老朽化したビルの建て替えは必要?必要な費用や期間・立ち退きについて解説
目次
老朽化したビルの建て替えは必要?
ビルの老朽化の年数とは?
そもそも、築何年程度まで経過したらビルを建て替えないといけないのか、ビルの耐用年数は何年あるのか疑問に感じている人もいるのではないでしょうか。
実際の耐用年数とは異なる点もあるものの、国税庁が目安としている事務所用の鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造の建物に関する耐用年数は50年とされています。国税庁が定める不動産の耐用年数は「法定耐用年数」と言います。
実際には築50年を過ぎても利用できているビルは多数あるでしょう。しかしながら、資産価値という観点でビルを見たときに、法定耐用年数を把握しておくことは重要です。
法定耐用年数はビルを購入する時に利用できるローンの返済年数に関りがあります。金融機関は法定耐用年数とビルの築年数を比較して、残っている法定耐用年数をローンの返済年数に設定します。
このため、築50年に近づいているビルはローンの返済年数が短くなるため要注意です。返済年数が短いと毎月の返済負担が重くなるため、ビルを売却しようとしたときに買い手が付きにくくなります。
老朽化したビルの抱える問題点
老朽化が目立ってきたとしても、利用に問題がなければ構わないのではと考えている人もいるかもしれません。しかし、表面上は問題なく利用できているとしても、老朽化したビルには以下のような問題点が発生してきます。
長期修繕計画を作成のうえ計画的な修繕をしていくほか、常に保有するビルの状態を把握しながら、取るべき対策を考えていくことが必要です。
安全上の問題
特に1981年(昭和56年)5月31日までに建築確認を取得して建設されたビルは、旧耐震基準のビルとなっているため注意を要します。旧耐震基準のビルは震度5の揺れに耐えうる構造を目指して設計されていますが、近年では震度5を上回る地震もめずらしくありません。
耐震補強などの対策を取らないと、万が一大きな地震が発生してしたときに、旧耐震基準のビルは倒壊もしくは破損してしまう恐れがあるため要注意です。
万一災害時に建物が破損した場合、落下物によって入居者や外の通行人に怪我をさせてしまうなどのリスクもあります。
維持管理の問題
ビルに限った問題ではありませんが、築年数が経過して老朽化した建物は修繕箇所が増えて修繕費や維持管理費がかさんでくるため要注意です。
例えばエレベーターは30年前後で入れ替えるのが目安とされますが、入れ替えずに古いものを使用し続けていると、メンテナンスの部品が絶版になって点検業者から管理を断られてしまうこともあります。
エレベーターの更新は複数の種類がある修繕の中でも、特に費用が高額になるため要注意です。
空室が発生し収益が落ちる問題
ビルを貸し出している場合、古いビルは入居者に敬遠されやすく空室が発生しがちになります。賃貸住宅と同様に古いビルと新しいビルとの比較では、新しいビルの方が入居者に好まれるためです。
ビルが古くなると新たな入居者が入りづらくなるほか、既存の入居者が退去してしまうこともあるため要注意です。空室はビル経営の収益に直結するため、ビルが古くなってきたらリノベーションや建て替えなどの対策を講じる必要があります。
相続で不利になる問題
空室が多いビルは相続税が高くなるため要注意です。なぜ空室率と相続税が関係あるのか、わからないという人もいるかもしれません。
ビルの相続税を計算する上では、賃貸している床面積が大きくなるほど相続税評価額が下がります。つまり、相続時の負担を軽減するためには、できる限り多くのフロアを貸し出している状態で相続手続きを進めることが必要です。
老朽化したビルの対策とメリット・デメリット
築50年に近づくなど老朽化したビルについては、前項で解説した問題を解決するために3つの対策が考えられます。
対策1.建て替え
1つ目の対策はビルの建て替えです。建て替えは複数ある中で最も費用がかかる方法です。なお、最初に実施する解体工事にも相応の時間がかかります。建て替えを視野に入れるならばなるべく早い時期から検討するのがおすすめです。
そのほか、土地を賃貸してビルを保有している場合は、建て替えに関する意思決定が土地の所有者にある点にも注意を要します。
建て替えは時間と費用がかかるものの、完了すれば新築ビルとして賃貸できるようになります。また、建て替える前と比較すると、設備が更新されるため修繕費などのランニングコストが下がるほか、家賃の向上を見込めるため収益性の改善につながる点もポイントです。
他にも建て替えに当たってローンを利用することで、金利支払いによる節税対策とすることも可能になります。
対策2.売却・移転
建て替えできるほどの費用がない場合は、ビルを売却もしくは移転してしまうのも1つの方法です。移転とは、本社ビルを保有してオフィスとして利用している場合などに、ビルを売却してオフィスを移転する方法のことを指します。
自社ビルを売却することでまとまった資金が入ってくるほか、維持管理費用がかからなくなり、不動産を保有することによる税金の負担もなくなる点などがメリットです。
その一方で、オフィスを借りることによる賃料の発生や、賃貸オフィスに切り替わることで建物の利用方法が制限される点などはデメリットと言えます。そのほか、一度自社ビルを手放してしまうと再度購入することは困難になるケースが大半です。自社ビルを手放す場合はその後の資産運用方針などをよく検討する必要があります。
対策3.等価交換
等価交換とは、土地の所有者が土地を不動産業者に譲渡することで、デベロッパーが建物を建設したのちに、譲渡した土地の相当額と認められる不動産の持ち分を譲渡者が取得する方法のことです。
もともとの所有者が費用を支出することなく建て替えできる点が、等価交換による建て替えをするメリットとなります。等価交換による建て替えは元のビルよりも規模の大きなビルを建てることになるので、経営規模の縮小によってスペースが余っている場合などは特に、等価交換による建て替えのメリットは大きいものです。
一方で、土地の所有権は建物を建てるデベロッパーと共有になるほか、建物のデザインや建設事業そのものの主導権をデベロッパーが握ることになる点はデメリットとなります。
ビルの建て替えに必要な費用とは?
坪単価(構造別)
老朽化したビルの建て替えは様々な点でメリットがあるものの、そもそもビルの建設にはいくらの費用がかかるのか疑問に感じる人もいるのではないでしょうか。
建設費のみの比較となりますが、総務省統計局が発表している資料によると、2022年7月時点における、事務所用建物に関する構造別の建設費用坪単価は以下の通りです。
構造 | 坪単価(千円以下四捨五入) |
---|---|
SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造) | 173.2万円 |
RC造(鉄筋コンクリート造) | 149.0万円 |
S造(鉄骨造) | 145.5万円 |
2022年時点では特に、資材費の高騰や円安の影響に加え、原油高による輸送費の高騰などによって不動産の建設費用が上がっています。
築古のビルを建て替える場合などは特に、建て替え前のビルを建てた時とは状況が大きく変わっている場合もあるので要注意です。
建築費以外の費用
解体費用
ビルを建て替えるためには、既存のビルを取り壊して更地にする必要があるため、新たなビルの建設費用に加えて解体費用が発生します。解体費用は解体するビルの規模や構造によって異なりますが、シンプルに大きなビルほど高い金額がかかると考えてよいでしょう。
なお、築古建物でアスベストなどが使用されていた場合は、アスベストの処分費用などが上乗せされることもあります。ビルの解体費用は、解体するビルの構造や使われている資材によっても増減するため、相場通りの金額とはならない可能性もある点に要注意です。
また、国土交通省が「建築物解体工事共通仕様書」という書類を作成しているため、業者から見積もりを取る際などはこちらを参照してから相談するのもおすすめです。
※参照:国土交通省
https://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_kaitai.html
建て替えまでの生活費
そのほか、取壊しから新たなビルへの入居までの間、入居者から入ってくる家賃収入は途切れることになります。個人のオーナーがビルを所有して家賃収入を生活費に充当している場合は、建て替え期間中の生活費を確保することも必要です。
該当期間中の生活費を貯金できているか、あるいは本業の収入や他の資産運用から入ってくる収入で生活費を賄えるのか、事前に確認してから建て替えに踏み切ることが重要になります。
保証金の返還
ビルを賃貸して入居者が入っている場合は、ビルを建て替える前の時点で入居者に退去してもらうことが必要です。入居者が退去する際には保証金を返還する必要があるため、入居者数や家賃に応じた金額が必要となる点に注意を要します。
ビルの建て替えにかかる期間と立ち退きについて
建て替えにかかる工程
一般的に、ビルの建て替えは以下の工程に沿って進めます。
- 専門業者への相談・建て替え計画の立案
- 解体工事及び建設工事発注先の選定
- 入居者退去の計画・実施
- ビルの解体及び建て替え建物の建設
- 新たな入居者の募集
- 竣工・入居
入居者退去は立ち退きとも呼びますが、立ち退きは言い換えればビルのオーナー都合による賃貸借契約の解約です。立ち退きというとトラブルに発展するのではと不安を感じる人もいるかもしれません。
立ち退きをスムーズに進めるためには、入居者との賃貸借契約を更新するタイミングで普通借家契約から定期借家契約に切り替えるなどの方法を取る必要があります。
定期借家契約とは契約の更新ができないために、契約期間満了とともに入居者が物件を明け渡さなくてはならない契約のことです。契約切り替えの時期などは建て替え計画によって決まってくるため、事前に綿密な計画を立てることが重要です。
建て替えにかかる期間
前項で解説したビル建て替えの全工程が終了するまでの期間は、解体するビルと建設するビルの規模によるものの、5年~10年程度みておくのが安全です。
保有するビルの築年数が25年~30年程度経過している場合は、建て替えも視野に入れてその後の計画を立てることが必要になります。
ビルの建て替えに必要な立ち退きについて
立ち退きが必要になる理由
前項で解説した通り、立ち退きはオーナー都合による賃貸借契約の解約に該当しますが、1度入居者と締結した賃貸借契約が普通借家契約である場合、オーナー都合による一方的な解約はできません。
これは借地借家法に「正当な事由がない限り入居者は建物を明け渡す必要がない」旨が定められているためです。
※参照:e-gov 借地借家法 第六条
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=403AC0000000090
このため、ビルの耐震基準に関して行政から指摘を受けているなどの理由がない限りは、正当な事由としては認められません。
立ち退きにかかる期間とは?
入居者との関係や締結済の賃貸借契約期間にもよりますが、数年単位の時間がかかると考えておいた方が良いでしょう。ビルの立地が良いなどの場合は、入居者が立ち退きを拒んで時間がかかることもあります。
立ち退き料はどのくらい?
立ち退き料は建物の用途が店舗なのか事務所なのかによって異なるほか、店舗であれば店舗があげている売り上げなどによっても左右されます。
立ち退き料に関する法令や条例による定めはないほか、相場なども明示できるものではありません。正確な立ち退き料はオーナーと入居者との協議によって決まるため、弁護士などに相談しながら確認していく必要があります。
立ち退きをスムーズに行うコツ
立ち退きをスムーズに進めるためには、専門業者を間に挟むのがおすすめです。例えば長年営業している店舗などが入居者にいる場合は、話し合いが感情論のぶつけ合いになってしまい上手くいかないことも少なくありません。
そのようなトラブルを避けるためには、第三者目線を持って話し合いに臨める専門業者を入れるほうが得策と言えます。
まとめ
ビルの建て替え・売却などの判断をするためには、一定以上の専門知識や検討にかける時間が必要です。ビルの個人オーナーである場合や、法人の総務担当としてビルの建て替えについて検討を進める場合、1人で全てを進めるのは困難と言えます。
特に新しく建てるビルのデザインや既存入居者の立ち退き交渉などに関しては、個人による意思決定に負担がかかるものです。
負担を軽減するためには専門家の手を借りるのが必要となる一方で、どんな業者をパートナーに選べば良いかわからないという人もいるでしょう。業者を選ぶ上では複数の業者を比較することも重要です。
立ち退き交渉を含むビルの建て替えをスムーズに進めるためには、経験豊富な業者を選ぶのが肝要となります。