不動産の持ち分とは?持分割合と共有名義で不動産を所有するメリット・デメリット

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】

不動産持ち分の決め方(持ち分割合)

不動産持分とは?

不動産持分とは、不動産を2人以上で共有するときの、各人の所有権の割合をいいます。

不動産持分の割合は、共有者の住所や氏名とともに「持分 ◯分の◯」という表示で、一筆の土地・一個の建物ごとに登記されます。

不動産の持分割合と計算式

各人の持分割合は、土地や建物それぞれの購入価額のうち、その人が負担した金額の割合で計算します。

【持分割合の計算式】不動産持分=(自己資金+借入金)/不動産の購入価額

自己資金とは?

自身が支払った金額のことです。
親などから贈与を受けて支払いに宛てた金額についても、ここでは自己資金に含めてください。

借入金とは?

自身の名義で借りたローンのことです。

連帯債務者とは?

「連帯債務者」(※)として一緒に不動産を購入する人がいる場合は、ローンの負担割合を決めることによって、その人も持分を登記することができます。

負担割合は、収入比を基準に決めることが一般的です。

(※)主たる債務者(ローンの契約者)と同様に、ローンの全額を返済する義務を負う人です。連帯保証人のように、主たる債務者が返済できないときになって初めて返済義務が回ってくるものではなく、最初から主たる債務者と同じ返済義務をもつことが特徴です。

持分割合の実例とよくあるケース

どのようなときに不動産を2人以上で共有して、その持分を決めることが多いのか、よくあるケースをご紹介します。

夫婦でマイホームを購入するケース

不動産の共有持分を決める場面は、夫婦でマイホームを購入するときによくみられます。

夫婦がお互いにお金を出し合って購入する場合が多いからです。
ただし、持分を決める際、どちらがいくら用意したかが曖昧になりやすいので注意が必要です。

親子で住宅を購入するケース

子がマイホームの購入を計画しているけれど住宅ローンの借入可能額が少ないため、購入できない場合があります。

そのようなとき、親が(資金を贈与するのではなく)一緒に購入したり、子の連帯債務者になったりすることがあります。

この場合、親子で持分を決めて登記します。

親の家を兄弟で相続するケース

親が亡くなり、兄弟で相続した不動産を共有するケースもあります。

「いつか処分すればいい」と考えて、法定相続分のまま実家を放置している場合や、賃貸用不動産を誰が相続するかでもめてしまい、最終的には持分を決めて遺産分割をする場合など、相続によって理由はさまざまです。

持分割合の決め方

夫婦が下記の土地を購入した例で、夫と妻の持分の決め方を見ていきましょう。

  • 土地の購入価額:5,000万円
  • 頭金:500万円(うち400万円は夫の預金。残り100万円は夫が親から贈与を受けて支払ったもの。)
  • 借入金:4,500万円(2,500万円は夫名義のローン、2,000万円は妻名義のローン)

  • 夫の持分・・・(400万円+100万円+2,500万円)/5,000万円=5分の3
  • 妻の持分・・・2,000万円/5,000万円=5分の2

持分割合の注意点

持分割合で注意しなければならないのは、持分の登記で贈与税が発生する場合があることです。

先ほどの夫婦の例で、夫が「妻の持分が自分より少ないのはかわいそうだから」と、頭金の500万円を妻が用意したことにして、各2分の1の持分割合で登記をしたとします。

このようなことをすると、妻の所有権は2,500万円分に増えますので、差額の500万円分について、夫から妻への贈与があったとみなされてしまいます。

必ず、実際の負担額で登記を行いましょう。

不動産を共有名義で購入するメリット・デメリット

不動産を共有名義で購入するメリット

借り入れできる金額が増える

個人が銀行などから借りることができる金額は、収入や債務の状況で決まりますが、連帯債務者がいれば、一般的にその額は通常より多くなります。

連帯債務以外にも、共に収入のある夫婦などは、それぞれでローンを契約して借入総額を増やす方法もあります。
いずれも、共同名義で購入できる場合のメリットです。

住宅ローン控除をそれぞれが受けられる

住宅ローン控除では、個人の所得税等を、最大で年間40万円(認定住宅なら50万円)まで、10年間(一定の場合は13年間)減額することができます。

ところが借入金の残高が多いと、1人の所得税等から控除しきれない額が発生することがあります。

そこで、住宅を共同名義で購入し、2人で住宅ローン控除を受ければ、減額の対象額が増えるため、より多くの控除を受けられる可能性があります。

なお「連帯債務者」は負担割合に応じて住宅ローン控除を適用できますが、「連帯保証人」は適用できません。

不動産を共有名義で購入するデメリット

登記時や返済時に贈与税の課税リスクがある

「持分割合の注意点」のとおり、実情と異なる持分割合で登記すると、贈与税の課税リスクがあります。
また、他の共有者が負担すべきローンを肩代わりすると、そこでも贈与があったとみなされます。

逆に住宅ローン控除が減ることも

連帯債務者は、負担割合に応じて住宅ローン控除を受けることができます。
ただし、その負担割合が、登記された持分割合と異なると、住宅ローン控除の計算対象にできない借入金が出てくることがあります。

不動産の売却が1人でできなくなる

共有物の処分には、共有者全員の承諾が必要です。
不動産を安易に複数人で共有すると、1人の反対によって、いつまでも売却できなくなる可能性があります。

不動産の持ち分を売却する際に注意したいポイント

2人以上で共有している不動産は、1人の意思で勝手に売却することができません。
ただし、自身の持ち分だけであれば、それを売却することができます。

しかしこれには注意点もあります。

業者に安く買い叩かれる可能性がある

他の共有者が持分の買い手になってくれそうにない場合は、不動産業者への売却を検討します。

しかし、不動産の持分だけを買いたいという人は、多くありませんので、まずは持分の買取りができる不動産業者を探す必要があります。

こうした特殊な取引きは、業者が見つかっても、安く買い叩かれる可能性が高いので注意が必要です。
買取業者はいくつかあるため、比較してみるとよいでしょう。

他の共有者とのトラブルに注意

共有者がいる不動産は、業者でも扱いにくい物件です。

そのため、業者に売却すると、他の所有者に接触し、持分を譲るようにもちかけることが考えられます。
持分を売却するときは、他の所有者にあらかじめ連絡をしておきましょう。

不動産の持分の売却にも税金がかかる

持分の売却によって譲渡益(※)が生じると、通常の土地や建物の売却と同じで、所得税・住民税がかかります。

持分の保有期間が、売却する年の1月1日で5年を超えると税率がおよそ半分になるので、売却するタイミングの参考にするとよいでしょう。

(※)譲渡益=売却代金-(取得費+譲渡費用)

売却できないときの対策

売却以外で不動産の共有関係から抜ける他の方法としては、持分の贈与か持分の放棄が考えられます。

いずれも売却代金は得られず、その上、持分の贈与については贈与相手に、持分の放棄については他の共有者に、それぞれ贈与税が発生します。

持分を放棄すると、他の共有者の持分が増えることから、税務上はそれを放棄した人から他の共有者への贈与とみなすことにしているのです。

使いやすい方法とは言えませんが、「どうしても共有関係をやめたいが売却先が見つからない」というケースでは、検討の価値があるでしょう。

なお、持分の贈与や放棄には、登記が必要です。

登記の申請手続きには、他の共有者に協力してもらう必要があるので、こっそり贈与や放棄をすることはできません。

これらの他、広い土地などについては、共有の土地を分割してそれぞれを単独所有の土地とする「共有物分割」という方法もあります。

関連記事:相続登記(不動産の名義変更)とは?メリット・行わないリスクと手続き方法や必要書類を解説

まとめ

不動産の共有持分には、登記やローンの返済時に誤った対応をすると、贈与税の課税リスクがあります。贈与税には年間110万円の控除がありますが、これを超える場合には贈与税が発生します。

また、住宅ローン控除の扱いで有利になることもありますが、連帯債務者の持分が適正でないと、逆に不利になるケースもあります。連帯債務者と無理のない負担割合を決め、それに基づいて不動産持分を決めることが大切です。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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