相続登記の義務化はいつから?期限や今からできる対策を税理士が解説
目次
相続登記は今まで強制ではなかったため、前所有者の名義のままで所有していても指摘を受けることはありませんでした。
しかし2024年からは相続登記が義務化され、一定期間以内に登記を行わなければ罰則を受けることになります。
本記事では、相続登記の義務化による影響と、今から実施すべき対策について解説します。
相続登記の基礎知識
相続登記の義務化への対策を行うためには、相続登記の意味や現在の制度内容、義務化されたことによる影響を理解することが大切ですので、最初に相続登記の基礎知識をご紹介します。
相続登記とは?
「相続登記」とは、相続による所有権登記のこといいます。
不動産は売買や贈与、相続などにより所有者が移った際、新しい所有者の名義に変えなければいけません。
相続においては、不動産の所有者が亡くなった人から相続人に変わりますので、相続登記を行うことになります。
関連記事:相続登記とは?不動産・土地の名義変更の方法や手続き・必要書類を解説
相続登記の義務化とは?
相続登記の義務化とは、法律により相続登記が必ず行わなければいけない手続きになることをいいます。
現在の法律においても相続により不動産を取得した際、名義変更を行うことは求められていますが、相続登記を行う期限は定められていませんし、亡くなった人の名義のままでも罰則を受けることもないです。
ただ相続登記を行わないと不動産売買ができなかったり、相続登記前に再び相続が発生した場合には、2度相続登記手続きをしなければいけないなどの問題点がありました。
そのため2024年からは、相続開始後一定期間内に相続登記をすることが義務化され、登記手続きを怠った方は罰則の対象になります。
相続登記の義務化はいつから?
相続登記の義務化に関連する法律は「民法等の一部を改正する法律」(民法等一部改正法)と、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(相続土地国庫帰属法)の2種類あり、施行するタイミングはそれぞれ異なります。
民法等一部改正法については原則2023年(令和5年)4月1日に施行する予定ですが、相続登記義務化関係の改正に関する内容は、2024年(令和6年)4月1日が施行日です。
新設・改正した法律が施行する前後は、手続き面で混乱することも予想されますので、相続登記を行う際は専門家にご相談することをオススメします。
相続登記が義務化される背景
相続登記が行われないと、現在の不動産の所有者は不明であるため、土地・建物の管理や周辺地域の開発に支障が出てきます。
建物は居住者がいなければ老朽化の進行が進みますし、空き家は治安の悪化や隣接する土地所有者への悪影響も懸念されるため、不動産の所有者が誰であるかは明確にすべきなのです。
しかし次の3つの理由から、相続登記が行われないケースが続出しているため、2024年からは相続登記が義務化されることになりました。
1つ目の問題点は、 相続登記手続きが義務ではないことにより、相続登記を行わなかったとしても所有者が不利益を被ることは少ないことです。
不動産を処分する場合、所有者は自身の名義として不動産を売却しなければいけませんが、相続により自宅を取得しそのまま利用していたり、農作放棄地など未利用の土地はすぐに売却することはありません。
相続登記を行わなくても実害が少ない場合においては、手続きの煩雑さや費用を抑えるために相続登記を行わないことケースも存在します。
2つ目は、 日本の人口減少や高齢化、都市部への人口移動などにより、地方になる土地を中心に不動産の所有意識が低下したのとともに、不動産を所有する需要も下がったことです。
都心部に移住した相続人であれば、実家の土地を相続したとしても利用価値を見出すことは難しいですし、高齢化などの影響で不動産を借りる人も少なくなっているのも、相続登記が行われない要因です。
3つ目は、 遺産分割をしないまま相続が繰り返されると、土地共有者が増加して相続登記を行うことが困難になる点です。
相続人が子3人であれば、3人で遺産分割協議を行うことができますが、相続人が亡くなった場合、不動産を相続するためには相続人の相続人が話し合うことになります。
ただ相続人の相続人が各3人いると、遺産分割協議の参加者は9人になるため、話し合いの場を設けるだけでも苦労しますし、利用価値の低い不動産については相続登記されずに放置されたままになります。
上記の理由などにより、現在の法律では相続登記が行われない不動産が増加し続けているため、2024年から相続登記を義務化する判断が下されました。
相続登記の義務化による4つの変更点
相続登記の義務化によって、現在の手続きとは4つ変更点があります。
【相続登記義務化のポイント】
- 罰則規定
- 所有者の住所・氏名が変更した際の登記手続きの義務化
- 所有不動産記録証明制度
- 相続土地国庫帰属制度
相続登記義務を怠った際の罰則規定の制定
2024年4月1日からは、相続人が相続や遺贈により、不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請することが義務化されます。
今までの相続登記は義務ではありませんでしたので、放置しても罰則を受けることはありませんでしたが、義務化以後は相続登記を怠った方に対しては、10万以下の過料が課されることになります。
ただし相続開始から3年以内に遺産分割協議がまとまらない場合については、次のいずれかの手続きを行うことで過料の対象からは除かれます。
- 法定相続分による相続登記
- 自分が相続人であることを期間内に法務局へ申請
相続登記の義務化に伴い、相続登記申請は単独で行えるように法律が改正されたため、相続登記義務の対象者は不動産を相続する人です。
遺産分割協議が完了し実際に不動産を取得した相続人については、所有者となった旨の相続登記を行わなければ、罰則の対象となりますのでご注意ください。
所有者の住所・氏名が変更した際の登記手続きの義務化
相続登記義務化に伴い、所有者の住所や氏名が変更した際は、法務局で変更登記手続きが義務となります。
所有者不明の不動産を減らす(無くす)ために相続登記が義務化されますので、所有者の所在が確認できるようにするため、今後は引越し等をしたタイミングで登記内容の変更手続きが必要です。
変更登記の手続き期限は、変更があった時点から2年以内で、登記手続きを怠った場合には5万円以下の過料が課されます。
所有不動産記録証明制度の制定
「所有不動産記録証明制度」とは、特定の被相続人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、証明する制度です。
相続登記が行われなかった要因の一つに、被相続人が保有していた不動産の把握漏れがありました。
所有不動産記録証明制度は、相続人が被相続人名義の不動産を把握しやすくするとともに、相続登記の申請の手続的負担を軽減や、登記漏れを防止する観点から新設されます。
制度が運用されれば被相続人の不動産の保有状況を確認しやすくなるため、遺産分割後に把握漏れの不動産が判明することも少なくなりますし、登記手続きの簡素化も期待されています。
相続土地国庫帰属制度の創設
「相続土地国庫帰属制度」は、所有者不明土地の発生を抑制するため、相続(遺贈)により土地の所有権を取得した相続人が、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度です。
相続登記が行われないのは、特定の土地だけを放棄したい場合や、相続登記に伴う手続きの負担や不要な土地を維持管理することが困難であることも要因です。
相続土地国庫帰属制度は、不動産を国へ帰属させることにより、現在の不動産管理が不全化している現状を解消する狙いがあります。
制度を利用する際は、承認申請および法務大臣(法務局)の審査・承認が必要となり、申請者は負担金を支払わなければいけません。
相続登記が義務化により登記手続きは避けられませんが、取得したくない不動産を手放せるようになるのは、相続時の新たな選択肢です。
相続登記をしないことによるデメリットとは?
相続登記の義務化により罰則規定が制定されましたが、罰則の有無にかかわらず、相続登記を行わないことによるデメリットは存在します。
不動産を売却することができない
相続登記を行わない最大のデメリットは、不動産を処分できない点です。
不動産を売買する際は、現時点の所有者(売主)から新しい所有者(買主)に名義変更をしなければならず、売主の先代名義のまま不動産は売却できません。
亡くなった人が一定の相続財産を保有している場合、取得した相続財産の額に応じて相続税を支払うことになります。
取得した主な財産が不動産であれば、不動産を売却して納税資金を捻出することも選択肢になります。
しかし相続登記を行っていなければ、不動産の売却資金を相続税の支払いに充てることはできず、別の方法で納税資金を確保しなければなりません。
また不動産は保有しているだけでも固定資産税等の維持管理費がかかりますので、場合によっては不動産が資産ではなく負債となってしまう可能性もあります。
不動産の使用制限および悪用される可能性
銀行から借り入れを行う際、土地を担保として提供することもありますが、相続登記を行っていない土地を担保提供することは難しいです。
遺産分割協議を行っていない場合、相続財産の不動産は相続人が共同で保有している扱いとなるため、他の相続人が借入金の返済ができなかった際は、不動産が差し押さえられることもあります。
また不動産は登記を行っていなければ第三者に対抗することはできないため、万が一土地が悪用等された際、土地所有者であることを主張することができず、不利益を被る可能性もあります。
不動産を相続することが困難になる
遺産分割協議が困難になるのは、相続人の人数だけでなく、他の相続人の連絡先を知らないことも要因の一つです。
元々の相続人が亡くなった人の兄弟姉妹であれば、兄弟姉妹の相続人と会ったことすらない場合も珍しくありませんし、相続人が亡くなれば遺産分割協議を開始するのも難しくなります。
また高齢化社会において、認知症となっている人も増加しており、認知症の方は法律行為を行えないため、遺産分割協議に参加できません。
成年後見人の選任手続きを行えば、成年後見人が代理として遺産分割協議に参加できますが、選任申請には時間がかかりますし、司法書士などの専門家へ依頼した際は報酬費用も発生します。
また成年後見人は成年被後見人の権利を主張する立場にありますので、成年後見人が遺産分割協議に加わることで、遺産分割協議が難航することも考えられます。
相続登記の義務化に向けた対策
相続登記の義務化対策は、現在すでに相続が発生しているかで用いる方法が異なりますし、対策前に現在の状況を確認することも大切です。
保有している不動産をすべて把握すること
自身の相続が発生した場合の対策を考える場合、現時点で保有している不動産をすべて把握してください。
自宅や賃貸物件など、自分で購入した不動産を忘れることは少ないですが、相続した未利用の土地や、共有名義の不動産は把握漏れとなりやすいです。
不動産を共同で所有している場合、固定資産税通知書は代表者へ送られるため、手元にある書類だけでは確認できないこともあります。
そのため過去に不動産を相続したことがある場合は、遺産分割協議書や他の相続人へ聞くなどして、所有不動産を特定してください。
現在の登記状況を確認する
現在使用している不動産でも、相続登記を行っていないまま使用しているケースもあるため、所有不動産が自己の名義で登記されているか確認してください。
登記名義は、権利書や登記事項証明書で確かめることができます。
相続登記をしていない不動産や、相続登記をした後に住所・氏名が変更している場合は、速やかに登記手続きを行ってください。
相続が発生した際はすぐに相続登記を完了させる
相続が実際に発生しましたら、相続登記義務の施行日前後に関係なく速やかに登記手続きを行うようにしましょう。
早期の相続登記は罰則を回避するだけなく、不動産を有効利用や売却して現金化するなど、資産として活かすことができるメリットもあります。
後継者を指名するために遺言書を作成する
相続人はそれぞれに財産を相続する権利がありますので、各相続人が相続したい財産を主張すれば、話し合いがまとまらないことも考えられます。
遺産分割協議が長期化すれば相続登記の期限に間に合わなくなることもあるため、遺言書を作成し、不動産を取得する人を指名することも選択肢になります。
相続登記の手続きの手順
相続登記の大まかな流れは次の通りです。
<相続登記の流れ>
- 相続人の把握
- 相続不動産の確認
- 遺産分割協議・完了
- 必要書類の取得
- 相続登記
遺産分割協議書は、相続人全員が合意して効果が発揮される書類ですので、相続が発生しましたら、相続人を把握する必要があります。
相続においては、配偶者や同居していた子が知らない人が相続人としていることもありますので、相続人については被相続人の戸籍等で確認するようにしてください。
また相続では、亡くなった人の全財産を引き継ぐことになるため、相続財産の確認も重要です。
先祖代々相続している土地などは、相続人も知らないこともありますので、目録が作成されていない場合は、権利書などから相続財産を確認してください。
遺産分割協議が完了し、不動産を取得する相続人が決まりましたら、相続登記手続きを行います。
相続登記は不動産の所在する法務局の窓口、郵送またはインターネットで手続きすることになります。
申請する際は、被相続人・相続人の戸籍謄本や住民票(除票)、固定資産税評価証明書などが必要になり、不足書類があると登記申請は受理されません。
また相続登記には登録免許税が発生しますので、あらかじめ税額計算を行い、申請時に登録免許税を納められるようにしてください。
なお相続登記の登録免許税は固定資産税評価額の0.4%、不動産取得税については相続の際に支払う必要はありません。
まとめ
相続登記は義務化される以前も手続きするのが原則であり、義務化後も基本的な申請手続きの流れは同じです。
亡くなった人の財産を把握するのに時間を要してしまうと、登記手続き期限に間に合わないおそれがありますし、期限までに遺産分割協議がまとまらない場合、法定相続分による相続登記等が必要です。
また相続が発生した際は、相続登記と並行して相続税の申告が必要になるケースもあるので注意しましょう。
相続税の申告期限は相続開始の翌日から10か月以内と、相続登記の期限よりも先に到来しますので、相続登記義務化対策と一緒に相続税対策も行ってください。