定期建物賃貸借契約とは?契約の特徴と大家が活用するメリット・デメリット

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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定期建物賃貸借契約とは?

定期建物賃貸借契約(定期借家契約・定期賃貸借契約)とは、あらかじめ定めた契約期間の満了をもって契約を終了する制度です。定期建物賃貸借契約のルールについては借地借家法38条で定められています。

定期賃貸借契約と普通建物賃貸借契約の違い

一般的に用いられている普通建物賃貸借契約と定期賃貸借契約にどのような違いがあるのか詳しくご紹介します。

契約方法

普通賃貸借契約は、書面と口頭のいずれでも契約を成立できます。ただし、紛争防止の観点から書面で契約した方がよいとされています。一方、定期賃貸借契約は書面でなければ契約が成立しません。さらに、契約書とは別の書類にて、「契約期間の満了をもって契約が終了し、更新はできない旨」を記載し、口頭で説明する必要があります。

更新の有無

普通賃貸借契約は、賃貸人が正当な事由による更新の拒絶をすることで契約を終了できる可能性があります。一方、定期賃貸借契約は契約期間の満了によって契約を終了し、更新はできません。ただし、改めて定期賃貸借契約を締結し直すことは可能です。

1年未満の契約の取り扱い

契約期間が1年未満の場合、普通賃貸借契約では「期間の定めのない契約」とみなされます。一方、定期賃貸借契約は1年未満の契約期間を定め、契約期間の満了をもって契約を終了できます。

賃借料の増減における特約の効力

普通賃貸借契約は、特約の有無・内容に関係なく、賃借料の増減を当事者がお互いに請求できます。一方、定期賃貸借契約では特約の定めに従う必要があります。

中途解約の可否

普通賃貸借契約は、中途解約に関する特約があれば、その内容に従う必要があります。一方、定期賃貸借契約は中途解約に細かな条件が定められています。

定期建物賃貸借契約の特徴とメリット・デメリット

定期建物賃貸借契約には、次のような特徴とメリット・デメリットがあります。

定期建物賃貸借契約の特徴

定期賃貸借契約と普通賃貸借契約の違いについては前述したとおりです。続いて、定期賃貸借契約の特徴について、さらに詳しくご紹介します。

中途解約について

定期建物賃貸借契約は、当事者同士が「契約期間中の中途解約の特約」を設けない限り、お互いに自己都合で中途解約はできないとされています。また、当事者同士の合意があれば中途解約できますが、賃貸人が中途解約を申し入れる際は6ヶ月以上の予告期間および正当事由が必要とされています。

ただし、「契約期間中の中途解約の特約」を設けていなくても、次の要件を満たせば賃借人による中途解約の請求が認められます。

  • 床面積200㎡未満の居住用建物
  • 転勤や親族の介護など、やむを得ない事情によって賃借建物を生活の本拠として使用することが困難になった

賃料改定について

契約の当事者には、賃料の増減を請求する権利が認められています。定期建物賃貸借契約の場合、賃料の改定に関する特約を設けることで、特約の内容に従って賃料の改定を請求できるようになります。例えば、「賃貸借期間中は賃料を改定しない」、「一定の期間が経過する度に賃料を一定の割合で増額、あるいは減額する」といった特約を設けます。

更新について

定期借家契約は、借地借家法における更新に関する規定は適用されず、契約期間の満了をもって契約が確定的に終了します。ただし、更新はできなくても再契約は可能です。改めて定期借家契約か普通賃貸借契約を締結します。また、契約が終了する通知をせずに長期間にわたり放置すると、再契約の成立が認定される恐れがあるため、必ず契約期間が終了する通知を出すことが重要です。

定期建物賃貸借契約を活用するメリット・デメリット

それでは、定期建物賃貸借契約を活用することは、賃貸人にとってどのようなメリット・デメリットがあるのか詳しく見ていきましょう。

メリット

普通賃貸借契約の場合、賃借人がルールを守れず他の入居者に迷惑をかけたとしても、賃貸人から一方的に契約を解除することはできません。よほどの迷惑行為があれば契約の解除が可能ですが、そうではない場合は居座り続けられてしまう恐れがあります。そうなれば、他の入居者が退去してしまい、家賃収入が減少する事態に陥る可能性も否定できません。

定期建物賃貸借契約であれば、契約期間の満了をもって契約が終了し、再契約をするかどうかには双方の合意が必要なため、期間が満了すれば退去を命じることができます。

デメリット

定期建物賃貸借契約は、契約終了の6ヶ月以上前に契約期間満了の通知が必要なことや、契約書とは別に「契約期間の満了をもって契約が終了し、更新はできない旨」を記載した書類を提示し、口頭で説明が必要なことなどから、賃貸人の負担が大きい契約と言えるでしょう。

また、契約期間の満了をもって契約を終了する定期建物賃貸借契約は、契約期間の定めがない普通賃貸借契約と比べて入居者が現れにくい傾向があります。賃料を相場よりも下げる、駐車場の利用を無料にするなど、より魅力的に見せるための対策が必要でしょう。

定期借家契約のよくある疑問

定期借家契約に関して、よくある質問とその回答をまとめました。

Q.定期借家契約はどのように終了する?

定期借家契約は、契約期間の満了をもって契約を終了します。前述したとおり、契約期間の満了から6ヶ月以上前に、契約期間の満了をもって契約が終了する旨を賃借人に通知しなければなりません。これらの条件を満たした場合、賃借人は契約満了日までに退去する必要があります。なお、契約期間が1年未満の場合は通知する必要がありません。

退去時の原状回復や敷金の返還などのルールは普通賃貸借契約と同じです。

Q.定期借家契約の再契約の回数に制限はある?

定期借家契約の契約期間の満了後、再び定期借家契約を締結することができます。この回数に制限はありません。そのため、普通賃貸借契約で貸し出すことにリスクを感じているものの、トラブルが起きない限りは継続的に貸し出す予定の場合は、定期借家契約の締結・満了・再契約を繰り返す方法を選ぶのも1つの方法です。

Q.契約更新時に普通借家契約から定期借家契約への変更は可能?

普通契約の期間満了時に、定期借家契約への切り替えを提案することは問題ありません。ただし、平成12年3月1日の定期借家制度施行前に締結した普通賃貸借契約においては、契約満了の際に双方の合意があっても、定期借家契約への切り替えは認められていないのが現状です。

なお、賃貸人が賃借人に対して定期借家契約への切り替えを強制することはできません。当然ながら、契約期間の満了をもって普通賃貸借契約が終了するように思い違いをさせたり、強制的に定期借家契約へ切り替えられるように振る舞ったりすることをしてはいけません。たとえ、そのような不法行為で賃借人の合意を得ても、後々トラブルになった際に契約が無効とされる恐れがあります。

まとめ

定期建物賃貸借契約は、普通賃貸借契約のように期間の定めがない契約とは異なり、契約期間の満了をもって契約を終了できます。そのため、賃借人がよほどの迷惑行為をしなければ契約を終了できないことにリスクを感じるのであれば、定期賃貸借契約を選択してはいかがでしょうか。

ただし、事前通知や契約書の別紙の作成、口頭での説明、契約期間の満了前の通知など、さまざまな負担がかかります。これらの負担とリスクを天秤にかけて、どちらを選ぶべきか検討しましょう。また、契約は部屋ごとに決められるため、一定期間が経過後に自ら住む予定がある部屋だけ定期賃貸借契約とするのも1つの方法です。

普通賃貸借契約と定期賃貸借契約のどちらを選ぶか迷った際は、不動産の専門家に相談するのもよいでしょう。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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