【不動産税理士が解説】不動産所有会社の相続事業承継対策の注意点
目次
個人の不動産オーナーが、毎年の所得税等及び将来の相続税の節税対策のため不動産所有会社を設立(法人化)してその会社オーナーとなることがあります。
しかしオーナー自身が高齢になると、今度はその不動産所有会社の事業承継が課題となり、セカンドオピニオンでよく相談を受けることがあります。
不動産所有会社の事業承継については、その会社の株式(経営権)の集約がポイントになります。相続税対策を意識して株価にばかり目が行きがちですが、最も重要なのは株式を分散させずに会社の承継者一人に集約することです。
なぜ株式が分散してしまうのか
不動産所有会社が現預金を多額に保有していたり、価値の高い不動産を所有したりしている場合には、その会社の株式の評価額は高くなります。
ひと昔前には、不動産所有会社のオーナーの相続税対策として、株価の低いうちに複数の子供や孫に株式を贈与などで分散して所有株式を減らすようアドバイスする税理士も少なくありませんでした。この方法ではオーナーの相続税は少なくなりますが、経営権が分散してしまうリスクがあります。
経営するために必要な株式は
実際の不動産所有会社の経営は社長(代表取締役)が行いますが、社長は株主が株主総会において選任することになっています。
したがって、株主の意向により社長の交代や社長の給与の変更などは簡単にできてしまうため、株式を所有する株主が会社経営における絶対的権力者となります。
株主総会は多数決の考え方となるため、最低でも過半数を押さえておく必要があります。ただし、会社の重要財産の売却などについては「特別決議」となり、全株式の3分の2以上の賛成が必要となります。
持株割合は慎重に検討すべき
不動産所有会社のオーナーから、子供に均等に財産を残したいので株式を均等に相続させたいという相談を受けることがあります。
相続後も兄弟仲良く経営していけるという前提ですが、今後兄弟のうちの1人が死亡した場合にその配偶者や子供が株主となるなど、将来的に株主の数が増えて経営方針について意見の調整が難しくなることが想定されます。
将来禍根を残さないためにも、税理士として株式の承継者は子供のうち一人に集中するようにアドバイスをしています。
また、個人の不動産賃貸業を法人化する際、設立時の持株割合についても注意が必要です。設立当初から配偶者や子供を株主としておけば、将来的に株式が不動産オーナーの相続財産から外れて相続税対策にはなります。
しかし、過半数の株式を配偶者や子に持たせてしまうと、家族関係が悪化した際に経営の実権がないため、役員を解任されたり、給与の支給を停止されたりしてしまうなどといった事態にもなりかねません。節税だけでなく経営権の観点からも持株割合は慎重に検討しましょう。
既に分散されている株式の対策
数回の相続を経て、遠い親戚にまで既に株式が分散してしまっている例も実際にはたくさんあります。このまま放置すれば、更に遠い親戚にまで株式が分散し、経営権が危ぶまれることもあります。
分散してしまった株式を集約するには、株式を買い取るか、贈与してもらうなどするしかありません。いずれも株式の評価額が高い場合には、費用や税金の負担が大きくなります。何より、長い年数をかけて遠い親戚と交渉していくには心理的なストレスがかかります。
不動産と相続を専門する税理士に相談を
不動産所有会社の株式が分散すれば、株主間で建替えや大規模修繕、売却などについて意見が分かれた場合、経営権をめぐって骨肉の争いとなる可能性もあります。
一つの法人は一人で経営ができるように、法人化や事業承継対策をする際には、不動産と相続を専門とする税理士に相談をしながら進めていくことをお勧めします。
個人の不動産オーナーが、毎年の所得税等及び将来の相続税の節税対策のため不動産所有会社を設立(法人化)してその会社オーナーとなることがあります。しかしオーナー自身が高齢になると、今度はその不動産所有会社の事業承継が課題となり、セカンドオピニオンとして相談を受けることがあります。
※この記事は、「家主と地主3月号/専門家の声 株の共有で起こりうるトラブルに注意」に掲載された内容です。