施設賠償責任保険とは?補償内容や保険料の相場について

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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施設賠償責任保険とは? 

施設賠償責任保険とは、契約者が所有・使用・管理する施設や店舗、事務所などで、他人の身体や私物に損害を与えた際に生じる法律上の賠償責任に伴う損害をカバーする保険です。

例えば、高層ビルの火災で中にいた人が死亡した、搬入中の荷物に当たった人に怪我をさせた、吹き抜けガラスが割れて怪我をさせた、といったケースに使用できる可能性があります。

加入するメリット

損害賠償額は与えた損害の程度や年齢、将来的に得られていたはずの収入額などで変動しますが、数十万~数億円もの損害賠償額を請求されます。

そのため、施設賠償責任保険に加入していなかった場合は、財産から損害賠償額を支払ったことで施設の運営ができなくなる可能性も否定できません。施設賠償責任保険に加入しておくことで、このようなリスクを抑えられます。

加入した方がよいケース

施設賠償責任保険に加入した方がよいケースは、損害賠償額責任を負う原因となる事象が起きやすい施設を運営している場合です。例えば、不特定多数の人が出入りする施設、資材置き場や工場など危険物を取り扱う施設などは、日頃から安全に注意していてもトラブルが起こる可能性があります。

また、マンションやアパートを運営している人も施設賠償責任保険に加入した方がよいでしょう。不特定多数の人が出入りするうえに、建物の劣化によって壁が崩れて駐車場に停めてある車に傷をつけたり、ロビーの床で滑って転倒することで怪我を負わせてしまったり、さまざまなトラブルが起きる可能性があります。

万全な安全管理体制を敷いていても、リスクを完全には排除できません。また、過失がなかったとしても賠償責任を負うことになる場合もあります。そのため、人の身体や財産に被害を与え得る施設を運営している時点で、施設賠償責任保険への加入の必要性は高いと言えるでしょう。

施設賠償責任保険が適用される条件

施設賠償責任保険に加入していても、保険金が支払われないケースがあります。どのようなケースに施設賠償責任保険が適用されるのか詳しく見ていきましょう。

保険が適用されるケース

  • ビル火災があり、避難階段の不備が原因で逃げ遅れた人が死傷した
  • ビルの外壁が崩れ落ちて、人や車に損害を与えた
  • 遊園地で腐敗していた遊具が壊れて子どもが怪我をした
  • マンションのロビーが濡れていて、滑って転倒した人が怪我をした
  • マンションの外壁が崩れ落ちて、前の道を歩いていた人が怪我をした
  • 商品の説明中に、お客様の足の上に商品を落としてしまい怪我をさせた

上記はあくまでも一例です。どのようなケースに保険が適用されるのかについて、担当者によく確認してから加入を検討しましょう。

保険が適用されないケース

  • 故意で相手に怪我をさせたり財産に被害を与えたりした
  • 暴動や内乱、戦争行為などによって被害が生じた
  • 地震や噴火、洪水、津波などの天災によって被害が生じた
  • 排水または排気によって損害を与えた(マンション共用部の給水管の破損など)
  • 被保険者と生計を一にする同居親族が受けた損害

保険が適用されないケースは保険商品によって異なるため、事前に契約書を十分に確認することが大切です。

施設賠償責任保険の保険料の相場

施設賠償責任保険への加入を検討する際に気になるのが保険料ではないでしょうか。施設賠償責任保険の保険料が決まる要素や保険料の相場について詳しく見ていきましょう。

保険料の相場

施設賠償責任保険の相場について、公的なデータがありませんでした。これは、保障内容や保障期間などで保険料が変動するためと考えられます。大体、どの程度の保険料がかかるのかを知りたいときは、大手保険会社が公表している保険料の例が参考になるでしょう。

三井住友海上火災保険株式会社が公表している保険料例についてご紹介します。

【例1】
店舗総床面積100平方メートルの飲食店において、身体障害1名につき1億円、1事故につき2億円、財物損壊1事故につき1,000万円、免責金額1事故につき1,000円、保険期間1年のプランの場合、月々の保険料は約13,700円です。

【例2】
店舗総床面積500平方メートルの小売店において、身体障害1名につき5,000万円、1事故につき3億円、財物損壊1事故につき3,000万円、免責金額1事故につき5,000円、保険期間1年のプランの場合、月々の保険料は約20,000円です。

出典元:三井住友海上火災保険株式会社「施設所有(管理)者賠償責任保険 昇降機賠償責任保険」

これらを踏まえると、
保険料の大体の相場は、約15,000~25,000円程度
と考えられます。年間、約180,000~300,000円のコストがかかります。一見、高額に思えるかもしれませんが、損害賠償請求額は数十万~数億円になる可能性があるため、リスクを抑えるための必要経費と考えれば、一概に高いとは言えないのではないでしょうか。

保険料に影響する項目

保険料の算定に影響する項目は多岐にわたります。一般的には、保険の対象となる施設の種類や規模、業務内容、行事の内容、昇降機の種類や台数、支払限度額、免責金額、保険期間、特約などが挙げられます。

支払限度額が高くなればなるほどに保険料が上がることはほぼ確実でしょう。ただし、他の項目において保険料が安くなる条件を満たした場合、高額にはならないと考えられます。どの保障が必要で何は不要かを考え、ベストな施設賠償責任保険のプランを選ぶことが大切です。

施設賠償責任保険に加入する際の注意点 

施設賠償責任保険に加入する際は、次の注意点を押さえましょう。

施設の損害への保障は別の保険に加入する必要がある

施設賠償責任保険の保障対象は、損害を与えてしまった他人の身体や財産のみです。施設そのものの損害は保障されません。施設の損害を保障するには、火災保険や地震保険などへの加入が必要です。また、施設で働く従業員が受けた損害については、業務災害補償保険などでカバーできます。

このように、施設賠償責任保険に加入すれば安心とは限らないことを覚えておきましょう。

他の保険の保険料も踏まえてプランを決める

保険は、万一のときに備えるものですが、だからといって保障内容が充実した保険にいくつも加入するべきとは限りません。保険料が大きく膨れ上がり、将来的に解約が必要になる可能性があります。他の保険の保険料も踏まえて、加入する保険のプランを決めましょう。保険料に大きく影響する保障内容を十分に検討してください。その際は、保障内容に優先順位を決めるとよいかもしれません。

例えば、施設賠償責任保険は、身体障害1名につき2億円と比較的高額な金額に設定する代わりに、財物損壊1事故につき1,000万円に抑えるといった方法があります。施設賠償責任保険以外の保険においても同様に、保障内容に優先順位を決めて、保険料の総額を予算内に収めるようにしましょう。

保障の対象外となる損害を十分に確認する

施設賠償責任保険には保障の対象外となる損害があります。例えば、マンションの給排水からの漏水によって下の階の住民が被害を受けた場合、施設賠償責任保険ではカバーできません。万全のリスク管理ができていると思っていたところ、トラブルが起きてから保険の対象外だと知ったというケースは少なくありません。

保障の対象外となる損害を確認し、その損害をカバーしたいのであれば、他の保険にも加入するか特約をつけましょう。ただし、つけられる特約は保険会社や保険商品で異なります。他で保険に加入するよりも特約の方が保険料の総額を抑えられる傾向にあるので、目当ての特約をつけられる保険商品を選ぶことをおすすめします。

不要な特約をつけすぎない

施設賠償責任保険には、保障の対象外となる損害があります。これをカバーできる特約をつけるのがおすすめです。ただし、特約が多くなればなるほどに保険料が上がるため、本当に必要かどうか十分に考えましょう。

一例として、施設賠償責任保険につけられる特約をご紹介します。

漏水補償特約

漏水補償特約は、給排水管や冷暖房装置、湿度調節装置、家事用器具などからの水の漏出や蒸気の影響による財物への損害を補償する特約です。施設賠償責任保険ではカバーできない損害をカバーできるため、用意している保険会社は多いでしょう。

事故対応費用補償特約

事故対応費用補償特約は、人の身体に損害を与えた際に保険金が支払われるケースにおいて、事故対応にかかる費用を補償する特約です。被害者や被保険者が現場へ行く際にかかった交通費や宿泊費、被害者対応にかかった通信費用、宿泊費などが補償されます。さらに、示談交渉にかかった交通費や宿泊費、通信費も補償の対象です。

見舞費用補償特約

見舞費用補償特約は、人の身体に損害を与え、保険金を支払うケースにおいて、保険会社の同意を得たうえで弔癒金や見舞金などの費用を補償する特約です。人の身体に損害を与えた際は、弔癒金や見舞金を支払う場合があり、予期せぬ出費になる恐れがあります。トラブルが発生したときの費用負担を少しでも抑えたい方は検討してみてはいかがでしょうか。

まとめ

施設賠償責任保険は、施設内で起きた人の身体や財産への損害を補償する保険です。マンションやアパート経営、飲食店や小売店の経営では、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。万全のリスク管理体制を敷いていても、トラブルを完全に防ぐことはできません。

もし、人の身体に著しい損害を与えたり財産を消失させたりした場合、非常に高額な損害賠償請求を受ける恐れがあります。そうなれば、マンションやアパート、飲食店や小売店などの経営に大きな支障をきたす可能性も否定できません。

少しでもリスクを抑えて施設の運営をしたい、不特定多数の人が出入りする、性質上トラブルが起こりやすいといった場合は、施設賠償責任保険への加入を前向きに検討してみてください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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