相続対策として資産の組み換えるメリットと得られる節税効果
目次
相続財産は分割協議を行い、各相続人が取得する財産を決めますが、相続財産の種類が偏っていると話し合いがまとまりにくいため、生前に資産を組み換えることも選択肢です。
資産の組み換えは遺産分割のしやすさだけでなく、相続税を節税する効果も期待できますので、資産を組み換えるメリットと、相続税を節税できる理由について解説します。
資産組み換えによるメリットとは?
資産の組み換えとは、現在所有している財産を別の財産に変更することをいいます。
たとえば不動産を購入する行為は、財産を預金から不動産へ組み換えることになりますし、保有している株式を手放す場合、株式の代わりに預金を取得することを意味します。
相続財産を取得した相続人の負担を軽減できる
相続対策は相続税の節税だけでなく、相続手続きの負担軽減や、相続後の財産管理費を抑えるために実施します。
相続が発生した場合、亡くなった人の銀行口座をすべて解約することになりますが、複数の銀行に口座を保有している人は多く、利用している銀行の数だけ口座解約の手続きをしなければいけません。
不動産を取得した相続人は、毎年固定資産税を支払うことになりますし、空き家となっている建物は老朽化による倒壊等のリスクがあるので維持管理が必要です。
生前から保有資産の整理をしましょう
また不動産の相続登記は令和6年(2024)年4月から義務化になるため、亡くなった人の名義のまま放置することはできませんし、相続登記を怠ると罰則の対象です。
これらの負担を軽減するためには、生前から資産を整理し、相続人が財産を引き継ぎやすい状況を作ることが大切です。
使っていない銀行口座を解約すれば、相続時に手続きを行う銀行の数は減らせますし、未利用な不動産を処分することで相続登記は不要となり、固定資産税の支払いもなくなります。
遺産分割協議が完了した後に未分割の相続財産が見つかると、再度遺産分割協議書を作成することになりますので、相続財産を把握する意味でも保有資産の整理は重要です。
相続税を節税することができる
相続税は亡くなった人の財産に対して課される税金であり、相続開始時点の価値を相続税評価額として計算します。
評価方法は財産評価基本通達で定められており、土地については路線価方式または倍率方式で評価額を算出します。
路線価方式は、国税庁が公表している路線価をベースに評価額を計算する方法です。
路線価方式で使用する路線価は公示価格の80%相当とされており、公示価格は時価と同程度の価格です。
そのため預金を土地に換えるだけで、相続税評価額を20%程度下げることができます。
倍率方式は、固定資産税評価額に評価倍率を乗じて計算する方式で、固定資産税評価額は公示価格の70%相当とされています。
評価倍率は地目や地域によって異なりますが、宅地であれば1.1倍〜1.4倍の間に収まることが多く、固定資産税評価額に評価倍率を乗じても、公示価格より評価額が高くなることはほとんどありません。
相続税の納税資金を準備できる
相続税は、取得した財産の金額に応じて各相続人が支払うことになり、申告期限までに現金で一括納付するのが原則です。
相続税の総額が500万円だった場合、相続財産の60%を取得した人は300万円、40%取得した人は200万円を納めることになります。
現金・預金を相続した人であれば、相続した財産から相続税を支払うことができます。
しかし不動産などの金銭以外の財産を取得した相続人は、相続税の支払いに苦労することが多く、申告期限までに不動産などを売却して納税資金を確保するのも大変です。
そのため金銭財産を残すために承継する必要性の低い財産を処分し、各相続人に相続税を支払える程度の預金を準備しておくのも相続対策の一つです。
相続対策として資産を組み換える方法
資産組み換え手段としては、資産の種類を換える方法と、資産の用途を変更する方法があります。
現金・預金を不動産に組み換える
相続税対策として効果的なのが、現金・預金を不動産に資産組み換える方法です。
建物は固定資産税評価額が相続税評価額となりますが、固定資産税評価額は建物を実際に購入した額より低くなることが多いです。
また建築年数が経過するほど固定資産税評価額は下がりますので、必然的に相続税評価額も減少してきます。
小規模宅地等の特例
土地の相続税評価額は時価の80%程度なので、預金を土地に変更するだけでも節税効果はありますし、「小規模宅地等の特例」を適用することで、相続税をさらに節税することも可能です。
小規模宅地等の特例は、土地の評価額を最大80%減額できる制度で、自宅の敷地として利用している土地であれば、330㎡まで適用することができます。
1億円の土地を購入して自宅の敷地に利用している場合、小規模宅地等の特例を活用することで、土地の相続税評価額を1,600万円まで下げられるケースもあります。
「未利用不動産」から「収益不動産」に用途を変更する
未利用の不動産は維持管理が大変ですし、固定資産税などの支出も発生するため、売却することも選択肢です。
しかし不動産の所在する地域によっては、不動産の用途を変更し、収益不動産として活用することが期待できます。
収益不動産のメリットは、[収入源の増加]と[相続税評価額の減額]の2点です。
収入源の増加
未利用の不動産を収益不動産として活用すれば、毎月固定の収入が得られますし、不動産所得は不労所得なので、現在の仕事を維持しつつ新しい収入源を持つことができます。
賃料は不動産の維持管理費に充てられるのはもちろんのこと、不動産所得として申告する場合、固定資産税を経費として計上できます。
また収益性の高い不動産は、残された家族の収入源として残すことができるのも利点です。
相続税評価額の減額
相続税の計算においては、不動産を貸付アパートや貸し付けマンションとして使用した場合、土地は貸家建付地評価、建物は貸家評価の対象となります。
一般的な住宅地にある土地であれば、貸家建付地評価で20%程度、建物は貸家評価で30%相続税評価額を減額することが可能です。
また貸付用の土地は小規模宅地等の特例の「貸付事業用宅地等」の対象として、200㎡までの評価額を50%下げることができるため、投資用不動産を取得して相続税を節税する方法もあります。
不動産の資産組み換え時に利用できる譲渡所得の特例制度
資産の組み換えをするために不動産を処分する場合には、売却不動産が譲渡所得税の課税対象となります。
譲渡所得税は、収入金額から取得費等の必要経費を控除した額に対して課される税金ですが、譲渡所得の特例制度を活用すれば売却した利益を控除したり、課税を繰り延べることができます。
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
売却した不動産が居住用財産だった場合、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」(マイホーム特例)を適用できます。
子が建てた家に移り住む場合や、施設に入居するタイミングで自宅を売却すれば、マイホーム特例で売却利益が3,000万円まで無税になります。
事業用資産の買換え特例
事業用資産の買換え特例は、事業用として利用している土地建物等を売却し、一定の条件を満たした土地建物等を取得した場合に適用できる特例です。
買換資産を取得日から1年以内に事業用に利用するなどの要件を満たせば、以下の計算式で求めた収入金額と必要経費をベースに、譲渡所得を算出することができます。
►譲渡資産の譲渡価額≦買換資産の取得価額の場合
譲渡資産の譲渡価額×0.2=収入金額
(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×0.2=必要経費
►譲渡資産の譲渡価額>買換資産の取得価額の場合
譲渡資産の譲渡価額-買換資産の取得価額×0.8=収入金額
(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×(収入金額÷譲渡資産の譲渡価額)=必要経費
特定の居住用財産の買換えの特例
「特定の居住用財産の買換えの特例」とは、現在のマイホームを売却し、新しいマイホームを購入する際に適用する特例です。
適用要件を満たせば、売却利益に対する課税を繰り延べることが可能であり、売却不動産よりも買換え不動産の方が大きい場合、適用した年分に譲渡所得税は課税されません。
譲渡所得の特例を適用する際の注意点
譲渡所得の特例は、確定申告書に特例を適用する旨を記載することで特例適用が認められます。
要件を満たしていても、確定申告をしなかったり、申告書に特例を適用する旨を記載していない場合、特例は適用されませんのでご注意ください。
また課税を繰り延べる特例制度は、買換資産を将来売却した際に繰り延べした金額の精算を行うことになります。
買換え特例を適用した申告書を保管しておかないと、買換資産を売却したときに譲渡所得を正しく計算することができませんので、提出した申告書の控えは必ず保管してください。
まとめ
預金を不動産に変更することで相続税を節税することができますし、投資不動産を相続財産として残せば、相続人が収入に困ることも少なくなります。
一方で、預金の大半を不動産に変更してしまうと、相続税を支払うための資金が不足する恐れがあるため、資産の組み換えはバランスが重要です。
マルイシ税理士法人は、不動産と相続を専門とした税理士事務所ですので、相続税対策はもちろんのこと、不動産を処分する際の税金対策についてもアドバイスできます。
相続に関して少しでも不安やご不明点がありましたら、お気軽にご連絡ください。