サ高住経営のメリット・デメリット!失敗しないためのポイントを解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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日本は少子高齢化社会で、要支援・要介護が必要な人は年々増えています。厚生労働省「介護保険事業状況報告月報(暫定版)」では、要支援・要介護認定者数は2022年時点で690万人を突破しました。このような時代背景から、サービス付き高齢者向け住宅を経営したら収益が見込めるのではないかと考える方がいます。果たして、サービス付き高齢者向け住宅経営(高住経営)で収益は見込めるのでしょうか?
今回はサ高住経営のメリット・デメリットについて詳しく解説します。この記事では、サ高住経営で失敗しないためのポイントまで説明しているため、参考にしてみてください。

サ高住経営とは?


サ高住とはサービス付き高齢者向け住宅の略称です。つまり、サ高住経営とは、要支援・要介護者の方が居住できる見守りサービス付きの賃貸住宅を経営することをいいます。

サービス付き高齢者向け住宅の登録基準

2001年4月に高齢者の居住の安定確保に関する法律が公布され、高齢者が安心して生活できる賃貸住宅を増やしていく方針が発表されました。さらに、2011年の法改正によりサービス付き高齢者向け住宅の登録制度が創設されました。サービス付き高齢者向け住宅の登録基準は以下の通りです。

■サービス付き高齢者向け住宅の登録基準

ハード 床面積は原則25平米以上
サービス 安否確認サービス
生活相談サービス
契約内容 長期入院を理由に事業者から一方的に解約できないこと
居住の安定が図られた契約であること
敷金、家賃、サービス対価以外の金銭を徴収しないこと
入居者要件 60歳以上の者または要支援・要介護認定者等

出典元:国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅の登録制度の概要」

サービス付き高齢者向け住宅の実態

引用:厚生労働省『高齢者向け住まいについて』

サービス付き高齢者向け住宅の登録制度によると、安否確認サービスと生活相談サービスを提供すれば、サービス付き高齢者向け住宅として登録できます。
しかし、サービス付き高齢者向け住宅は介護保険サービスの事業所と併設型になっていることが大半です。厚生労働省の報告書「高齢者向け住まいについて」では、訪問介護施設や通所介護施設などの介護保険サービスの事業所と併設されていることが述べられています。つまり、大半の住宅に介護保険サービスの事業所が併設されているのです。

サービス付き高齢者向け住宅数の推移

出典元:厚生労働省『サービス付き高齢者向け住宅の登録状況(R4.10末時点)』
日本は少子高齢化社会のため、高齢者が安心して生活できるサービス付き高齢者向け住宅は毎年増加しており、2022年10月末時点で8,139件(278,776戸)となりました。また、サ高住に関する補助金が利用できることも、右肩上がりに推移している要因です。

しかし、2017年にサ高住経営の廃業件数が260件となり、需要と供給のバランスが崩れてきたとNHKが報道しました。そのため、サ高住経営は需要がある地域であるかなどを見極めて行う必要があります。

サ高住経営に向いている土地

サ高住経営に向いているのは広い土地です。また、容積率(敷地面積に対する延床面積の割合)の高い土地であれば、狭い土地でも多くの戸数を持つ建物が建てられます。
公益社団法有料老人ホーム協会の調査報告書によると、サービス付き高齢者向け住宅の戸数は10戸から40戸が多いことが分かります。

出典元:公益社団法有料老人ホーム協会「有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅に関する実態調査研究事」

20戸程度のサ高住を建てる場合には200坪が必要です。
広い土地があれば都心や郊外問わず、サービス付き高齢者向け住宅の需要がありますが、以下の要件を満たせば、さらにサ高住経営が成功しやすくなります。

【サ高住経営が成功しやすい土地】

  • 敷地面積が300坪以上
  • 敷地や外面道路が舗装されて勾配がない
  • 医療機関が2キロ圏内に揃っている
  • コンビニが2キロ圏内に揃っている
  • 墓地や火葬場が近隣にない

サ高住経営の経営方式

サ高住経営には4つの経営方式があります。

  • 一括借り上げ方式
  • テナント方式
  • 委託方式
  • 自社運営方式

ここでは、それぞれの方式について詳しく解説します。

一括借上げ方式

一括借上げ方式とは、介護保険サービスを提供する施設も含めて、建物全体を介護事業者に貸し出す経営方法をいいます。高齢者向け住宅の入居者募集も介護事業者が行います。
介護事業者から支払われる家賃額は固定です。支出内容は、「固定資産税や都市計画税」「損害保険」のみとなるため、収益が安定しやすいです。
しかし、想定賃料の20%程度を介護事業者に対して支払う必要があるため収益が下がります。

テナント方式

テナント方式とは、建物管理を自分で行い、介護サービスの提供を介護事業者に委託する経営方法をいいます。建物管理(入居者募集、管理業務、クレーム対応など)は自分で行う方法と管理業者に委託する方法が選べます。
一括借り上げ方式と比較すると、手数料が安く抑えられて、介護事業者からテナント料が受け取れることが大きな魅力です。
しかし、経営状態が悪化して空室が増えれば、一括借り上げ方式より収益が低くなります。

委託方式

委託方式とは、建物管理を自分で行い介護サービスの提供を介護事業者に委託する経営方法をいいます。テナント方式との大きな違いは、入居者から賃料とサービス料を受け取り、介護事業者に手数料を支払う形になることです。
テナント方式であれば空室状況に関わらず、毎月テナント料が受け取れます。しかし、委託方式は空室率が上がれば賃料が減り、その中で介護事業者に手数料を支払わなければいけません。
空室率が高ければテナント方式より収益性が下がります。その一方で、入居率が高ければテナント方式より収益性が上がります。

自社運営方式

自社運営方式とは、建物の管理や介護サービス提供を自社で行う経営方法をいいます。4つの経営方法の中でも収益性が高いですが、自社運営が選ばれることは少ないです。その理由は、介護業界の人材不足問題は深刻であり、質の高い介護サービスを提供するのは難易度が高いためです。自社で介護事業を立ち上げることは難しいため、基本的に自社運営が選ばれることはありません。

土地活用でサ高住経営を行うメリット

土地活用でサ高住経営を行うと、次のようなメリットがあります。

補助金等の優遇

サが受け取れます。新築のサ高住の場合に受け取れる補助金は以下の通りです。

■補助金の支給額

床面積 補助率 限度額
30㎡以上 1/10 135万円/戸(※)
25㎡以上 120万円/戸
25㎡未満 90万円/戸

※住宅の全住戸数の2割を超える住戸の限度額は120万円/戸となる

参考:スマートウェルネス住宅等推進事業『令和4年度サービス付き高齢者向け住宅整備事業』

また、固定資産税が市町村の条例で定める割合で軽減されたり、不動産所得税の控除がされたりなど税制優遇が受けられます。

相続税対策

サ高住経営は相続税対策したい方におすすめです。その理由は、所有する土地にサービス付き高齢者向け住宅を建てることで土地評価額が下がるためです。
また、居住用マンションより賃貸マンションの方が建物評価額は低くなります。このように、土地・建物の評価額を下げることで相続税対策ができます。

資産価値の向上

サービス付き高齢者向け住宅を建てば、土地・建物の資産価値が向上できます。その理由は、サ高住経営は都心でも郊外でも成功しやすいためです。
郊外で賃貸経営の需要が見込めない土地でサ高住経営を始め収益を上げれば、そのエリアを最大限に活かした優良物件として資産価値を向上させることができます。

土地活用でサ高住経営を行うデメリット

土地活用でサ高住経営を行うと、次のようなデメリットもあるため注意してください。

建築費用が高い

サービス付き高齢者向け住宅の建築費用が高く、20戸の建物でも約2億円かかります。建築費用の内訳は以下の通りです。

■サービス付き高齢者向け住宅の建築費用

施工費 1億円
什器費用 5,000~8,000万円
備品費用 2,000~5,000万円
合計建築費用 1億7,000万円~2億3,000万円

出典元:介護福祉支援総合サイトカイフクナビ『介護のいろは』

建築費用が高い理由は、サ高住はバリアフリー設計でエレベーターを取り付ける必要があるためです。また、入居者ニーズを満たすために各居室にベッドやテーブルなどの什器を設置する必要があります。このような理由で一般的な賃貸住宅より建築費用が高くなります。

建物の転用がしにくい

サービス付き高齢者向け住宅は間取りや共有部分が特殊なため、他の用途に転用がしにくいです。その理由は、建物はバリアフリー設計となっており、一般的な賃貸物件と施設内が異なるためです。
そのため、介護事業者が倒産した場合は、次の委託先が見つかるまで収入が見込めなくなります。収入がない状態でローン返済しなければいけない恐れが出てきます。

広い土地が必要

サービス付き高齢者向け住宅は20戸の建物で200坪、30戸の建物で300坪以上の土地が必要です。居住部分とは別に介護サービス施設を設ける必要があるため、賃貸住宅より広い土地が求められるのです。
土地を所有していない場合は、土地代だけで1億円と莫大な投資をしなければいけません。

法改正・制度改正の可能性

サ高住経営に関連する法律や制度が改正される可能性もあります。
サービス付き高齢者向け住宅に関連する補助金や税制優遇が手厚い理由は、サ高住経営を増やしてサービスの供給を促すためです。
サ高住サービスの供給が需要を超えたら、補助金や税制優遇が終了してしまうかもしれません。このような優遇制度が適用できなくなり、キャッシュフローが悪化するとサ高住経営が赤字経営になってしまいます。法改正・制度改正で赤字経営にならないように、法律や制度に興味・関心を持っておく必要があります。

サ高住経営で失敗しないために知っておきたいポイント

サ高住経営の特徴を紹介しましたが、失敗しないために知っておきたいポイントも押さえておきましょう。

プランを比較・検討する

サ高住経営は、ハウスメーカーから建築プランを提案してもらうことが始めます。ハウスメーカーによって、紹介してもらえる介護事業者は異なり、施設の間取りも異なります。そのため、複数のハウスメーカーのプラン(設計図・建築工事費用・収支シミュレーション)を比較・検討するようにしましょう。

介護保険サービスを比較・検討する

サービス付き高齢者向け住宅には、介護事業者のテナントも入るのが一般的です。そのため、どのような介護保険サービスが入るかを確認しましょう。
介護事業者に委託する場合は通所介護施設や訪問介護施設がテナントに入ります。その一方で、医療法人に委託する場合は診療所や調剤薬局がテナントに入ります。
調剤薬局や診療所であれば、介護報酬の改定による賃料下落の心配もなくなるでしょう。そのため、併設される予定の介護サービス施設を確認するようにしましょう。

介護事業者の実績を確認する

サービス付き高齢者向け住宅の経営を成功させるためには、介護サービスの提供や見守りが必須となります。この介護サービスの提供は介護事業者に委託することになります。そのため、入居者が安心・安全に暮らせて満足してもらえる住空間を提供できるか、介護事業者の実績を確認してください。複数の介護事業者を比較すると信頼できる介護事業者であるかどうかが見極められるようになります。

介護事業者と着工前に委託契約する

サ高住経営で失敗しないために、建物の着工工事に入る前に介護事業者と委託契約を締結させましょう。その理由は、サービス付き高齢者向け住宅の仕様は介護入居予定者を前提として決めていくためです。
建物完成前に介護事業者が委託契約を締結しないと言い出してしまうと、サ高住経営が失敗してしまいます。このような失敗を防止するためにも、着工工事前に介護事業者と委託契約を交わしてください。

細かな修繕は借主負担に設定しておく

サ高住経営をしていると「部屋の手摺りが破損した」「照明の電気が切れた」などの修繕が必要になってきます。このような細かな修繕は借主負担に設定しておきましょう。
借主負担にすることで費用を負担せずに済みます。それだけでなく、委託先の介護事業者の判断で入居トラブルに迅速に対応できるようになります。介護事業者によるサ高住経営を円滑にするためにも、細かな修繕は借主負担に設定しておきましょう。

不動産コンサルティング専門家に相談する

サ高住経営に失敗しないためのポイントをご紹介しましたが、少しでも不安を感じる場合は不動産コンサルティング専門家に相談することをおすすめします。サ高住経営の実績を豊富に持つ不動産コンサルティング専門家であれば、検討しているプランで収益が見込めるのか、土地活用する上での注意点など具体的にアドバイスしてくれます。専門家に意見を聞きながら、サ高住経営を始めれば成功に導いてくれることでしょう。

まとめ

今回はサ高住経営の特徴について解説しました。最後にサ高住経営のメリット・デメリットをおさらいしておきましょう。

[サ高住経営のメリット]

  • 補助金等の優遇
  • 相続税対策
  • 資産価値の向上

[サ高住経営のデメリット]

  • 建築費用が高い
  • 建物の転用がしにくい
  • 広い土地が必要
  • 法改正・制度改正の可能性

サービス付き高齢者向け住宅は、高齢化の増加による需要がありますが、地域により差が異なります。また、土地活用を考えている方のライフプランや価値観、所有の土地条件などにより異なります。そのため、土地活用に悩んでいる方は不動産コンサルティングの専門家に相談してみてください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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