものが対象で、特別配当や記念配当など、毎期支払うことが想定されない配当は年配当金額から除いて計算します。
「1株あたりの資本金等の額」は、資本金の額と剰余金の合計額をいい、資本金等の額を50円で割った数値を乗じることで、配当還元による株価を算出します。
配当還元方式の計算式では配当金額が多い会社は株価が高くなる一方、利益や配当金の支払いがない会社は株価がゼロになることも想定されるため、1株2.5円の下限が設定されているのも配当還元方式の特徴です。
配当還元方式のメリット
1株あたりの株価が下がれば、同じ株式を取得しても納める相続税は減少するので、節税する際は評価額を抑えることがポイントになります。
配当還元方式は、同じ会社の株式を評価する場合でも、原則的評価方式より株価が低くなることが多いです。
原則的評価方式は会社の資産から株価を計算するのに対し、配当還元方式は配当金額から株価を算出するので、原則的評価方式よりも計算は比較的簡便になっています。
また特例的評価方式により株価を算出することとなった場合で、配当還元方式の株価よりも原則的評価方式による株価の方が低くなったケースでは、原則的評価方式で算出した株価を相続税評価額することが可能です。
配当還元方式のデメリット
非上場株式の評価方法は、株式を取得した人ごとに判定を行うため、同じ株式を取得しても取得者の立場によって評価方法が異なる可能性があります。
配当還元方式の対象となるのは同族株主以外の株主であるため、同族会社の株式を配偶者や子が株式を相続した際は、配当還元方式ではなく原則的評価方式により計算することになります。
配当還元方式は配当金額に着目して計算する関係上、配当金の支払い状況によって株価が上下し、配当金額が多い会社の株価が高く算出される点には注意が必要です。
配当還元方式の適用要件
配当還元方式は、同族株主以外の株主が株式を取得した場合に用いる評価方法であるため、取得者の株主区分の判定が必要です。
株式取得者が同族株主以外の株主に該当するかはもちろんのこと、評価対象会社に同族株主の有無で判定基準が変わりますのでご注意ください。
同族株主のいる会社における判定方法
同族株主のいる会社の場合、株式を取得後の議決権割合で判定を行い、株式を取得した人が同族株主以外であれば、評価方式は「配当還元方式」です。
同族株主に該当し、取得者の議決権割合が5%以上であれば原則的評価方式により評価することになります。
議決権割合が5%未満であっても、中心的な同族株主がいなければ、原則的評価方式により株価を算出します。
「中心的な同族株主」とは、同族株主と配偶者、直系血族、兄弟姉妹および1親等の姻族の有する議決権の合計数が議決権総数の25%以上である場合の株主です。
中心的な同族株主がいる場合において、中心的な同族株主であったり、役員となる株主については原則的評価方式により株価を算出し、いずれにも該当しない株主については配当還元方式を用いることになります。
同族株主のいない会社における判定方法
同族株主のいない会社の場合、株式を取得した人が議決権割合の合計が15%未満のグループに属している場合は、配当還元方式により株価を評価します。
議決権割合の合計が15%以上のグループに該当する際は、取得後の議決権割合が5%以上であれば、原則的評価方式の対象です。
議決権割合が5%未満でもあっても、「中心的な株主」いない場合には、原則的評価方式により株価を算出します。
「中心的な株主」とは、株主とその同族関係者が有する議決権の合計数が、評価対象会社の議決権総数の15%以上である株主グループのうち、いずれかのグループに単独で議決権総数の10%以上の議決権を有している株主がいる場合における株主をいいます。
議決権割合が5%未満でかつ、中心的な株主がいる場合、役員である株主は原則的評価方式により評価し、その他の株主については配当還元方式で株価を算出してください。
配当還元方式を利用した相続・承継対策
配当還元方式で計算することで株価を抑えることも可能ですが、大株主や同族株主は原則的評価方式で評価することになります。
そのため配当還元方式を利用するためには、生前中から株式を譲渡するなどの工夫が必要です。
一定の親族への贈与
例えば、「中心的な同族株主」が存在しているが、自分は中心的な同族株主には該当しないという立場の親族がいたとします(具体的には、配偶者の兄弟姉妹や甥姪など)。
この親族については、議決権割合を5%未満に相当する株式を配当還元方式で評価することができ、低い評価額での贈与ができる可能性があります。
その他の対策:従業員持株会の活用
自社株の大半を経営者が保有している場合、従業員持株会を設立し、従業員へ株式を売却する方法があります。
評価方式の判定は、相続により株式を取得した割合に応じて決まりますので、同族株主が保有する割合が減少すれば、配当還元方式により評価することも可能です。
従業員にとっては株式により財産形成をできるほか、配当金を得られる権利もありますので、利害が一致した形で株式を売買できるのがメリットです。
注意点としては、従業員持株会が一定以上の株式を保有すると影響力が大きくなるため、株式を持たせすぎると経営に支障が出る可能性があります。
従業員が退職し持株会を退会する際は、社外に株式を持ち出さないために買戻しするのが一般的ですが、従業員の退職時期が重なると多額の買戻資金が必要になります。
その他の対策:役員持株会の活用
同族以外の役員が事業承継する場合には、役員持株会を設立して、配当還元方式を利用して株式を渡す方法もあります。
役員持株会の仕組みは基本的に従業員持株会と同じですが、株主に役員に限定することで安定株主を確保することができます。
デメリットとしては、役員持株会の保有株式数が多くなれば経営の実権を握られる可能性が出てきますので、役員へ渡す割合には注意が必要です。
また、評価方法の判定において、役員は従業員よりも原則的評価方式に該当する可能性が高いですし、親族は同族株主に該当することになるので、配当還元方式により評価するのは難しいです。
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まとめ
未公開株式は高額であれば、まとまった相続税を支払うことになり、相続財産に現金預金が少なければ、納税資金が不足することも考えられます。
株式を売却して納税資金に充てるにしても、未公開株式は上場株式と違い、すぐに売却するのは難しいため、生前から相続税対策を講じる必要があります。
未公開株式の評価は、相続税の中でも最も計算が難しい財産の一つであり、税務調査における要調査項目の一つです。
そのため配当還元方式の判定はもちろんのこと、評価額の計算にもミスは許されませんので、未公開株式を保有している場合は1度相続税専門の税理士事務所へご相談してください。