相続分の譲渡とは?譲渡時の手続きの注意点や相続放棄との違いについて

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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被相続人の財産は、基本的には民法で定められた相続割合に従い、法定相続人によって相続されます。また、プラスの財産もマイナスの財産も相続せずに相続放棄することも認められています。 この2つの相続方法については多くの方もご存じだと思いますが、実はそれ以外にも「相続分の譲渡」という方法があります。相続分の譲渡について、基本的な内容からその注意点までをじっくりと解説していきます。

相続分の譲渡とは

相続分の譲渡とは、相続人が自分の相続分を、他の相続人もしくは相続人でない第三者に譲渡することをいいます。相続分の譲渡にあたっては、有償である必要はなく、無償でも構いません。

相続分の譲渡は、「相続争いに巻き込まれたくない」などの理由がある場合や、他の相続人に相続分を譲渡して、その分に相当する現金を早く手に入れたい場合などに行なわれます。

なお、相続分を譲渡する場合は遺産分割協議の前に行なわなければならず、また、相続分は譲渡しても、相続分に相当する債務(マイナスの財産)については引き続き弁済義務を負わなければなりません。

相続分の譲渡を行うケース

相続分の譲渡が行われるのはどのようなケースなのか、具体例を用いて解説してみます。

例えば、相続財産の内訳が現金1,000万円、不動産8,000万円の合計9,000万円で、相続人が長男、長女、次男の3人だったとします。


長男と長女は不動産の相続を巡り対立しており、次男は不動産に興味がなく早く遺産(できれば現金)を相続したいと考えています。

財産の合計は9,000万円ですから相続人1人あたり3,000万円ほどの財産を相続する権利がありますが、争いが長引けば実際に遺産を相続できる日がいったいいつになるのか分かりません。

そこで次男が長男に対し、3,000万円の相続分を譲渡し、その代わりに2,000万円の現金を長男から今すぐもらう約束をします。

次男の相続分は1,000万円分減りますが、即金で2,000万円を手に入れることができるのですから、決して悪い話ではありません。

長男は次男の3,000万円の相続分を2,000万円で手に入れ、相続分を6,000万円にまで増やすことができました。

その後、長男と長女の2人は話し合いにより、長女は遺産の現金1,000万円と長男のお金から2,000万円の合計3,000万円の現金を相続し、不動産は長男が相続することになりました。

長男としては、次男に2,000万円、長女に2,000万円の現金を支払いましたが、その対価として合計8,000万円の不動産を相続することができたわけです。

この例のように、相続分の譲渡は、相続争いを避けたい場合やできるだけ早く相続分を(現金などで)手に入れたい場合などに用いられています。

相続分の譲渡と相続放棄の違い

相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も含めすべての財産を相続する権利を放棄することをいいます。そのため、相続放棄後に莫大な財産が見つかったとしても一切の財産を相続することができない代わりに、被相続人の残した負債を背負う必要もなくなります。

いっぽう相続分の譲渡は、あくまで相続分のみを譲渡するだけであり、相続分譲渡後も被相続人が残した借金の債権者から返還請求をされた場合には、それに応じなければなりません。
                                

つまり、プラス・マイナスの両方の財産の一切を相続しない場合には相続放棄を選択し、遺産相続争いに巻き込まれずに早く財産を手にしたい場合には相続分の譲渡を選択します。

相続分の譲渡のメリット

それではここで、相続分の譲渡のメリットについてまとめてみます。

メリット① 特定の人物に譲渡できる

相続分の譲渡を行った場合、特定の人物の相続分を増やすことができます。たとえば長男が生前被相続人の世話をしていたのであれば、長男に相続分の譲渡を行うことにより長男の相続分だけを増やすことができます。

相続放棄をした場合ははじめから放棄した相続人はいなかったものとして遺産分割を行うため、長男の相続分も増えますが他の相続人の相続分も同様に増えることになります。

メリット② 相続分の一部のみを譲渡することができる

相続財産の全部を譲渡するのは嫌だけど、一部だけを他の相続人に譲渡したい場合にも一部だけ譲渡することができます。

たとえば、自分が相続する分の1/2を他の相続人に譲渡し、自分は本来の相続分の1/2だけを相続することもできます。

いっぽう相続放棄の場合、一部分のみを放棄することはできず、すべての財産を放棄しなければなりません。

メリット③ 遺産分割協議がスムーズになる

相続分の譲渡を他の相続人に行うと、相続人の数がその分減ります。遺産分割協議で集まらなければならない相続人の数が減るため、その分だけ遺産分割協議がスムーズになります。

また、上述の例のように遺産分割がスムーズに行っていない場合は、相続分の譲渡により相続人同士の力関係が崩れるため、結果的に遺産分割協議がスムーズになることがあります。

相続分の譲渡のデメリット

メリットに続き、相続分の譲渡のデメリットも確認しておきましょう。

デメリット① 遺産分割協議が難航する

相続分の譲渡は、相続人でない第三者にも行うことができます。もしも第三者に相続分を譲渡した場合、ただでさえ難しい遺産分割協議がさらに難航することは容易に想像できます。

デメリット② 債務の返済義務は負う

相続分の譲渡は、有償でなくとも構いません。たとえば長男が次男に無償で相続分の譲渡を行うこともできます。ただしその場合でも、被相続人に債務があれば、債務の返済義務は負わなければなりません。

繰り返しになりますが、有償無性に関わらず、相続分の譲渡は債務の返済義務とは切り離すことができません。

相続分の譲渡時の注意点について

最後に、相続分を譲渡した場合の注意点についていくつかまとめてみます。

注意点① 相続分が取り戻しされる可能性がある

遺産分割協議に相続分を譲渡された第三者が加わると、遺産の分割そのものが難しくなる可能性が高くなります。

そのため、相続分の譲渡が相続人以外の第三者に対して行われた場合には、これを取り戻すことが認められています(民法905条1項)。ただし相続分の譲渡を取り戻すためには、以下の3つの条件をすべて満たさなければなりません。

相続分が相続人以外の第三者に譲渡されている
相続分を譲渡された人(譲受人)に対して相続分の価額や費用を支払う
譲渡されてから1ヶ月以内に行う

ちなみに、相続分の取り戻しを行う場合譲受人に対する同意を得る必要はなく、譲受人が反対したとしても取り戻しの効果が生じます。

また、取り戻しを行った相続分に関しては相続人全員の相続財産となります。このような理由により、第三者への相続分の譲渡は他の相続人による相続分の取戻しにより、その効果が無効となる可能性があります。

注意点② 相続分の譲渡は贈与となる場合がある

相続人に相続分の譲渡を行った場合の課税関係は、以下の4つのタイプに分類することができます。

①無償で他の相続人に相続分の譲渡を行った場合

 

相続人が他の相続人に対して無償で相続分の譲渡を行った場合、譲渡人は財産を相続しないため相続税は0円となります。いっぽう相続分の譲渡を受けた譲受人については相続分が増加した分に応じた相続税を支払わなければなりません。

上図の例の場合、配偶者から次男へ無償で相続分の譲渡が行われたため、配偶者の相続税は0円になり、次男は配偶者から譲り受けた相続分だけ長男や長女よりも余分に相続税を支払うことになります。

有償で他の相続人に相続分の譲渡を行った場合

有償で他の相続人に相続分の譲渡を行った場合、譲渡人が受け取った金額は相続財産とみなされるため、受け取った金額に対して相続税を支払います。

いっぽう譲受人は、全相続財産から譲渡者に支払った金額を引いた財産に対して相続税を支払います。

上図の例の場合、配偶者は受け取った1億円に対する相続税を支払います。いっぽう次男は、相続する財産(全財産の4/6)から1億円を引いた金額に対する相続税を支払います。

無償で第三者に相続分の譲渡を行った場合

無償で第三者に相続分の譲渡を行った場合、財産をいったん相続してから譲渡したものとみなされるため、譲渡人には相続税が課税されます。いっぽう譲受人は贈与を受けたものとみなされるため、贈与税が課税されます。

上図の例の場合、配偶者はいったん全相続財産のうち1/2を相続したものとみなされるため、相続分に対する相続税が課税されます。

無償で相続分の譲渡を受けた第三者は、譲渡を受けた金額が贈与を受けたとみなされるため、その分に対する贈与税が課税されます。

有償で第三者に相続分の譲渡を行った場合

有償で第三者に相続分の譲渡を行った場合、譲渡人はいったん財産を相続し、その後譲渡したものとみなされるため、相続分に対して相続税が課税されます。また、譲渡した相続分のうちに不動産などがあり、受け取った対価につき譲渡所得(売却益)が発生する場合には、譲渡所得税・住民税が課税されます。

また、譲受人が相続分の譲渡に相当する対価を支払っている場合は贈与税が課税されません。ただし、相続分に相当する金額よりも少ない金額を支払った場合は、差額分に対する贈与税が課税されることがあります。

なお、上図の例の場合、配偶者は相続分(全財産の1/2)の相続税を支払い、第三者から対価を得ます。いっぽう第三者は、対価を支払った見返りとして相続分の譲渡を受けます。ただしその対価が相続分と比べて少ない場合には差額に贈与税が課税されることがあります。

寄与分や特別受益も引き継がれる

被相続人に対して生前財産の増加や看護などで特別に寄与したものを寄与分、生前に贈与などを受けていたものを特別受益といい、それに応じた金額は通常遺産分割時に反映されることになっています。

もし寄与分や特別受益が譲渡した相続人にあった場合には、寄与分や特別受益についてもそのまま譲受人に引き継がれることになります。

まとめ

相続分の譲渡は相続争いに巻き込まれそうな場合や遺産を早く欲しい場合などには大変便利な制度ですが、譲渡後も借金などの債務の返済義務は負わなければならないため、慎重に判断しなければなりません。

そのため、相続分の譲渡をご検討の方は、弁護士や税理士などの専門家に相談してから行うことをお薦めします。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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