【税理士解説】おすすめの相続税対策とは?不動産・生命保険・生前贈与を徹底比較

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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相続税対策とは?

なぜ相続税対策が必要なのか?

相続税の税額は増加傾向に

税制改正によって、2015年以降、相続税の基礎控除額が大きく減少しました。
バブル期の地価高騰などに伴って引き上げられてきた基礎控除額ですが、ここにきて見直されたものとなります。

改正前 5,000万円+1,000万円×法定相続人の数
改正後 3,000万円+600万円×法定相続人の数

相続税の基礎控除額とは、すべての相続において、無条件で相続財産から控除できる額のことです。

改正前の「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」であれば、たとえばお子さん3人が法定相続人である場合、8,000万円までの相続財産が非課税になるしくみでした。
これに対し、改正後の「3,000万円+600万円×法定相続人の数」では、同じ相続でも4,800万円分までしか非課税になりません。
また、基礎控除額の引き上げの際、相続税の最高税率も50%から55%に引き上げられました。

これらの改正後、相続税の課税件数の割合(死亡者数のうち、相続税申告のあった被相続人の割合)が改正前の倍近くに上がっています。
また、改正前の相続税の税額は1.5兆円前後で推移していたことに対し、改正後は2兆円前後で推移しています。

【参考:現行の相続税の税率】

法定相続分に応ずる取得金額 税率
1,000万円以下 10%
1,000万円超~3,000万円以下 15%
3,000万円超~5,000万円以下 20%
5,000万円超~1億円以下 30%
1億円超~2億円以下 40%
2億円超~3億円以下 45%
3億円超~6億円以下 50%
6億円超 55%

もっとも有効な相続税対策は課税対象を減らすこと

相続税のように、課税対象が一定額を超えると、その超過分に対してより高い税率が適用される課税方法のことを、超過累進課税といいます。
超過累進税課税の特徴は、課税対象が少なくなるほど税の負担割合も下がることにあります。
たとえば、4億円の財産と2億円の財産から計算した相続税を比べてみましょう。

【例】
法定相続人1人の場合
►課税価格4億円
→1億4,000万円

►課税価格2億円
→4,860万円

このように課税対象が半分になると、税額はそれ以上に減少します。
つまり、課税対象を減らす相続税対策を行えば、相続税の負担を大きく減らすことができるのです。

相続税対策の方法

課税対象を減らす相続税対策の方法には、主に下記の方法があります。

  • 生前贈与
  • 不動産の購入
  • 生命保険の加入
  • 相続税の計算のしくみを利用する方法

❋「生前贈与」は、相続税の課税対象となる財産を減らす方法、
「不動産の購入」は、課税対象となる財産の評価額を下げる方法、
「生命保険の加入」は、死亡保険金に対する相続税の非課税枠を活用した節税方法です。
「相続税の計算のしくみを利用する方法」を含め、いずれも課税対象を減らすことにおいて非常に有効な相続税対策になります。

相続税対策一覧【税理士おすすめ】

生前贈与

相続税の課税対象を減らす方法です。
贈与税は相続税よりも税負担が高くなりやすいため、非課税で贈与できる方法を活用することがポイントになります。

【暦年贈与】

贈与税は、暦年課税といって、毎年1月1日から12月31日までの間に贈与を受けた財産の額から110万円の基礎控除を差し引き、その残額に税率をかけて計算します。
「暦年贈与」とは、この年110万円の基礎控除を活用した贈与の方法です。

暦年贈与のメリット

暦年課税のしくみによって、その年に贈与を受けた財産が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。
計画的に少額な贈与を実行すれば、数千万円の財産を非課税でお子さんらに移転させることも可能です。
ただし、贈与税の金額は、贈与を受けた人を基準に計算します。

同じ年に父から現金100万円・母からも現金100万円を1人のお子さんに贈与した場合、合計200万円から110万円を差し引いた90万円が課税対象になりますので、ご注意ください。

暦年贈与のデメリット

►駆け込み対策には使えない
相続開始前7年以内(※)に行われた贈与は、基礎控除の110万円を適用する前の額が相続財産に加算されます。
※令和5年度税制改正により生前贈与加算が相続開始前3年から7年となりました。
令和6年の贈与から影響を受けることになります。
令和9年の贈与から1年ずつ加算年数増加の影響を受けていき、令和13年からの贈与は、7年以内の加算となります。
ただし、以前に比べ4年の延長がなされたため、延長された4年間に受けた贈与は、合計100万円まで相続税が課税されません。

したがって、駆け込みの相続税対策には使えません。

►定期贈与や名義預金のリスクに注意
毎年同じ金額で110万円未満の贈与をすると、贈与を受け始めた初年度に「今後毎年〇万円を贈与し続ける」という定期贈与契約を締結したものと扱われる可能性があります。
その場合、贈与契約を締結した年において、定期贈与を受ける権利の評価額に贈与税が一気に課税されるため注意が必要です。
また、子や孫に内緒で通帳を作り、少しずつ入金する場合、贈与契約が成立していないとみなされ、「名義預金」と扱われる可能性があります。
この場合、親や祖父母が死亡したときの相続財産になりますので、まったく相続税対策になりません。

【相続時精算課税制度】

親や祖父母(原則60歳以上)から、成人である子や孫(その年に成人を迎える子や孫を含む)に対し、累計2,500万円までの財産を非課税で贈与できる制度です。
非課税となった財産は、贈与を行った親や祖父母の死亡時に相続財産に加算され、相続税の課税によって精算されます。
贈与を受ける子や孫が、選択届(贈与者ごとに選択可能)を税務署に提出することで、暦年課税からこの課税制度に変更することができます。
令和5年度の税制改正により、令和6年以降の相続時精算課税贈与については、上記の2,500万円とは別に、年間110万円までの基礎控除が設けられています。
以前は、相続時精算課税制度を選択した場合、贈与があれば、金額に関係なく申告義務がありましたが、この改正により年間110万円以内の贈与であれば、贈与税が課されず、申告も不要となりました。

相続時精算課税制度のメリット

►短期間で多額の非課税贈与ができる
暦年贈与の非課税額を使った贈与よりも、短期間で多くの財産を非課税で贈与できます。
贈与した財産は相続税の課税対象になるため、基本的に相続税対策にはなりませんが、生前に贈与したいニーズがある場合はメリットがあります。

►評価額が下がれば相続税の節税になる
相続時精算課税によって贈与した財産は、相続の際、贈与時の価額で加算されます。
このことから、贈与時よりも相続時の評価額が増加した場合、結果的に、贈与をしなかった時よりも、増額した分だけ課税対象を減らすことになります。
不確実な要素ではありますが、土地や株式、金など価格が変動するものの贈与では、こうしたことが生じる可能性があります。

相続時精算課税制度のデメリット

►暦年贈与に戻れない
選択届を提出した相手からの贈与を、暦年課税に戻すことはできません。
2,500万円の非課税枠を使い切った後に、再び暦年課税に戻して、年110万円の基礎控除を使って贈与することはできないということです。

►逆に相続税が高くなることも
価格が変動するものは、当然、相続時の評価額の方が下がることもあります。
そうすると、結果的には贈与せずにそのまま保有していた方が、相続税の負担は少なくて済んだことになります。

【住宅取得等資金贈与】

直系尊属(親や祖父母など)から成人である子や孫(その年に成人を迎える子や孫を含む)に、住宅用の家屋を取得(新築・購入・増改築)する費用に充てるための金銭を贈与した場合、そのうち一定額までの贈与税が非課税となる特例です。

住宅取得等資金贈与のメリット

►大きな金銭を一度に贈与できる
暦年贈与の非課税額を使った贈与よりも、短期間で多くの財産を非課税で贈与できます。
現行は、下記の金額まで非課税になります。

耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋 1,000万円
上記以外の住宅用家屋 500万円

年によって非課税額が変わるので注意が必要です。

►直前対策にもなる
この特例によって非課税で贈与した額は、贈与後、すぐに相続が発生しても、相続財産に加算されません。
したがって、直前の相続税対策にも有効です。

►基礎控除110万円や相続時精算課税と併用可能
暦年課税による110万円の非課税額とも併用できます。
なお、この特例と相続時精算課税制度を併用する場合は、親や祖父母の年齢が60歳未満でも相続時精算課税を選択できます。

►住宅取得等資金贈与のデメリット
贈与する金銭が「住宅取得等に充てるための金銭」に限られることです。
贈与を受けたお子さんなどは、贈与を受けた年の翌年3月15日までに家屋を取得しなければならないことから、お子さんなどが具体的に住宅を購入するタイミングでなければ使うことはできません。

【配偶者控除】

婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用不動産の贈与や、居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、2,000万円まで非課税で贈与できる特例です。

配偶者控除のメリット

►相続税の引き下げになる
生前贈与で財産を減少させることで、相続税の総額の引き下げ効果があります。

►基礎控除110万円と併用可能
暦年課税による110万円の基礎控除と併用できます。

►直前対策にもなる
住宅取得等資金と同じく相続財産に加算されませんので、直前対策にも使えます。

配偶者控除のデメリット

►節税効果がないケースもある
配偶者が相続した財産には、1億6,000万円か法定相続分のどちらか多い金額まで相続税がかからないしくみがあります。
よって、配偶者以外に相続人や受遺者がいないケースでは、この特例を使っても特に節税効果はありません。

►コストがかかる
現物の不動産の贈与を受けたとき、登記の費用や不動産取得税といった諸費用は、相続で取得するよりも高くついてしまいます。

►受贈者が先に亡くなるケースもある
不運にも特例による贈与を受けた配偶者が先に亡くなり、自宅の所有権が相続で戻ってきた場合は、そのまま保有していればかからなかった相続税が発生します。

【結婚・子育て資金贈与】

直系尊属(親や祖父母など)から18歳以上50歳未満の子や孫などに、この制度を取り扱う金融機関を介して、結婚や子育てに関する費用に充てるための金銭の贈与を行う場合、1,000万円まで(結婚に関する費用は300万円まで)贈与税が非課税となる特例です。

方法としては、①金融機関を介し信託受益権での贈与を受ける、②贈与契約書に基づき、金融機関に金銭の預け入れをする、③②を証券会社の有価証券の購入で行う、といった3つの方法があります。
いずれの方法も、金銭の管理は金融機関が行うため、贈与後は、贈与を受けた人が結婚や子育てに関する支払いをしたときに領収書等を金融機関に提出し、払い出しを受ける必要があります。

結婚・子育て資金贈与のメリット

►最大1,000万円の贈与が非課税に
通常、親や祖父母が子や孫などのために、その生活費を必要な都度支払うことは贈与税の対象になりません。
この特例では、具体的な支払先が定まっていない時期であっても、一括で贈与できる点にメリットがあります。

►直前対策にもなる
住宅取得等資金と同じく、相続財産に加算されませんので、直前対策にも使えます。

►基礎控除110万円や相続時精算課税と併用可能
暦年課税による110万円の基礎控除や相続時精算課税と併用できます。

結婚・子育て資金贈与のデメリット

使いきれないまま贈与者が死亡した場合、残りは相続税の対象になります。
また、贈与を受けた人が50歳に達するなどして金融機関との契約が終了した場合、残りは贈与税の対象になります。

【子や孫に対して教育資金を一括で贈与】

直系尊属(親や祖父母など)から30歳未満の子や孫に、この制度を取り扱う金融機関を介し、学費や習い事、それに附随する諸費用に充てるための金銭を贈与した場合、1,500万円まで(学校等以外に支払う金銭は500万円まで)贈与税が非課税となる特例です。
「結婚・子育て資金贈与」と同じく、この制度を取り扱う金融機関を介して贈与や信託受益権の設定を行い、金融機関に金銭を管理してもらう必要があります。

教育資金の一括贈与のメリット

►最大1,500万円の贈与が非課税に
結婚・子育て資金と同じく、一括で贈与できる点にメリットがあります。

►直前対策にもなる
住宅取得等資金と同じく、相続財産に加算されませんので、直前対策にも使えます。

►基礎控除110万円や相続時精算課税と併用可能
暦年課税による110万円の基礎控除や相続時精算課税と併用できます。

教育資金の一括贈与のデメリット

使いきれないまま贈与者が死亡した場合、残りは原則、相続税の対象になります。
また、贈与を受けた人が30歳に達するなどして金融機関との契約が終了した場合、残りは贈与税の対象になります。

【家族信託(民事信託)】

家族信託とは、家族間で締結する信託契約のことです。
信託とは、自分の財産の管理を信頼できる相手に託すことをいい、「委託者」(財産の所有者)や「受託者」、そして管理対象である財産から生じた利益を得る「受益者」を設定できるという特徴があります。

家族信託(民事信託)のメリット

►認知症対策になる
ご家族が認知症になってしまい財産の管理ができなくなる事態に備えて、その管理をお子さんなどに委託するために活用することができます。
認知症になった人の財産は、家族でも勝手に修繕したり処分したりすることができなくなるため、たとえば賃貸不動産の管理をお子さんに受託させ、委託者・受益者は被相続人に設定するという活用方法があります。

►結果的に相続税対策になることも
家族信託そのものに、相続税を節税する効果はありません。
しかし、家族信託で、財産管理をお子さんなどに委託していれば、結果的に、相続税対策の観点から見ても好ましい財産の修繕や処分などの行動をとれる可能性があります。

家族信託(民事信託)のデメリット

►専門知識が必要
家族信託は、まだまだ活用事例の少ない対策です。
活用実績のある専門家に相談し、ご自身の相続のケースでもっとも有効な活用方法を検討する必要があります。

►贈与税の課税リスクも
委託者(財産の所有者)とは別の人を受益者に設定すると、受益権に対し贈与税が発生します。
生前贈与として相続税対策に活用できる可能性もありますが、専門家に相談して判断することをおすすめします。

不動産

【現金の不動産化】

保有する現金で不動産を購入する相続税対策です。
現金と不動産の相続税評価額の違いを活用した対策になります

現金の不動産化のメリット

►不動産の相続税評価額は低くなりやすい
現金を保有したまま相続を迎えた場合、その額面どおりの金額が相続税の課税対象になります。
これに対し、不動産はその相続税評価額が課税対象になります。
不動産の相続税評価額は、土地であれば取引価格の約8割、建物であれば5割〜6割ほどになることから、現金のまま保有するよりも、その現金を使用して不動産を購入した方が相続税の節税になります。

►賃貸することでさらに節税できる
不動産は賃貸することで、その評価額をさらに下げることが可能です。
賃貸収入も得られるため、相続人に安定した収入源を相続させることができます。

現金の不動産化のデメリット

►価格下落のリスクがある
建物は時間経過とともに老朽化によって価値が減少します。
もちろん土地も地価の変動によって、価格が下落するリスクがあります。

►維持管理のコストがかかる
不動産は、購入する時や保有している間において、税金や維持管理のためのコストが発生し続けます。

►賃貸経営は空き室のリスクも
不動産は賃貸すれば節税効果がより高まりますが、一方で、空き室リスクも生じます。

【小規模宅地等の特例】

小規模宅地等の特例とは、相続や遺贈によって取得する宅地が一定の要件を満たす場合、その評価額を80%または50%減額できる特例です。

小規模宅地等の特例のメリット

宅地や宅地の権利の評価額を大幅に減額できる特例です。
減額できる宅地の用途とその減額割合、適用面積の上限は、下記の4区分に分かれます。

用途 減額割合 面積上限
特定居住用宅地等 80% 330㎡
特定事業用宅地等 80% 400㎡
特定同族会社事業用宅地等 80% 400㎡
特定貸付事業用宅地等 50% 200㎡

たとえば、相続税評価額が1億円の宅地(400㎡)が特定事業用宅地等に該当する場合、課税対象になるのは2,000万円(1億円-1億円×80%)になります。

小規模宅地等の特例のデメリット

►要件の把握が難しい
小規模宅地等の特例を適用するために満たさなければならない要件は、相続前の用途と誰が相続するかによって変わり、非常に複雑です。

►遺産分割でもめると適用できない?
未分割の宅地等に、小規模宅地等の特例は適用できません。
よって、遺産分割でもめるようなことがないよう注意が必要です。
なお、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出し、相続税の申告期限から3年以内に分割すれば、特例の適用を受けることができます。

【リフォーム・建物修繕】

お持ちの建物をリフォームしたり、修繕したりする相続税対策です。

リフォーム・建物修繕のメリット

リフォームや修繕は、建物の良い状態を維持するためのコストです。
現金のまま保有するよりも、こうしたメンテナンス費用に充てたほうが建物の性能を維持できる上に節税になります。

リフォーム・建物修繕のデメリット

建物を増改築すると、建物の相続税評価額(建物の場合、固定資産税評価額)が上がります。
ただし、建物の固定資産税評価額は、建築費の5~6割ほどの額が目安です。
したがって増改築により建物の固定資産税評価額が上がっても、現金のままより、相続税の課税対象を圧縮する効果は期待できます。

また、固定資産税評価額に反映されないまま相続が発生したときは、自身で増加額を計算し、評価額に加算しなければなりません。
増改築した部分の評価額をご自身で計算する際は、増改築等に係る部分の再建築価額から課税時期までの間における償却費相当額を控除した価額の70%になります。
計算はややこしいですが、自身で計算する羽目になったとしても、現金のまま保有しているよりは節税になります。

【アパート・マンション経営(法人化)】

個人で行っている賃貸経営を法人化する相続税対策です。

アパート・マンション経営(法人化)のメリット

たとえば、不動産を法人の所有とすれば、その不動産は個人の相続財産になりませんので、相続税はかかりません。
法人に移転する際の譲渡所得税を抑えるには、建物のみ法人に売却し、土地は賃貸するという方法があります。

また、管理会社などを設立して家族で経営し、お子さんなどに給与を支払えば、実質的に賃貸収入を生前に贈与する効果も得られます。
賃貸経営を法人化する節税のスキームは一つではありません。
財産の状況に応じた、効果的な節税対策を選ぶことが大切です。

アパート・マンション経営(法人化)のデメリット

法人化を活用した節税は、適正価額を超えた取引やそれに満たない取引をするなどして節税をやり過ぎると、税務調査で否認されるリスクがあります。
こうした事例を熟知した専門家に相談し、リスクを知った上で、どのように節税するかを判断することが大切です。

【配偶者居住権】

配偶者居住権とは、夫や妻の死亡によって遺された配偶者が、亡くなった人が所有していた建物に引き続き居住できる権利のことです。
2020年4月以降の相続から認められるようになりました。
通常、建物に居住する権利は建物の所有権と一体になっていますが、これを分離して、所有権よりも低い価値で相続できるようにしたことがポイントとなります。
配偶者居住権は、配偶者の死亡まで続くよう設定することもできますし、一定の期間を定めて設定することもできます。

配偶者居住権のメリット

►配偶者の老後の生活保障になる
不動産が遺産の大部分を占める相続では、配偶者が自宅を相続すると、金銭など他の財産を相続することができず、老後の生活が不安定になるという問題がありました。
この問題を解決するため、居住権のみを相続できるようにしたのが配偶者居住権です。
配偶者居住権は、所有権よりも低い価値の財産として扱われるため、自宅以外の他の財産も取得できるようになります。

►節税効果も期待できる
配偶者居住権は、死亡・居住権の期間満了・所有者との合意・権利放棄などによって消滅します。
権利が消滅すれば、一般的にはその権利に相当する経済的価値が所有者に移転すると考えられ、贈与税の課税が気になるところですが、これについて国税庁は、死亡・居住権の期間満了によって消滅した場合であれば、贈与税の課税対象にならないとしています。
このことから、たとえば、配偶者居住権を終身で設定した自宅の所有権をお子さんが相続したとき、配偶者居住権の価額分だけ圧縮された状態で相続税を負担すればよいことになります。

配偶者にも、配偶者居住権に相当する相続税の負担は生じますが、小規模宅地等の特例でいくらか圧縮できる上、配偶者の税額軽減がありますので、一般的な相続で税負担が生じるケースは多くないと考えられます。

配偶者居住権のデメリット

配偶者居住権を設定した宅地をお子さんが相続すると、お子さんが相続した分の宅地に小規模宅地等の特例(家なき子の特例)が適用できず、かえって相続税の負担が上がるケースが考えられます。
配偶者居住権を設定することが本当に節税になるかどうかは、お子さんが、小規模宅地等の特例を適用できる対象になり得るのか、配偶者居住権の価額や二次相続のシミュレーション結果などから総合的に判断する必要があります。

生命保険

生命保険の非課税枠

被相続人(亡くなられた人)の死亡保険金の非課税額を活用した相続税対策です。
みなし相続財産にあたる死亡保険金の受取人が相続人である場合、「法定相続人の数×500万円」まで非課税で受け取ることができます。
現金や預貯金は、そのまま保有すると全額が相続税の課税対象になってしまいますが、そこから保険料を支払い、死亡保険金の原資に充てることで、課税対象を非課税に振り替えるようなイメージの相続税対策になります。

生命保険のメリット

►非課税枠で節税
被相続人が保険料を負担している生命保険から、被相続人の死亡による死亡保険金が支払われた場合、その保険金は、みなし相続財産として相続税の課税対象になります。
しかし、この死亡保険金の受取人が相続人である場合、「法定相続人の数×500万円」まで非課税で受け取ることができます。

生命保険のデメリット

「法定相続人の数×500万円」の非課税が適用されるのは、保険金を受け取ったのが相続人である場合に限られます。
したがって、保険金を受け取った人が相続放棄をすると非課税額が適用されないといった落とし穴もあるので注意が必要です。

相続税の計算のしくみを利用する方法

【養子縁組】

相続税は「法定相続人の数」が多いほど、相続税の負担が減るしくみになっています。
このしくみを利用し、孫などと養子縁組をすることで法定相続人を増やすという節税方法があります。

養子縁組のメリット

►基礎控除額・死亡保険金の非課税枠が増える
相続税は、課税対象となる財産の合計額から、「3,000万円+法定相続人の数×600万円」の基礎控除額を差し引いて計算します。
また、みなし相続財産にあたる死亡保険金がある場合、保険金の額から、「法定相続人の数×500万円」を差し引きます。
つまり、法定相続人が1人増えれば、1,100万円の相続財産が非課税になる可能性があるということです。

養子縁組のデメリット

►最大1人または2人までしか節税にならない
税務上の「法定相続人の数」に含めることのできる人数には限りがあります。

【法定相続人の数に含めることのできる養子の上限】

被相続人に実子がいる場合 最大1人
被相続人に実子がいない場合 最大2人

※特別養子縁組、配偶者の連れ子との養子縁組など、上限のない養子縁組もあります。

►孫養子は2割加算の対象になる
孫を養子にする場合、相続税の2割加算の対象になります。(代襲相続によって相続人になるケースは2割加算の対象になりません)

【葬儀費用としての債務控除】

相続税の課税対象となる財産を取得した人が、「葬式費用」を負担した場合、その負担額を、財産から差し引くことができます。
「葬式費用」とは、主に下記の費用をいいます。

  • ご遺体の捜索や運搬、回収にかかった費用
  • お通夜や告別式のために支払う費用
  • 火葬や納骨のために支払う費用
  • 読経料などお寺に支払う費用

葬儀費用のメリット

計上した分だけ、相続税の課税対象を減らすことができます。
相続放棄をした人や相続権を失った人であっても、遺贈によって遺産を取得した人であれば、負担した葬儀費用を控除することができます。

葬儀費用のデメリット

デメリットはありませんが、下記の費用は、葬式費用として控除できませんので、注意が必要です。

  • 香典返しにかかった費用
  • 墓石や墓地の買入れにかかった費用や墓地の借り入れにかかった費用
  • 初七日や法事などのためにかかった費用

相続対策で気をつけるべきポイント・注意点

遺産分割まで見越した対策が必要

ここまで、相続税の課税対象を減らすための節税対策を確認しました。
しかし、課税対象となる額を単に減らすだけでは、効果的な相続税対策にならないことがあります。

たとえば、財産に自宅の不動産と現金預金があるケースで考えてみましょう。
課税対象を減らすのなら、まず現金預金を贈与税の非課税特例を活用してお子さんなどに贈与すれば、簡単に減らすことができます。
現金預金を減らせば、自宅は小規模宅地等の特例が活用できる親族が相続することで、財産を相続税の基礎控除額以下にすることも可能でしょう。
しかし、このような対策をして、相続人は円満に遺産を分けられるでしょうか。
相続人の1人が不動産を相続すると、残りの相続人から、遺留分侵害額の請求が行われる可能性があります。

それを避けるために、自宅を共有名義にすれば、せっかく対策した小規模宅地等の特例をフルに使えなくなってしまい、相続税の負担が発生します。
このように、遺族が円満に分けられないような財産を遺すと、いかに課税対象を減らしても相続税対策は成功しないのです。

判断能力がなくなった後では相続対策ができない

ここまで見てきた対策からわかるように、相続税対策は、生前に始めるほど多くの選択肢があります。
これに対し、亡くなった後や、病気やケガ、認知症によって不運にも判断能力が失われた後に専門家に相談しても、有効な相続税対策はほとんどありません。
過去に、売買契約をする能力のない被相続人の名義を使用して不動産を購入し、相続開始後すぐにその不動産を売却したケースについて、不動産の相続税評価額による相続財産の圧縮行為が認められなかった裁決事例もあります。

(参考)国税不服審判所:平成23年7月1日裁決事例の要旨等
https://www.kfs.go.jp/

まとめ

この記事では、主に生前贈与、不動産、生命保険などを活用した相続税対策を解説しました。
どのような相続のケースでも、今より相続税を節税する方法は必ずあります。
しかし、こうした対策で課税対象を減らす前に、相続人が円満に分けられるように財産を遺すことを考える必要があります。

特定の人物に相続させたい財産があれば、それを遺族が納得して受け入れる状況か、相続人の遺留分を侵害していないかといったことを考えながら、相続税対策の方針を決めることが重要です。
また、相続税対策は早いうちに計画・実行することに越したことはありません。
できる限り早めに専門家に相談し、ご家族が納得できる遺産の分け方を考え、その中でもっとも税負担が安くなる対策を選んで進めていくことが重要です。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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