借地権は相続できるの?相続する際に知っておきたいポイントまとめ

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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相続が起こると、相続財産は相続人によって相続されます。
相続財産には現金預金や土地建物のように目に見て手で取れるものもありますが、なかには著作権のように「モノ」としての財産ではない「権利」なども含まれています。

相続財産に含まれる権利の中でも、特に登場する機会が多いのが借地権です。そこで本日は、知っているようで意外とあまり知られていない借地権について、その基本的な内容から評価方法、そして相続する際に注意すべきポイントなどを解説していきます。

借地権とは

借地権とは、借地借家法上の概念で、建物の所有を目的とする地上権または土地賃借権のことをいいます(借地借家法2条1号)。もう少し大雑把にいうなら、借りた土地の上に建物を建てる際に発生する権利のことを借地権といいます。

たとえば、あなたが土地を借りて、その土地の上に工場を建てるとします。しかし、工場完成後にその土地の持ち主が、「やっぱりこの土地は売ることにしたから、すぐに工場を壊して出て行って欲しい」と言ったらどうでしょう?困りますよね。

民法では、建物を建てるために地代を払って土地を借りた人には、借地権という権利が発生するように定められています。ちなみに、借地権は他人に売却することも出来ますし、親族などに相続させることも出来るため、贈与税や相続税などの課税対象とされています。

なお、相続税法上借地権は、以下の2つに分類されています。

  1. 普通借地権
  2. 定期借地権

普通借地権とは

一般に広く知られている借地権とは、この普通借地権を指します。普通借地権において、借主は貸主に対して契約期間の更新や延長を求めることが出来るだけでなく、貸主が更新や延長を拒んだ場合は借主がその土地を買い取ることも出来ます。

定期借地権とは

定期借地権とは、文字通り、あらかじめ期限の定められた借地権のことをいいます。したがって、普通借地権のように貸主に対して契約期間の更新や延長を求めることは出来ません。契約終了時には、借りた土地は更地に戻して貸主に返さなければなりません。また、立退料などを貸主に対して請求することも出来ません。

借地権と所有権の違い

土地の権利には、借地権以外にも所有権があります。この2つにはどのような違いがあるのでしょうか?

負担する費用の違い

借地権を有している借地権者は、貸主に対して、毎月の賃借料以外に保証金や権利金・契約更新料などを定期的に支払わなければなりません。

いっぽう所有権者である貸主は、土地を購入した代金以外に毎年その土地に対する固定資産税や都市計画税などを負担しなければなりません。

土地の売買

借地権者はその土地を借りているだけですから、勝手にその土地を売買することは出来ません。しかし、所有権者であれば、その土地を最終的には売買することが出来ます。

ただし、土地の賃貸に関しては、貸主の承諾があれば、借地権者が第三者にまた貸しすることも出来ます。

借地権と相続

借地権は借主と貸主との契約により成立した権利ではありますが、貸主の承諾を得たうえで譲渡承諾料を支払えばその権利を売却することが出来ます。

それだけでなく、借地権を持った人が亡くなった場合は、貸主の承諾や新たな契約更新をする必要なく当該借地権を相続人が相続し、引き続き借地権者となることが認められています。

このように借地権は売買も相続もすることが出来るため、現金預金や土地建物などの一般的な相続財産と同様に、相続税の課税対象となります。

借地権の評価方法

借地権の評価は、その対象が普通借地権か定期借地権かによって、それぞれことなる評価方法で算出されます。

普通借地権の場合

普通借地権の相続税評価額の算出は、以下の算式を用いて行います。

普通借地権の相続税評価額=土地の価格×借地権割合

土地の価格については、国税庁が発表している「路線価」もしくは「倍率方式」のどちらかを用いて算出します。いっぽう借地権割合に関しては、国税庁が地域ごとにその割合を設定しているため、それを用います。

定期借地権の場合

定期借地権は、上述のように、その権利に期限が設けられています。したがって、契約したばかりで設定期間がまだまだ長い場合はその評価額が高くなり、逆に期間があと少ししか残っていない場合はその評価額が低くなります。

なお、実際に定期借地権を算出する場合は、以下の算式を用いて行います。

定期借地権の相続税評価額=土地の価格×(A÷B)×(C÷D)

ちなみに、A~Dは、以下のものを指します。

A:定期借地権設定時の借主の経済的利益の総額
B:定期借地権設定時のその土地の取引価格
C:相続発生時の定期借地権の残存年数に応じた基準年利率による複利年金減価率
D:定期借地権設定期間に応じた基準年利率による複利年金減価率

借地権を相続する際に注意したいポイント

次に、借地権を相続する場合などに注意すべきポイントについていくつか述べたいと思います。

注意すべき点① 相続による借地権の取得と遺贈による取得とは扱いがことなる

上述のように、相続によって借地権を取得した場合は、土地の貸主にその旨を伝える程度でそれ以外にすべき事は特にありませんが、遺言書により法定相続人以外の人物が借地権を取得した場合(これを「遺贈(いぞう)」といいます)は、改めて手続きなどを行う必要があります。

まず、遺贈によって借地権を相続した場合は、貸主から許可を得なければなりません。万が一許可が下りなければ、裁判所に申し立てを行うことになります。さらに、貸主による許可を得た場合は、承諾料を貸主に支払わなければなりません。

注意すべき点② 建物の名義変更は行わなければならない

借地権の相続に特別な手続きを行う必要はありませんが、建物の相続に関しては、被相続人の名義から建物を相続した人の名義に変更しなければなりません。

注意すべき点③ 借地権は生前贈与することが出来る

借地権を引き継がせたい人がいる場合は、生前贈与をすることも出来ます。ただしその場合は、相続税でなく贈与税が課税されることになります。

注意すべき点④ 借地権の譲渡や売却には貸主の許可が必要である

借地権は、相続や贈与はもちろんのこと、譲渡や売却を行うこともできます。ただし、どちらの場合も事前に貸主の許可を得る必要があります。それ以外に、建物の増改築などを行う場合も、貸主の許可が必要になります。

借地権の相続でよくあるトラブルについて

最後に、借地権の相続でよくあるトラブルのうち、代表的なものを3つほどご紹介します。

よくあるトラブル① 貸主から名義変更料を請求された

貸主が借地権の譲渡と相続を間違えて理解している場合があり、名義変更料を請求されることがあります。しかし、相続による借地権の取得は名義変更を行う必要はないため、名義変更手数料を支払う必要はありません。

よくあるトラブル② 借地権を共有名義にしたためその後大変なことになってしまった

借地権を共有名義にしてしまうと、契約更新時や売却時などに相続人の意見がまとまらず、どうにもならなくなってしまうことがあります。このようなトラブルを避けるためには、借地権と建物の相続人を単独の同一人物にしておくことが望ましいでしょう。

よくあるトラブル③ 借地権に高額な相続税がかかってしまった

被相続人が亡くなる前に行った相続税のシミュレーションに借地権を入れ忘れた結果、誤った相続税対策をしてしまうことがあります。借地権抜きの相続税対策では当然不十分となるため、最終的に高額な相続税を支払うことになってしまいます。

このような事態を避けるためには、事前に税理士などの専門家に相談をして正しい相続税対策を行うことをお勧めします。

まとめ

借地権は相続することが出来るだけでなく、相続で取得した借地権については、相続後に名義変更料などを支払う必要はありません。しかし、借地権が相続できるということは、その分だけ相続財産も増えるため、最終的には相続税も増えることになります。

借地権は目に見て手に取れる財産ではないため、ついつい相続財産に加えることを忘れがちですが、評価額は決して少なくないため、これを忘れて申告してしまうと大変なことになってしまいます。

したがって、借地権を相続する予定の方やご心配な方は、出来るだけ早い段階で税理士などの専門家にアドバイスを求める方が良いでしょう。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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