借地に建てた家の処分方法とは?かかる費用も解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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借地に建てた家の扱い

借地上に建築した家の取り扱いは、自分の土地に建物を建築したときと異なり、地主の承諾がないと大規模修繕をすることができないなど手続きが複雑となります。

ここでは家の取り扱いの話をする前に、まず借地権とはどのような権利なのか解説していきます。

借地権とは

借地権とは、建物を建築することを目的として土地を借り、賃料を支払うことで取得できる土地を利用する権利のことです。

借地権には、さまざまな種類があり権利内容もそれぞれで異なります。
借地権には次のような種類があります。

  • 旧借地権
  • 普通借地権
  • 定期借地権(一般定期借地権・建物譲渡特約付き借地権・事業用定期借地権)

賃借権と地上権

賃借権と地上権は違う権利です。
賃借権と地上権の違いや同じところを表にまとめました。

【賃借権と地上権】

賃借権 他人の所有している土地を利用する権利だが、土地の所有者の許可や承諾を得ないと、原則、建て替えや建物売却はできない
地上権 他人の所有している土地を利用する権利で土地の所有者の許可や承諾が得なくても、原則、貸したり建物を売却したり、担保の設定をしたり、地上権の登記を自己判断でできたりする
賃借権と地上権に
共通する事項
・建物所有を目的とする場合は借地借家法が適用され、借主の権利が保護される
・建て替えなどの諸条件は契約の内容次第で、いずれも貸主と借主の合意によって決めることができる

賃借権と地上権の違いは、権利の根本的な考え方の違いからきています。
賃借権は「債権」であり、地上権は「物権」だからです。

債権とは、土地を借りる人が賃料を支払う代わりに、土地の所有者に住居を建てて住む権利を得るという、お互いに権利と義務を負うことをいいます。
一方、物権とは、土地を借りた人が土地を所有している人とまったく同じ権利を行使できるという、一方的に支配する権利のことをいいます。

所有権について

賃借権を主張する場合、土地に賃借権や地上権を登記します。
しかし、前述のとおり賃借権には自由に土地に登記をする権利はなく、賃借権を土地に登記するときには地主の承諾を得る必要があります。

賃借権を土地に登記することはについては地主がなかなか承諾をしてくれないため、賃借権を登記することはあまりありません。
この場合賃借権を主張する方法として、建物の所有権を登記するという方法があります。

建物に所有権を登記すると土地を借りている権利、つまり賃借権を主張できるようになります。
なお、建物の権利については所有権保存登記までする必要はなく、建物の表示登記を行えば賃借権を主張できるとされています。

借地に建てた家の処分方法

借地に建てた家を処分するときには、原則、地主の承諾が必要になります。
借地上にある家を売却するということは、建物と同時に借地権の売買されるため借地人が代わってしまいます。
そのため、地主の承諾がなければ売却をすることができないようになっています。
また、地主から承諾を得るためには承諾料を支払わないといけないケースもあります。

このことを踏まえ、借地上にある家をどのように売却していったらよいのかを解説していきます。

1.地主に買取してもらう

借地上に建てた家の処分方法の1つ目は「地主に買取してもらう」ことです。

借地上に建てた家を処分するときに、もっとも効果的な方法は地主に買取してもらうことです。
地主は借地上の建物や賃料などをすべて知っており取引をする際にトラブルになりにくいこと、借地権と建物を地主が購入すれば土地と建物の権利が行使できるため高値で借地権を購入してくれる可能性が高いことが理由です。

また、地主以外に借地権と建物を売却するには地主の承諾が必要となり、ときには譲渡承諾料を支払う必要性が出ます。
しかし、地主に借地権を売却することで、承諾も譲渡承諾料も不要となります。

2.底地と一緒に売却する

借地上に建てた家の処分方法の2つ目は「底地と一緒に売却する」ことです。

借地権を地主に購入してもらおうと折衝した結果、地主も借地人とともに底地を売却するという判断をするときがあります。
この場合も借地権と建物を高い価格で売却するチャンスです。

底地と借地権を同時に購入すれば、土地も建物も自分のものになるため、底地と借地権を同時に売り出す場合は一般個人の人が購入してくれる可能性もあります。
不動産会社の買取を利用しなくても良くなる売却方法です。

ただ、底地所有者と一般個人、借地人と一般個人と不動産売買契約をしなければならず契約が複雑になることと、売買代金の配分で底地所有者と借地人が揉めるケースがあることには注意しなければなりません。
同時に売却する場合には、必ず不動産仲介会社を入れて契約し、トラブルが起きないよう調整してもらうことが大切です。

3.第三者へ売却

借地上に建てた家の処分方法の3つ目は「第三者へ売却」することです。

地主に借地権の購入の相談をし、同時に底地を売却しようと相談しても拒否されてしまった場合は、借地権と建物を第三者に売却することになります。

この場合、一般個人の第三者には借地権を購入するメリットがほとんどないため、不動産買取会社の買取になることがほとんどです。
不動産買取会社の買取金額は各社の規定により算出されます。
この価格は各社でまちまちなので、不動産仲介会社を経由して多くの不動産買取会社から借地権の見積もりを取得するようにしましょう。
取得した見積もりの中から買取条件が一番良い会社に売却します。

このときに注意をしなければならないのは、借地権を売却することや買主が建物に抵当権設定することに地主の承諾が必要なことです。
どちらも地主にとってはあまり嬉しくない話のため、不動産仲介会社から地主に根回しをするように促しておきましょう。

4.賃貸物件にする

借地上に建てた家の処分方法の4つ目は「賃貸物件にする」ことです。

借地権を第三者に売却するにあたり、地主の承諾を得ることができない場合は借地上の建物を第三者に貸すという方法があります。

借地上の建物を第三者に賃貸することには、地主の承諾は不要です。
また、建物のリフォームなどの維持修繕も地主の承諾が不要のため、勝手に工事をすることができます。

ただし、建物の増改築など大規模な建物工事をおこなう場合には、地主の承諾が必要になるため注意が必要です。
増改築などは明らかに分かる工事なので判断つきますが、大規模リフォームなどはどこまでが地主の承諾が必要な工事が判断しづらい工事です。
そのため、ある程度大きな工事をするときには地主に相談し、工事の承諾が得られるのであれば承諾書を取得しておくことが大切です。

5.更地にして返還する

借地上に建てた家の処分方法の5つ目は「更地にして返還する」ことです。

地主の協力が得られなかったり、借地上の建物を賃貸にすることも難しかったりする場合には、借地権を解除して更地にして土地を返還します。

売却も賃貸もできない不動産に対して、借地料を支払い続けるよりは借地権を解除して負担を減らしたほうが良いという考え方です。

借地権を解除するときには、建物や外構などを解体して更地で返還することになります。
このときに、一度、底地人に対して借地権を解除するから建物の解体費用を負担してくれないかと折衝しても良いかもしれません。
底地の所有者からすれば、借地権が解除されることにより完全な権利を行使できる土地が戻ってきます。
このメリットはかなり大きいため、建物解体費用を出してでも借地権を解除したいという底地の所有者がいるかもしれません。

解体・処分にかかる費用はどのくらい?

借地権を解除するときには、建物を解体しなければなりません。
このときに建物を解体するのは、原則、借地人です。
また、解体するときには当然、解体費用が発生するため、費用は建物解体をする借地人が負担します。

原則:借主が解体費用を負担

借地権を解除するときには、借地人に原状回復義務があります。
原状回復義務とは、土地を借りて土地を返すときには、借りたときの状態にして土地を返還する義務があることをいいます。
つまり、借主は建物がなかった状態にして土地を返還しなければなりません。

建物を壊す義務が借地人にある以上、建物解体費用も借地人が負担しなければなりません。

建物の解体費用相場

建物の解体費用は建物の構造と建物面積によって費用が大きく異なります。
構造別にどのくらい解体費がかかるのか、おおよその費用を表にまとめました。

【1坪あたりの解体費用の目安】

建物の構造 1坪あたりの解体費用
木造 4万~5万円
軽量鉄骨造 4.5万~5.5万円
鉄筋コンクリート造 7万~9万円

この表はあくまで目安としてお考え下さい。
解体費用は重機が敷地内に入れるかどうかや、建物内に残存物があるかどうかなど多くの事項を加味したうえで算出します。
解体する建物の状況によっては、1坪あたりの目安金額を簡単に超えてしまうことがあるため、必ず解体業者から解体見積もりを取得してください。

解体にあたり注意すべきポイント

建物解体をするときには注意しなければいけないポイントがあります。
解体のときに注意しなければならないポイントを、項目ごとに紹介していきます。

アスベストの有無

アスベストが建物から一定量出てくると、建物解体費用がかなりの金額に跳ね上がります。
アスベストを処理する場合、アスベストが飛散しないように建物をすべて囲ったり、適切にアスベストが処分されているのか検査されたりするなど、解体に相当な手間がかかってしまいます。

特にアスベストが厄介なのは、建物内にアスベストが使われているかどうか、基本的に破壊検査をしなければわからないことです。
アスベストを使用しているのかすべての場所を目視確認できることはないからです。
つまり、アスベストは解体している最中に見つかるということです。

ただし、アスベストが使用されているのは鉄骨造と鉄骨鉄筋コンクリート造で、アスベスト使用が禁止された2006年までに建築された建物です。
この条件に該当する建物はアスベストを利用している可能性があるため、多目に予算を取っておく必要があります。

解体業者の選び方

解体業者を選ぶときには、複数の解体業者の見積もりを取得し、解体金額と解体工事内容を比較し選びます。
解体金額が物凄く安くても、解体工事に必要な項目が抜けていることなどがあるため、内容まで精査することが大切です。

費用を抑えるためのポイント

解体費用を抑えるためのポイントは、複数の解体業者から見積もりを取得し、金額交渉をおこなうことです。

解体業者は自社で重機を保有していたり、自社で処分場を保有していたりできる解体業者だと解体費用が下がるケースが多いですが、このような解体業者を自力で探すのは困難です。
そのため、一般的な方法である相見積もりを取得して、解体費用を交渉するのが簡単かつ無難です。

借地に建てた家を相続放棄できる?

借地に建てた家を相続することが負担であれば、借地上の家を相続放棄することはできます。
ただし、相続放棄をするときには注意点が多いため、この注意点を把握しておく必要があります。

相続放棄するには期限が決まっている

相続放棄をするには、決まった期間内に家庭裁判所へ相続放棄の申請をする必要があります。
相続放棄ができる期間は、被相続人が亡くなり相続が発生したことを知ってから、原則、3ヶ月以内に家庭裁判所に申告する必要があります。

相続放棄をするとプラスの財産も放棄しなければならない

相続放棄を行使するとすべての相続財産を相続することができなくなります。
借金などのマイナス財産はもちろんのこと、現金や不動産などのプラスの財産を相続することもできなくなります。
そのため、相続放棄をするときには相続財産がプラスになるのかどうかを確認する必要があります。

相続放棄しても管理責任は放棄できない

相続放棄をして借地上の家の所有権を放棄しても、管理責任は放棄できないことには注意が必要です。
相続放棄をすると不動産は国庫に帰属します。
しかし、国庫に帰属されるまでは相当な期間がかかります。
この間の期間については、相続放棄をした人が相続放棄した不動産の管理をしなければなりません。

まとめ

借地権とは、建物を借りる目的で土地を借り、その対価として借地を地主に払うことで土地を自由に利用できる権利のことです。
借地権には、旧借地権や普通借地権、定期借地権などの種類があり、それぞれ権利の内容も異なります。

借地権は土地を借りているとはいえ、地主の承諾がないとできないことも多く、土地の権利を完全に行使することができません。
そのため、借地権を売却するのはなかなか難しいこととなります。

しかし、借地権を売却する手順を知ることにより、借地権を通常より高く売却することも不可能ではありません。

また、借地権を解消するときには借地人が建物を解体し、土地を戻す義務があるため、建物解体用を出す必要があります。
解体するときにも注意点があるため、借地権売買、建物解体をするときには不動産仲介会社などのプロに相談したうえで、進めていくようにしましょう。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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