相続財産に借金がある場合の選択肢と注意すべき点について
目次
企業の決算書に資産や負債があるように、個人の財産にも現金や自宅などの資産とともに、住宅ローンなどの借金があることがあります。
ではこの人が亡くなった場合、これらの財産はどのように相続されるのでしょうか? 現金や自宅だけを相続することはできるのでしょうか?
それとも住宅ローンなどの借金も相続しなければならないのでしょうか?
相続財産に借金などの負債が含まれている場合どのような選択肢があるのかをご紹介し、同時にそれらの注意すべき点について解説していきたいと思います。
借金の相続とは
冒頭でお話ししたように、亡くなった方の財産には、現金や自宅などのプラスの財産とともに、住宅ローンなどのマイナスの財産も残されている場合があります(団体信用生命保険などに加入していない場合)。ではそのような場合、相続財産はどのように相続されるのでしょうか?
民法896条には、相続人が相続する場合について以下のように述べられています。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
つまり、被相続人(=亡くなった方)の財産を相続する場合、「プラスだけ」あるいは「マイナスだけ」と一部分を切り取って相続するのではなく、何もかもすべてをまとめて相続しなければならないと書かれています。
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相続財産に借金がある場合の3つの選択肢
上述のように、相続財産にはプラスばかりでなくマイナスの財産が含まれる場合もあります。その場合にとるべき選択肢は、以下の3つのうちのどれかになります。
- 相続放棄
- 限定承認
- 単純承認
選択肢① 相続放棄
相続放棄とは、亡くなった方の財産を相続する権利の一切を放棄することをいいます。
プラスの相続財産よりもマイナスの相続財産の方が多い場合、これをそのまま相続してしまうと借金などの債務を背負うことになってしまいます。そのため、プラスの財産もマイナスの財産もすべて放棄することにより、相続後に債務超過の状態に陥ってしまう危険を回避するわけです。
ただし、相続放棄を選択する場合には、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄の申述をしなければなりません。
また、相続放棄の手続き前に遺産の一部を処分した場合には、相続放棄が認められない場合があるため注意しなければなりません。
なお、相続放棄した場合は、はじめから相続人でなかったものとみなされます。そのため、相続放棄により相続順位が同じ相続人が誰もいなくなってしまった場合には、相続順位が下位の人物が相続人に繰り上がることになります。
たとえば、配偶者や子供が相続放棄した場合であれば、第2順位の父母などが新たに相続人となり、父母なども相続放棄をすると、次は第3順位の兄弟などが相続人となるわけです。
選択枝② 限定承認
限定承認とは、相続によって得たプラスの相続財産の範囲内で、亡くなった方人のマイナスの相続財産も相続することをいいます。
たとえば、プラスの相続財産よりもマイナスの相続財産の方が多い場合であっても、プラスの相続財産の中に自宅や事業で利用している土地のように、出来れば手放したくないものが含まれていることがあります。
このような場合に限定承認を選択すると、相続する自宅や事業用の土地などの財産の範囲内でマイナスの相続財産を負担すればよいため、最悪の場合でもプラスマイナスゼロで相続を終えることができます。
それ以外には、将来的にマイナスの相続財産が出てくるリスクがある場合などにも限定承認が選択されることがあります。
選択枝③ 単純承認
単純承認とは、プラスの相続財産もマイナスの相続財産も含むすべての財産を包括的に相続することをいいます。
単純承認を選択するのは、相続財産にマイナスの相続財産が含まれていない場合、もしくはプラスの相続財産の方がマイナスの相続財産よりも多い場合に限られます。
ちなみに、相続放棄や限定承認とは違い、単純承認を選択する場合は特別な手続きをする必要がありません。相続を知った日から3ヶ月の間に相続放棄や限定承認を行わなければ、自動的に単純承認をしたものとみなされます。
このように、相続財産に借金が含まれている場合は、プラスの相続財産とマイナスの相続財産のバランスに応じて、最適な相続方法を選択していきます。
相続放棄する場合の注意点
ご紹介した3つの相続方法の中から相続放棄を選択する場合、注意しなければならない点がいくつかあります。その中でも特に注意すべき点が以下の4点です。
- 相続放棄の期限は3ヶ月
- 相続放棄は撤回できない
- 相続人が被相続人の保証人だった場合は借金を放棄できない
- 被相続人の借金を請求されたときの対処法
相続放棄の注意点① 相続放棄の期限は3ヶ月
相続放棄をするためには、家庭裁判所で相続放棄の申述を行わなければなりません。その期限は相続を知った日から3ヶ月以内と定められています。この期限を過ぎてしまうと、特段の事情がない限り相続放棄が出来なくなってしまうため、注意しておかなければなりません。
なお、3ヶ月の期限とは、被相続人が亡くなってから3ヶ月ではなく、相続を知った日から3ヶ月です。
海外などの遠方に住んでいる場合、また被相続人と疎遠である場合は、亡くなって随分経ってから相続が発生したことを知ることがあります。このようなケースの相続放棄の期限は、それを知った日から3ヶ月となります。
また、相続順位が同じ相続人が全員相続放棄を行うと、次は相続順位が下位の人物が相続人となります。この場合も同様で、上位の相続人が相続放棄したことにより、自分が相続人になったことを知った日から3ヶ月以内が相続放棄の期限となります。
注意点② 相続放棄は撤回できない
家庭裁判所に相続放棄の申述を行い、一度それが認められると、相続放棄の撤回をすることはできません。
相続放棄後に莫大な遺産を発見したとしても、残念ながらそれらを相続することはできません。
ですから、相続放棄をする前に相続財産の調査を十分に行い、本当に相続放棄を選択するのがベストな状況なのかを判断できるようにしておかなければなりません。
注意点③ 相続人が被相続人の保証人だった場合は借金を放棄できない
相続人が被相続人の債務の保証人であった場合、相続とは関係なく被相続人が亡くなった時点でその債務の保証をしなければなりません。
たとえば、父の借金の保証人に子供がなっていた場合、相続放棄することで父の債務の返済義務からは逃れることができます。しかし、子供の保証人としての義務は継続しているため、相続放棄に関係なく保証人としての義務を果たさなければなりません。
注意点④ 被相続人の借金を請求されたときの対処法
被相続人が生前借金をしていた場合、単純承認してしまうと借金の返済義務を負うことになりますが、相続放棄が認められれば借金の返済義務を負う必要はありません。
ただし、相続放棄の手続きがまだ完了していない段階で借金の返済を要求されることがあります。このような場合に1円でも支払ってしまうと、単純承認したとみなされ、将来的に相続放棄が出来なくなってしまう恐れがあるため注意しなければなりません。
被相続人に借金があるか知る方法
最後に、被相続人に借金があるかどうかを知る方法について解説していきます。借金の有無を確認するための方法には、おもに以下の2つがあります。
- 信用情報機関に情報開示を求める
- 郵便物等による借金調査
借金があるか知る方法① 信用情報機関に情報開示を求める
銀行やクレジットカード会社など、貸金業務を行っている事業者が中心となり、いくつかの信用情報機関が設立されています。
その中でも特に有名なものが以下の3社です。
- 全国銀行個人信用情報センター(KSC)・・・おもに銀行で登録された信用情報を取り扱っています。
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC)・・・おもに消費者金融や信販会社(クレジットカード会社)で登録された信用情報を取り扱っています。
- 株式会社日本信用情報機構(JICC)・・・消費者金融から銀行まで数多くの金融機関が加盟しており、信用情報機関の中では最も加盟数が多く、最も多くの信用情報を取り扱っています。
銀行や消費者金融などからの借入がある場合、恐らくこれら3社のどれかには信用情報が登録されています。この情報は開示請求ができるため、情報開示を求め、被相続人の借金の有無を確認します。
借金があるか知る方法② 郵便物等による借金調査
金融機関等からの借金であれば上記の方法で確認できますが、個人間での借り入れや、第三者の債務保証をしている場合は、上記の方法で確認することができません。
そこで、被相続人の郵便物などを確認し、金銭消費貸借契約書や催告状、督促状などの有無を確認します。
それ以外にも、被相続人名義の自宅等の不動産の登記事項証明書を確認し、抵当権などが設定されていれば借金があることがあります。
また、自動車の車検証で所有者の欄を見れば、自動車ローンが残っているかどうかを確認することもできます。
これらの方法でたいていの借金は確認することができますが、それでもすべての借金が確認出来るわけではありません。
そのため、少しでもご心配な方や心当たりがある方は、弁護士などの専門家に出来るだけ早い段階で相談することをおすすめします。
まとめ
相続財産の中には借金が含まれている場合があります。その場合、プラスの財産と比較し、十分に検討をしたうえで、相続放棄か限定承認か単純承認のどの方法を選択するのかを考えた方が良いでしょう。
ただし、相続放棄や限定承認を選択する場合には注意すべき点がいくつかあり、やり方を間違えてしまうと、最悪の場合相続放棄や単純承認ができなくなってしまう恐れがあります。
また、被相続人の準確定申告を行わなければならない場合などもあるため、ご心配な方は税理士や弁護士などの専門家にご相談することをおすすめします。