東京オリンピック後の不動産投資市場はどうなる?

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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2021年、東京オリンピックは開催延期を経て、当初の想定とは大きく異なる形で閉幕されました。
オリンピック開催前の不動産市況について、開催前の予想と開催後の現状、今後の予測について解説します。

東京オリンピック後は不動産価格が下がるって本当?

東京オリンピック後は景気が下がると予想されていた

従前の予想では、オリンピック閉幕後は全体の景気が下がると予想されていました。
その背景には、1964年の東京オリンピック閉幕後の不況の事例が挙げられます。

 ・1964年の市況(GDP成長率)

出典:みずほ総合研究所
https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/mhri/research/pdf/insight/jp181205.pdf

高度経済成長期の真っただ中、1964年の東京オリンピックは開催されました。
当時の日本は、インフラの整備や建築物などもまだ整っておらず、オリンピック開催決定により、多額の資金によりインフラ整備や建物の建築が行われました。
多額の投資を行うことで経済は活性化されますから、オリンピック開催前の景気は好転します。

 ・1964年以降の不況原因
オリンピック準備期間の経済活性化と比較すると、閉幕後のインフラ等への投資は少なくなるため、GDP成長率は下落しました。
また、経済活性化に対し、政府による金融引き締めも相まって、経済活動はより鈍化した流れです。
  

【検証結果】東京オリンピック後の不動産価格について

2020東京リンピック後、不動産価格についてはどのように推移しているでしょうか。
≪売買市場≫

出典:東日本レインズ Market Watch サマリーレポート
   (2021年10月~12月 首都圏)
http://www.reins.or.jp/pdf/trend/sf/sf_202110-12.pdf

2020東京オリンピック開催前後での各指標の動きを見ていきます。
成約件数に小幅な動きはあるものの、大幅な動きは見られない状況です。
また、価格が前年同月比10%弱上昇していますが、材料費、人件費高騰の影響によるものと推測されます。
そのため、オリンピック投資による不動産価格の上昇などの動きは現状見られません。

≪賃貸市場≫

出典:(一社)全国宅地建物取引業協会 2022年1月 不動産市場動向データ集
   居住用賃貸の動向(首都圏)
https://www.zentaku.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/02/202201-3.pdf

賃貸の傾向です。
2021年4月、5月と前年同月比大幅に上昇していますが、前年は新型コロナウイルスによる第一波の影響で、賃貸市況が冷え込んだ反動と見えます。
オリンピック期間以降、前年を下回る成約件数で推移していますが、いずれも小幅な動きであり、2017年から続く傾向になりますため、オリンピックによる影響は見られない状況です。

上記のとおり、オリンピック開幕前と開幕後で大きな差は現状発生していません。
要因は大きく以下2点が挙げられます。
 

インフラの整備が整った東京での開催

オリンピック開催前、新国立競技場の建設や晴海の選手村開発は大きな話題を呼びました。
一方、1964年と比較すると、東京はインフラの整備はオリンピック開催前に整っており、住宅の供給量も十分にある状況でした。
そのため、2020東京オリンピック開幕に向けて開発されたインフラ・建物によって、景気が左右されるほどの影響はなかったものと判断できます。
開催各国の状況を見てみますと、2016年リオデジャネイロオリンピック後、景気後退が進んでいます。
これは、インフラの未整備や開発が少なかったブラジルの整備が進んだため、開催前は景気が好転し、閉幕後はその反動で成長率が鈍化しました。
1964年の東京オリンピックと同じ動きです。
一方、2012年ロンドンオリンピックは、開催前、閉幕後に動きは見られませんでした。
東京やロンドンなど、インフラや開発が整備されていた地域では、オリンピックによる景気に与える影響は少ないものと思われます。
 

外的要因の影響

オリンピックが開催された各国の景気動向を見ていきます。
例えば2012年ロンドンオリンピックについては、閉幕後、徐々に景気が上昇しています。
これは、2008年のリーマンショックにより景気が後退し、全世界的に2012年は景気回復の過程であった事によります。
このため、オリンピックによる一時的な市況活発による影響よりは、リーマンショックなど外的要因が与える影響が大きいと考えられます。
2020東京オリンピックは、コロナ禍で開催されました。
そのため、オリンピック前後で市況が変化するのではなく、コロナ禍を見据えた市況動向を抑える必要があると言えるでしょう。

過去のオリンピック後の不動産市場について

直近の各国オリンピック開催後の不動産市況について確認します。

出典:みずほ総合研究所 オリンピック開催国のGDP推移
https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/mhri/research/pdf/insight/jp181205.pdf

各国開催の開催決定から開催後5年のGDPをグラフにしたものです。
多くの開催国で、オリンピック前後でオリンピック景気動向に影響がないことがわかります。
例えば、1992年のバルセロナオリンピックの開催翌年は、ヨーロッパ通貨危機によりEU加盟国全体が景気の打撃を受けています。

また、2000年のシドニーオリンピックの開催翌年はITバブル、2006年の北京オリンピックの開催翌年はリーマンショックによる影響で、GDPが下落しています。
2012年のロンドンオリンピックでは、開催前のリーマンショックからGDPが下落していますが、開催年以降は徐々に回復傾向にあり、開催前後での伸び率に変化は見られません。
唯一、2016年のリオデジャネイロオリンピックでは、開催決定からインフラの整備が進み、その反動で開催年と翌年がGDP下落しました。

これは、インフラの整備が進んでいないブラジルで、開発が進んだことによる反動であるため、1964年の東京オリンピックと同様の理由です。
つまり、インフラが整っている都市での開催においては、オリンピックによる経済影響は微小である傾向にあります。

2022年以降の不動産投資はどうなる?

今後の予想をアセットごとに解説します。
 

住宅市況

選手村の開発「晴海フラッグ」は、選手村としての利用後、一般分譲されることで話題になりました。
晴海フラッグの総戸数は6,000戸弱であり、住宅の供給数は多くなると予想され、価格の変動などが気になります。
しかし、首都圏の2021年新築マンション総分譲数は約3万3,000戸、期間を分けて分譲されるため、不動産市況全体へ影響を与えるほどのインパクトはないでしょう。
晴海フラッグ以外でも、首都圏の人口拡大および住宅供給数は今後も拡大すると予想されますため、首都圏住宅の需要は今後も引き続いていくものと思われます。

 

オフィス市況

  

 
出典:三幸エステート 2022年2月オフィスマーケットレポート
https://www.sanko-e.co.jp/pdf/data/202202_tokyo23.pdf

オリンピックによる景気動向の変化、新たな産業などが発生していない状況であるため、オフィス市況における影響もやはりありません。
一方、新型コロナウイルスの影響によるオフィス需要の変化には、今後も注視すべきです。
現在、賃料相場の大幅な下落は見られませんが、空室率が5%前後で推移しているため、今後の動向によっては賃料下落となる可能性もあります。

物流市況

こちらもオリンピックの影響はありません。
テレワーク・リモートワークの普及や、新型コロナウイルスによる外出自粛により、宅配需要が増加している事から、物流施設の需要も高まっています。
需要により供給が追い付かない状況であり、今後も安定した需要が見込める市況です。

 

ホテル市況

オリンピック開催期間中のインバウンド需要を想定より大幅に取り込めなかったため、短期的に見るとオリンピックの影響はありました。
長期的に見ると、やはり新型コロナウイルスによるインバウンド激減の影響が大きく、コロナ禍が続く限りはこの動きは続くと思われます。
国内のホテル需要においては、延べ宿泊者数の推移は国内の感染状況に比例しています。
インバウンド減少による利用者ベースが下がり、国内需要は感染状況により推移していくものと読み取れます。

まとめ

過去のオリンピック開催国の閉幕後景気動向から、2020東京オリンピック後の景気動向について、下落の可能性があると注目がされていました。
2020東京オリンピックにおけるインフラ整備、住宅建築などによる不動産市況の影響についても注目されていました。
蓋を開けてみると、オリンピック開幕における不動産市況の影響は限定的であることがわかります。
元々開発が進んでいた東京での開催という事で、オリンピック関連の開発による経済活性化は一時的で、それによる金融引き締めまでの影響は現状ない模様です。
一方、元々加熱していた住宅市況の引き締めにより、住宅ローンの固定金利上昇が発表されたため、外的要因での影響は出始めています。
オリンピックによる市況動向の変化は参考程度に留め、新型コロナウイルス等の動向を今後注視しましょう。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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