養子縁組で相続はどうなる?メリット・デメリットや否認されない方法
目次
養子制度を上手に活用すると、相続税の節税対策を行うことができます。
ただし、養子の扱いについては、同じ法律でも民法と相続税法ではことなるため、正しい知識に基づいた対策を行わなければ思い描いた通りの節税効果を発揮できない場合があります。
養子縁組とは?
はじめにまず、「そもそも養子縁組とは何なのか?」という辺りからお話ししたいと思います。
養子縁組とは
養子縁組とは、血縁関係とは関係なく人為的に法律上の親子関係を発生させることをいいます。養子関係によって設定された親を「養親(ようしん)」といい、子を「養子(ようし)」といいます。
ちなみに、養子制度はもともと家父長制度を基本とする家族制度を採用している社会において後継者や財産の相続をさせるために作られた制度であり、海外では古代ローマ時代から、日本では天武天皇の大宝律令が制定された時代から存在していたそうです。
現代の日本の養子制度は、多くの場合「養子縁組」と一括りにされていますが、実は養子縁組には以下の2つの種類があります。
- 普通養子縁組
- 特別養子縁組
普通養子縁組とは
普通養子縁組とは、養親・養子の双方が自らの意思で養子縁組によって親子になることを決めた養子縁組のことをいいます。したがって、一般的に多くの方がイメージされる養子縁組とは、この普通養子縁組のことをいいます。
普通養子縁組とは、具体的には、以下のような養子縁組を指します。
- 娘婿を養子とした養子縁組
- 再婚相手の連れ子を養子にした養子縁組
- 相続税対策のために孫を養子にした養子縁組
なお、普通養子縁組によって法律上の親子関係を結ぶ場合は、以下の3つの条件を満たすことが必要となります。
- 養親・養子の双方に養子縁組の意思があり、それが合致していること
- 養子縁組ができない場合に該当しないこと
- 養子縁組の届け出がなされていること
ちなみに「養子縁組ができない場合」とは、たとえば養親が未成年である場合や、養子の方が養親よりも年長者である場合などのことを指します。
特別養子縁組とは
特別養子縁組とは、児童福祉のための養子縁組のことをいいます。さまざまな事情により家庭で養育を受けられない子供が、家庭で養育を受けられるようにするための縁組制度のことを特別養子縁組といいます。
具体的には、以下のような養子縁組を特別養子縁組といいます。
- 保護者のいない子供を施設から引き取り養子にする養子縁組
- 経済的に困窮している子供を引き取って養子にする養子縁組
- 実の親から虐待を受けている子供を引き取って養子にする養子縁組
なお、特別養子縁組によって法律上の親子関係を結ぶ場合には、以下の3つの条件を満たすことが必要になります。
- 家庭裁判所の審判により許可を得ていること
- 特別養子縁組を規定している民法の要件を満たしていること
- 特別養子縁組の届け出がなされていること
ちなみに「特別養子縁組を規定している民法の要件を満たしていること」とは、夫婦で養親となることや、養子が15歳未満であること、実親が特別養子縁組について同意していることなどが挙げられます。
養子縁組を行うメリット
それでは次に、養子縁組によってどのようなメリットが生じるのかについて確認してみましょう。
相続税の基礎控除額が増える
相続税には、「基礎控除」と呼ばれる相続財産の総額から一定金額を無条件に控除(=引くこと)することができる制度があります。ですから相続財産の合計額が基礎控除の額よりも少ない場合は、相続税の申告や納税をしなくても良いわけです。
この相続税の基礎控除の金額は、以下の式によって算出します。
養子縁組によって養子となった子供は実子と同じ扱いとなるため、養子が1人増えると法定相続人の数が1人増えることになります。その結果、相続税の基礎控除が600万円増えるわけです。
生命保険の非課税枠が増える
被相続人が生前に加入していた生命保険を法定相続人が受け取る場合、一定の金額の範囲内であれば非課税となる非課税枠があります。
この生命保険の非課税枠は、以下の式によって算出します。
上述のように養子縁組によって養子となった子供は実子と同じ扱いとなるため、養子縁組を行うことにより1人あたり500万円ほど生命保険の非課税枠を増やすことができます。
死亡退職金の非課税枠が増える
被相続人の死亡退職金を法定相続人が受け取る場合、一定の金額の範囲内であれば非課税となる非課税枠が設けられています。この非課税枠の計算は以下の式により算出します。
したがって、養子縁組によって法定相続人が1人増えるごとに500万円ほど死亡退職金の非課税枠が増えることになります。
養子縁組を行うデメリット
それでは逆に、養子縁組にはどのようなデメリットがあるのかを確認しておきましょう。
孫を養子にした場合相続税が20%増える
相続税では、相続人が被相続人の配偶者や1親等の血族(=親や子供)でない場合は、相続税の税率が20%加算されると定められています(相続税法第18条1項)。
この1親等の血族に養子は含まれないため、孫を養子にして財産を継がせた場合、配偶者や実子よりも2割ほど高い税率で相続税が課税されることになります。
ちなみに、相続時に実子がすでに亡くなっており、孫が代襲相続人となる場合は2割加算の対象とはなりませんからご安心ください。
法定相続人に含められる人数に制限がある
民法では、養子縁組は何人でも認められています。そうであれば、法定相続人さえ増やせば基礎控除額が増えるのですから、たとえば100人を養子にすれば基礎控除も6億円ほど増えるため、相続税の節税が簡単にできます・・・というわけには残念ながらいきません。
相続税の基礎控除や生命保険などの非課税枠で認められている養子縁組の数は、以下のように定められています。
- 実子がいない場合・・・2人まで
- 実子がいる場合・・・1人まで
したがって、養子縁組によって無制限に基礎控除額等を増やすことはできません。
養子縁組を利用した相続で気をつけるべき注意点
最後に、養子縁組を利用した相続で気を付けるべき点を3点ほどご説明したいと思います。
節税が必ず認められるとは限らない
養子縁組を行うと法定相続人が増えるため、養子縁組によって相続税の節税効果があらわれるのはすでにご紹介した通りです。しかし、残念ながら、養子縁組を行えば必ず節税効果が生じるというわけには参りません。
相続税法63条によると、本来の養子縁組の趣旨を逸脱し、相続税の金額を減らすためだけに不当に養子縁組が行なわれたと判断された場合には、税務署長は養子を法定相続人の数に含めずに相続税を計算することができると記されています。
したがって、あまりにも不自然であると思われるような養子縁組を行った場合には、残念ながら相続税法上法定相続人の数に加えることは認められなくなってしまいます。
養子縁組の解消は難しい
養子縁組を行うと、相続税の節税効果を生じさせることは可能になりますが、同時に養子には実子と同等のさまざまな権利が生じることになります。
そのため、いったん養子縁組を行うと、それを解消するのは極めて難しくなります。仮に養子が養子縁組の解消に同意しなければ、家庭裁判所で離縁の調停や訴訟を行わなければなりません。それでも、必ずしも離縁が認められるわけではありませんから、養子縁組を行う際には後々のことまでよく考えた上で行わなければなりません。
子がいる場合トラブルになることも
養子縁組を行うと、実子と同じ権利を持つ法定相続人が増えることになります。その結果、実子の相続割合は低くなるため、養子との間でトラブルが生じる場合があります。
特に、養子縁組の事実を実子が知らないままで相続が発生してしまった場合にはトラブルに発展する可能性が高くなるため、事前に実子とよく話し合い、トラブルを解消するための話し合いをしておかなければなりません。
相続税対策の相談はマルイシ税理士法人
養子縁組を行うと、相続税の基礎控除が増えるだけでなく、生命保険の非課税枠なども増えるため、上手に活用するとかなりの節税効果を期待することができます。
ただし、相続税対策のためだけの不自然な養子縁組を行うと、最悪の場合養子が法定相続人として認められないため、安易に行ってしまうのは危険です。
また、二次相続まで考えた場合、必ずしも一次相続での節税が良いとは限りません。場合によってはある程度納税しておいた方が今後の二次相続のためになることもあります。
このように、状況に合わせて最適な判断を行うためには、税務をはじめとするさまざまな専門知識が必要となります。そのため、こういった高度な判断やアドバイスは、税理士の中でも特に相続税を専門に行っている税理士でなければ難しいと言えます。
マルイシメディアは不動産相続を専門に行っている税理士が多数在籍しており、このような相続に対する知識はもちろんのこと実績も豊富で、かつ、さまざまなパターンのプランをご提案することができます。
マルイシメディアでは相続に関する無料相談を受け付けておりますので、養子縁組を利用した相続についてもう少し詳しく知りたい方や、相続全般について何かご心配がある方は、どうぞ遠慮なくお問い合わせください。経験豊富なスタッフが、どんなご相談にも丁寧にお応え致します。
まとめ
養子縁組を行うと、養子として迎えた人物に財産を引き継いでもらうことが可能になるだけでなく、基礎控除をはじめさまざまな非課税枠を増額させることができるため、相続税の節税対策にもつなげることができます。
しかし、養子縁組による節税対策は場合によっては否認される可能性もあり、また一定の節税効果と引き換えに、実子とのトラブルを生じさせてしまう場合もあります。
こういったリスクを避け、節税のメリットを最大限発揮させるためには、事前のシミュレーションは必ず行わなければなりません。そのためには、相続を専門で行っている税理士にできるだけ早い段階で相談しておくことが望ましいでしょう。