相続登記とは?不動産・土地の名義変更の方法や手続き・必要書類を解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相続財産には、現金のように相続後に特別な手続きが必要でないものと、土地建物や自動車のように相続後に名義変更の手続きが必要なものがあります。
名義変更が必要なものの中でも不動産に関しては、「登記」と言う特別な手続きが必要で、そのためには資料を集め、申請書を作成し、さらに別途費用なども必要となります。

相続登記とは?

それではまず、相続登記とは一体どのようなものなのかを簡単にご説明します。

相続登記とは「不動産の名義変更」

冒頭でお話ししたように、土地や建物などの不動産を相続した場合、亡くなった方の名義から新たに相続した人の名義に変更しなければなりません。
この手続きを「相続登記」といいます。

相続登記をするためには、その不動産を管轄している法務局へ必要な書類などを提出して行います。

関連記事:遺産相続とは?手続きの流れや相続税の計算方法など基本知識を解説

相続登記の義務化について

2024年までに、相続の開始を知った日から3年以内の相続登記が義務付けられる予定です。
義務化された場合、相続登記を行わないと10万円以下の過料(罰金)が課されます。

相続登記の義務化については、下記の記事で詳しく解説しております。
関連記事:相続登記の義務化はいつから?期限や今からできる対策を税理士が解説

相続登記(名義変更)を行うメリットとデメリット

相続登記のメリット

相続登記(名義変更)を行うメリットから見てみましょう。

  1. 不動産/土地を売却できる
  2. 土地の所有権を確定できる

メリット①売却することができる

名義変更を行えば自分の土地であることが証明できるため、売却することができるようになります。

もちろん担保に入れて融資を受けることもできますし、他人に貸して地代を受け取ることもできます。

このように名義変更を行うと、さまざまな経済的な利益を享受することができるようになります。

メリット②土地の所有権を確定し、次の世代に遺産として残せる

都市部でなく地方などでは、相続時に遺産分割協議書を作成せず、口約束だけで土地などの財産を相続する人を決めることがあります。

この場合、このまま名義変更を行わないでおくと、次の世代に代替わりした後でこの土地の所有権を主張することが難しくなってしまいます。
土地の名義変更を行っておけば、このようなトラブルを未然に防ぐことができます。

相続登記(名義変更)を行わないデメリットとリスク

では次に、名義変更を行わないとどのようなリスクがあるのかを見てみましょう。

  1. 時間が経過すると登記ができなくなる恐れがある
  2. 売りたい時に売れない
  3. 他の相続人の債権者に、法定相続分だけ登記されてしまうことがある

リスク①時間が経てば経つほど名義変更のための手続きが困難になる

名義変更を行うためには他の相続人に署名捺印してもらわなければなりません(遺産分割協議の場合)。

しかし時間が経って代替わりしてしまうと、その人数が増えてしまう上に連絡を取ること自体も難しくなってしまい、手続きそのものが困難になってしまいます。

リスク②売りたい時に売れない

遺産分割協議の場では口約束で土地を相続する人が決まったとしても、時間が経てばお互いの経済的な状況も変わり、それにともない他の相続人の気が変わってしまう場合があります。

こうなると第三者に対して、土地の所有権を主張することができませんので、名義変更の手続きそのものが困難になってしまいます。

したがって、名義変更をするまでは売ることも担保に入れることもできません。

リスク③他の相続人の債権者に、法定相続分だけ登記されてしまうことがある

他の相続人に借金がある場合、その債権者は債務者である他の相続人に代わって法定相続分で登記を申請することができます(これを「債権者代位」といいます)。

他の相続人の土地の持ち分は債権者に差し押さえられてしまうため、こうなると名義変更ができなくなってしまいます。

この場合、相続時に遺産分割協議書を作成し、あなたがこの土地を相続することが決まっていたとしても、対抗することはできません。

相続した土地の名義変更には義務も期限もありません。

しかしそのまま放置しておくと、このようにさまざまなデメリットが生じる可能性があり、最悪の場合名義変更自体ができなくなってしまうことがあります。

やはり土地の相続が決まったら、できるだけ速やかに名義変更を行うべきでしょう。

関連記事:不動産の持ち分とは?持分割合と共有名義で不動産を所有するメリット・デメリット

相続登記(名義変更)を行う方法

実際に相続登記を行う場合には、以下の3つのパターンがあります。

  1. 遺産分割協議を行って相続登記
  2. 遺言通りに相続登記
  3. 法定相続分通りに登記

それでは、一つずつ見ていきましょう。

1.遺産分割協議を行って相続登記

遺言書がない場合、法定相続人同士で遺産の分割方法に関する話し合いを行います。
これを「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」といい、遺産分割協議によって決まった内容を書き記した書類を「遺産分割協議書(いさんぶんかつきょうぎしょ)」といいます。

遺産分割協議によって誰が不動産を相続するのかが決まると、それに基づいて相続登記を行います。

2.遺言通りに相続登記

遺言書がある場合は、そこに指示された相続人が財産を相続します。
不動産についても同様で、遺言書に書かれている通りに相続人が相続し、相続登記を行います。

3.法定相続分通りに登記

最後に、実際にはあまり行われませんが、法定相続分通りに登記するパターンです。

遺言書や遺産分割協議書がなくても、法定相続人であれば単独でも法定相続分だけの相続登記を行うことができます。

相続人同士が仲良く、何の問題もなければ法定相続分通りに登記をしても当面は問題ありませんが、実際には遺産分割協議がうまく進まない場合などにこのパターンで登記が行われることがあります。

ただし、不動産はすべて共有になるため、売ることはもちろんのこと、担保に入れることもできません。

また、マンションなどの収益物件の場合は、誰が代表者として家賃を受け取るのか、また維持費はどのように払うのかなどの問題が生じることになります。

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相続登記(名義変更)を行うための手順

相続したまま名義変更していない土地を名義変更する場合、以下の手順に沿って行います。

ステップ① まず土地の現況を確認する

法務局で該当する土地の登記簿謄本を取得し、土地の所有者が誰になっているのかを確認します。

なお、当該土地の所在地を管轄している法務局でなくとも登記簿謄本を取得することはできますので、遠方にお住いの場合、お近くの法務局でも手に入れる事ができます。

ステップ② 相続人を確定し、誰が土地を相続するのかを明確にする

土地の所有者(被相続人)が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を収集し、相続人を特定します。

また相続人の中の誰がこの土地を相続するのかを決めるため、相続人全員で協議し、遺産分割協議書を作成します(遺言書がない場合)。

ステップ③ 登記のための申請書を作成する

土地の名義変更を行うためには、法務局で登記の申請をしなければなりません。

そのための申請書類を作成し、遺産分割協議書や戸籍謄本などの添付書類をまとめます。

ステップ④ 登記の申請~登記完了

土地の所在地を管轄している法務局に申請書を提出し、登記の申請を行います。

遠方にお住いの場合であれば、登記申請書を郵送することもできます。
登記自体は大体1週間~10日前後で完了します。

相続登記(不動産の名義変更)に必要な書類

名義変更を行う場合に必要な書類は以下のようになります。

必要書類 詳細
登記申請書 法務局のホームページからダウンロードすることができます。登記の3つのパターンによって必要な書類の種類が変わるため、間違えないように気を付けなければなりません。
不動産の登記事項証明書(登記簿謄本) 不動産の登記事項証明書は、法務局で取得します。ただし、取得するためには正確な所在地の情報が必要となるため、法務局へ行く前に必ず確認をしておきましょう。

なお、登記所の窓口で登記事項証明書の交付を申請する場合は1通あたり600円が必要となりますが、スマホからオンライン請求をする場合は500円で郵送までしてもらえるため、特別な事情がない場合はオンライン請求をおすすめします。

被相続人の戸籍謄本 本籍地が生まれてから一度も変わってなければ1枚でOKですが、本籍地が移動している場合には、生まれてから亡くなるまでの本籍地の移動がつながるようにすべての戸籍謄本が必要となります。
相続人の戸籍謄本 相続人の本籍地を管轄している市区町村役場で発行してもらうことができます。
相続人の住民票 相続人の住民票所在地を管轄している市区町村役場で発行してもらうことができます。
被相続人の住民票の除票 住民票の除票とは、被相続人が亡くなったことにより住民票から除外されたことを示す書類です。なお住民票の除票は、被相続人が最後に住んでいた市区町村役場で取得することができます。
名義変更する土地の固定資産税評価証明書 不動産を登記する時に支払う登録免許税を計算するため、当該不動産の固定資産評価証明書を取得します。当該土地が所在している市区町村役場で発行してもらえます。
相続関係説明図 相続関係説明図とは、被相続人との関係を図にまとめたものです。

作成は任意ですが、添付すると戸籍謄本を提出しても原本還付をしてもらえます。

相続人の印鑑証明 遺産分割協議書に押印した印鑑が実印であることを証明するため、相続人全員分の印鑑証明を集めます。なお、印鑑証明は相続人の住民票所在地の市区町村役場で発行してもらうことができます。
遺産分割協議書(遺言書がない場合) 作り方に特別なルールはありませんが、最低限「誰がこの土地を相続するのか」が記載されていなければなりませんし、最後に相続人全員の実印による捺印が必要となります。
遺言書及び検認調書(遺言による相続の場合) 相続人が残した遺言書と、遺言書を開封する時に家庭裁判所が作成した検認調書を用意します。

相続登記(土地の名義変更)に必要な費用

不動産の登記は司法書士の独占業務と決められています。

専門家である司法書士に登記を依頼する場合、だいたい相場としては8万円~15万円程度の報酬が必要となります。

ただし、2世代に渡り名義変更が行われてなかった場合や相続人の特定が困難である場合、また遺産分割協議書を作成していない場合など、状況に応じてその報酬額は変動します。

仮に名義変更をする土地の固定資産税評価額が5,000万円であるとすると、司法書士に登記を依頼する場合とご自分で登記をする場合を比較してみると、費用は以下のようになります。

司法書士に依頼する場合

  • 登録免許税・・・20万円(固定資産税評価額×0.4%)
  • 司法書士報酬・・・8万円~15万円前後
  • 合計・・・28万円~35万円

自分で登記する場合

  • 登録免許税・・・20万円(固定資産税評価額×0.4%)
  • 司法書士報酬・・・0円
  • 合計・・・20万円

司法書士に依頼しなければ報酬分だけ費用は減りますが、手間はかなりかかります。

特に相続人の特定が難しい場合などは書類作成の難易度はかなり高くなり、また時間もかかるため、そのような場合にはやはり専門家に依頼した方が無難でしょう。

自分で相続登記(名義変更)することは可能?

土地の名義変更は、自分でする事も可能です。
しかしほとんどの人にとって初めてのことでしょうから、法務局の登記相談を利用し、何度も足を運んで作成した書類などをチェックしてもらう必要があるでしょう。

作成に自信のない方や時間のない方は司法書士に依頼するのがおすすめ

資料の収集や書類の作成などに自信のない方や、仕事などで忙しく時間がない方は登記の専門家である司法書士に依頼するのがおすすめです。

安心して任せることができますし、登記のミスを心配する必要もありません。ご自身で登記申請をした場合は、書類に不備があると何度も呼び出され訂正を求められます。

このような手間暇や登記の間違いを犯すリスクがご心配な方は、司法書士に依頼した方がよいでしょう。

土地の名義変更の際に気を付けるべき注意点

最後に、土地の名義変更の際に気を付けるべき注意点についてまとめてみます。

注意点① 書類は完璧にしてから他の相続人に押印してもらう

司法書士に依頼する場合は問題ありませんが、ご自分で書類を作成する場合、かなりの確率で何度も失敗を繰り返します。

そのたびに他の相続人に印鑑をもらい直していると、手間もかかりますし、何より不信に思われてしまう可能性もあります。

注意点② 物件調査は必ず行う

土地の名義変更を行う場合には、物件の現地調査を必ず行いましょう。

その物件に行くために私道を通らなければならない場合には、私道持ち分を持っている可能性があります。

また近隣の住民と共有で、ゴミ置き場の持ち分を持っている場合もあります。
私道部分が抜け落ちたまま登記が完了してしまうと、建築基準法を満たさなくなり、後日建物を建てることができなくなってしまう場合があります。

注意点③ 一度申請が通ってしまうとやり直しが難しい

登記の申請は書類上間違いがなければ、そのまま通ってしまいます。

しかし何らかの理由で間違っていた場合、後で訂正するためには書類をすべて作り直さなければなりませんし、その間に相続人同士の人間関係が申請当時と変わってしまう場合もあります。
このように名義変更が終了してからのやり直しはかなり難しいため、申請する前には何度も確認しておくことが大切です。

まとめ

相続した土地の名義変更には期限が決められているわけではありませんし、変更義務もありません。

しかしそのまま放置しておくと、最悪の場合相続すること自体が困難になる可能性があります。

このような事態を避けるため、土地を相続することが決まったら、できるだけ速やかに名義変更を済ませるように心がけましょう。

相続人の関係が複雑でなければ、ご自身で名義変更することも十分に可能ですし、自力での申請はハードルが高いと感じた場合には、司法書士に依頼する事もできます。

土地を遺してくれた人やご自分自身、また将来この土地を受け継ぐ人のためにも名義変更は必ず行っておきましょう。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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