新築賃貸マンション購入が相続対策に有効と言われる理由とは?税理士が解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相続税対策の一つに預金を不動産に変える方法がありますが、新築マンションを賃貸物件として活用すると、より節税効果が期待できます。 本記事では不動産を利用した相続税の節税効果と、新築賃貸マンションがオススメされる理由について解説します。

新築賃貸マンション購入が相続税対策になる4つの根拠

新築賃貸マンションを購入することが相続税対策になるのは、不動産の特性とマンションの特性、そして賃貸物件の特性を兼ね備えているからです。

不動産は預金より相続税評価額が低くなる

相続税は亡くなった時点の財産に対して課されますので、相続開始時点の資産価値を計算しなければなりません。
預金は相続開始時点の残高が相続税の対象となりますので、1億円の預金を保有している場合、1億円に対して相続税が課税されます。
それに対し不動産は、相続開始時点の価額を土地は路線価、建物は固定資産税評価額をベースに計算します。
路線価は時価の80%相当と言われているため、1億円の預金を土地に変えるだけで2,000万円分相続税評価額を下げることが可能です。
また建物の固定資産税評価額は、購入時よりも価額が上昇することは基本的にありませんので、相続財産を預金から不動産に変更するだけで相続税の節税効果を得られます。

マンションは戸建てよりも評価上の価値は低い

賃貸物件を購入する場合、マンションと戸建ての選択肢がありますが、購入金額が同じであればマンションの方が相続税の節税効果は高いです。
相続税で土地の評価額は、路線価に面積を乗じて算出します。
マンションを区分所有する際は、建物だけでなく土地の権利を所持することになり、マンションの敷地を区分所有者している割合に応じた権利が付与されます。

たとえばマンション全体の敷地面積が10,000㎡、敷地権割合が200分の1の場合、土地の所有面積は50㎡です。
土地の面積が小さければ評価額は抑えられますので、相続税を節税する観点で考えた場合、土地の面積が広い戸建てより、マンションを購入した方が土地の評価額は低くなりやすいです。
建物の相続税評価額の計算は、マンションと戸建ては同じで、建築年数が経過していくと固定資産税評価額は下がっています。
固定資産税評価額が減少すれば相続税の課税対象金額も低くなりますが、戸建ての建物は築年数が経過すると市場価値が下がってしまいます。

しかしマンションの市場価値は立地条件の影響が大きいため、建築年数が経過しても資産価値が大きく下がることは考えにくく、固定資産税評価額は購入した時点で一定水準まで下がるため、時価と固定資産税評価額の差額分だけ相続税を節税できます。

❗~区分マンションの評価通達の改正~
このように不動産、特に区分マンションの取得は相続税対策として有効に働いていたわけですが、ここについて区分マンションの評価方法を見直す通達ができました。
それにより、令和6年1月1日以後の相続、贈与等により取得した区分マンションについては、以前ほどは相続税対策としての効果が期待できなくはなりました。
とは言っても、想定時価の6割程度(この6割は戸建ての評価水準に合わせていると言われております。)の評価となりますので、現預金に比べれば、以前、相続税対策としては有効な手法と考えられます。

ただし、この新たな評価通達による評価を行ったとしても行き過ぎた節税については、財産評価基本通達の総則6項の適用がある恐れもありますので、慎重に対策を行いたいところです。

賃貸物件は評価額の減額補正を適用できる

不動産を賃貸物件として使用している場合、貸していることに対する減額補正を適用できます。
土地は貸家建付地評価、建物は貸家評価することで、相続税評価額を1割から3割程度減額することが可能です。

【土地の貸家建付地評価の計算式】
自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合)=相続税評価額

計算例

自用地評価額:5,000万円
借地権割合:60%
借家権割合:30%
5,000万円×(1-60%×30%)=4,100万円(貸家建付地評価額)

【建物の貸家評価の計算式】
固定資産税評価額×(1-借家権割合)=相続税評価額

計算例

固定資産税評価額:3,000万円
借家権割合:30%
3,000万円×(1-30%)=2,100万円(貸家評価額)

なお減額対象となるのは貸付用として使用している部分に限られ、相続開始時点の貸付状況で補正適用の判断をします。
被相続人が亡くなった時点で賃貸物件が空室だと、貸家建付地評価や貸家評価を行うことはできませんのでご注意ください。

小規模宅地等の特例により評価額を50%減額

小規模宅地等の特例は、土地を特定の用途に使用し、相続人が引き続き同様の用途に使う場合に土地の相続税評価額を減額できる特例です。
土地の用途によって減額割合は異なり、自宅の敷地として利用している土地については80%、貸付用の土地は50%評価額を減額することが可能です。
ただ小規模宅地等の特例を適用できる面積には上限があり、貸付用の土地の限度面積は200㎡となっています。
戸建ての敷地であれば土地の面積が200㎡を超えることも想定されますが、マンションの区分所有の場合、土地の面積が200㎡を超えるケースはほとんどありませんので、土地全体に対して小規模宅地等の特例を適用できます。
なお小規模宅地等の特例を複数の土地に適用する場合、1㎡当たりの減額割合が高い土地から適用するのが効果的なので、減額割合を比較して適用する土地を選択してください。

相続税対策でマンションを購入する際の注意点

相続税の節税効果が高い新築賃貸マンションですが、相続全体で考えると対策を講じる際に注意すべきポイントもあります。

不動産の市場価値は変動する

不動産の市場価値は景気等で左右され、時価相場が下がれば資産としてのマンションの価値も下がります。
資産価値の低下は相続財産の減少を意味しますので、相続財産を多く残すためにマンションの購入を検討する際は物件選びが重要です。
一方、物価上昇に伴いマンションの価値が上がった場合、相続財産は増えますが相続税評価額も高くなるため、相続税の納税額は多くなります。

相続税の納税金不足の懸念

相続税は現金一括納付するのが原則です。
相続財産に預金が少ない場合、相続税を支払うために資産を売却することも検討しなければならず、売却手続きには不動産仲介手数料等の費用がかかります。
小規模宅地等の特例は、相続税の申告期限まで土地を所有していることが要件となっているため、相続開始前に相続した不動産を売却すると特例は適用できなくなるので要注意です。
なお相続税には延納制度があり、事前申請を行えば相続税を分割して納めることも可能です。
(延納制度を利用した場合、本税に加えて利子税を納めることになります。)

遺産分割協議がまとまらない可能性

相続財産が預金であれば、相続分に応じて財産を分けることは容易です。
しかし不動産を共有で相続すると、不動産の運営方針で揉めることもありますし、売却には所有者全員の同意が必要になるため、共有名義で相続することはあまり推奨されていません。
また不動産を単独所有するとしても、主な相続財産が不動産のみであれば、不動産を取得する相続人とそれ以外の相続人で取得する財産が不公平になるため、遺産分割がまとまらないケースも想定されます。
なお小規模宅地等の特例は未分割のままでは適用できませんので、申告期限までに遺産分割協議をまとめる必要があります。

不動産所有に伴う税負担の増加

不動産を購入した場合、不動産取得と登録免許税を納めなければいけませんし、毎年固定資産税も支払わなければなりません。
賃貸物件として使用する際は、修繕費や不動産管理会社への委託手数料等の支出が発生し、賃貸収入に対して所得税・住民税がかかります。
所得税は不動産所得や給与所得、年金(雑所得)の合計所得が大きいほど税率が高くなるため、不動産所得を得ることで所得税の税率が上がる可能性もあります。

相続税対策でマンションを購入する際の方法

新築マンションと中古マンションにはそれぞれにメリットがありますので、どのメリットを重視するかによって選ぶ物件は変わってきます。
新築マンションは中古マンションに比べて購入金額は高くなりますが、借主を見つけやすいので、賃貸物件として長期的に利用することが可能です。
中古マンションは新築よりも安く購入できるメリットがある一方、同条件の賃貸マンションが存在する場合、建築年数の浅い物件に入居者が流れてしまい、空室になることも想定されます。
空室になれば賃料は得られず修繕費などの支出が増えるだけなので、空室を埋めるために家賃を下げることも必要になってきます。

また相続税対策としてマンションを購入する場合、預金と不動産のバランスを考えることも重要です。
不動産には必ず維持管理費がかかりますので、預金は突発的な支出に備えて残し、ローンで不動産を購入することも選択肢です。
相続税はプラス財産から借入金などのマイナス財産を差し引くことができますので、ローンで不動産を購入し、不動産を取得する相続人が負債を引き継ぎ、他の相続人は預金を分けるなどの相続対策を講じることも可能です。

まとめ

相続財産で金銭財産の割合が高い場合には、不動産を購入し貸付用として利用することで相続税の節税を行えますし、生前中は賃貸収入を得ることができます。
ただ預金すべてを不動産に変えてしまうと、遺産分割協議で揉めたり、相続税の納税資金が不足する事態も想定されますので、ご家庭ごとに適した相続税の節税方法を見つけることが大切です。
マルイシ税理士法人は、不動産および相続を専門としている税理士事務所です。
不動産を活用しての節税や、相続税の特例制度について知りたい方はお気軽にご相談ください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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