取得費加算の特例の要件や計算例・手続き方法についてわかりやすく不動産税理士が解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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「相続が3代続くと財産がなくなる」と言われます。相続税には基礎控除があるため、これは厳密言えば正しくありませんが、相続税がいかに多額かを示す言葉としては、ある意味的を射ています。

では、相続税を払って相続した財産を、今度は売ったらどうなるのでしょうか?もし買った時より高く売れれば売却益が出るわけですから、普通に考えたら所得税が課税されてしまいます。でも、相続税を払った後で所得税を支払うなんて、厳し過ぎると思いませんか?

そう思う人には朗報です。相続した財産を売却する際の税金には、実は特例が認められているのです。

本日は、その取得費加算の特例について、適用要件や計算例、そして実際に手続きする場合のポイントなどについて解説していきます。

取得費加算の特例とは?

取得費加算の特例とは、簡単に言うと、相続税を払って取得した財産を売却した際に利益が出たとしても、その財産に相当する相続税分だけは利益分からマイナス出来る制度のことです。

これだけでは分かりにくいでしょうから、簡単な例を出してこれからじっくりと解説していきます。まずは譲渡所得の計算方法から復習です。

なお、取得費加算の特例の対象は不動産だけでなくあらゆる財産が対象となりますが、本記事では土地に的を絞って解説していきます。

譲渡所得の計算方法

相続した土地かどうかに関わらず、土地を売却した際の売却益は、売った値段から買った値段を引いて算出します。この売った値段を「収入金額」、買った値段を「取得費」とすると、譲渡所得は以下の算式により算出することができます。

譲渡所得=「収入金額」-「取得費」

ただし、この土地を売却するにあたり、不動産屋などに諸費用を支払った場合、譲渡所得の算式は以下のように変化します。

譲渡所得=「収入金額」-{「取得費」+「譲渡費用(諸費用)」}

たとえば、相続した土地の「取得費」が100、その土地を売却して得た「収入金額」が300、そして不動産屋などに支払った「譲渡費用」が30だった場合の譲渡所得は、以下のようになります。

譲渡所得=300-(100+30)=170

ちなみに、譲渡所得に対する税率は約20%ですから、この場合所得税は以下のようになります。

譲渡所得税=170×20%=34

なお、土地の取得費は相続税評価額でなく、被相続人がその土地を購入した時の価格となります。万が一それが分からない場合は、売った金額の5%を土地の取得費とみなすことが出来ます。

取得費加算の特例を用いた譲渡所得の計算方法

それでは、譲渡所得の計算方法を踏まえた上で、取得費加算の特例を用いた場合について解説します。

取得費加算の特例を用いると、上述の式の「取得費」の部分にこの土地に相当する相続税分が加わるため、算式は以下のように変形します。

譲渡所得=「収入金額」-{(「取得費」+「加算する相続税額」)+譲渡費用(諸費用)}

たとえば「加算する相続税額」が50だった場合であれば、これに先程の数字を代入すると譲渡所得は以下のようになります。

譲渡所得=300-{(100+50)+30}=120

こちらも所得税は以下のようになります。

譲渡所得税=120×20%=24

ご覧のように、取得費加算の特例を用いて加算する相続税額が増えれば増えるほど、所得税額を減らすことが出来るのが分かります。

取得費加算の特例の適用要件

次に、取得費加算の特例を使うための適用要件について解説します。この特例に必要な要件は、以下の5つです。

  • 譲渡(=売却)した財産が、相続か遺贈によって取得したものであること
  • その財産を取得した時に相続税を払っていること
  • 譲渡した財産が相続税の課税対象となった資産であること
  • 財産を譲渡したのが、被相続人が亡くなった日の翌日から3年10ヶ月以内であること
  • 資産譲渡の際に譲渡益が算出されていること
  • 譲渡所得の確定申告を行うこと

譲渡(=売却)した財産が、相続か遺贈によって取得したものであること

取得費加算の特例を受けるためには、まずその資産が「相続」もしくは「遺贈(遺言によって財産を得ること)」のどちらかによって取得したものでなければなりません。

したがって、自分で購入したものや被相続人から生前贈与を受けたものなどを譲渡する際には、この特例を使うことが出来ません。

その財産を取得した時に相続税を払っていること

取得費加算の特例によって加算出来るのは、その資産を相続した時に支払った相続税(正確には、その資産に相当する相続税分)です。

したがって、譲渡した財産を取得した際に相続税を支払っていないのであれば、この特例を用いることは出来ません。

譲渡した財産が相続税の課税対象となった資産であること

相続財産には、相続税の課税対象になるものとならないものがあります。たとえば墓地や仏壇、公共事業用の財産などは相続税の非課税財産となるため、相続税が課税されていません。

したがって、譲渡した財産が相続税の非課税財産であった場合、取得費に加算できる相続税がそもそも存在しないため、この特例を受けることが出来ません。

財産を譲渡したのが、被相続人が亡くなった日の翌日から3年10ヶ月以内であること

取得費加算の特例を受けるためには、相続税の申告期限の翌日以後3年(=被相続人が亡くなった翌日から3年10ヶ月)を経過するまでの間に、資産を譲渡しなければなりません。

この期間を過ぎてしまうと、他のすべての要件を満たしていたとしても、この特例を受けることは出来ません。

資産譲渡の際に譲渡益が算出されていること

この特例を用いると、取得費に相続税分を加算して譲渡益を減らし、所得税を減らすことができます。

したがって、資産の譲渡によって譲渡益が算出されていなければ、特例を使うことができません。

譲渡所得の確定申告を行うこと

最後の要件が、譲渡所得の確定申告を行うことです。取得費加算の特例を使って譲渡所得税を算出した申告書を提出し、納税を済ませます。また、申告書には後述の明細書などを添付しなければなりません。

なお、適用要件を満たしているかどうかの確認は、国税庁HPのこちらからも出来ます。下図のように「はい」「いいえ」のどちらかを選択するだけで、要件を満たしているかどうかのチェックが可能です。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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