【遺産相続】特別代理人とは?選任が必要なケースと申立の流れ・必要書類を税理士が解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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相続人のなかに未成年者・認知症の人・知的障害者がいる場合、「特別代理人」を立てずに手続きをすると私文書偽造などの罪に問われる可能性もあります。

ここではどんなケースだと特別代理人が必要なのかをレクチャーするとともに、申し立ての流れや提出書類も交えて解説します。

遺産相続の特別代理人とは?

はじめに「相続の特別代理人とは何か」を正しく理解しましょう。

相続の特別代理人とは、相続人が未成年者・認知症の人・知的障害者で十分な判断力がない場合、その人に代わって遺産分割協議の参加など手続きを行う人ことです。なお、特別代理人が行えるのは、家庭裁判所が認めた手続きのみです。相続手続きが一通り終われば任を解かれます。

相続の特別代理人が行える手続き

なお、特別代理人が行える手続きの一例は次の通りです。いずれも重要な業務です。

  • 遺産分割協議に参加する
  • 遺産分割協議書に署名や押印をする
  • 相続手続きに関わる預金引き出し
  • 相続手続きに関わる相続登記

など

注意しなければならないのは、相続人が未成年者・認知症の人・知的障害者だからといって、遺産分割協議のメンバーから勝手に外したり、相続に関連する公的な書類に無断で代筆したりすれば、遺産分割協議書が無効になる可能性があるということです。さらに無断の代筆は私文書偽造など罪の対象になりかねません。

相続の特別代理人は誰にお願いするべき?

相続の特別代理人を選任しなければならないとき、「誰にお願いすればよいか」で悩むケースもあるでしょう。特別代理人として認められる条件は「その相続の当事者でないこと」です。この条件に該当すれば、特別な資格のない親族など一般の人でも特別代理人を務めることができます。

逆にいうと、「その相続の当事者の人は特別代理人にはなれない」ということです。これは、とても大事なポイントなので覚えておいてください(詳細は次項で解説します)。

特別代理人として申し立てた人が家庭裁判所から「適切ではない」と判断されることもあります。その場合、家庭裁判所によって弁護士や司法書士などの専門家が特別代理人として選任されます。

特別代理人を専門家に選任させたときの報酬相場

仮に、特別代理人が専門家に専任されたときは、申立人がその報酬をあらかじめ納入することになります。ご参考までにある法律事務所の解説を参考にすると、弁護士が特別代理人になったときの報酬は10〜20万円程度とのことでした。

特別代理人の選任が必要な場合とは?

次に、特別代理人が必要になる代表的な2つのケースをくわしく見ていきましょう。

親と未成年者の両方が相続人になる場合

ある相続において、親と未成年者の子の両方が相続人になる場合、親は子の遺産分割の手続きを行えません。このケースでは、家庭裁判所で選任された特別代理人などが未成年者に代わって遺産分割の手続きを進めることになります。

なぜ、親子で相続人になるケースでは、子の特別代理人を選任しなければならないのでしょうか。

理由は、親子で相続人になると、お互いの利益が相反して子の利益が損なわれる可能性があるためです(「利益相反」という)。わかりやすくいうと両者は、親の相続財産が増えれば、子の相続財産が減るという関係にあります。だから、子の本来の利益を守る特別代理人を選任する必要があるわけです。

親からすれば、未成年者である子の財産管理をするのは「当然のこと」というような感覚があると思います。通常の生活であれば当たり前のこの感覚も相続になると話が変わってくるのです。

認知症の人・知的障害者と成年後見人の両方が相続人になる場合

ある相続において、認知症の人・知的障害者と成年後見人の両方が相続人になる場合も、特別代理人を選任しなくてはなりません。

成年後見人とは

成年後見人とは、認知症や知的障害などで判断能力が十分でない人(「成年被後見人」という)の財産管理などをサポートする役目の人のことです。この成年後見人を家庭裁判所への申し立て〜選任で決める仕組みを「成年後見人制度」といいます。なお、成年後見人は、一般的に親族・弁護士・社会福祉士などが務めているケースが多いです。

弁護士などが成年後見人を務めていて、その相続の当事者でなければ、認知症の人や知的障害者など成年被後見人に代わって相続手続きを行うことが可能です。一方、親族などが成年後見人を務めていて、その相続の当事者であれば「お互いの利益が相反」することになります。そのため、特別代理人を立てる必要があります。

ただし、「成年後見監督人」(成年後見人を監督する人)が設定されているケースでは、特別代理人を改めて選任しなくても構いません。成年後見監督人が適切な判断をすると考えられるからです。

特別代理人の選任手続きの流れ

特別代理人を選任する申し立ては、相続人(未成年者や成年被後見人)の住所地にある家庭裁判所です。一般的な「特別代理人の選任手続きの流れ」は次の通りです。

  1. 特別代理人選任の申し立て
  2. 審理(裁判所の情報収集)、書面照会、参与員の聴き取り、審問
  3. 審判(裁判官の判断)
  4. 結果の連絡

上記にいくつか補足をしたいと思います。まず、特別代理人選任の申し立てができるのは次の立場にある人たちは下記になります。

  • 親権者
  • 後見人
  • 利害関係がある人

特別代理人の申し立てから結果が出るまでの期間

なお、申し立てから結果が出るまでの目安は1ヵ月程度です。ただし、これはあくまでも目安です。

いずれにしても、それなりの期間が必要なため、余裕をもって申し立てをするのが無難です。

特別代理人選任の申し立てが受理された場合、結果の連絡があったときに審判書謄本が送られてきます。この謄本が特別代理人の資格を証明する書面となります。ちなみにこの申し立てが受理されなくても、不服申し立てをできないのが決まりです。

特別代理人の申し立てに必要な費用と書類

特別代理人の申し立てに必要な費用

特別代理人の申し立てに必要な費用自体はそれほどかかりません。(相続人1人につき)収入印紙800円分及び連絡用の郵便切手(各家庭裁判所へ要確認)で行えます。

特別代理人の申し立てに必要な書類

必要な主な書類は次の通りです。

  1. 申立書
  2. 相続人の戸籍謄本(全部事項証明書)
  3. 親権者または未成年後見人の戸籍謄本(同)
  4. 特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
  5.  など

「遺産分割協議書(案)」も提出する必要がある

特別代理人の申し立てに必要な書類は、上記に加えて「遺産分割協議書(案)」も必要です 。この案は、家庭裁判所が特別代理人選任の申し立てが受理されるか否かの大事な判断材料になります。

当然ながら、遺産分割協議書(案)の内容が相続人(この場合、未成年者または成年被後見人)にとって不利な内容になっていれば、申し立てが否認される可能性があります。申し立てを受理されるためのポイントは次の2点と考えられます。

  • 未成年者などに法定相続分を相続させる内容になっていること
  • 上記が難しい場合、申し立て書に理由を明記しておくこと
  • (たとえば、未成年者の場合、養育費とするため親が相続するなど)

特別代理人を立てず相続を行う方法

相続人が未成年者や成年被後見人で十分な判断ができない場合でも、特別代理人を立てずに相続を行える方法もあります。「法定相続分に沿って相続を行う」「遺言に沿って相続を行う」という2つの方法です。

法定相続分に沿って相続を行う

遺言書が遺されていない状況で、なおかつ法定相続分通りに相続を行う場合、必ずしも遺産分割協議を行う必要はありません。そのため、相続人に十分な判断力がなくても特別代理人を選任しなくても大丈夫なのです。

ただし、相続財産のなかに不動産があり、それを共有名義にするなら売却する際に特別代理人が必要になります。

遺言に沿って相続を行う

遺言書が遺されていて、その内容に沿って相続を行う場合も上記と同様、そもそも遺産分割協議を行う必要はありません。そのため、相続人に十分な判断力がなくても相続代理人を選任しなくても大丈夫です。

「特別代理人の選任」と「相続税申告」の両方が必要なケースに要注意

税理士の立場から、相続の特別代理人の選任について補足をしたいと思います。

特別代理人選任の申し立てから選任までにかかる期間の目安は約1ヵ月です。

一方、相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内です。この期限内に相続財産の整理・情報収集・遺産分割協議などを進めるのは大変なことです。

とくに「特別代理人の選任」と「相続税申告」の両方が必要なケースでは、手続きが煩雑でスケジュールがタイトになることが予想されます。そのため、相続発生前後の早い段階から弁護士や税理士などの専門家に相談するのが賢明です。

頼れる専門家がいらっしゃらない人は、マルイシ税理士法人のまでお気軽にお問い合わせください。

まとめ

ここでは、相続で特別代理人を立てなければならない場合やその手続きについて解説してきました。最後にポイントを振り返ってみましょう。

特別代理人とは、未成年者・認知症・知的障害などで十分な判断力がない場合、その人に代わって手続きを行う人のことです。家庭裁判所で選任され、相続手続きが終われば任を解かれます。特別代理人が行える手続きの一例は次の通りです。

  • 遺産分割協議に参加する
  • 遺産分割協議書に署名や押印をする
  • 相続手続きに関わる預金引き出し
  • 相続手続きに関わる相続登記

など

特別代理人になれる条件は、その相続の当事者でない人です。なお、特別代理人を務めるので多いのは、親族・弁護士・司法書士などです。

代理人を選任する申し立ては家庭裁判所に必要書類を提出することで行えます。注意したいのは、申し立てから結果の連絡があるまでに約1ヵ月を要することです。余裕をもって申し立てをしましょう。

相続において特別代理人を立てるのは、未成年者や成年被後見人を守る重要な手続きです。くれぐれも軽い気持ちで無断の代筆などしないよう注意してください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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