親子間で贈与税はかかる?〜計算方法と贈与税を抑える方法〜

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

親から子に財産を渡す際、贈与税が課税される可能性があります。

親子間でも贈与は成立しますし、贈与している認識はなくても贈与税が課されてしまうケースはあるのでご注意ください。

本記事では、贈与税がかかるケースと非課税になるケース、そして親子間贈与で利用できる特例制度について解説します。

生前贈与の基本についておさらいしたい方は、「生前贈与とは?贈与税の計算方法や相続税対策について」を先に御覧ください。

親子間の贈与が贈与税の課税対象となる4つのケース

贈与税は、財産をもらった人に対して課される税金です。
親子間贈与の場合、子が贈与税を支払うことになりますので、次の4つのいずれかに該当する際は注意してください。

親から無償で財産をもらった場合

贈与は財産を渡す「贈与者」から、財産を受け取る「受贈者」に対し、無償で財産が移る行為をいいます。
たとえばお年玉は、親が子へお金をあげる行為ですので贈与税の対象となりますし、不動産や株式など、お金以外の財産も贈与税の対象です。

親から借りたお金の返済を免除してもらった場合

贈与税は財産だけでなく、経済的利益も課税対象です。
子が親からお金を借り、親が返済の免除した場合、子は借金返済をしなくなったことによる経済的利益を受けたとして、借金の免除金額が贈与税の対象になります。
親子間でよくあるケースとしては、子が自宅を購入した際に親がお金を貸している場合です。
子が借りたお金を返済すれば贈与税はかかりませんが、お金を返済しなければ親から贈与を受けたとみなされます。
また最初から返済予定がなかったり、返済が著しく遅延した際も贈与税の対象となりますのでご注意ください。

親が負担した保険の満期金を受け取った場合

生命保険金は契約者が保険料を負担し、満期になった際は保険料を支払った人が受け取るのが一般的です。
満期保険金の受取人が保険料負担者ではなく、子など保険料負担者以外の場合、満期保険金は贈与により取得したことになります。
なお被保険者の死亡により子が保険金を受け取った場合は、死亡生命保険金は贈与税ではなく相続税の課税対象です。

相場よりも低い金額で親から不動産を購入した場合

不動産の名義を無償で親から子へ変更した場合は贈与税の対象になりますが、時価相場よりも低い金額で不動産売買した場合も贈与税がかかる可能性があります。
第三者間の取引であれば、時価相場よりも安い金額で売却してもあまり問題にはなりません。
しかし親子間売買の場合、時価と売買代金の差額が経済的利益とみなされ、贈与税が課される可能性があります。
たとえば親が子へ1,000万円の不動産を400万円で売った場合、子は時価相場よりも600万円分安く購入できた(経済的利益を受けた)ことになり、差額600万円は贈与税の対象になります。

親子間贈与でも贈与税がかからない3つのケース

贈与によって財産をもらった場合でも、贈与税を支払わずに済むケースがあります。

年間の贈与金額が110万円以内の場合

贈与税には110万円の基礎控除額があり、贈与金額が110万円以内であれば贈与税はかかりません。
対象期間は1月1日から12月31日までの1年でもらった金額の合計であり、複数人から贈与を受けた場合は、年間の贈与金額を合計して計算することになります。
たとえば親が3人の子に100万円を贈与した場合、子がもらった贈与金額は各100万円ですので、110万円の基礎控除額以内に収まります。
一方で、子が両親から60万円ずつ贈与を受けた場合、合計120万円の贈与を受けたことになり、基礎控除額を超えることになるので、複数人から贈与を受ける際は気を付けてください。

扶養家族の生活費や教育費として支出の場合

贈与税には非課税規定が存在し、扶養家族への生活費や教育費に贈与税は課されません。
一緒に生活しているお子さんの食費や学費、塾などの月謝については贈与税の非課税対象となっていますのでご安心ください。
なお生活費や教育費目的であっても、親子が別世帯として生活している場合は贈与税の課税対象になる可能性があります。

贈与税の特例制度を活用した場合

贈与税には非課税特例がいくつも存在し、特例制度を活用すれば非課税で贈与を受けることも可能です。
非課税控除額が1,000万円以上の特例制度もありますし、ほとんどの特例は110万円の基礎控除額も併用して適用できます。
特例制度を適用するためには、贈与者・受贈者の年齢や贈与財産の種類、贈与財産の使い道などの要件をすべて満たし、特例を適用する手続きが必要です。
また特例制度には適用期間が存在し、タイミングを逃すと利用できない制度もありますので、特例を利用して贈与する際は財産を渡す時期も重要です。

親子間でかかる贈与税の計算方法

贈与税は、課税価格が高くなるほど税率が上がる仕組みなので、一度に多額の贈与を行ってしまうと贈与税の納税額が高くなるので要注意です。

贈与税は年分ごとに税金計算を行う

贈与税の基礎控除(110万円)は毎年利用できるため、仮に2年に分けて贈与した場合、2年間の合計で220万円分の控除を適用できます。

【1回で贈与した場合と2年に分けて贈与した場合】
♦500万円を1回で贈与した場合の贈与税額
500万円-110万円(基礎控除額)=390万円(課税価格)
390万円×20%-25万円=53万円(贈与税額)
※一般税率により計算

♦500万円を2年に分けて贈与した場合の贈与税額
250万円-110万円(基礎控除額)=140万円(課税価格)
140万円×10%=14万円(1年分の贈与税額)
14万円×2年=28万円(合計の贈与税額)
※一般税率により計算

親子間で適用する贈与税の税率は2種類存在する

贈与税の税率は、「一般税率」と「特例税率」の2種類あります。
特例税率は、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上(※)の人が両親や祖父母など直系尊属からもらった財産(特例贈与財産)に対して適用し、それ以外の贈与(一般贈与財産)については一般税率を適用します。
※ 18歳とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。

特例税率は一般税率よりも税率は低く設定されており、年齢以外に適用要件はありません。
そのため1度にまとまった財産を渡す際は、子の年齢が20歳を超えてから贈与した方が節税になります。

【一般税率の速算表】

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

【特例税率の速算表】

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

【一般税率と特例税率の違い】
♦500万円が一般贈与財産に該当する場合(一般税率を適用)
500万円-110万円(基礎控除額)=390万円(課税価格)
390万円×20%-25万円=53万円(贈与税額)

♦500万円が特例贈与財産に該当する場合(特例税率を適用)
500万円-110万円(基礎控除額)=390万円(課税価格)
390万円×15%-10万円=48.5万円(贈与税額)

親子間で適用できる贈与税の非課税特例制度の種類

親子間で適用できる贈与税の非課税特例制度の種類は、4つあります。
特例制度には適用要件がありますので、利用する際は特例の適否判定が必要です。

〘贈与税の非課税特例の種類〙

  • 住宅取得等資金の贈与の非課税特例
  • 教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税制度
  • 結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度
  • 相続時精算課税制度

住宅取得等資金の贈与の非課税特例

住宅取資金の非課税特例は、子が親から住宅購入の資金援助をしてもらった際に適用できる制度です。
受贈者が贈与を受けた年の1月1日時点で20歳を超える場合に適用でき、住宅を購入する時期や取得する物件の種類によって非課税控除額が異なるのが特徴です。
購入する物件は新築または、建築年数が20年以内(耐火建築物の場合は25年以内)のものが対象で、耐震基準等を満たしたことが証明されている物件であれば、建築年数が20年を超えていても特例は適用できます。
住宅取資金の非課税特例を適用する場合、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に税務署へ贈与税の申告書を提出しなければいけません。
申告期限を過ぎてから特例申請することはできないため、申告期限内に手続きすることが必須条件です。

教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税制度

教育資金の非課税制度は、30歳未満の受贈者が教育資金として親や祖父母など直系尊属から金銭等の贈与を受けた際に非課税となる制度です。
最大1,500万円の非課税控除額を適用することが可能であり、金融機関を通じて申請手続きを行います。
贈与財産は、受贈者の学費や塾の月謝など教育目的で使用する必要があり、目的以外で贈与財産を使用した場合、課税対象となりますのでご注意ください。

結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度

結婚子育て資金の非課税制度は、18歳以上50歳未満の受贈者が親や祖父母などの直系尊属から、結婚または子育て資金として金銭等の贈与を受けた際に適用できる非課税制度です。
最大1,000万円の非課税控除額が適用可能であり、教育資金の非課税制度と同様、税務署の窓口ではなく金融機関を通じて申請手続きを行います。
結婚の挙式費用や新居費用、妊娠出産、子の保育費などへの費用としての使用が非課税要件となっており、目的以外の用途に使用した金額は課税対象となります。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、60歳以上の父母(祖父母)から、18歳以上の子(孫)に対しての贈与において利用できる特例制度です。
特別控除額は2,500万円で設けられており、贈与財産の種類や使用用途を問わないのが特徴です。
他の非課税制度とは異なり、贈与者単位で制度を利用するかの判定を行うため、両親から贈与を受ける場合、最大5,000万円の特別控除額を利用することもできます。
特例を適用する際は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に贈与税の申告書を提出する必要があり、申告期限を過ぎてから申請することはできません。
なお、注意点として、相続時精算課税制度を選択すると、その特定贈与者からの贈与に対しては暦年課税贈与に戻れなくなります。
また、令和5年度の税制改正により、令和6年以降の相続時精算課税贈与については、上記の2,500万円の枠とは別に、110万円までの基礎控除が設けられています。
この110万円の基礎控除には、当然に贈与税がかからず、また、相続財産として精算されることもないため相続税もかかりません。贈与税が係らない場合には贈与税の申告も必要ありません。

まとめ

税務署は不動産の名義変更や、住宅購入するタイミングで親族間贈与が行われていないかチェックしています。
贈与認定されれば贈与税の課税対象となりますので、財産を移動させる際は贈与に該当するか確認してください。
一方で、110万円の基礎控除額や特例制度を活用することで、贈与税をかけずに財産を受け取ることも可能です。
特例制度には適用要件がありますし、期限までに申告しないと特例は受けられません。
社会情勢の変化によって贈与税の税制改正が行われたり、特例制度が新設されることも想定されますので、親子間贈与をする際は事前に税理士へご相談ください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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