相続税の申告手続きは自分でできる?方法や手順・必要書類を税理士が徹底解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相続税の申告は必要

相続税の申告が必要なケース

相続税の課税価格の合計が、相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合、相続税の申告が必要になります。
相続税の課税価格の合計とは、わかりやすくいうと、相続税の課税対象となる財産の額から、債務控除を差し引いた額になります。
たとえば、相続した財産が、現金1,000万円、預貯金2,000万円、不動産3,000万円、被相続人の借金500万円である場合、課税価格の合計は5,500万円です。
もし法定相続人が、妻、長男、次男の3人の場合、基礎控除額は4,800万円ですから、相続税の申告が必要になります。
この場合、相続人は、相続の開始があったことを知った日(通常、被相続人が死亡した日)の翌日から10か月以内に、相続税の申告と納税をする必要があります。

相続税の申告が不要なケース

相続税の課税価格の合計額が、相続税の基礎控除額以下であれば、相続税の申告をする必要はありません。
また、基礎控除額を超えていても、障害者控除・未成年者控除・相次相続控除などの控除によって最終的に納税額が0円になれば、相続税の申告は不要です。
ただし、配偶者の税額軽減や小規模宅地の特例などの特例を適用した納税額であれば、相続税の申告は必要になります。
配偶者の税額軽減や小規模宅地の特例は、相続税の申告をすることが適用要件になっているため、申告しない限り効力が無いのです。

関連記事:相続税とは?基礎控除や計算方法・税率(早見表付き)を不動産税理士が解説

相続税の申告は自分でできる?

相続税の申告を自分で行うか、税理士に任せるかの判断基準

相続税申告を自分でするかどうかの判断は、下記の要素から総合的に行います。

  • 税理士に依頼した場合に支払う料金
  • 自分で申告した場合の手間とリスク
  • 申告する人の相続税の知識
  • 相続税申告の難易度(遺産の総額、種類や数量など)

相続税の申告を自分で行うべきケース

自分で申告すると、申告内容を間違えてしまい不利益を被るリスクがありますので、「自分で行うべき」と断言できるケースはありません。
しかし、税理士に支払うコストを抑えるために、ある程度のリスクなら許容できるという場合、比較的リスクの小さい下記のようなケースであれば、自分で申告しても大きな問題になりにくいと言えます。

相続人が自分1人である場合

複数の相続人がいる相続税申告で、申告漏れなどのミスがあると、相続人全員の納税額が増える可能性があります。
しかし、相続人が自分だけであれば、失敗しても自己責任ですので、相続税申告を自分で行うハードルはぐっと下がります。
ただし、後述する加算税・延滞税によって、最初から正しく申告した場合よりも税負担が重くなるリスクがあることは知っておきましょう。

高度な知識が要らない場合

相続税申告の中にも、高度な知識や経験を必要とするケースと、国税庁のWebサイトで公開されている一般的な情報で対応できるケースがあります。
たとえば、遺産が現金や普通預金のみであれば、財産評価をせずに相続税の課税価格を計算できますので、国税庁の「相続税の申告のしかた」を読んで、自分で申告することはそれほど難しくないでしょう。
ただし、相続税の課税対象となる財産の範囲は、一般的に想像する「遺産」の範囲よりも広義です。
申告書を作成している途中に、他にも課税対象になる物や権利が出てきて「最初から税理士に依頼しておけば良かった」とならないよう、課税対象となる範囲を理解した上で、相続財産の調査に着手することが大切です。

相続税の申告を税理士に任せるべきケース

下記のような相続税申告は、税理士に任せるべきです。

相続前に財産を分け与えている場合

相続税の課税対象には、相続開始前3年以内に贈与した財産、相続時精算課税で贈与した財産、子や孫などの名義でこっそり作っていた預貯金など、すでに他人の名義になっている財産も含まれます。
過去の支出は税務調査で調べられるポイントですので、生前に財産を分け与えている事実があれば、税理士に相談しながら、課税対象の線引きをするべきです。

相続財産に土地が含まれている場合

土地の財産評価は、相続税申告の中でも特に複雑な分野です。
自分で申告すると、減額要件を知らずに高額な申告をして相続税を払い過ぎてしまったり、逆に減額できないのに少額で申告してしまったりするおそれがあります。
相続財産に土地が含まれている場合は、不動産に強い税理士に相続税申告を任せるべきです。

相続税の知識がなく申告期限も迫っている場合

相続税申告は、申告書の作成だけでなく、準備としての書類収集などにも時間がかかります。
それに加えて、課税対象となる財産の範囲や法定相続人などの基礎知識がない場合、そこから勉強しなければ、準備に着手することもできません。
したがって、期限まで間がない場合は、税理士に依頼したほうが無難です。

相続税の申告を自分で行う場合のメリット・デメリット

相続税の申告を自分で行う場合のメリット

税理士に依頼した場合に支払う税理士報酬の相場は、相続財産の総額の0.5%~1%ほどです。
相続税申告を自分で行う場合、このコストを削減することができます。

相続税の申告を自分で行う場合のデメリット

時間を奪われる

相続税申告をするには、収集・作成しなければならない資料や書類がたくさんあります。
申告書を完成させるまでに、かなりの時間がかかることは覚悟しておきましょう。

過少申告をしてしまう可能性がある

自分で申告すると、財産に申告漏れがあったり、財産を低く評価してしまったり、適用要件を満たしていない特例や控除を使ってしまったりすることが原因で、過少申告をしてしまう可能性があります。
過少申告が税務調査で発覚した場合、納税不足額に加えて、過少申告加算税や延滞税も徴収されます。
税務調査で誤りが見つかった後の過少申告加算税は、未納税額の10%(50万円を超える部分は15%)、延滞税は法定納期限から遅れた日数に応じて、令和4年中は年2.4%※で計算されます。
※修正申告書の提出日の翌日から2か月経過後は年8.7%に上昇

過大申告をしてもわからない

過大申告をしてしまう可能性もあります。
知識や経験不足により財産を高く評価してしまったり、控除や減額の特例を知らずに申告してしまったりすることが原因です。
過大申告となってしまった相続税申告書を税務署に提出しても、税務署は「本当はもっと安くなるのではないか」という視点で調査をしません。
無駄な税金を支払ったことに気が付かないまま、更正の請求(納め過ぎた税金を還付してもらう請求)の期限が過ぎてしまえば、取り返せなくなります。

税務調査への対応がない

相続税申告の依頼を受けた税理士の多くは、正しい申告書を作成するだけでなく、その後の税務調査に向けた対応も行います。
たとえば、税理士法による書面添付があります。
書面添付とは、税理士が申告内容について、どのように判断して計算したかなどを記載した一定の書面を、申告書に添付して税務署に提出することをいいます。
書面添付と税務代理権限証書の提出がある場合、税務署は、税務調査の際、まずは税理士に連絡をして話を聞く機会を設けなければならず、その結果、疑問が解消されれば、納税者に対する実地調査がなくなる可能性もあります。
相続税申告を自分で行うと、こうした対応による恩恵は受けられません。

相続税の申告を自分で行う際の手順とは?

相続税の申告に必要な書類や手続きの流れを確認する

まずは自分の相続税申告に必要な書類や手続きを確認します。
国税庁の「相続税の申告のしかた(死亡年のもの)」という冊子を、Webサイトや税務署で入手して読む方法がおすすめです。

相続税の申告に必要な書類を揃える

相続税申告に必要な書類のうち、必ず揃えなければならないのは、被相続人の戸籍全部事項証明書(出生から死亡時までのもの。場合によっては除籍全部事項証明書)です。
戸籍の所在地を管轄する役所に申請して収集します。
まずは死亡日の入った今の戸籍を見て、そこから従前戸籍をたどり、出生時の戸籍まで収集します。
他にも、被相続人の私物を整理しながら、預金口座や証券口座のある金融機関の残高証明書や不動産の登記事項証明書など、財産や債務に関する書類を収集します。

法定相続人を確定させる

収集した戸籍から、法定相続人を確定させます。
法定相続人の範囲は、こちらをご覧ください。
国税庁:相続人の範囲と法定相続分
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4132.htm

なお、戸籍が何通にもわたる場合は、「法定相続情報一覧図」を作成すると、今後の相続手続きにおいて戸籍の束の代わりに提出することができます。
法務局:主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000015.html

相続財産を確定させる・相続財産の評価を行う

調べた財産や債務の内容から、相続税の課税対象となる財産を確定させます。
国税庁:相続税がかかる財産
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4105.htm
課税対象であることが確定した財産は、それぞれの評価単位ごとに相続税評価額の計算を行います。
相続税評価額の計算方法は、財産の種類によって異なります。

遺産分割協議、相続税申告書の作成

遺産分割協議

相続人が複数名の場合、調べた財産の情報を基に遺産分割を行い、その結果を遺産分割協議書にします。
遺産分割協議書の写しと全員分の印鑑証明書は、相続税申告書に添付して提出する必要があります。
なお、相続税申告書は、基本的に誰がどの財産を取得するか確定させてから行います。
ただし、遺産分割が申告期限までに終わりそうになければ、未分割の財産を法定相続分で分けた内容で相続税申告書を作成します。

相続税申告書の作成

相続人が複数名の場合の相続税申告書は、相続人がそれぞれ個別に作成しても構いませんが、一般的には、財産を取得した全員で1通の申告書を作成します。
作成方法は、パソコンで作成するか、税務署などで入手した申告書類に手書きします。
パソコンの場合、国税庁のe-Taxソフトを無料で使用することができます。
国税庁:e-Taxソフトについて
https://www.e-tax.nta.go.jp/e-taxsoft/index.htm
相続税申告書には、第1表から第15表までの様式があります。
使用する様式は、相続財産の種類や適用する控除、特例などによって変わります。

税務署に申告書を提出し、納税する

相続税申告書を期限内に提出し、納税します。
提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署です。
提出方法には、書面による提出(直接持参または郵送)と、e-Taxによる電子申告(e-Taxソフト使用時)があります。
電子申告をする場合は、e-Taxを利用するための事前手続きが必要です。
納税方法には、税務署や金融機関での窓口納付や、e-Taxによるダイレクト納付などがあります。
国税庁:国税の納付手続
https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/nofu/01.htm

相続税の申告を行う際はまずは一度税理士に相談するのがおすすめ

相続税申告を自分で行った場合の最悪のシナリオは、税務調査で過少申告が発覚するというものです。
ペナルティとして加算税・延滞税が発生することは前述のとおりですが、さらにこの時、税務署からは、「相続税の修正申告書」の作成を求められます。
申告書のボリュームは、元の申告書とそう変わりません。
忘れた頃に突然やってきた税務調査で、また申告書を作成する苦労をしなければならず、しかもそれによって余分な税まで徴収されてしまうのです。
これが所得税の確定申告であれば、その後も申告の機会があるため、失敗も経験として活かすことができますが、相続税申告にはそうしたメリットもありません。
相続税申告は、最初から税理士にお任せした方が、手間やリスクを考えると合理的です。
まずは一度、ご相談することをおすすめします。

まとめ

この記事では、相続税申告を自分でするべきケース・するべきではないケース、相続税申告を自分ですることのメリット・デメリット、相続税申告を自分でする方法などを解説しました。
相続税申告を自分ですることは、不可能ではありませんが、手間をかけて一生懸命に作成した申告書に対し、税務調査で誤りを指摘されたときの負担は、金銭的にも心理的にも非常に大きいものとなります。
相続税の申告は、税理士に任せましょう。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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