相続税額の2割加算とは?対象者と計算方法について税理士が解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】

相続財産は配偶者や子だけでなく、孫や兄弟姉妹が取得するケースもあります。
相続税の申告手続きは、基本的に誰が相続財産を取得したとしても同じですが、財産取得者の立場によっては、相続税の納税額が2割増しになる「相続税額の2割加算」の計算をしなければなりません。
本記事では相続税額の2割加算に該当する人の条件と、計算方法について解説します。

相続税額の2割加算とは?

相続税額の2割加算は、相続財産を取得した人が配偶者または被相続人(亡くなった人)の一親等の血族以外の場合、相続税を2割上乗せして納付することになる制度です。
被相続人との血縁関係が薄い人や血縁関係がない人については、相続財産を取得したのは偶然性が高く、孫と養子縁組をして相続財産を渡すとなると、被相続人から子への相続を回避することから相続税の課税を1回免れることになります。
財産取得者がこのようなケースに該当するときは、「相続税額の2割加算」の対象となり、相続税の納付金額が2割増しとなります。

相続税額の2割加算の対象となる人は?

相続税額の2割加算の対象者は、次に該当しない方々です。

<2割加算の対象にならない人>
〇被相続人の配偶者
〇被相続人の一親等の血族
※相続税の計算における「一親等の血族」の判定をする際は、次の点にご注意ください。

  • 被相続人の直系卑属が相続開始以前に死亡または、相続権を失ったことで代襲相続人となった被相続人の直系卑属を含む
  • 被相続人の直系卑属(代襲相続人を除く)が被相続人の養子となっている場合、その養子(民法上被相続人の一親等の法定血族に該当)は、一親等の血族には含まれない
<主な2割加算の対象者>

  • 孫養子(代襲相続人を除く)
  • 兄弟姉妹
  • 甥姪
  • 被相続人と血縁関係がない人

相続税額の2割加算の対象になるかを判定する際、法定相続人に該当するかは関係ありません。
たとえば相続放棄をした子が死亡保険金を受け取った場合、子に相続権はありませんが、被相続人の一親等の血族に該当するため2割加算の適用はないです。
被相続人に子がいなく、両親など直系尊属が他界している場合、被相続人の兄弟姉妹や甥姪が法定相続人になることもあります。
ただ兄弟姉妹は二親等の血族、甥姪は三親等の血族であるため、これらの方々については、法定相続人となる場合であっても相続税額の2割加算の対象となります。
被相続人の養子として人については、民法上は実子とみなされるため、被相続人の一親等の血族に該当しますが、代襲相続人ではない孫養子は2割加算の対象です。

しかし孫養子であっても、相続開始時点で子(孫の親)が亡くなっており、孫が子の地位を代襲し相続人となっている場合には、2割加算の対象から除かれます。
相続時精算課税適用者が相続開始時点で被相続人の一親等の血族に該当しないケースでも、相続時精算課税に係る贈与が行われた時点で被相続人の一親等の血族であった際は、その贈与財産に対応する相続税額については2割加算の対象外です。
なお贈与税の「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度」を適用した際、贈与者が亡くなり贈与財産を相続税に加算することとなった場合、受贈者の立場によっては2割加算の対象となりますのでご注意ください。
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相続税額の2割加算の計算方法

相続税は総額を計算した後、取得した財産の割合の相続税を各相続人が納めることになります。
相続税額の2割加算の金額を確認する際は、対象者の相続税額を算出する必要がありますので、設例を交えながら相続税の計算の流れをご説明します。

【設例】
・相続財産1.28億円
・相続人3人(配偶者、兄弟2人)
・相続財産の取得割合
 配偶者:50%
 兄  :30%
 弟  :20%

相続財産の評価額を計算して課税遺産の総額を算出

相続税を算出するためには、最初に被相続人の財産すべてを把握し、各財産の相続税評価額を計算します。
各財産の相続税評価額を合計した金額から、次の算式により求めた基礎控除額を差し引いた残額が相続税の課税対象金額(課税遺産総額)となります。

<相続税の基礎控除額の計算式>
3,000万円+600万円×法定相続人の人数=相続税の基礎控除額

法定相続人が3人の場合、基礎控除額は4,800万円ですので、相続財産1.28億円から基礎控除額を差し引いた8,000万円が相続税の課税対象金額です。
相続財産が基礎控除額以内であれば、相続税の対象となる金額はゼロとなるため、相続税は無税です。

課税遺産総額の計算

1.28億円-4,800万円(基礎控除額)=8,000万円(課税遺産総額)

法定相続分に沿って各相続人の課税価格を算出

課税対象金額は法定相続分により按分し、相続税の税率を乗じます。
税率は対象金額が大きいほど税率は上がり、按分した額に対して税率を乗じた額を合計したものが相続税の総額です。

<相続税の税率>

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% 0円
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

相続税の税額計算

法定相続分 法定相続分に応じた額 税額
配偶者 3/4 8,000万円×3/4=6,000万円 6,000万円×30%-700万円=1,100万円
1/8 8,000万円×1/8=1,000万円 1,000万円×10%=100万円
1/8 8,000万円×1/8=1,000万円 1,000万円×10%=100万円
合計 1,100万円+100万円+100万円=1,300万円(相続税の総額)

各相続人の相続税額を算出

相続税の総額を算出しましたら、相続人等が相続財産を取得した割合を乗じて各人の相続税額を算出します。
設例において、配偶者は相続財産の50%を取得していますので、相続税の総額1,300万円に50%を乗じた650万円が配偶者の相続税額です。
兄弟について同様に、それぞれの取得割合を乗じた金額(兄:390万円、弟:260万円)が相続税額となります。

相続税額の2割加算の額を算出

2割加算の額は、対象者の相続税額に20%を乗じた金額です。

<相続税額の2割加算の計算式>
各人の税額控除前の相続税額×0.2=相続税額の2割加算が行われる場合の加算金額

配偶者は2割加算の対象外ですが、兄および弟は一親等の血族ではないため、2割加算の対象となります。

2割加算の計算式
・兄 390万円×0.2=78万円
・弟 260万円×0.2=52万円

2割加算の金額を算出しましたら、対象者の相続税額に2割加算の額を加え、納付すべき税額を計算します。
相続税は各人ごとに納めることになりますが、相続税の申告書は相続人が協力して1部作成し、提出することになります。

相続税の申告納税額

各相続人の納めるべき相続税
配偶者 650万円-650万円=0円(※)
390万円+78万円=468万円
260万円+52万円=312万円
合計 0円+468万円+312万円=780万円(相続税の申告納税額)

※配偶者の取得財産が1億6千円以下の場合、配偶者の税額軽減を適用することで相続税は全額控除されます。

相続税申告で2割加算をしないとどうなる?

相続税の申告において、2割加算の計算を行わず申告書を提出した場合、本来の納税額よりも過少に申告したことになります。
税務調査で申告誤りが指摘された際は、本税に加えて加算税・延滞税をペナルティとして支払わなければなりません。
たとえば期限内に申告書を提出した相続人が、税務調査で2割加算漏れの指摘されたときは「過少申告加算税」、無申告だった場合は「無申告加算税」が課されます。
延滞税は、申告期限までに納付をしていないことに対するペナルティですので、納付が遅れるほど延滞税の額は増えていきます。
税務調査が実施されるのは、申告書を提出してから1、2年後になることも珍しくありませんので、2割加算漏れに気が付きましたらすぐに修正申告書を提出してください。

相続税額の2割加算の注意点

被相続人に子がいない場合、兄弟姉妹が法定相続人となる場合もありますし、長寿化の影響もあって兄弟姉妹の子(甥姪)が法定相続人となるケースも増えています。
相続税額の2割加算は法定相続人も対象となりますので、配偶者と子以外の人が相続財産を取得した際は、2割加算の対象になるか必ずチェックしてください。
孫養子については、孫が代襲相続人となっている場合を除き、2割加算の対象となりますし、孫養子の2割加算漏れは発生しやすい事例の一つです。

一方で、2割加算の対象外の財産取得者が2割加算を適用し、相続税を2割多く支払っていることもあります。
たとえば両親は被相続人の一親等の血族なので対象外ですし、養子については実子として扱われますので、婿養子や連れ子を養子にした際に2割加算の適用はありません。
孫養子であっても代襲相続により相続人の地位を得ている場合には、2割加算の適用はないため、誤って適用しないよう注意してください。
税務署は税金を過少に申告していた場合には指摘しますが、払い過ぎた税金について連絡してくることは基本的にないです。
納付する相続税額が多い人ほど、2割加算による税額は増えてしまいますので、対象者の確認はもちろんのこと、納税額増加を防ぐために相続税額を減らす対策も必要です。

まとめ

相続税は他の税金に比べて計算が複雑ですので、相続税の申告書を提出する前に2割加算の有無を確認してください。
被相続人の兄弟姉妹や甥姪は、法定相続人であっても2割加算の対象ですし、加算漏れがあれば税務署から指摘されます。
税務署は相続税の申告書が提出された際、2割加算漏れのチェックは必ず行いますし、税務調査で申告誤りを指摘されれば、本税に加えて加算税・延滞税を余分に支払うことになります。
また相続税に精通していない税理士が申告書を作成した場合、2割加算漏れのミスが起きやすいです。
そのため相続に関するご相談につきましては、相続税専門の税理士事務所にしていただくことをオススメします。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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