不動産所有会社の相続・事業承継で検討したい「金庫株の活用」
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【執筆者:税理士・藤井幹久】
不動産所有会社の事業承継の相談を受ける中で、金庫株を活用することがあります。金庫株とは、会社が自分で持っている自社の株式(=自己株式)のことをいいます。
特に社内にキャッシュが多額にある不動産所有会社については、株主が会社に自己株式を買い取ってもらうことで、事業承継を円滑に進められることがあります。今回は金庫株を活用するメリットと注意点を説明していきます。
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金庫株で株式の分散を防止
不動産管理会社のオーナーが遺言作成などの相続対策をせず、その会社の株式の大半を所有したまま死亡すると、株式が複数の相続人に分散して相続されてしまうことがあります。株式が分散すると、株主の間で経営方針について意見の調整が難しくなり、場合によっては争いの種となってしまうことがあります。
この場合、会社の承継者を除く、株式を相続した相続人から会社が株式を買い取って自己株式(金庫株)とすることで、株式の分散を防止することができます。会社が取得した金庫株には議決権がないため、結果として承継者の持ち株割合を高めることができ、スムーズに会社の意思決定をすることができます。
金庫株を活用して納税資金を準備
借入金もなく、キャッシュが蓄積されている不動産所有会社においては、その会社の株価も高くなりやすく、株式を相続する相続人に高額な相続税がかかります。この場合、相続税の納税資金として、金庫株を活用することがあります。相続した株式の一部を会社に買い取ってもらい、その売却代金で相続税を納税することができるのです。
売却した株主の「みなし配当課税」に注意
上記のメリットがある一方で、所有する自己株式を金庫株として会社に売却した株主には、原則として「みなし配当課税」がされるため注意が必要です。会社は自社の株式を買い取るために、株主に多額のお金を支払います。その際に株主に支払うお金については、税務上、一部は資本金の払戻し、一部は会社が蓄積した利益の分配と考えます。
例えば、当初1,000万円を資本金として出資して100株を取得した会社に対して、金庫株としてその半分の50株を5,000万円で買い取ってもらった場合には、出資の返還である500万円(=1,000万円×50株/100株)には税金はかかりません。
しかし、それを超える4,500万円については利益の分配を受けた(=配当金)とみなされて、「総合課税」がされます。総合課税は超過累進税率なので、4,500万円がみなし配当課税された場合には最高で55%の税率(※)で課税されてしまいます。
安易に金庫株の買い取りを進めると、売却した株主側で思わぬ多額の税負担が発生してしまうことがあるため、かかる税金も事前に考慮した上で進めるようにしましょう。
相続から一定期間内に売却すれば特例あり
上記のとおり、本来、会社が金庫株を取得した場合にはその株主にみなし配当課税がされて多額の税金がかかります。ただし、相続した株式を相続後3年10ヶ月以内に発行法人に対して売却した場合には、「みなし配当課税の特例」として、一律20%(※)の税率で課税されるだけで済みます。配当金としてではなく、単純な株式の売却として課税されるため、税負担が大幅に軽減されるのです。
また、相続した株式を相続後3年10ヶ月以内に売却した場合には、「相続税額の取得費加算」という別の特例があり、株式を売却した際の税金の負担を軽減することができるのですが、この特例は上記のみなし配当課税の特例と併用が可能です。
経験豊富な税理士を顧問にする
金庫株を活用するには、当たり前ですが、会社に株式を買い取るための多額のキャッシュが必要です。また、会社が買い取ることができる金庫株には上限がありますし、株主総会などの手続も必要となります。税務上も特例を受けるための届出書の提出など、注意すべき点があります。
金庫株の活用については、相続や事業承継に詳しい税理士に相談して慎重に進めるようにしましょう。
※所得税・住民税の合計税率。復興特別所得税は考慮なし
※この記事は、「家主と地主12月号/相続税で検討したい節税のポイント 第7回 事業承継で検討したい「金庫株の活用」に掲載された内容です。