【大家さん必見】アパートのリフォーム・リノベーションの費用相場とは?

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

アパート経営は、リフォームとリノベーションを適切にしていくことで安定経営が実現します。ここではリフォームとリノベーションの費用の相場、実施するときの注意ポイント、さらには使える可能性のある補助金などについて解説します。

【アパート経営】リフォームとリノベーションの違い

はじめに、あえて聞かれると意外にわからないリフォームとリノベーションの意味を整理してみましょう。

リフォームとは?

「リフォーム」「リノベーション」という言葉には、絶対的な定義はありません。そのため、これらの言葉を使う人によって意味やニュアンスが変わってきます。

たとえば、日本経済新聞の解説では一般的なリフォームの意味を「用途やデザインを保ったまま、見た目を新しくしたり手すりを付けたりする小さな改装」としています。この考え方に基づけば、入居者退去後の畳・床材・壁紙などの交換はリフォームに含まれると考えられます。

リノベーションとは?

リフォームは昔から使われてきた言葉ですが、リノベーションは比較的最近になって広がった言葉です。そのため、年配の大家さんがリノベーションのことをリフォームという言葉で表現するケースもよくありますが、両者は似て非なるものです。

たとえば、日本経済新聞の解説では一般的なリノベーションの意味を「間取りや用途の変更を含む大規模な改造」としています。この考え方に基づけば、築古で入居者ニーズがなくなったアパートに大幅に手を入れて、新しい価値を持たせるような工事はリノベーションということになります。

リフォームとリノベーションの違い

ここまで「リフォームとリノベーションの違い」についてお話してきましたが、その内容をまとめると以下のようになります。

キーワード 意味 施工例
リフォーム 資産価値を
維持するための
小さな改装
・経年劣化による畳の交換
・床材や壁紙の交換
・ユニットバスの交換 など
リノベーション 新しい価値を
加える
大きな改造
・和室から洋室への全面変更
・ニーズに合わせた間取り変更
・住宅設備のランクアップ など


アパート経営の視点で言うと、リフォームは「空室対策」ために行うもの、リノベーションは「空室対策」と「賃料アップ」という2つの目的のために行うものということになります。

関連記事:アパート経営とは?知っておきたい基礎知識を税理士が解説

アパートのリフォーム・リノベーションにかかる費用の相場

アパートオーナーはリフォームやリノベーションの費用の相場を頭に入れておくことも大事です。なぜなら、相場感がわからなければ費用をかけすぎたり、逆に費用対効果の高い施策を怠ったりしてしまうからです。ここでは、リフォームとリノベーションの主な項目の費用の相場をご紹介します。

※下記の相場は地域や施工業者によって大きく変わります。あくまでも目安です。

アパートのリフォームにかかる費用の相場

リフォームの費用の相場については、信頼度の高い複数のリフォームサイトや筆者の知見・経験に基づいてまとめると次のようになります(ワンルームの場合)。

リフォーム内容 費用の相場
畳の新調(6畳) 6〜20万円
床材の張り替え(6畳) フローリング 9〜18万円
クッションフロア 5〜10万円
フロアタイル 6〜10万円
壁紙クロスの張り替え 3〜5万円
ミニキッチンの交換 7〜10万円
給湯器の交換 10〜20万円
ユニットバスの交換 40〜150万円

なお、リフォーム・リノベーションの費用対効果の考え方は、次の2つが軸になります。

  • 家賃の何カ月分で投下した費用を回収できるか
  • 家賃をどれくらいアップできるか(リノベーションの場合)

一例としては、築古の木造アパートでリフォームやリノベーションを行う場合、建物自体の寿命が間近に迫っている可能性もあります。それを意識すると「家賃数ヶ月〜1年以内の費用しか投下できない」といった判断ができるかもしれません。

また、リノベーションによって家賃1万円アップが5年間見込めるなら、「1万円×60か月」で60万円までなら投下できるといった判断もできます。費用対効果の考え方は、賃貸オーナーそれぞれで違います。こうすべきという絶対法則はありません。いずれにしても回収できないリスクだけは避けましょう。

さらに、それぞれのリフォーム内容をくわしく見ていきましょう。

畳の新調/床材の張り替え

畳やフローリングは空間に占める面積が広いため、これらが新しいだけで見栄えがかなり変わってきます。

畳の寿命は日当たりや湿気の状況などで変わってきますが、一般的に10〜15年程度と言われます。その間、新調から2〜5年程度で裏返しを行ない、その後、(裏返しをしてから)約5年程度で表替えをするのが一般的です。また、フローリングの寿命は一般的に10〜20年程度と言われます。

壁紙クロスの交換

壁紙クロスも床材と同じように空間に占める面積が広いので、部屋の印象を大きく左右します。そのため、入居者が退去するごとに壁紙クロスの交換をすることをおすすめします。とくに明るい色の壁紙の場合、リフォームのありなしで部屋の清潔感が変わってきます。

同じ部屋でも、壁紙クロスのランクによって施工費は変わってきます。風合いのあるものや高級感のあるものだと材料費が割高になります。

キッチンの交換

キッチンは傷やへこみなどの具合を見ながら交換時期を判断するとよいでしょう。単身者向けのワンルームならキッチンの優先度が低いため、小さな傷くらいや少々の色褪せくらいであれば神経質になる内見者はあまりいないはずです。

リフォーム費用の相場は、ワンルームで多く使われているミニキッチンなら7〜10万円程度で済みます。一方、ファミリータイプでよく使われているシステムキッチンなら50万円以上かかるケースもあります。

給湯器の交換

給湯器のリフォーム費用の相場は、機能によって変わります。追い炊きなしの給湯専用タイプは安く、追い炊きありのタイプは高めです。これと合わせて、お湯を出せる量や形状によっても相場が変わってきます。

ユニットバスの交換

ユニットバスの交換はとくに費用がかかるため、「リフォームをするべきかどうか」で悩むアパート経営オーナーはかなりいます。ユニットバスの交換をすることで「どれくらい賃料をアップできるか」を念頭に置きながらの判断になるでしょう。

最近の傾向としては、ワンルームの単身者は湯船につからない人も増えているため、ユニットバスよりも割安なシャワールームへ交換する選択肢もあります。

アパートのリノベーションにかかる費用の相場

アパートのリノベーションにかかる費用の相場は、(リフォームと比べると)まさにケースバイケースです。その理由は、たとえば同じような間取り変更でも、木造や軽量鉄骨など建物構造によって費用の目安が変わってくるからです。さらに、同じ建物構造でも築年数や階数によっても手間が変わってきます。

床材1つとっても、一般的なフローリングのほかにクッションフロアやタイル フロア、さらには無垢材のフローリングなど選択肢は多種多様です。こういった事情があるため、リノベーションの費用の相場は幅広く、ワンルーム1室であれば200〜400万円程度が一般的です。

アパートのリフォーム・リノベーションをする際に気をつけたいポイント

アパートのリフォーム・リノベーションをする際に気をつけたいポイントは次の3つです。

ポイント1. 入居者満足度を意識する

リフォームやリノベーションの目的は、入居者満足度を高めることで空室率を減らし安定経営を実現することです。そのことを頭で理解していても、費用対効果の少ない施策をなんとなくやってしまうこともあるため注意してください。

ご参考までに、賃貸経営の現場をよく知る不動産会社が選んだ「人気設備ランキング」は下記の通りです。


1位  インターネット無料

2位  エントランスのオートロック
3位  宅配ボックス
4位  浴室換気乾燥機
5位  ホームセキュリティ
出典:全国賃貸住宅新聞「2020 人気設備ランキング(単身者向け物件)」

ただし、上記のランキングはあくまでも参考です。エリアやアパートの条件によって入居者ニーズは変わってくるため、管理会社の意見をよくヒアリングした上でリフォームやリノベーションを実行しましょう。

ポイント2. リフォーム後の情報発信をする

アパートのリフォーム・リノベーションは工事後の情報発信が大事です。せっかく費用をかけてアパートの魅力を高めても、それが入居者にしっかり伝わらなければ意味がありません。

では、どのような工夫をすれば入居者に情報をきちんと伝えられるのでしょうか。最終的に内見者とコミュニケーションするのは不動産仲介会社の営業マンです。彼らがアパートの魅力を内見者に伝えやすいよう、リフォーム後の室内の状況や新しく入れ替えた設備の内容をマイソクやデータなどで整理しておくとスムーズです。

ポイント3.リフォームの選択がベストか考える

必ずしもリフォームやリノベーションをするのがベストな経営判断とは限りません。築古で家賃が安いアパートなら、投下した費用を取り戻すのにかなりの年数がかかることもあります。こういったケースでは、下記のような選択がベストということも考えられます。

  • 相場よりも家賃を下げる
  • 敷金礼金をゼロ設定にする
  • フリーレントにする

アパートのリフォーム・リノベーションに使える補助金

リフォーム・リノベーションをするとき、条件に該当すれば使える補助金もあります。代表的な補助金は「住宅セーフティネット制度」や「ZEH補助金」などです。

住宅セーフティネット制度

この制度は、空き家や空室になっている賃貸住宅を住宅確保要配慮者(高齢者、障がい者、子育て世帯など)向けの物件として登録することでリフォーム・リノベーションの費用の3分の1を国から助成してもらえるものです。

正式事業名 助成内容 対象となる改修工事
住宅確保
要配慮者
専用賃貸住宅
改修事業
改修工事費の
1/3以内
(上限:1戸あたり
100万円)
バリアフリー改修
耐震改修
間取り変更
子育て世帯対応

上記は2021年10月段階の内容です。最新の情報はこちらをご覧ください。

ZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス)補助金

ZEHとは、次の3つの要素を組み合わせることで、大幅な省エネを実現する住宅のことです。

  • 高断熱性能
  • エネルギーの省エネ性能
  • 再生エネルギー設備の導入

国が定めたZEH基準を満たす集合住宅であれば、下記の助成金をもらえる可能性があります。

正式事業名 助成内容 対象となる改修工事
低中層
ZEH-M
促進事業
1戸あたり
50万円
蓄電システム
を設置する場合
さらに加算あり
高断熱外皮
高断熱窓
高効率給湯
蓄電システム
※太陽光発電システムは
補助対象になりません。

上記は2021年10月段階の内容です。最新の情報はこちらをご覧ください。

これらの国の補助金に加えて、各自治体でアパートに使える補助金事業を用意している場合もあります。気になる方は自治体窓口に問い合わせてみましょう。

関連記事:アパート経営の大家さんが利用できるリフォーム補助金制度とは?

まとめ

ここでは、アパートのリフォーム・リノベーションの費用の相場、実施するときの注意ポイント、さらには、関連する補助金についてお話してきました。

アパート経営は、数十年スパンという長期的な視点で行う事業です。一時的に稼働率がよくて儲かっても、トータルで空室率が高くなって赤字になれば意味がありません。最終的にアパート経営の成功は、リフォーム・リノベーションの要素が大きいといっても言い過ぎではないでしょう。タイミングを逃さず、適切な・改修を行うことが重要です。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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