マンション・アパートを賃貸する際にかかる税金について

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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マンション・アパートを賃貸する際にかかる税金について解説します。

不動産所得がある人は、翌年3月15日までに、原則として確定申告をする必要があります。

特に青色申告の特典を受けたい場合は、青色申告の要件を満たす方法で、確定申告を行わなければなりません。青色申告による確定申告や、法人化のシミュレーションなどは、税理士にご相談ください。

不動産所得とは?

不動産所得とは、個人が営む不動産賃貸業から発生する所得をいいます。

家賃収入から発生する所得はもちろん、賃貸物件に設置した看板の広告料や、アパートの共用部分に使用する電力を太陽光発電設備から得ているときの余剰電力の売却収入など、不動産賃貸業に関して発生するものも、不動産所得にあたります。

また、地上権や借地権、永小作権など不動産の上に存する権利の設定や貸付け、船舶や航空機の貸付けなどによる収入も、不動産所得にあたります。

不動産所得と他の所得の区別

他の事業に付随して不動産賃貸が行われている場合、その収入は、不動産所得になりません。

たとえば、アパートの賃貸であっても、下宿のように食事を提供する人的なサービスが行われている場合は、事業所得や雑所得になります。

他にも、下記のようなケースで生じた家賃収入は、不動産所得ではなく、本来の事業の所得(事業所得など)に分類されます。

  • 個人事業主が従業員に宿舎を与え、使用料を受け取る場合
  • 不動産業者が販売目的で取得した不動産を、一時的に賃貸する場合

課税所得対象となる不動産所得と計算方法

不動産所得の計算方法

不動産所得は、以下の方法で計算します。

不動産所得=収入金額-必要経費

不動産所得の収入金額になるもの

次のような収入が該当します。

  • 家賃、駐車場代
  • 礼金
  • 敷金や保証金のうち、返還を要しないもの
  • 共益費などの名目で受け取る電気代、水道代や掃除代など
  • 建物や塀などに看板を取り付ける等、他者から広告のために受け取る使用料
  • 賃貸物件に設置した太陽光発電設備から生じた余剰電力の売電収入(全量売電を除く)
【参考】
土地の賃貸をする方は、地代、借地権の設定や更新などで受け取る権利金(譲渡所得にあたらないもの)や名義書換料、承諾料、更新料、頭金などの名目で受領するものも不動産所得になります。

収入金額を計上する時期

契約上の支払い日をもって、収入に計上します。

したがって、家賃の支払いが契約上の期限までになかったとしても、家賃の支払い日が到来したときに、未収金として、収入に計上します。

回収不能である場合は、貸倒損失とすることを検討します。

敷金は、返還しなくてよいことが確定した時点で収入に計上します。

退去後の原状回復費用に充てるケースのように、賃貸契約が終了しなければ返還する額が確定しない場合は、賃貸契約が終了した日をもって、返還しないことが確定した金額を収入に計上します。

不動産所得の必要経費になるもの

必要経費とは、収入を得るために直接要した費用のことです。

たとえば、次のような費用が該当します。

  • 減価償却費
  • 修繕費(資本的支出にあたるものは減価償却をします)
  • 水道光熱費
  • 不動産の管理費、広告宣伝費、消耗品費、交際費、図書研修費など
  • 火災保険料などの損害保険料
  • 固定資産税・都市計画税(償却資産税を含む)、事業税、不動産取得税、登録免許税
  • 税理士等への報酬
  • 借主に支払う立退料(譲渡のための立ち退きを除きます)
  • 土地や建物を取得するための借入金の金利(賃貸開始後に支払うもの)

自宅を事務所にしている場合の水道光熱費なども必要経費になりますが、私生活のための支出が混ざっている費用(家事関連費)の場合、業務のために直接必要な部分として合理的に算定できるものしか、必要経費になりません。

必要経費を計上する時期

年内に債務が確定しているものしか、必要経費に計上できません。

債務が確定しているかどうかは、次の3つの要件をすべて満たしているかどうかで判定します。

  • 12月31日までに債務が成立していること
  • 12月31日までにその債務に基づく支払い事実が発生していること
  • 12月31日までの金額を合理的に算定できること

たとえば、令和3年12月までの使用分の水道光熱費を翌月1月に支払うとしても、それは令和3年分の必要経費になります。

不動産賃貸経営の規模で変わる必要経費

下記も不動産所得の必要経費になりますが、不動産賃貸業の規模が事業的規模にあたるかどうかで、必要経費にできる範囲が変わります。

事業的規模 事業的規模でない
賃貸用不動産の取壊し/除却などの損失 全額、必要経費にできる(マイナスになれば損益通算などが可) 不動産所得の額を上限に必要経費にできる(マイナス分は計上できない)
賃料の貸倒損失 回収不能となった年の必要経費とする 収入計上した年に遡って必要経費にする(更正の請求が必要)
青色申告の事業専従者給与 必要経費になる(届出の必要あり) 必要経費にならない
白色申告の事業専従者控除 必要経費になる 必要経費にならない
青色申告特別控除 最大65万円 10万円
【事業的規模の判定】個人の不動産賃貸業が、次のいずれかにあてはまる場合、事業的規模で行われているものとして扱います。

  • 貸与できる独立した部屋がおおむね10室以上あること
  • 独立家屋の貸付けをする場合はおおむね5棟以上であること

不動産所得にかかる税金【不動産所得税と住民税】

取得税と税率

不動産所得にかかる所得税や納税額は、下記の方法で計算します。

(不動産所得など各種所得の合計-所得控除)×所得税率-税額控除=所得税
所得税-源泉徴収税額・予定納税額=納税額

各種所得の合計

不動産所得の他にも所得があるときは、それらを合算して所得税を計算します。

たとえば、サラリーマンで家賃収入を得ている人は、「不動産所得+給与所得」が各種所得の合計になります。

損益通算「各種所得の合計」を計算するとき、

  • 不動産所得
  • 事業所得
  • 譲渡所得(総合課税のもの)
  • 山林所得

のうちマイナスのものがある場合は、決められた順番で他のプラスの所得と通算します。

もし不動産所得がマイナスであれば、まずは、事業所得や給与所得、雑所得などのうちプラスの所得と通算し、それでも控除しきれないときは、譲渡所得(総合課税)・一時所得(それぞれ2分の1を乗じる前)と通算します。

それでも控除しきれないときは、山林所得や退職所得のプラスと通算します。

このとき、不動産所得の必要経費に、土地の借入金の利子が含まれている場合、損益通算を行うマイナスから、この利子は除かなければなりません。

繰越控除損益通算をしても所得がマイナスのままである場合、青色申告をすることによって、翌年以降3年間、その損失を繰り越せるルールがあります。

もし繰り越している3年以内の損失があるときは、損益通算後の所得から控除することができます。

所得控除

個人の所得控除を差し引きます。(例;社会保険料控除、配偶者控除、基礎控除など)

【所得税率】所得税率は、5%~45%の超過累進税率になります。

超過累進税率とは、課税対象が一定額を超えると、超えた部分に対して より高い税率が適用される税率をいいます。

課税される所得金額 税率
195万円以下 5%
195万円超~330万円以下 10%
330万円超~695万円以下 20%
695万円超~900万円以下 23%
900万円超~1,800万円以下 33%
1,800万円超~4,000万円以下 40%
4,000万円超 45%

超過累進税率による税金を計算するときは、「速算表」を利用すると便利です。

国税庁HP:所得税の税率

現在は、上記の税率にさらに復興特別所得税(所得税×2.1%)が加わります。

速算表で計算した所得税額に102.1%をかけることで、所得税及び復興特別所得税を算定することができます。

【税額控除】個人の税額控除を差し引きます。(例:住宅ローン控除など)
【源泉徴収税額・予定納税額】源泉徴収税額や予定納税額の支払いがある場合は、所得税額からこれらを差し引いた額が納税額になります。

住民税と税率

住民税は、都道府県民税・市町村民税の合計で、1月1日の住所地を管轄する市町村が徴収します。

サラリーマンの方は、基本的には勤め先が給与から天引き(特別徴収)をします。

徴収される住民税額は、所得割と均等割の合計値となります。

【所得割】

(不動産所得など各種所得の合計-所得控除)×住民税率-税額控除

「各種所得の合計」は、所得税の計算方法と同じです。
「所得控除」や「税額控除」については、所得税とはやや異なります。
「住民税率」は、都道府県・市町村を合わせて10%になります。

【均等割】

おおむね5,000円です。

減価償却の考え方

減価償却とは、固定資産(土地を除く)を購入したときの取得価額を、その耐用年数の経過に応じて事業の収益と対応させていく会計処理のことをいいます。

ただし少額な資産は、下記のとおり、減価償却をせずに一度に経費にします。

取得価額 処理方法
10万円未満(または使用可能期間が1年未満) 全額必要経費
10万円以上20万円未満 下記のいずれかを選択

  • 減価償却
  • 3年間で均等償却(一括償却)
  • 全額必要経費(青色申告の特典を活用)
20万円以上30万円未満 下記のいずれかを選択

  • 減価償却
  • 全額必要経費(青色申告の特典を活用)

減価償却の耐用年数について

減価償却の計算に使う耐用年数は、法律で決められています。

長く使える構造や用途にあたる資産ほど、耐用年数も長くなります。

たとえば、賃貸マンション・アパートは、住宅用の建物の耐用年数を使用しますが、RC造と木造では耐用年数が大きく異なります。

構造 耐用年数
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの 47年
木造・合成樹脂造のもの 22年

中古で取得した資産は、耐用年数の決め方が別にあります。

償却率とは

減価償却費の計算には、「償却率」を使用します。

たとえば、木造アパートの場合、

  • 耐用年数22年
  • 償却方法は定額法

ですので、取得価額×0.046(償却率)が、その年の減価償却費になります。

年の途中で使用を開始したときは、月割り計算をします。

償却率は、償却率表で確認することができますが、確認するには、まず資産ごとの償却方法が何かを知らなければなりません。(平成28年4月以降に取得した建物は定額法です)

不動産所得の課税を抑えるポイント

青色申告を行う

青色申告承認申請を行い、青色申告による確定申告を行うことによって、さまざまな節税上のメリットを受けることができます。

【青色申告による主な特典】

  • 青色申告特別控除
  • 青色事業専従者給与の必要経費算入
  • 純損失の繰越控除・繰戻還付
  • 30万円未満の少額減価償却資産の必要経費算入

など

特に青色申告特別控除は、期限内に青色申告決算書を添付して確定申告を行うことにより、不動産所得の金額から10万円(事業的規模であれば最大65万円)を控除することができます。

不動産所得の確定申告については、「不動産所得の確定申告は必要?正しい方法を不動産税理士が解説」で詳しく解説しています。こちらも参考にしてみてください。

事業的規模で経営する

事業的規模で不動産賃貸業を経営すると必要経費の幅が広がります。

青色申告特別控除の額が高いことはもちろん、青色事業専従者給与を必要経費にできるようになれば、節税上とても有利になります。

ただし、個人事業税が発生する可能性があります。

収入が増えたときは法人化を検討する

個人で不動産賃貸を行うと、個人に対して所得税や住民税がかかります。

税率は、前述のとおり、所得に対して所得税が5%~45%の超過累進税率となり、住民税が10%になります。場合によっては、個人事業税もかかります。

これに対し、法人で不動産賃貸業を営む場合は、法人税や法人事業税、法人住民税など、個人とは異なる税金が発生するのですが、所得に対する実効税率は、25%~35%ほどです。

この違いにより、所得が増えてきたら事業を法人化することで、税負担を減らすことができます。

法人化については「不動産賃貸業の法人化とは?メリットやデメリット・タイミングを不動産税理士が徹底解説」で詳しく解説しています。こちらも参考にしてみてください。

まとめ

マンション・アパートを賃貸する際にかかる税金について解説しました。

不動産所得がある人は、翌年3月15日までに、原則として確定申告をする必要があります。

特に青色申告の特典を受けたい場合は、青色申告の要件を満たす方法で、確定申告を行わなければなりません。

青色申告は、承認申請書を提出するだけでなく、複式簿記などの記帳に基づく青色申告決算書を作成して確定申告書に添付することや、法定の帳簿書類を保存することなどが必要です。

最後に、税負担を減らしたいときの法人化については、会社の設立費用の負担、法人住民税の均等割の負担、役員報酬によって給与所得が発生することなどを踏まえ、個別のシミュレーションをすることが重要です。

青色申告による確定申告や、法人化のシミュレーションなどは、税理士にご相談ください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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