遺産相続の手続きに関する時効と正しい対処法について

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

目次

遺産の相続に関するさまざまな権利には、時効が存在しています。
相続開始後の一定期間に手続きを行わなければ時効を迎え、相続人としてのさまざまな権利が喪失してしまいます。

遺産の相続には時効がある

相続に関する法律をつかさどっている民法には、2種類の時効があります。一つは取得時効で、もう一つが消滅時効です。

取得時効とは、他人の所有物を一定期間所有することにより所有権が本来の所有者から占有者へ移動することをいい、消滅時効とは、本来持っている権利が一定期間行使されないことにより権利そのものが消滅してしまうことをいいます。

遺産の相続に関する権利にはさまざまなものがありますが、これらの多くには消滅時効が設定されており、一定期間内にその権利が行使されなければ消滅してしまいます。このように時効が定められている権利の中で、おもなものは以下の6つです。

  • 相続放棄
  • 遺産分割請求権
  • 遺留分侵害額請求権
  • 相続回復請求権
  • 相続税の確定申告
  • 不動産の名義変更

それではこれらの時効について、一つずつ確認していきましょう。

相続放棄の時効

相続財産には、現金預金や土地建物などのプラスの相続財産と、借入金や債務保証などのマイナスの相続財産の2種類があります。遺産を相続する場合は、プラスかマイナスのどちらか一方のみを相続することはできず、相続するのであれば両方の財産を相続しなければなりません。

プラスの財産がマイナスの財産よりも多ければ相続しても何の問題もありませんが、まれにマイナスの財産の方がプラスの財産よりも多い場合があります。このような状況で遺産を相続してしまうと、相続後に借金などの債務を背負うことになってしまいます。

このような状況を避けるため、相続人は家庭裁判所に申し立てを行うことにより相続権を放棄することが認められています。これを「相続放棄」といいます。しかし、この相続放棄のための申述には期限が設けられており、相続開始を知った日の翌日から3ヶ月を超えてしまうと相続放棄の権利が消滅し時効となってしまいます。

遺産分割請求権の時効

遺言書がある場合を除き、法定相続人は財産の相続方法を決めるための話し合いを行い、誰が何を相続するかを決定していきます。この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。

遺産分割協議で話し合いが決着すると誰が何を相続するのかが決まるわけですが、話し合いが決着するまでの間は、遺産は相続人全員の共有財産となります。

このように遺産がまだ共有財産である状態において、他の相続人に対して遺産分割協議を行い遺産分割の請求を行うことができる権利のことを「遺産分割請求権(いさんぶんかつせいきゅうけん)」といいます。

遺産分割請求権には実は時効はないのですが、できるだけ早く遺産分割協議を済ませておかないと以下のような問題が起こってしまいます。

  • 一切の相続手続きができない
  • 第三者に対して不動産の所有権を主張できない恐れがある
  • 相続人の権利関係が複雑になってしまう

一切の相続手続きができない

遺産分割協議が終わるまでは遺産の分け方が決まりませんから、ありとあらゆる財産の相続手続きができません。銀行口座は凍結されたまま引き出すことができませんし、不動産の名義変更も出来ませんから売却はもちろん貸すこともできません。

第三者に対して不動産の所有権を主張できない恐れがある

不動産を名義変更しないまま長期間放置しておくと、第三者に悪用される恐れがあります。しかも運悪く土地の登記が不十分であったりすると、所有権を主張できない恐れがでてきます。

相続人の権利関係が複雑になってしまう

遺産分割協議が決まらないまま時間だけが過ぎてしまうと、相続人自身が亡くなり代襲相続人に相続権が移動してしまうことがあります。ただでさえ話し合いの決着が難しい上に話し相手自体が変わってしまうと権利関係が複雑になり、ますます遺産の分割が難しくなってしまいます。

このような問題が発生する恐れがあるため、遺産分割請求権には時効はないものの、できるだけ早く請求権を行使して分割協議に決着をつけた方が良いでしょう。

遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)の時効

相続順位の第一順位と第二順位の相続人には、遺言書の内容に関わらず最低でも法定相続分の1/2を相続する権利が与えられています。これを「遺留分」といい、それを請求することができる権利のことを「遺留分侵害額(減殺)請求権」といいます。

第二順位までの相続人は被相続人と非常に近い関係にあり、生前相続人の生活などを支えた人物であることは間違いないにもかかわらず、遺言書の内容を優先するあまり一切の相続権を奪ってしまっては余りにも公平さに欠いてしまいます。そこで第二順位までの法定相続人に関しては、法定相続分の1/2など、一定割合の相続権を主張する権利が与えられているわけです。

しかし、この遺留分侵害額請求権にも請求期限が設けられており、期限を過ぎてしまうと時効を迎えてしまいます。具体的には、
被相続人が亡くなったことを知った日から1年以内に遺留分侵害額請求を行わなければ時効となり、遺留分の請求ができなくなってしまいます。

また、被相続人が亡くなったことを知らなかったとしても、亡くなった日から10年が経過すると時効となるためこの点にも注意しておかなければなりません。

相続回復請求権の時効

本来であれば相続権がないにも関わらず、相続人であるかのように振る舞い遺産が相続されている場合があります。たとえば、事実とは異なる出生届や認知届などによって被相続人の子供になっている場合や、相続欠格者事由に該当しているにもかかわらず相続人として財産を相続している場合などがそうです。

このような場合に、相続権を侵害された相続人は、本来の相続分を相続するための請求をすることが認められています。これを「相続回復請求権」といいます。

この相続回復請求権には時効が設けられており、相続人としての権利が侵害されていると知った日から5年以内に請求権を行使しなければ失効してしまいます。また、権利が侵害されていることを知らない場合でも、被相続人が亡くなってから20年が経過すると権利は消滅し時効となってしまいます。

相続税の確定申告の時効

一定金額以上の財産を相続すると、相続税を申告し納税しなければなりません。しかしこの相続税の申告・納税にも時効が設定されています。

国は納税義務者から税金を徴収する徴収権を持っていますが、国税通則法において徴収権は一定期間(これを「除斥期間」といいます)が経過すると消滅すると定められています。相続税の場合、除斥期間が申告期限(被相続人が亡くなってから10ヶ月後)から5年間と定められているため、被相続人が亡くなってから5年と10ヶ月が経過すると、相続税の時効が成立します。

ただし、相続税の申告・納税義務があることを知っていながら故意に無申告だった場合は、除斥期間が5年でなく7年に延長されます。

また、除斥期間が認められるためには単に5年(もしくは7年)が経過しただけではダメで、その期間内に税務署から通知などが届いていないという事実がなければなりません。万が一除斥期間中に通知が届いている場合は、除斥期間としてカウントされないため時効が成立することはありません。

いずれにしても、税務署は被相続人の預貯金の動き不動産の有無などをさまざまな方法でチェックしています。相続税の申告・納税義務があるにも関わらず無申告で除斥期間の7年を逃げ切ることはまず不可能ですから、期限内に済ませるように心がけておきましょう。

ちなみに、相続税にはさまざまな控除や特例制度があります。これらは非常に複雑ですが、適切に組み合わせると、じつは大幅な節税も十分に可能になります。こういった特殊業務は相続専門の税理士でなければ難しいですが、マルイシ税理士法人は不動産と相続に特化した専門家集団のため、相続税の節税プランニングはもちろん、相続後の不動産のコンサルティング業務などにも十分に対応することができます。万が一のリスクを避けるために、ご心配な方はぜひ一度マルイシ税理士法人へご相談ください。

不動産の名義変更の時効

最後に不動産の名義変更の時効についてです。相続した不動産の名義変更(これを「相続登記」といいます)には期限や罰則などはありません。
(注)2024年までに相続登記の期限や罰則が法制化される予定です。

しかし、いつまでも相続登記をしないで放置しておくと以下のような不都合が起こる場合があります。

  • 不動産の権利を失ってしまう
  • 売却や担保に入れることができなくなる
  • 相続人が下の世代になり話がまとまりにくくなる

不動産の権利を失ってしまう

遺産分割協議で相続することが決まったにもかかわらず、相続登記をせずに放置しておくと、他人に対してこの土地が自分のものであると主張することができません。仮に他の相続人が第三者にこの土地を売却し、第三者が先に登記してしまうと、第三者に権利が移ってしまい、変更はできなくなります。

売却や担保に入れることができなくなる

相続登記が済んでいなければ、不動産は被相続人名義のままですから、当然売却することや担保に入れることはできません。これでは、急に資金が必要になった時などに対応できません。

相続人が下の世代になり話がまとまりにくくなる

遺産分割協議書を作成せず、口約束で不動産の相続を決めたまま放置してしまうと、いざ遺産分割協議書を作成しようとした時には相続人が既に亡くなってしまっていることがあります。このような場合は相続人の相続人と話し合わなければなりませんが、遠方に住んでいたり連絡が取れないと話すこと自体が難しかったり、話し合いに応じてくれず話がまとまりにくくなることがあります。

このように、相続登記を済ませずに放置しておくとさまざまな不都合が将来的に起こる可能性があるため、手続きに時効はありませんが、出来るだけ早く登記を済ませておくべきでしょう。

まとめ

遺産を相続する場合、相続人にはさまざまな権利が与えられています。しかしその権利の多くには時効が設けられており、定められた期間を過ぎると権利を失ってしまいます。また、時効がないものであっても、早く行わなければ不利益を被る可能性が高くなります。

このようなことが起こらないように、時効の期限をしっかりと理解し、相続の手続きを期限内に済ませるようにしなければなりません。手続きができるかどうか不安な方や、何か相続についてご心配がある方は、先ずは不動産と相続を専門に行っているマルイシ税理士法人へご相談ください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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