不動産賃貸経営の法人化後に必要な「貸付金の解消」を税理士が解説
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不動産所有会社のセカンドオピニオンを受ける中で、個人の相続税対策を全く意識していない法人の決算書を見ることがよくあります。最も典型的なのが、法人における個人からの借入金(個人からみると貸付金)が多額に残っているケースです。
今回は、個人に多額の貸付金がある場合の問題点と、その貸付金の解消方法について解説します。
建物売却により発生した貸付金は相続財産になる
建物所有型法人の形式で法人化する場合、個人オーナーが所有する賃貸建物を法人に売却しますが、その際の売却価格は建物の時価となります。一般的には個人における減価償却費の控除後の残額、すなわち帳簿価額を時価とみて売却することが多いです。帳簿価額で売却すれば、個人には譲渡税の対象となる売却益が発生しません。
しかし、個人から法人へ賃貸建物を売却できたとしても、買う側の法人が別途銀行から借り入れをしない限り、その建物の購入代金を個人へ一括払いすることができません。したがって、その後法人が毎年の家賃収入の中から分割で支払うことになりますが、個人としてはまだ返済を受けていない売却代金の全額が法人に対する債権(貸付金)となります。
つまり、個人オーナーが所有していた賃貸建物という財産が、法人化による売却後は法人への貸付金に形が変わり、相続時に残ってしまった貸付金は相続財産になってしまいますので、この貸付金を解消することが相続税の節税につながります。
毎年こまめに相続人などに債権贈与をする
まずは、建物を売却した元オーナーから、この貸付金を配偶者、子供、孫などに贈与することから始めましょう。贈与ではありますが現金が動くわけではないので、元オーナーに痛みはありません。法人から返済されるはずのお金が自分ではなく、配偶者や子供、孫に行くだけの話です。
例えば一人に310万円を贈与すると、基礎控除110万円を引いた200万円に10%の贈与税がかかるため、20万円の贈与税となります。毎年家族3人に贈与すると60万円の税負担で930万円の贈与ができ、5年で4,650万円も相続財産を減少させることができます。
毎年コツコツと贈与することで将来的に大きな相続税の節税効果が得られます。しかも、法人に余裕がなければ今すぐの返済は必要なく、相続後でもいいのです。あくまで法人に余裕のできた時の返済で構いません。
法人に赤字が発生したら債権放棄をする
例えば多額の修繕費がかかったたり、想定外の臨時的な経費の支払があったりして、法人で赤字が発生した場合も貸付金の解消のチャンスです。この場合には元オーナーに貸付金の一部を放棄してもらいましょう。
元オーナーとしては法人から返済されるべきお金が入らなくなるだけで、新たな支出や負担が発生するわけではありません。一方、法人としては本来返済すべき借金が一部帳消しになるため、免除になり得をした金額が「債務免除益」として課税の対象になってしまいます。
しかし、これを上記の赤字と相殺すれば、実際の法人税等の課税もされずに済むという結果になります。
DESは慎重な検討を
上記2つの方法以外にも、貸付金の解消の手段として「デット・エクイティ・スワップ(DES)」という方法があります。
元オーナーの有する貸付金を現物出資して資本組み入れをすることにより、相続対象となる財産が貸付金から株式に換わります。このDESをした場合、貸付金債権の評価ではなく、取引相場のない株式の評価になり、相続税評価額の引き下げになる場合もあるといわれています。
しかし、法人が債務超過の場合には債務免除益が発生するなどの可能性があり、税務リスクの高い手法であるため、事前に専門家による慎重な検討が必須となります。実際、DESを実行した後で想定外の多額の追徴税額が発生し、提案した税理士が損害賠償命令を受けた判例もあります。
経験豊富な税理士を顧問にする
貸付金を有する個人が高齢な場合には、特に早期に解消を進める必要があります。また、将来の相続税申告の際に税務署から指摘を受けないよう、贈与や放棄をした際には「贈与契約書」「債権譲渡承諾書」「債務免除通知書」などの書式をしっかりと整えておく必要があります。
不動産所有会社の経験が豊富な税理士を顧問にして、決算の都度相談しながら貸付金の解消を進めていくのがよいでしょう。
※この記事は、「家主と地主11月号/相続税で検討したい節税のポイント 第6回 法人化後に必要な「貸付金の解消」」に掲載された内容です。