法定相続情報証明制度とは?メリットやデメリット・手続きの流れを解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】

法定相続情報証明制度は、法務局が相続関係を証明してくれる制度です。
取得するのが面倒な登記簿謄本等を相続手続きで提出する必要がなくなるため、制度を活用することで相続関連の負担を軽減できます。
本記事では、法定相続情報証明制度の概要と注意点、申請方法の流れについて解説します。

法定相続情報証明制度とは?

法定相続情報証明制度は、相続手続きで戸籍謄本等の代わりに「法定相続情報一覧図の写し」を提出することができる制度です。
相続が発生した場合、亡くなった人(被相続人)が不動産を所有していれば、不動産の名義を相続人に変更する相続登記をしなければなりません。

相続登記では、遺産分割協議書や戸籍謄本等を提出することになりますが、手続きは不動産の地域を管轄している法務局ごとに行うことになるため、不動産を複数所有している方は戸籍謄本等を何通も用意する必要があります。
不動産ごとに相続登記の書類を用意するのは大変ですので、登記手続きを行わないまま放置される不動産も存在し、それが原因で所有者不明の土地や空き家が増加していることが問題となっています。

また銀行口座の解約など、民間企業の相続手続きにおいても戸籍謄本等は必要ですので、相続財産が多い人ほど戸籍謄本等を取得する作業が面倒かつ負担となっていました。
法定相続証明制度は、そのような相続手続きに関する負担を軽減するために平成29年5月29日から利用が開始され、現在では戸籍謄本等の代わりに法定相続情報一覧図の写しを提出することができます。

法定相続情報証明制度を活用するメリット

戸籍謄本等の取得回数の削減

相続が発生した際に手続きが必要なものとしては、不動産の名義変更や銀行口座の凍結解除、相続税の申告などがあります。
これらの手続きを行う際に戸籍謄本等は提出しなければならず、手続きする窓口が5か所あれば、5通の戸籍謄本等が必要となるので用意するのが大変です。
しかし法定相続情報証明制度を申請していれば、戸籍謄本等の代わりとして法定相続情報一覧図の写しを提出することできるため、取得する通数は最小限で済みます。

法定相続情報一覧図は無料で取得可能

戸籍謄本等は取得する際に発行手数料が必要になり、1通取得するのに750円かかる自治体も存在します。
被相続人が出生してから亡くなるまでの戸籍がすべて必要となりますので、転籍していればその分だけ申請しなければいけない戸籍は増えています。
また子が本籍を移していれば取得すべき戸籍謄本は増えますし、相続人が先に亡くなっている場合、相続人の相続人(代襲相続人)を特定するために、追加で戸籍謄本を取得しなければなりません。

法定相続情報証明制度を利用した場合、相続関係を表にまとめた「法定相続情報一覧図」が無料で交付されますので、相続に関する費用を抑えられるのも制度を活用するメリットです。
また法定相続情報一覧図を一度作成すれば、再交付も無料でできますので、相続人や手続き箇所が多いケースほど利用する価値は高いです。

法務局が相続に関する情報をチェックしてくれる

法定相続情報一覧図を法務局で取得する際、相続人等が法定相続情報一覧図を作成し、法務局へ提出することになります。
法務局の登記官は、提出された法定相続情報一覧の内容を確認し、内容が正しければ認証文付きの法定相続情報一覧図の写しを発行します。
法定相続情報証明制度の申請時に登記官から戸籍謄本の取得漏れを指摘してもらえれば、相続手続き時のトラブルを事前に回避することが可能です。
また認証文付きの法定相続情報一覧図の写しがあれば、手続きの際に戸籍謄本等を用意する必要がなくなるため、提出書類の不備も防げます。

代理人による申請手続きが可能

法定相続情報証明制度の申請手続きは、次の資格者代理人に依頼することも可能です。
登記手続きは司法書士が専門、相続税については税理士が専門なので、相続に関する手続きを依頼するのと並行して、法定相続情報証明制度の代理申請をしてもらう方法もあります。

【法定相続情報証明制度の代理できる資格者】

  • 税理士
  • 弁護士
  • 司法書士
  • 土地家屋調査士
  • 社会保険労務士
  • 弁理士
  • 海事代理士
  • 行政書士

法定相続情報一覧図は5年間再交付を受けることができる

提出された法定相続情報一覧図は法務局において5年間保管され、期間中であれば法定相続情報一覧図を再交付してもらうことが可能です。
再交付を受けられるのは、当初の申請において申出書に「申出人」として氏名を記載した方に限られます。
そのため法定相続人であっても、申出人とならなかった人は再交付を受けられませんのでご注意ください。

関連記事:相続時精算課税制度とは?制度の仕組みとメリット・デメリット

法定相続情報証明制度のデメリット

戸籍謄本等は必ず取得しなければならない

相続手続きを行う場面が限られている場合、法定相続情報証明制度を利用せず、そのまま戸籍謄本等を提出した方が手続きに関する労力が少ないケースもあります。
法定相続情報証明制度の利用は任意なので申請手続きが必要ですし、申請する際は戸籍謄本等を提出しなければいけません。
したがって戸籍謄本等は、必ず1通は用意することになります。

正確な相続関係図の作成が求められる

法定相続情報証明制度を申請すると、認証文付きの法定相続情報一覧図の写しが発行されますが、申請する際は相続人が法定相続情報一覧図を作成したものを提出しなければなりません。
法定相続情報一覧図の内容は登記官が確認するため、万が一作成ミスがあった場合でも、指摘されるだけなので影響は最小限に留まります。
ただ訂正が必要になれば、その分だけ法定相続情報一覧図の写しが発行されるのが遅くなりますので、相続人の人数が多いなど一覧図の作成が難しい場合は、代理人に依頼することも検討してください。

相続手続きで利用できないケースがある

登記手続きや相続税の申告など、行政機関では戸籍謄本等の代わりとして法定相続情報一覧図の提出も認められています。
しかし金融機関などの民間企業での相続手続きに関しては、法定相続情報一覧図ではなく戸籍謄本等の提出が求められることもあります。
そのため相続手続きを行う金融機関等が、法定相続情報一覧図の写しの提出を認めているか事前に確認してから、法定相続情報証明制度の申請を行ってください。

相続人に変更がある場合は再作成が必要

相続においては相続放棄や廃除により、相続人の立場が失われるケースや、相続開始後に相続人として認められるケースもあります。
事前に作成した法定相続情報一覧図に変更点が発生した場合、一覧図を訂正する必要が出てきます。

法定相続情報証明制度を利用すべきケースとは?

法定相続情報証明制度を利用する最大のメリットは、戸籍謄本等を取得する通数を削減できる点です。
相続財産が多い人ほど相続手続きを行う回数は増えますし、相続人が多い場合も同様です。
被相続人・相続人の本籍地が同じ市町村であれば、同時に取得することも可能ですが、本籍地が点在していると、各自治体から戸籍謄本等を取り寄せなければいけません。

しかし法定相続情報証明制度を利用すれば、取得する際に労力を減らせるとともに、取得する戸籍謄本の通数が少なくなる分だけ費用も抑えられます。
相続手続きが3か所以上必要となるケースについては、法定相続情報証明制度の活用も検討し、5か所以上の場所で戸籍謄本等が必要になるのであれば、制度を活用した方がいいでしょう。

法定相続情報証明制度の手続きの流れと必要書類

法定相続情報証明制度の手続きの流れと、申請する際に必要になる書類をご紹介します。

STEP1:戸籍謄本等の必要書類を集める

法定相続情報証明制度の申請する際は、戸籍謄本などの提出書類を揃えなければいけません。
法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合や、代理人に手続きを依頼する際は、追加で用意すべき書類もあります。

【申請時の必要書類】

書類名 取得先
被相続人の出生から亡くなるまでの連続した戸籍謄本および除籍謄本 被相続人の本籍地の市区町村役場
被相続人の住民票の除票 被相続人の最後の住所地の市区町村役場
相続人全員の現在の戸籍謄本または抄本
(被相続人が死亡した日以後の証明日のものに限る)
各相続人の本籍地の市区町村役場
法定相続情報証明制度の申出人の氏名・住所を確認することができる公的書類
〇公的書類の例示
・運転免許証の表裏両面のコピー
・マイナンバーカードの表面のコピー
各自

【必要に応じて用意すべき書類】
〇法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合
 ・各相続人の住民票記載事項証明書(住民票の写し)
〇委任による代理人が申出の手続をする場合
 ・委任状
 ・申出人と代理人が親族関係にあることが確認できる戸籍謄本
  (親族が代理する場合に限る)
 ・資格者代理人団体所定の身分証明書の写し等
  (資格者代理人が代理する場合に限る)

関連記事:相続手続きは代理人でも可能?委任状の書き方について

STEP2:法定相続情報一覧図の作成する

取得した被相続人および相続人の戸籍謄本等から、法定相続人を一覧にした図を作成します。
法定相続情報一覧図は、A4サイズの白い紙に記載してください。
被相続人の最後の本籍の記載および、相続人の住所の記載は任意ですが、相続人の住所を記載する際は住民票記載事項証明書の提出が必要です。
相続放棄をした相続人は法定相続人ではなくなりますが、法定相続情報一覧図には放棄した人の氏名・生年月日・被相続人との続柄も記載してください。
推定相続人が廃除された場合は、その方の氏名・生年月日・続柄の記載は不要です。
被相続人との続柄については、妻や夫、長女・長男以外に、「子」や「配偶者」と記載することも可能です。
ただし「子」や「配偶者」と記載すると、相続手続き等で使用できないことがありますのでご注意ください。

【参考:法定相続情報一覧図の記載例】

STEP3:申出書の作成・提出

「法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書」に、STEP1で用意した書類と、STEP2で作成した法定相続情報一覧図を揃え、次の場所を管轄するいずれかの法務局に提出します。

<申請対象地>

  • 被相続人の本籍地
  • 被相続人の最後の住所地
  • 申出人の住所地
  • 被相続人名義の不動産の所在地

申出書を提出すると、登記官が提出書類の不足や法定相続情報一覧図に誤りがないかチェックし、内容確認が完了すれば法定相続情報一覧図の写しが交付されます。
申請してから交付されるまでの期間は、1週間程度が目安です。
法定相続情報証明制度の申請や、法定相続情報一覧図の写しの交付手続きは、法務局の窓口だけでなく郵送で行うことも可能です。
郵送で法定相続情報一覧図の写しの交付手続きを行う際は、返信用の封筒および郵便切手を同封してください。

まとめ

法定相続情報証明制度を活用すれば、相続手続きで用意すべき戸籍謄本等の通数を減らせますし、相続関係図として法定相続情報一覧図を手元に残すことができます。
法定相続情報一覧図の写しは5年間再取得できますので、相続が発生してしばらくしてから被相続人の所有財産が発見された場合でも、戸籍謄本等を揃える必要がなくなります。

また法定相続情報証明制度は税理士など、代理人が申請手続きを行うことも可能なので、相続登記や相続税の申告と一緒に申請代行を依頼するのも選択肢です。
相続手続きを行う回数や取得する戸籍謄本等の数が多い人ほど、法定相続情報証明制度を利用するメリットはありますので、相続が発生しましたら本制度の利用もご検討ください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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