アパートの建て替えや取り壊しに伴う立ち退き料の相場とは?入居者との交渉のポイントも解説
目次
アパートの建て替えや取り壊しなどの予定があるため、「立ち退き交渉や立ち退き料についてくわしく知りたい」というオーナーもいるでしょう。
ここでは、不動産のカテゴリのなかでも「アパートの立ち退き」をテーマにしたうえで、以下の内容を解説します。
- 立ち退き料の基本的な考え方
- 立ち退きの相場
- 費用の相場
- 交渉の際のポイント
アパートの立ち退き料の相場は?
貸主(アパート経営者)が気になるのは「立ち退き料の相場はどれくらいか」ということでしょう。
一般的に立ち退き料は高額なイメージがありますが実際はどうでしょうか。
インターネットから収集できる立ち退き料の相場
1.不動産情報サイトでよく解説される相場
立ち退き料に明確な法的基準や指針はありませんが、アパートの一般的な相場は「家賃の6ヵ月分程度」と不動産情報サイトなどで解説されることが多いです。
仮に家賃7万円であれば、42万円(7万円×6ヵ月)が立ち退き料の目安ということになります。
ただし、6ヵ月分程度というのは、あくまでもおおまかな目安に過ぎません。
たとえば、不動産情報サイト「HOME4U(ホームフォーユー)」ではアパートなど住宅の立ち退き料の相場を「40万円〜80万円程度」と示しています。
2.不動産会社で解説される相場
また、立ち退きの実務にくわしいある不動産会社では相場を「家賃の8〜10ヵ月分」「家賃の5年分、10年分」くらいと提示しています。
立ち退き料の考え方
立ち退き料の相場にこれだけバラつきがあるということは、「立ち退き料がいくらかは交渉してみないとわからない」ということです。
こうした背景を踏まえて、立ち退き料の相場は「家賃の6〜12ヵ月分プラスアルファ」と幅広い範囲内でイメージしておくのがよいかもしれません。
ちなみに実際の判例を見ても、築40年以上のアパートに住んでいた入居者に対する立ち退き料が200万円(家賃の24ヵ月分程度)と算定されたケースもあります(平成29年1月17日東京地方裁判所判決)。相場はあくまでも目安に過ぎないことがわかります。
そもそも立ち退き料が必要な理由
貸主(アパート経営者)が借主(入居者)に対し、立ち退き(賃貸借契約の更新なしや解約申し入れなど)をお願いすることは可能ですが、立ち退きを求めるときには「正当事由(せいとうじゆう)」が必要です。
正当事由とは具体的に何を指すのでしょうか。
入居者の立ち退きに必須の「正当事由」とは?
正当事由とは、借主に退去していただくための(一般的に認められる、法的に認められる)正当な理由のことです。
正当事由のない立ち退きを請求しても、借主が同意しなければ認められません。
もし同意がないまま強引に立ち退きを進めたとしても、調停や裁判になれば認められない公算が高いです。
正当事由はさまざまですが、代表的な例としては次の内容が挙げられます。
- 貸主自身が賃貸物件に住む必要があるとき
- 貸主の家族などが賃貸物件に住む必要があるとき
- やむを得ない理由で売却する必要があるとき
- 賃貸物件に耐震工事を施す必要があるとき
- 老朽化物件の取り壊しの必要があるとき
など
ただし、これらが必ず正当事由として認められるわけではありません。
たとえば貸主自身が賃貸物件に住みたい項目でいえば、ご高齢の貸主が住む家がほかにない場合などに正当事由として認められた判例があります。
また、家賃滞納などの理由で貸主と貸主の信頼関係が失われていれば、借主の同意がなくても強制退去が認められるケースもあります。
この場合は所定の手続きをとる必要があります。
「立ち退き料」は正当事由を補完するもの
勘違いしていただきたくないのは「正当事由がある=立ち退きがすぐに認められる」わけではないことです。
多くの場合、貸主が入居者に立ち退きを求めるときは、正当事由を補完する「立ち退き料」が必要です。
背景には、日本では借主の立場が手厚く守られている事情があります。
正当事由と立ち退き料の関係は、「強い正当事由であれば立ち退き料が多めになる(逆に、弱い正当事由であれば立ち退き料が少なくなる)」といった考え方が通例です。
※あくまでも基本的な考え方です。弱い正当事由でも立ち退き料が少ないケースもあります。
- 弱い正当事由=立ち退き料多め
- 強い正当事由=立ち退き料少なめ
強い正当事由の一例は、 戸建ての貸家を所有しているオーナーが何らかの事情で自宅を使えなくなったため、貸家を自宅に転用したいといったケースです。
正当事由がなくても立ち退きを求めることは可能?
ここまでお話してきたように「正当事由」があれば、貸主は借主に対して立ち退き(更新なしや解約申し入れなど)を求めることができます。
また現実的には、正当事由が認められにくい内容でも、借主が納得する額の立ち退き料を支払うことで立ち退きが実現するケースもあります。なぜこのようなことが可能なのかというと、立ち退き料の提供そのものが有力な正当事由になり得るからです。
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立ち退き料の算出方法(目安)と内訳例
立ち退き料の相場や、立ち退き料が必要な理由がわかったところで、実際にどうすればよいのかわからない方が多いと思います。
そこで算出方法と内訳の例をいくつか解説いたします。
立ち退き料の計算方法はいくつかありますが、アパートの立ち退きで一般的なのは、下記でご紹介するような実費を積み上げていくやり方です。
この計算方法の内訳例は次の通りです。
立ち退き料の内訳1:引っ越し費用
借主が新しい賃貸物件に移転する際、業者に支払う予定の引っ越し費用です。「引っ越し業者へ支払う実費」や「トラック代×必要な台数」などが費用の目安になります。
立ち退き料の内訳2:仲介手数料
借主に対して新しい賃貸物件を仲介してくれる不動産会社に支払う予定の仲介手数料です。家賃の1ヵ月分などが費用の目安になります。
立ち退き料の内訳3:家賃の負担増分
「新しい賃貸物件の家賃(見込み)」と「現在の賃貸物件の家賃」の想定される差額です。
「1ヵ月あたりの差額×家賃差額補償月数(一般的には12ヵ月〜24ヵ月程度)」が費用の目安になります。
立ち退き料の内訳4:敷金・礼金の不足分
敷金の不足分は、新しい賃貸物件のオーナーに支払う敷金(見込み)と、現在の賃貸物件の差額になります。
一方、礼金の不足分は「エリア内の標準的な家賃×標準的な礼金の月数」で割り出します。
立ち退き料の内訳5:上乗せ補償
上乗せ補償は、貸主から借主に対するお詫び・お礼のニュアンスで支払う費用です。
具体的には、交渉がスムーズにまとまったときのお礼や、それに伴い弁護士費用などを軽減できたお礼として支払われます。
立ち退き交渉において「上乗せ補償」が必須なわけではありませんが、これをプラスすることで交渉がまとまりやすくなる可能性があります。
参照:立ち退き料は、借家権に基づく計算方法もある
ここでは、実費を積み上げていく立ち退き料の計算方法をご紹介しましたが、このほか鑑定評価で借家権の経済的価値を求め、それに基づいて立ち退き料を算定する方法もあります。借主には借家権の権利があり、それを手放すことに見合う立ち退き料が必要という考え方です。
参照:立ち退き交渉の期間は?
借地借家法では賃貸借契約の更新を行わない場合、借主に対し契約満了の6ヵ月前〜1年前に通知しなければならないと定められています。
立ち退きを求めるケースもこれに該当するため、賃貸借契約が満了する6ヵ月〜1年前に入居者に通知しなければなりません。余裕を見て1年以上前から交渉を開始する選択もあるでしょう。
立ち退き交渉を行う際のポイントと注意点
立ち退き交渉で失敗する典型的なパターンは「相場の6ヵ月分の立ち退き料を支払えば出ていってもらって当たり前」と思い込んでしまうことです。立ち退き交渉はうまくいかないのが普通と考え、丁寧に粘り強く進めていくスタンスが大切です。
1.本人または専門家が交渉する
立ち退き交渉の大前提として、借主との交渉を行うのはオーナー自身、または弁護士や行政書士がすべきです。管理会社や不動産会社に報酬を渡して立ち退き交渉をお願いすると、弁護士法に抵触する恐れがあります。
2.相手方の感情を受け止める
はじめの交渉段階では、書面や対面での立ち退きのお願いになります。なかには感情的になる借主もいるかもしれませんが、言い争いをしないことが重要です。スタート段階で対立すれば泥沼化は避けられません。まずは借主の感情をしっかり受け止め誠意ある対応をしましょう。
3.引っ越したくない理由を把握する
立ち退き交渉がうまく進まない場合は「相手方がなぜ交渉に応じないか」の理由を把握するのが先決です。たとえば引っ越し先が見つけにくい事情を抱えているなら、行政や不動産会社を紹介するのも一案です。とくに入居者が高齢者の場合は配慮が欠かせません。
4.交渉をムリに継続しない
立ち退き交渉の注意点は、話し合いをある程度進めた段階で貸主との対立が鮮明になった場合は、交渉をムリに継続しないことです。
なぜならこういったケースでは、交渉するほど溝が深まってしまう可能性があるからです。
泥沼化してしまう前段階で、立ち退き交渉に強い弁護士に依頼する、あるいは、調停・裁判で決着をつけるなど専門家や司法の助けを借りるのが賢明です。
まとめ
ここでは、アパートの立ち退き交渉や立ち退き料の相場などについて解説してきました。本記事でとくに記憶にとどめていただきたい箇所は下記の部分です。
立ち退き料の相場については、「家賃の6ヵ月分程度」と紹介されることが多いです。しかし、実際には交渉してみないとわからない面もあります「家賃の6〜8ヵ月分プラスアルファ」と幅広い範囲内でイメージするのがよいでしょう。家賃7万円台のアパートでも、立ち退き料が24ヵ月分になった判例もあります。
最後に「どのようなスタンスで立ち退き交渉に望むべきか」についても触れたいと思います。立ち退き交渉をスタートさせるときには「交渉を早くまとめたい」というオーナー側のご事情もあるでしょう。
しかし、この焦る気持ちが強引さを生み、相手方の不信感につながってしまうこともあります。スピーディーに交渉を進めつつも、入居者への配慮を忘れないことが大事です。交渉がうまく進まないときは、相手方の目線になって「立ち退きに応じてもらえない原因は何か」を突き詰めましょう。