【改正民法対応】相続における寄与分とは?計算方法や主張について
目次
相続人の相続割合は、民法によって定められています。たとえば相続人が長男と長女の2人であれば、基本的には財産を1/2ずつに分けて相続します。 しかし、長男は被相続人の事業や介護などを献身的に行っていたのに対し、長女は何もしていなかったとしたらどうでしょうか?生前の貢献とは一切関係なく、相続財産を同じ割合で分けるのが果たして本当に公平なことなのでしょうか?
実は、生前において被相続人に対して特別な貢献を行った相続人に対しては、民法上特別な権利が認められています。
本日は、この特別な権利である「寄与分」について解説していきます。
寄与分とは
冒頭でお話ししたように、基本的に相続人の相続割合は相続順位によって定められており、同じ相続順位の相続人同士であれば相続割合も同じになります。
しかし、生前に被相続人に対して特別な貢献を行った相続人がいた場合、相続財産を他の相続人と同じように分けてしまうとあまりにも不公平が生じてしまいます。
そこで民法では、相続人による被相続人に対する特別な貢献を遺産の分割に反映させる制度が設けられています。これを「寄与分」といいます。
相続人の中に特別な寄与をした者がいる場合には、その寄与分が認められると、その相続人は、寄与分だけ他の相続人よりも多くの財産を相続することが認められています。
また寄与分には時効がないため、相続の開始日よりもかなり前の寄与であったとしても、寄与したことが明らかであれば、寄与分として認められます。
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寄与分はどのようなケースで認められる?
どの相続人も、大なり小なり被相続人に対して何らかの寄与は生前に行っているものです。「病院へ連れて行った」「食事を作った」「お使いに行った」など、言い始めればきりがありません。
しかし、これらのすべてが民法で寄与分として認められるわけではありません。民法の第904条2項において、実際に寄与分として認められているのは、以下のものになります。
- 家事従事
- 金銭等出資
- 療養看護
- 扶養
- 財産管理
寄与分として認められる家事従事とは
生前に被相続人の事業をほぼ無償(あるいは一般的な対価と比べて著しく低い対価)で役務を提供した場合、これらの家事従事は寄与分として認められます。
具体的には、病床に伏していた被相続人に代わって無償で事業を行った場合や、長い間農作業を被相続人に代わってやってあげていた場合などがこの家事従事に該当します。
寄与分として認められる金銭等出資とは
被相続人の相続財産の維持や形成において、相続人から生前特別な金銭などの出資があった場合、これらの金銭等出資は寄与分として認められます。
具体的には、事業への資金援助や事業用資産の提供などがこれに該当します。ただし、毎月の生活費の援助程度では寄与分として認められることありません。
寄与分として認められる療養看護とは
生前に被相続人を看護したことにより、本来ならば外部へ支払わなければならなかった看護費用などの支出が抑えられ、結果としてその分だけ相続財産の維持や形成に貢献した場合、これらの療養看護は寄与分として認められます。
ただし、病院への送り迎え程度の一般的な療養看護では、寄与分としては認められません。
寄与分として認められる扶養とは
被相続人を扶養したことにより被相続人の生活費が安くなり、結果としてその分だけ相続財産の維持や形成に貢献した場合には、これらの扶養は寄与分として認められることになります。
ただし、一般的な扶養義務の範囲程度ではなく、扶養義務の範囲を超えた程度でなければ寄与分としては認められません。
寄与分として認められる財産管理とは
生前に被相続人の財産の管理や維持をすることにより被相続人が維持費などを支払う必要がなくなり、結果としてその分だけ相続財産の維持や形成に貢献した場合には、これらの財産管理が寄与分として認められることになります。
具体的には、被相続人に代わって不動産の管理業務などを行っていた場合や、税金や修繕費などを被相続人に代わって負担していた場合などに、財産管理の寄与分が認められます。
寄与分が認められることは多くはない
このように、特別な寄与があった場合には寄与分を主張できることが制度としては認められていますが、実際の相続では寄与分が認められる(もしくは主張される)ことはあまりありません。
それはなぜでしょうか?
寄与分が認められにくい・主張されにくい理由
寄与分が認められにくい理由は、「特別な寄与」に対するハードルが高すぎるせいです。
被相続人の親族であれば、そもそも民法上の扶養義務があるため、多少の貢献では「特別な寄与」には該当しません。対価を受け取らず通常期待される程度をはるかに超えた明らかな貢献でなければ「特別な寄与」に該当しないため、実際に寄与分を主張する相続人はあまり多くありません。
次に、寄与分が主張されにくい理由は、相続争いを避けるためです。
たいていの場合、相続人は誰でも程度の差こそあれ、生前に被相続人の介護や事業の手伝いや資産管理などを行っています。このような状況で相続人の誰か一人が寄与分を主張してしまうと、次々に他の相続人も同様の主張を行うようになり、争いとなってしまう恐れがあります。このような事態を避けるために、あえて寄与分を主張しない場合が多いのです。
寄与分の計算方法
寄与分の主張が認められた場合、寄与分をまず相続財産から控除し、控除後の財産を法定相続分に応じて相続人同士で分割します。そして最後に寄与分が認められた相続人に、寄与分を加算します。
たとえば、相続財産が5,000万円、相続人が3人の子供(A、B、C)である場合で、Aに寄与分が500万円あった場合の各々の相続分を計算してみます。
Aの相続財産:{(相続財産5,000万円-寄与分500万円)÷相続人数3人}+寄与分500万円=2,000万円
Bの相続財産:相続財産5,000万円-寄与分500万円)÷相続人数3人=1,500万円
Cの相続財産:相続財産5,000万円-寄与分500万円)÷相続人数3人=1,500万円
このように、寄与分の主張が認められたAは、寄与分の500万円分だけ他の相続人よりも財産を多く相続することになります。
遺贈・遺言と寄与分の関係について
遺言によって相続人以外に財産を相続させることを「遺贈(いぞう)」といいます。遺贈があった場合、寄与分よりも遺贈が優先されるため、まず相続財産から遺贈分を除き、残りの相続財産から寄与分を計算していきます。
また、遺言で寄与分を定めることはできません。なぜなら寄与分は、相続人同士の協議、もしくは家庭裁判所の調停または審判で定めるものであると民法で定められているためです。
寄与分を主張するための方法
では最後に、寄与分を主張したい場合どのような方法で主張するのかについて解説していきます。
寄与分を主張する場合、以下の3つの順番で行います。
- 遺産分割協議で主張する
- 遺産分割調停で主張する
- 遺産分割審判で主張する
1. 遺産分割協議で主張する
寄与分を主張する場合、まず相続人同士で遺産の分割方法を話し合う遺産分割協議において寄与分を主張し、他の相続人の理解と合意を得るようにします。理解と合意が得られれば、寄与分を含めた相続財産を相続することができます。
なお、民法第904条2の第1項には、
「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし」
と記されています。
このように、寄与分を主張する場合、まずは相続人同士の話し合いの場で行います。
2. 遺産分割調停で主張する
相続人同士の話し合いでは決着がつかない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、寄与分の主張を行います。
民法第904条2の第2項には、
「前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。」
と記されています。
3. 遺産分割審判で主張する
最後に、遺産分割調停でも決着がつかない場合は、寄与分を定める審判の申し立てを行います。遺産分割調停が不成立の場合は自動的に審判に移行するため、遺産分割調停の申し立てと同様の手順で審判を行います。
相続人以外が寄与分を主張する方法について
これまで寄与分は、相続人以外には認められていませんでした。しかし、2019年7月1日に施行された改正民法により、6親等内の血族または3親等内の姻族は特別な寄与分(これを「特別寄与料」といいます)を主張することができるようになりました。
従来であれば、たとえば相続人の妻が被相続人に対して特別な寄与を行っていたとしても、相続人ではないため寄与分の主張をすることはできませんでした。しかし今回の改正により、6親等内の血族または3親等内の姻族であれば特別寄与料を主張することができるようになりました。
ただし、特別寄与料は通常の寄与分とはことなり、財産上の給付は認められず「労務の提供」のみに限られています。また特別寄与料を主張する場合は、相続の開始及び相続人を知った時から6か月、または相続の開始の時から1年を経過するまでと期限が定められています。
まとめ
民法では、相続人が被相続人に対して生前特別な寄与を行った場合、その分だけ多めに財産を相続することができるように寄与分が認められています。この寄与分は、これまでは相続人しか主張することができませんでしたが、民法の改正により6親等内の血族または3親等内の姻族も特別寄与料を主張することができることになりました。
しかし寄与分を主張する権利は認められていても、客観的な事実を積み上げてそれを主張するのは実際にはかなりハードルが高く、まだまだ積極的に活用されているとは言えません。
そのため、「寄与分について考えてみたい」と思われる方は、相続に強い弁護士などの専門家に相談し、アドバイスを求めるのが良いでしょう。