ビルの老朽化で起こる問題とは?ビルの老朽化対策の費用まで解説!

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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ビルが老朽化して、空室が増えてきたり設備が故障しやすくなってきたりして困るオーナー様は多いです。このようなビルの老朽化に悩んだら、どのような対策をすれば良いのか悩むものです。そこで、この記事ではビルの老朽化対策について詳しく解説します。この記事を読めば、複数の対策の中から、どの方法が良いのか分かるようになります。ぜひ、ビルの老朽化で悩んでいる方は、この記事を参考にしてみてください。

ビルの老朽化とは何年?

ビルの老朽化は、鉄筋を被覆するコンクリートが中性化して劣化して強度を失うことで進行します。ビルのメンテナンスを行えば100年以上は持つという見解もあるため、ビルの老朽化が何年かは一概には言えません。
しかし、税法上の定められた建物の耐用年数(法定耐用年数)が存在します。
法定耐用年数は鉄筋コンクリート造(RC)が47年、鉄筋鉄骨コンクリート造(SRC)が60年です。法定耐用年数を超えると減価償却費が計上できなくなり、税負担が重くなります。そのため、法定耐用年数を1つの基準としてビルの老朽化と考えてみると良いでしょう。

ビルの老朽化で起こる問題

ビルが老朽化すると、以下の4つの問題が発生します。

  1. 耐震性が低下する
  2. メンテナンス費用がかかる
  3. 空室率が上昇する
  4. 相続税の負担が重くなる

ここでは、それぞれの問題について詳しく解説します。

耐震性が低下する

ビルは鉄骨構造や鉄骨鉄筋コンクリート造で造られているのが一般的です。鉄骨造の建物は鋼材の錆びによる強度の低下で耐震性が低くなってしまいます。鋼材の錆は、湿気や内部結露など水分によるものです。
また、日本は地震大国のため、建築基準法の耐震基準が何度も改正されています。
1981年5月31日まで適用されていた旧耐震基準は、震度5強程度まで耐えられる建物を指します。1981年6月1日から適用された新耐震基準は震度7程度まで耐えられる建物を指すようになりました。
テナント入居者も、どちらの旧耐震基準のビルであるかを気にされます。そのため、入居率に影響が出てしまうのです。したがって、構造上の不安を感じる場合や古い耐震基準に建物が該当した場合は、ビルの建て替えを検討した方が良いでしょう。

メンテナンスが必要になる

ビルの老朽化を防ぐためには、日常点検や掃除業務などの保守管理業務が欠かせません。どうしても建物の経年劣化は避けることはできませんが、保守管理業務をしておけば修繕が最小限で済みます。その理由は、建物設備の不具合が起きにくくなるためです。
保守管理業務を怠ると、設備にゴミが溜まり不具合を起こしやすくなりmす。突発的に起きる設備の不具合のトラブルには瞬時に対応する必要がありますが、メンテナンス費用が高くなりがちです。設備の不具合が頻繁に起きる場合は、ビルの建て替えを検討した方が良いでしょう。

空室率が上昇する

ビルの老朽化が進行すると空室率が上昇します。その理由は、旧耐震基準のビルは入居者から懸念されて、入居募集をしても成約に至りにくいためです。また、設備の不具合が頻繁に発生すると入居者が不満を抱き退去してしまうかもしれません。
空室率が上昇すると家賃収入が得られなくなり、修繕費用が捻出できずに老朽化の進行が加速するという負の連鎖に陥る可能性があるため気をつけてください。
負の連鎖を感じたら、老朽化したビルの建て替えを検討した方が良いでしょう。

相続税の負担が大きい

老朽化ビルを所有していると相続税の負担が大きくなり、相続者に迷惑をかけることになります。老朽化ビルを相続する上での問題として、以下のようなものが挙げられます。

[老朽化ビルを相続する上での問題]

  • 相続時に空室率が高いと建物と土地の評価額が高くなる
  • 建て替え中に相続すると更地の土地の評価額となり高くなる
  • ローンを返済してキャッシュが積み上がると相続者の税金負担が大きくなる

さまざまな理由で、相続税の負担が大きくなるため、相続を検討している方は将来を見据えて対策を打ったほうが良いでしょう。

ビル老朽化の対策

ビルが老朽化すると、さまざまな問題が発生するため早期に対策をしていきましょう。ビル老朽化の対策として「建て替え」「リノベーション」「等価交換」「売却」があります。

メリット デメリット
建て替え
  • 老朽化の問題から開放される
  • 高い収益性が期待できる
  • ビルの規模を大きくできる
  • 建築費用が必要になる
  • 建築工期が長くなる
  • 立ち退きが必要になる
リノベーション
  • 建築工期が短い
  • 建て替え費用より安い
  • 建物の構造上で制限が出る
  • 立ち退きが必要になる
等価交換
  • 建築費用が不要
  • デベロッパーのノウハウが活かせる
  • 所有権が複雑になる
  • 等価交換の交渉が必要になる
  • 立ち退きが必要になる
売却
  • 金銭的負担が少ない
  • 売却益が期待できる
  • 資産の組み換えができる
  • 希望の価格で売れない恐れがある
  • 買い主が見つからない恐れがある
  • 売却時の税負担が発生する
  • 立ち退きが必要になる

ビルの状況や立地条件などにより、どの対策が良いかが変わるため、各対策の特徴を把握しておきましょう。

建て替え

ビルを建て替えるとビル老朽化の問題から開放されます。耐震基準や設備のグレードなどを満たせばテナント入居率が上がり高い収益性が期待できます。また、土地の条件を最大限に活かす設計をすれば、ビルの規模を大きくすることも可能です。ビルの規模を大きくすれば、毎月の家賃収入が増えます。
さまざまなメリットがある建築工期が長くなります。建築工事は「(階数×1ヵ月)+3ヵ月」と考えましょう。つまり、5階建てビルなら8ヵ月、10階建てビルなら13ヵ月です。この期間に設計期間、解体期間が含まれるため、1年半程度の期間が必要と考えておきましょう。また、4つの方法の中で投資費用が最も高くなります。

建て替えの費用相場

階数 鉄骨造(S造) 鉄筋コンクリート造(RC造) 鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)
3階建て 1億3,824万円 1億9,968万円 2億1,888万円
4階建て 1億8,432万円 2億6,624万円 2億9,184万円
5階建て 2億3,040万円 3億3,280万円 3億6,480万円
6階建て 2億7,648万円 3億9,936万円 4億3,776万円
7階建て 3億2,256万円 4億6,592万円 5億1,072万円
8階建て 3億6,864万円 5億3,248万円 5億8,368万円
9階建て 4億1,472万円 5億9,904万円 6億5,664万円
10階建て 4億6,080万円 6億6,560万円 7億2,960万円

・【計算条件】80坪の敷地、建ぺい率80%、坪単価(鉄骨造:72万円、鉄筋コンクリート造:104万円、鉄骨鉄筋コンクリート造:114万円)
・【注意事項】仕様や業者により建て替え費用は変動するため、必ず見積もりを取得してください。

リノベーション

老朽化したビルをリノベーションする場合は、建築工期が短くなります。3階建てのビルの一棟リノベーションを行う場合は、設計期間と工事期間で7か月程度です。
また、どの程度の工事を希望するかで平均相場は変わりますが、建て替え費用よりも安く済みます。
しかし、リノベーションは建物の構造上の制限が出てきます。耐震に影響のある補強壁は取り壊すことができません。また、建築基準法上の制限も出てくるため、イメージ通りの建物にできない恐れがあります。

リノベーションの費用相場

階数 フルリノベーション
3階建て 5,670万円
4階建て 7,680万円
5階建て 9,600万円
6階建て 1億1,520万円
7階建て 1億3,440万円
8階建て 1億5,360万円
9階建て 1億7,280万円
10階建て 1億9,200万円

・【計算条件】80坪の敷地、建ぺい率80%、坪単価(リノベーション:30万円)
・【注意事項】仕様や業者によりリノベーション費用は変動するため、必ず見積もりを取得してください。

等価交換

ビル所有者の中には広い土地の所有権をお持ちの方が多いです。土地の所有者でビルの建て替え費用が捻出できない場合は、等価交換という選択肢があります。不動産の等価交換とは、土地活用の一つの手段です。
土地所有者が土地、デベロッパーが建物を出資し合って、完成した建物を出資比率に応じて区分所有権を持つことをいいます。そのため、ビルの建てるための自己資金を用意する必要がありません。また、デベロッパーが主体となりビル建設を進めてくれるためノウハウが活かせます。
しかし、等価交換をするとデベロッパーとビルを共有することになるため、建物全体の改修工事や売却時は同意を得る必要があります。持分権利が複雑になり、独断で売却できなくなるため注意してください。また、等価交換はデベロッパーが魅力を感じる好条件の土地ではないと実現できません。

売却

ビルの老朽化対策の資金が用意できない場合は売却を検討してみるのも1つの方法です。広い敷地には価値があるため、老朽化したビルでも売却益(キャピタルゲイン)が期待できるでしょう。売却益で新たな物件を購入するなど資産の組み換えができます。
しかし、老朽化したビルは希望の価格で売れるとは限りません。また、販売価格が高くなる傾向があるため、買い手が見つかりにくいです。そのため、希望日までにビルが売却できないなどのトラブルが起きる恐れがあります。不動産を売却した場合は、売却益に対して課税されることも覚えておきましょう。

老朽化したビルの立ち退き交渉の流れ

ビルの老朽化対策を行う場合は立ち退き交渉をしなければいけません。立ち退き交渉の流れは以下の通りです。

  • 賃貸契約書を更新しない通知をする
  • 立ち退き料の交渉を行う
  • 退去手続きを行う

ここでは、立ち退き交渉の手順について詳しく解説します。

賃貸借契約を更新しない通知をする

ビルオーナーの都合でテナント入居者に立ち退きを依頼する場合は、賃貸借契約の満了日の1年から半年前までに更新しない旨を通知しなければいけません。
また、入居者に立ち退きをさせるためには、正当事由がなければいけません。ビルの老朽化の場合の正当事由として、建物の老朽化で収益事業が成り立たなくなったなどが挙げられます。社会的・経済的効用を失っていることを伝えれば正当事由に該当しやすいです。そのため、テナント入居者に諸事情を伝えて、賃貸借契約の更新の停止に同意してもらってください。

立ち退き料の交渉を行う

ビルオーナーの都合でテナント入居者に立ち退きを依頼する場合は、立ち退き料を支払います。店舗移転費用や新たな賃貸借契約を締結する際にかかる費用は最低限支払わなければいけません。また、テナント入居者の中にはテナント撤去することで生じる一定期間の営業補償を求めてくる場合があります。営業活動が止まると大きな損失が出るため、大企業がテナント入居している場合は、数千万円の立ち退き料が請求されることも多いです。双方が交渉して納得する額を決めていきます。

退去手続きを行う

立ち退き料の交渉を終えたら、テナント入居者に退去してもらいます。ビルオーナーの都合で退去してもらう場合は、即座の退去を強制できません。そのため、スムーズに退去手続きが進まないと認識しておくと良いでしょう。
テナント入居者に早く退去してもらうために1ヵ月分の家賃を免除したり、原状回復費用を免除したりすれば退去に協力してもらいやすくなります。

まとめ

ビルが老朽化してしまうと「耐震性の問題」「維持管理費の問題」「空室の問題」「相続の問題」が出てきます。空室率が増えて収入が見込めず、維持管理費が高くなれば、ビル経営で収益が見込めなくなってしまいます。そのため、老朽化したビルの対策をしていきましょう。今回はビルの老朽化対策を4つ紹介しました。
それぞれ、どのような方に向いている方法なのかまで解説しているため参考にしてみてください。
ビル経営は多額の資金が必要になるため、不動産コンサルティングの専門家に相談することをおすすめします。ライフプランや価値観、建物の状況、資金状況を把握した上で、どの対策が良いか知ることで効果が見込みやすくなります。マルイシ税理士法人でも不動産コンサルティングサービスを提供しているため、お気軽にお問い合わせください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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