不動産売却の正しい流れとは?仲介会社の選び方など税理士目線で解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

不動産売却の流れは6つのステップに分けられます。そして、すべてのステップがスムーズに進むことで売主の満足できる不動産売却が実現します。1つひとつのステップの内容とポイントをくわしく解説します。

不動産売却の前に:重視することを整理する

不動産売却をはじめる前に「高く売ること」と「早く売ること」どちらを重視するかを決めておくことをおすすめします。なぜなら、どっちつかずだと不動産会社や売主自身が迷いやすく、売却が滞る原因になるからです。

たとえば、売却目的が「借入金の返済に充てるため」「相続税の支払いのため」であれば、早く売りたいという要望が多いのではないでしょうか。となると買い手がつきやすいよう、売り出し価格を安く設定した方が有利です。

また、売却目的が「住み替えのため」であれば、期間をかけて買主を探したいというケースもあるでしょう。この場合、相場以上の売り出し価格を設定する選択もあり得ます。このへんをしっかり整理した上で、不動産売却をはじめましょう。

関連記事:不動産売却とは?知っておきたい基礎知識【完全版】

【不動産売却の流れ】全6ステップを解説

不動産売却の流れは、次の6つのステップに分けることができます。

  1. 不動産の査定を依頼する
  2. 不動産会社と媒介契約を結ぶ
  3. 価格を決めて売り出す
  4. 買主探し・交渉を行う
  5. 買主と売買契約を結ぶ
  6. 決済・不動産引き渡し

それぞれのステップを詳しく見ていきましょう。

【STEP1】不動産の査定を依頼する

不動産売却は「査定からスタートする」といっても過言ではありません。査定には「一括査定」と「個別査定」があります。

査定方法 メリット デメリット
一括査定 ・複数の査定を手軽に比較できる
・上記により相場を把握しやすい
・大手の不動産会社に偏ることもある
個別査定 ・売主主導で仲介会社を絞り込める
・紹介などの場合、安心感がある
・複数の査定をとるのに手間がかかる

一括査定と個別査定はどちらかを選択しても構いませんし、両方の査定方法を併用しても構いません。いずれにしても、複数の不動産会社の査定を受けて相場をつかむことが大切です。

一括査定とは?

一括査定は、複数の不動産会社にまとめて査定してもらう方法です。ネットの一括査定は、複数の査定を手軽に受けられる点が人気です。一括査定はさらに「机上査定」と「訪問査定」の2つの査定方法に分かれます。

1つ目の「机上査定」は、物件の基本情報(住所・面積・築年数など)を入力すると過去の取引データなどと照らし合わせて、およその査定額を教えてくれます。

2つ目の「訪問査定」は、不動産会社に実際に現地調査をしてもらい査定額を出してもらいます。専門家が現物を調査しているぶん、机上査定よりも精度が高くなります。

個別査定とは?

個別査定は、売主が選んだ不動産会社に査定してもらう方法です。その不動産会社を選んだ理由はさまざまだと思いますが、たとえば「物件を購入した不動産会社にお願いする」「知り合いに紹介された不動産に会社にお願いする」などの場合、安心感があります。

関連記事:不動産売却の査定の流れとは?査定には3つの方法がある!

【STEP2】不動産会社と媒介契約を結ぶ

複数の査定が集まったら、不動産会社の絞り込みを行います。これは査定額の高さで決めてもいいですし、信頼感で決めてもいいでしょう。あるいは売却仲介の実績数で選ぶ手もあります。

そして、不動産会社が絞り込めたら媒介契約の締結を結びます。媒介契約には、「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があります。それぞれの契約方法の内容は次の通りです。

一般媒介契約 専任媒介契約 専属専任媒介契約
複数の不動産会社に依頼 できる できない できない
売主が探した買主との直接契約 できる できる できない
媒介契約の有効期間 法令上の制限なし
※目安は3ヵ月以内
3ヵ月以内 3ヵ月以内
レインズの登録 法令上の制限なし
※任意登録可
契約締結から7日以内 契約締結から5日以内
売主への報告義務 法令上の制限なし 2週間に1回以上 1週間に1回以上

一般媒介契約がよいか、専属専任(または専任)媒介契約がよいかは意見がわかれるところです。両者の違いを理解した上で選択しましょう。

「一般媒介契約がよい」という意見

不動産会社は売却物件を扱うとき、売主と買主の両方を自社で見つけた方が手数料を稼げます。なぜなら、売主と買主の両方から手数料をもらえるからです(報酬上限は、買主と売主からそれぞれ3%+6万円など)。

1社に売却を依頼する専属専任(または専任)媒介契約だと、「売主と買主の両方から手数料をとりたい」と不動産会社が考え、他の不動産会社が買主を見つけてきても断るケースもあるようです(いわゆる物件隠し)。このような一部の悪徳業者がいるため、「一般媒介契約のほうがよい」という意見もあります。

「専属専任(または専任)媒介契約がよい」という意見

不動産会社が買主を見つけるには人件費がかかります。一般媒介契約の場合、買主探しに労力をかけても、他の不動産会社に契約を持っていかれる可能性があります。そうすると人件費がムダになるため、一般媒介契約を敬遠する不動産会社もあります。

一方、専属専任(または専任)媒介契約は、競合がいないので買主を見つければ確実に利益になります。業務にリソースを集中できる環境のため、信頼できる不動産会社と出会えればこちらの方が効率的との意見も聞かれます。

【STEP3】価格を決めて売り出す

不動産会社と媒介契約を交わした後は、売り出し価格を決めます。この「売り出し価格=査定価格」とは限りません。売主と不動産会社が話し合うことで、査定価格よりも高くなったり、安くなったりすることもあります。不動産会社の言い値で決めるのではなく、「不動産会社が考える価格」と「売主が考える価格」をすり合わせて決めることが大事です。

不動産会社が考える売り出し価格

不動産会社は業界の指針ともいえる「価格査定マニュアル」に基づいて査定を行っているケースが多いです。とはいえ、下記のような理由から不動産会社ごとに査定価格は変わってきます。

  1. 過去の取引実績のデータが各社で異なるため
  2. 不動産会社によって営業力や得意分野が異なるため
  3. 担当者が強気(または弱気)のため

この価格に対して売主がやるべきこと

売り出し価格を決めるにあたって売主がやってはいけないのは、「プロに任せておけばよい」といった考え方で不動産会社の言いなりになることです。ステップ1で複数の査定を受けていれば、物件の相場は把握できているはずです。この相場よりも割安で売り出したいのか、割高で売り出したいのかを不動産会社に主張することも大切です。

【STEP4】買主探し・交渉を行う

売り出し価格の決定後、不動産会社が物件情報を発信して購入希望者を探します。情報発信には、下記のような方法があります。

  1. 不動産会社の自社サイトや店舗
  2. 不動産会社のネットワークの「レインズ」
  3. 不動産の総合情報サイト
  4. 近隣エリアへの折り込みチラシ

など

これらに対する反響で購入希望者が現れたら、現地訪問が行われます。これは、仲介会社の担当者が対応してくれるので売主の手間はありません。

売主が住んでいる状態で内見をする場合は、購入希望者と顔を合わせることもあるかもしれませんが、一般的な挨拶や世間話くらいの対応で構いません。その場で価格交渉になることはないのが普通です。

現地訪問後、改めて不動産会社から、購入希望者の購入意思や希望価格の連絡があります。

【STEP5】買主と売買契約を結ぶ

売主と買主の交渉がまとまれば売買契約を結びます。一般的に買主はこの時点で代金の全額を支払う必要はありません。代金の一部である手付金を支払うのが通例です。

なお、不動産(仲介)会社が関わる不動産売買では、買主に対して「宅地建物取引士による重要事項の説明」が義務づけられています。重要事項の説明で問題がなければ、売買契約の手続きに移ります。

なお売買契約は、売主・買主・不動産会社などが同じ場所に集合して行われるのが一般的です。

【STEP6】決済・不動産引き渡し

決済は下記の内容をほぼ同時に行います。基本的に、不動産会社の担当者が段取りを組んでくれるはずです。

  1. 買主:売買契約で指定された日までに手付金を除く残金を支払う
  2. 売主:住宅ローンの残金がある場合、引き渡しまでに金融機関に支払う
  3. 司法書士:売主から買主へ所有権移転登記を行う

不動産売却前に揃えるべき必要書類

上記の「不動産売却の流れ」をスムーズ進めるには、「物件の概要や権利などに関する書類」を事前に用意しておくとよいでしょう。

不動産の売却にあたって絶対に必要となる書類は「登記済権利証(または登記識別情報通知)」です。これは、対象物件を売主が所有しているかを確認するものです。登記済権利証がなければ、売却手続きを進めることができません。
※手元にない場合、法務局で所定の申請をすれば交付されます。

加えて、直近の「固定資産税納税通知書」も必須です。これは売主と買主の固定資産税の負担分の計算をしなければならないからです。

この他、査定を依頼したり不動産の情報を発信したりするときには、「建築確認済証、検査済証」「地積測量図、境界確認書」があるとよいでしょう。これらは絶対になければいけない書類ではありませんが、査定や物件情報の作成がスムーズに進みます。

不動産売却の直後に確定申告の相談がベター

不動産を得意分野とする税理士として、もう1つ付け加えたいステップがあります。それは「確定申告」です。不動産売却は「引き渡しで終わり」と考えている人もいますが、実際は「確定申告を終えること」で不動産売却は完了します。

2013年以降は不動産マーケットが比較的好調だったため、購入時よりも売却時の不動産価格が高くなるケースも多いでしょう。基本的に購入時と売却時の差益に対して所得税がかかるため、確定申告は必須です。不動産の売却益には特例が関わるなど仕組みが少々複雑です。そのため、不動産に強い税理士に一度相談するのが賢明でしょう。

税理士に相談するタイミングとしては、売却を終えた直後がおすすめです。確定申告自体は次年度の2月16日~3月15日(曜日や休日で変更あり)の間にすれば大丈夫ですが、この直前はどこの税理士事務所も繁忙期のため慌ただしくなります。そのため、早めの相談が理想なのです。

まとめ

ここでは不動産売却までの流れを解説しました。ご紹介した6つのステップはすべて大切ですが、とくに重要度が高いのはステップ2の「不動産会社と媒介契約を結ぶ」です。

第1に「どの不動産会社と契約をするか」、第2に「3つの媒介契約のうちどれを選ぶか」で売却価格や期間が大きく変わる可能性もあります。ただ一般媒介契約と専属専任媒介(または専任媒介)契約の選択で両者を推す意見があるため、この部分で悩む人もいらっしゃるでしょう。

1つの考え方として、査定を受けるなかで信頼できる不動産会社と出会えれば、専属専任媒介(または専任媒介)契約を選択するのも一案です。逆にいうと、「これぞ!」という仲介会社が見つからなければ、一般媒介契約を選んで複数の不動産会社に依頼するのが無難かもしれません。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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