相続税の債務控除のすべて|控除の対象となる債務と利用できる人とは?
目次
債務控除とは、相続税の計算時に遺産総額から債務を差し引くことです。
本稿の前半では「債務控除の対象になる財産、ならない財産」「債務控除が可能な人、できない人」をくわしく解説します。
後半では債務控除の手続きについても触れます。「本来払わなくてよい相続税を納めてしまった!」とならないようしっかり学びましょう。
相続税の債務控除とは?
はじめに、債務控除の基本的な部分を確認します。
債務控除とは
相続税の債務控除とは、相続税を計算するときに遺産総額から債務を差し引くことです。仮に、1億円の金融資産があって2,000万円の借入金があれば、借入金を控除した8,000万円に対して課税されるということです。
※わかりやすくお伝えするため、基礎控除などは除いています。
債務とは、借入金・借金・ローン・未払い金などのことです。債務の意味をもっと厳密にいえば、特定の人にお金を支払ったり物品を渡したりする義務のことです。
債務控除ができる理由
相続税を計算するときに遺産総額から債務を差し引ける理由は、財産には「プラスの財産(金融資産や不動産など)」と「マイナスの財産(借入金や未払い金など)」があるからです。つまり、借入金も財産なのです。そのため、相続税を計算するときにプラスの財産とマイナスの財産を相殺する必要があるのです。
債務控除の対象となる債務とは?
国税庁では、債務控除のできる債務を「相続人が死亡したときにあった債務で確実と認められるもの(No.4126)」と規定しています。ただし、この条件に合わないものでも債務控除ができたり、逆にこの条件に合っていても債務控除できなかったりするケースもあるので要注意です。
債務控除の対象となる債務
借入金(金融機関のローン・知人から借りたお金)
相続税の債務控除の対象となる具体的な借入金は、金融機関から借りたローンがあります。加えて、友人・知人から借りた個人の借金も債務控除の対象になります。
未払い金(商品代金・税金・公共料金)
相続税の債務控除には借入金・借金だけでなく、未払い金も含まれます。たとえば次のような被相続人(故人)が生前に未払いだったお金が該当します。
- サービス料金や商品代金
- 税金や公共料金
- なじみのお店の付け払い
など
実際に相続の発生後に、大きな額の未払い金が出てくるケースもあります。未払い金をすぐに確認できればよいのですが、相続手続きが終わってから出てくる可能性もあるため、請求書や銀行口座の履歴などでチェックするのが無難でしょう。
葬式費用
債務控除の対象になる未払い金は「相続が発生する前(故人が亡くなる前)のもの」が原則です。ただし、葬式費用は相続発生後の未払い金でも債務控除の対象になります。 国税庁でも葬式費用は債務ではないものの「相続税を計算するときは遺産総額から差し引くことができる(No.4126)」と明確に示しています。
参考:国税庁:No.4129 相続財産から控除できる葬式費用
なお、葬式費用には通夜・告別式の費用はもちろん、これらの飲食費用、お寺などの読経料、遺体や遺骨の回送費などが含まれます。また、葬儀を手伝ってくれた人たちへの心付けも含まれると考えるのが通例です。
これらの葬式費用は相続税の申告時に「いつ・誰に・いくら」払ったか細かく記載しないとならないため、メモしておくのが賢明です。
債務控除の対象とならない債務
相続人の生前(または亡くなった直後)につくった債務でも、相続税の債務控除の対象にならないケースもあります。たとえば次のようなものが該当します。
- 相続人に限定した個人保証債務
- お墓などの代金
- 団体信用生命保険で残債がカバーされる住宅ローン
など
上記に対して補足すると、「お墓などの未払い金」が債務控除の対象にならない理由は非課税財産、すなわち税金のかからない財産だからです。
相続税の債務控除を利用できる人とは?
相続人や受遺者のなかでも、その人の条件によって「債務控除ができる人・できない人」がいます。相続税の債務控除を行う場合は、両者の違いをしっかり把握しましょう。
相続税の債務控除を利用できる人
相続税の債務控除が可能な人は 「相続人」及び「包括受遺者(ほうかつ・じゅいしゃ)」です。
包括受遺者とは?
包括受遺者とは「財産のすべてを遺贈」または「財産を指定された割合で遺贈」された人のことです。
後者の「指定された割合で遺贈」とは、たとえば「財産の4分の1を遺贈する」といったような遺言で遺贈を受けるような場合です。
相続税の債務控除ができない人
相続税の債務控除ができない人は 「相続放棄者」「特定受遺者」「制限納税義務者」の三者です。
相続放棄者
プラスの財産を相続しないわけですからマイナスの財産も受け継がない、すなわち債務控除の必要がないということになります。
特定受遺者
遺贈する財産を指定された人のことです。一例では、遺言で「金融資産のすべてを長男太郎に相続させる」と指定されるようなケースです。
制限納税義務者
相続または遺贈した財産のうち「国内の財産のみ」に納税義務を負う人のことです。
債務控除を行う上で知っておきたい基礎知識
債務控除に必要な手続き
ここまでの内容で相続税の債務控除の内容についてはご理解いただけたと思います。
実際に債務控除をするには、相続税申告書を作成するときに、債務と葬式費用を専用の明細書に記載する必要があります。このとき使われる専用の明細書は「第13表 債務及び葬式費用の明細書」と呼ばれます。
この明細書で記入しなくてはならない債務の項目は次の通りです。
- 債務の種類
- 債務の細目
- 債権者(氏名又は名称、住所又は所在地)
- 弁済期限
- 金額
- 債務を負担する人と金額
一つ一つの債務に対して、上記の項目を記載しなければなりません。また、債務控除を行う債務の数が多い場合は複数の明細書を作成しても構いません。なお、この明細書には葬式費用の明細(いつ・誰に・いくら)も合わせて記入します。
相続した債務は遺産分割できる?
複数の相続人がいるケースでは、「相続した債務は遺産分割できるのか」という点が気になる人もいらっしゃるでしょう。債務は遺産分割できないのが原則ですが、相続人同士の話し合いで債務を負担する人を決めることはできます。
債務は法定相続分で受け継ぐのが原則
遺産分割とは、被相続人が意思を示さないまま亡くなった場合、相続人全員で話し合って分配方法や割合を決めていくことです。
ただし、プラスの財産は遺産分割の対象になる一方、債務は遺産分割の対象にならず、法定相続分で必ず承継します。たとえば、法定相続分が2分の1の相続人であれば、債務も2分の1受け継ぐということです。
相続人同士の取り決めとしては可能
このように債務は遺産分割できないのが原則ですが、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で法定相続分にこだわらない割合や額で債務を負担する人を決めることはできます。この内容については法的にも有効とされます。
ただ注意したいのは、相続人の間で債務を負担する人を(法定相続分と違う形で)取り決めただけでは、債権者にそれを主張できないということです。債権者が遺産分割で話し合った内容を承諾したときだけ債務者に主張することが可能です。
まとめ
ここでは、相続税の債務控除についてお話してきました。その内容を振り返ってみましょう。相続税の債務控除とは、相続税を計算するときに遺産総額から債務を差し引ける仕組みです。差し引ける理由は、債務も(マイナスの)資産だからです。
ただし、債務には下記の表のように債務控除の対象となるもの、ならないものがあります。
債務控除の対象になる債務 | 借入金、ローン、(未払いの)商品代金・税金・公共料金など |
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債務控除の対象にならない債務 | 個人保証債務、お墓の代金、団信付きローンなど |
さらに、相続税の債務控除が可能な人とできない人がいます。
相続税の債務控除が可能な人 | 相続人、包括受遺者 |
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相続税の債務控除ができない人 | 相続放棄者、特定受遺者、制限納税義務者 |
なお、相続税の債務控除をするときには「第13表 債務及び葬式費用の明細書」を作成・提出しなければなりません。これは債務控除の対象になる債務の細目・債権者・金額などを記入するものです。
最後に……債務控除に不備があると、本来払わなくてもよい相続税を納める可能性が出てきます。気付いていないところに債務が隠れていないか、徹底的に洗い出しましょう。
債務控除の手続きは税理士に依頼することがおすすめ
債務控除は、相続税の税額にダイレクトに影響を与えます。だからこそ、債務控除をする場合は、税理士に相続手続きを依頼するのが得策です。とくに債務控除の額や項目数が多かったりする場合は、税理士に申告を依頼しましょう。
債務控除を含めた相続税の申告書の作成を税理士に依頼することで、記載漏れがなくなります。ここまで見てきたように、債務控除は意外に複雑です。しかし、債務控除を熟知している税理士に依頼すれば適切な処理をしてくれるでしょう。