相続した不動産を売却する際にかかる税金は?節税可能な特例や特別控除を解説
目次
土地や建物などの不動産を相続した後で、さまざまな理由によりそれらを売却することがあります。
その場合、税金はかかるのでしょうか?
かかるのであればば、どれくらいの金額になるのでしょうか?
また、何か節税できる方法はないのでしょうか?
このような疑問をお持ちの方にお答えするために、本記事では、相続した不動産を売却する際に課税される税金の計算方法と、その節税方法について解説します。
相続した不動産を売却するケースとはどんなとき?
冒頭でもお話ししたように、相続した不動産を自分で所有し続けるのではなく、売却する場合があります。
こういったケースが考えられるのは、おもに以下の3つです。
- 相続したが利用しないので売却する
- 相続税の納税のため売却する
- 換価分割をするために売却する
1.相続したが利用しないので売却する
賃貸住宅に住んでいた子供が親の自宅を相続した場合、自宅に住めば家賃の支払いがなくなるため、保有し続けるだけの十分なメリットが生じます。
しかし、すでにマイホームを持っている場合はどうでしょうか?2軒同時に住むことはできませんし、ただ持っているだけでも固定資産税などの費用が生じてしまいます。
こういったケースでは、相続した不動産が売却されることがあります。
相続税の納税のため売却する
相続した財産の大半が現金預金であれば、相続税の納税に悩むことはありません。
しかし、財産の大半が不動産だったらどうでしょうか?
相続税は、物納などの一部例外を除き、基本的には現金納付しか認められません。
しかし、相続財産の中に含まれている現金預金ではとても賄うことができません。
こういったケースでは、相続した不動産が売却し、現金化して納税資金に充てられることがあります。
換価分割をするために売却する
相続財産には、現金預金のように分割できるものと、不動産のように分割に向かないものがあります。
分割できる資産が多く含まれている場合は問題ありませんが、相続財産の大半が不動産のように分割に不向きの資産である場合、そのままでは平等に分けることができません。
こういったケースでは、不動産を売却して換金し、それを相続人で分配することがあります。ちなみにこの方法を、「換価分割(かんかぶんかつ)」といいます。
相続不動産を売却する際にかかる税金と計算方法
相続不動産を売却する際にかかる税金
相続した不動産を売却した場合、以下の2種類の税金がかかります。
- 譲渡所得税・住民税
- 印紙税
1.譲渡所得税・住民税
不動産を売却した場合、売却価格から取得価格と売却にかかった仲介手数料などの譲渡費用を差し引いた譲渡益に対して譲渡所得税が課税される可能性があります。
ただし、その税率は、不動産の所有期間に応じて2種類に分かれています。
不動産の所有者がその不動産を取得してから売却した年の1月1日までの期間が5年以下の場合を「短期譲渡所得」、5年超を「長期譲渡所得」とし、その税率を以下のように定めています。
所有期間 | 税率 |
---|---|
短期譲渡所得の税率
【売却した年の1月1日までの期間が5年以下の場合】 |
39.63% (所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%) |
長期譲渡所得の税率
【売却した年の1月1日までの期間が5年を超える場合】 |
20.315% (所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%) |
ちなみに、相続した不動産を売却した場合の不動産の所有期間は、
相続人が相続した日からでなく、被相続人がその不動産を所有した日から売却した年の1月1日までの期間を所有期間とします。
2.印紙税
不動産を売買する場合には、売買契約書を作成して売り手との間で売買契約を締結します。
この契約書には印紙を貼ることが義務付けられており、印紙を貼ることで印紙税を納税したものとみなされます。
なお、印紙税の金額は不動産の契約金額に基づき以下のように定められています。
契約金額 | 税額 |
---|---|
1万円未満のもの | 非課税 |
10万円以下のもの | 200円 |
10万円を超え50万円以下のもの | 400円 |
50万円を超え100万円以下のもの | 1千円 |
100万円を超え500万円以下のもの | 2千円 |
500万円を超え1,000万円以下のもの | 1万円 |
1,000万円を超え5,000万円以下のもの | 2万円 |
5,000万円を超え1億円以下のもの | 6万円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 10万円 |
5億円を超え10億円以下のもの | 20万円 |
10億円を超え50億円以下のもの | 40万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 |
不動産の売却益の計算方法
相続した不動産を売却した場合、以下の算式を用いて税金を計算します。
{譲渡対価-(①取得費+②譲渡費用)-③特別控除}×④税率
では、①から④までのそれぞれの項目について、詳しくご説明します。
①取得費とは
「取得費」とは、不動産を取得した金額のことです。
相続した不動産の取得費は、被相続人が生前にその不動産を取得した時の金額をもとに算出します。
具体的には、物件そのものの購入価格だけでなく、仲介手数料や造成費用などを加えたものを取得費とします。
ただし、不動産に建物などの減価償却資産が含まれている場合は、保有期間に応じた減価償却費を計算し、その分を減じます。
また、不動産の取得価格が契約書類の紛失などにより分からない場合は、売却価格の5%を取得費とすることが認められています。
②譲渡費用とは
譲渡費用とは、相続する不動産を売却するために要した費用のことをいいます。
具体的には、不動産業者に支払う仲介手数料や契約書に貼った印紙の代金、建物の取り壊し費用などが含まれます。
③特別控除
「特別控除」とは、不動産を売却した利益から(条件が当てはまる場合に限り)さらに一定額を控除(=引くこと)することが認められている制度のことをいいます。
相続した不動産を売却する場合には、いくつかの特別控除が認められています。この特別控除に関しては、後ほど詳しくご説明します。
④税率
不動産の譲渡所得の税率については、前章でご説明したように所有期間に応じて短期と長期の税率が適用されます。
相続不動産売却時に税金を節税可能な特例について
相続した不動産を売却する場合は、売却にかかる税金を安くすることができる特別控除や特例があります。
これを利用しないと税金が高額になってしまうため、しっかりと確認しておきましょう。
取得費加算の特例
相続で取得した不動産を相続税の申告期限から3年以内に売却する場合には、その不動産を相続するために支払った一定の相続税額を、取得費や譲渡費用などとともに譲渡価格から控除することができます。
なお、この特例を使うためには、以下の条件をすべて満たさなければなりません。
- 売却する不動産が相続や遺贈により取得したものであること
- 当該不動産の相続時に、相続税を支払っていること
- 不動産の売却が、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに行われていること
10年超所有軽減税率の特例
売却した年の1月1日時点で所有期間が10年を超えるマイホームを売却した場合には、特別に以下の税率が適用されます。
- 譲渡益が6,000万円までの部分の税率・・・所得税10%+復興特別所得税0.21%+住民税4%=14.21%
- 譲渡益が6,000万円を超える部分の税率・・・所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%=20.315%
なお、この特別控除に関する要件については、以下のページをご参照ください。
居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除
相続で取得した不動産に居住しており、そのマイホーム(居住用財産)を売った場合は、所有期間の長短にかかわらず、譲渡所得から最高で3,000万円までを控除することができます。
ただし、別荘や賃貸用アパートなどの投資用不動産にこの制度を使うことはできません。
なお、この3,000万円の特別控除は上述の軽減税率の特例と併用することができます。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
被相続人と生前から同居しておらず、相続後も入居していない「空き家」の状態で売却をした場合でも、一定の要件を満たしている場合には最大で3,000万円までの特別控除を受けることができます。
ただし、上述の取得費加算の特例とは併用できず、選択適用となっています。
この特例を用いるためには、「建物の耐震リフォーム」もしくは「建物を取り壊し」が要件とされています。
また、これ以外の要件に関しては、以下のページをご参照ください。
参照:被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁HP
特定居住用財産の買い換え特例
相続で取得し居住していた不動産(マイホーム)を、売却した年の前年から翌年までの3年間の間に買換え等をした場合は、譲渡対価が1億円以下、売った年の1月1日現在で所有期間10年超、居住期間10年以上の場合など一定の要件に該当する場合には、その譲渡益の課税を繰り延べる特例を受けることができます。
ただし、上述の軽減税率の特例または3,000万円の特別控除とは併用できず、選択適用となっています。
なお、この特例に関する要件については、以下のページをご参照ください。
また、売却代金よりも少ない金額で買い替えた場合の要件については、以下のページをご参照ください。
参照:売った金額より少ない金額でマイホームを買い換えたとき|国税庁HP
買い換えた場合の譲渡損失の損失通算及び繰越控除の特例
自宅を売却した結果損失が出た場合で、一定の要件を満たす場合については、給与所得や不動産所得などの他の所得と損益通算することにより損失を相殺して所得を節税することができます。
また、損失が大きく単年で引ききれなかった分に関しては、翌年以降最大3年まで繰り越すことが可能です。
なお、この特例に関する要件については、以下のページをご参照ください。
参照:住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)|国税庁HP
相続した不動産を売却する場合は必ず確定申告が必要
相続した不動産を売却する場合、ご自身で購入した不動産を売却する時と同じように、確定申告をして納税しなければなりません。
前章でお話ししたように、相続した不動産を売却する場合にはさまざまな特別控除や特例があるため、上手に利用すると納税額が0円になることもありますが、特別控除や特例を受けるためには納税額が0円でも必ず確定申告をしなければなりません。
もし確定申告をしないままで税務調査を受け、修正申告をしなければならない場合にはこれらの特別控除や特例は一切使えなくなってしまいます。その結果高額な納税をしなければならない可能性があるため、必ず確定申告をするようにしてください。
相続不動産の売却は税理士に相談するのがおすすめ
相続した不動産を売却する場合、建物の減価償却費を計算しなければ正しい申告をすることができません。
また、上述のように申告時にはさまざまな特別控除や特例を利用することができますが、併用できるものとできないものとがあり、どれとどれを組み合わせるのがベストなのかはケースバイケースです。
一般的に不動産の売買は高額な取引になることが多く、一歩間違えれば納税額も高額になってしまう反面、節税プランも十分に立てることができるため、リスクを回避してメリットを最大限受けるためには、相続や不動産に強い税理士に相談するのが良いでしょう。
税理士は税の専門家ですから、確定申告から税務調査対策までのすべてを任せることができます。
なお、マルイシ税理士法人は不動産と相続に特化して業務を行っているため、不動産や相続に関するあらゆるケースや特殊なニーズに対しても柔軟に対応することができます。
税務リスクを抑えてベストの選択をするために、できるだけ早い段階でご相談いただけますようお待ちしております。
まとめ
相続した不動産を売買する場合にはさまざまな控除や特例を利用することができますが、そのためには必ず確定申告をしなければなりません。
また、特別控除や特例は併用することができるケースもありますが、どれを用いるのが一番良いのかを判断するためには高度な税務知識が必要となります。
さまざまな節税策を上手に活用すれば、納税額を大幅に減額することも、場合によっては0円にすることも十分に可能です。そのためには、できるだけ早い段階から専門家に相談するのが良いでしょう。