相続で後見人が必要となるのはどんな時?後見人のメリットや選定方法

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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近年日本人の平均寿命が伸びたことにより、痴呆症を患う人の数も増えてきました。

軽度の場合は問題ありませんが、病状が進行していくと、やがて正常な判断を下すのが難しくなってしまいます。

では、もし相続人の中に、認知症のように正常な判断を下すのが難しい方がいたとしたらどのような問題が起こるのでしょうか?

その場合、遺産分割協議はどのように行うのでしょうか?また、そのような事態を避けるために何か良い方法はないのでしょうか?

成年後見人とは

認知症をはじめ、知的障害や精神障害などにより判断能力が不十分な方は、預貯金や不動産などの財産を自分で管理したり、介護サービスなどを受けるための契約を結んだりすることが難しい場合があります。

また、自分に不利益な契約であっても、判断能力が不十分であるために契約を結んでしまい、悪徳商法などの被害にあってしまう場合があります。

このように判断能力が不十分な方を保護し、支援する制度を「成年後見制度」といい、その制度によってこのような方々を支える方を「成年後見人」といいます。

なお、成年後見人制度は、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つに分かれています。

法定後見制度とは

法定後見制度とは、本人の判断能力が不十分になった後で親族などが家庭裁判所に申し立て、家庭裁判所で選任された成年後見人が本人に代わってさまざまな契約や法的手続きなどを行う制度のことをいいます。この法定後見制度によって選出された成年後見人を、法定後見人といいます。

任意後見制度とは

任意後見制度とは、本人まだ十分に判断能力を有しているうちに将来に備え後見人とその事務範囲を定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、後見人がこれらの事務を本人に代わって行う制度のことをいいます。この任意後見制度によって選出された成年後見人を、任意後見人と言います。

相続において成年後見人が必要となるケースとは

相続が起こると、遺言書がある場合を除き、相続人全員が集まり遺産分割協議を行って誰がどの財産を相続するのかを話し合います。仮に、相続人の一人が認知症を患ってしまうと、遺産分割協議を行うことが出来なくなってしまいます。

遺産分割協議が出来なければ、すべての財産を法定相続分で相続しなければなりません。こうなると、実質的にはほとんどの相続がストップしてしまいます。

このような事態を避け、相続人全員が財産を無事相続するために、成年後見制度が活用されています。

相続における成年後見人の選任は2通りある

相続のために成年後見人を選任する場合は、親族が成年後見人となる場合と、弁護士や司法書士・社会福祉士などの法律や福祉の専門家が後見人となる場合があります。

親族後見人が選任される場合

本人の判断力が十分にあるうちに、任意後見制度を活用して将来のための後見人を選任しておく場合は、本人が親族を後見人として選任することができます。

いっぽう、本人が認知症などを発症した後で後見人をつける場合であっても、成年後見人の申立人が親族を親族後見人に指定すれば親族後見人として選任されます。ただし、以下のような場合は親族が親族後見人に選任されないことがあります。

  • 本人(成年被後見人)の財産が高額である場合
  • 親族同士の間に意見の対立がある場合
  • 本人と親族後継人候補との間に借金などの利害関係にある場合
  • 本人と親族後見人候補者が長い間疎遠だった場合
  • 本人と親族後見人候補者との生活費等が十分に分離されていない場合
  • 申し立て時の提出書類の記載が不十分で、成年後見人としてふさわしくないと裁判所に判断された場合
  • 親族が下記の「専門職後見人が選任される場合」に該当する場合
  •  など

専門職後見人が選任される場合

親族が以下にあたる人の場合は、成年後見人になることができません。これは、任意後見制度、法定後見制度ともに共通しています。

  • 未成年者である場合
  • これまでに、家庭裁判所で成年後見人、保佐人、補助人等を解任されたことがある場合
  • 破産開始決定を受けたものの、免責許可決定を受けていないなどの理由で復権していない人の場合
  • 現在、成年被後見人に対して訴訟をしている人、もしくは過去にしたことがある人、およびその配偶者または親や子など
  • 行方不明である場合

後見人となる親族が上記のどれかに該当する場合は、親族ではなく法律や福祉の専門家などが後見人に選任されます。

相続における成年後見人の選任方法

相続を円滑に行うために成年後見制度を活用する場合は、以下の手順にしたがって成年後見人が選任されます。

手順① 申立人が成年後見人の申し立てを行う

成年後見人の申立人は、任意後見人の場合と法定後見人の場合によってことなります。任意後見人の場合は本人が申立人となりますが、本人が痴呆症などの場合は、以下の人物が申立人となります。

  • 配偶者
  • 四親等内の親族
  • 検察官,市町村長など

なお、申し立ては本人の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。

手順② 本人情報シートや診断書を取得する

法定後見制度には、本人の判断能力に応じて「後見」以外にも「保佐」「補助」などの制度が用意されています。どの制度を適用すべきかどうかは、本人情報シートと診断書によって裁判所が判断します。

なお、本人情報シートはケアマネージャーやケースワーカーなどの福祉関係者に作成してもらい、診断書は医師に作成してもらいます。

手順③ 申し立てに必要な書類を準備して申し立てを行う

申し立てに必要な書類を準備し、家庭裁判所に法定後見人の申し立てを行います。なお、申し立てに必要な書類とは、おもに以下のものを指します。

  • 成年後見開始申立書
  • 親族関係図
  • 本人の財産目録及びその資料
  • 本人の収支予定表及びその資料
  • 後見人候補者事情説明書
  • 親族の意見書
  • 本人の戸籍
  • 本人の住民票又は戸籍の附票
  • 成年後見人候補者の戸籍
  • 成年後見人候補者の住民票又は戸籍の附票
  • 本人が後見登記されていないことの証明書
  • 本人の診断書
  • 愛の手帳の写し(本人が知的障害者の場合)
  • 申し立て手数料(800円分の収入印紙)
  • 登記手数料(2,600円分の収入印紙)
  • 郵便切手代
  • など

手順③ 裁判所で審理が行われる

裁判所において、提出書類の不備のチェックや親族の成年後見人としての適格性の有無、本人の判断能力の程度などが調べられます。

手順④ 審判によって成年後見人が選ばれる

審判の結果、家庭裁判所が最適と思われる成年後見人を選任します。ただし、この後遺産分割などが予定されており、本人と後見人の両者が相続人となるような場合は利益相反が生じてしまうため、その場合は裁判所が成年後見人を監督する成年後見人監督人を選任し、本人に不利益が生じないかどうかをチェックします。

手順⑤ 後見を開始して成年後見人としての業務を始める

家庭裁判所から法務局へ、親族が成年後見人となった旨の登記がなされます。登記が完了すると、法務局から後見人へ登記番号が通知されます。

後見人となった親族は、登記番号をもとに登記事項証明書を取得します。これが成年後見人となった証明書となります。これで、成年後見人としての業務を開始することができます。。

成年後見人を選任せずに相続を行うことは可能か

認知症のように判断力が不十分な相続人がいるにも関わらず、成年後見人を選任しないで相続を行うことはできるのでしょうか?またその場合、何か不都合なことが起こるのでしょうか?

相続自体はできるが遺産分割協議ができなくなる

判断力が不十分な相続人がいる場合であっても、本人はもちろんのこと他の相続人も、相続人としての相続権が侵害されるわけではありません。したがって、相続をすること自体はできます。

ただし、遺産分割協議はできないため、相続人全員がすべての財産を法定相続分で相続することになります。

法定相続分での相続では不具合が生じる

たとえば土地などの不動産を相続する場合は、法定相続分に応じて共有名義となります。したがって、抵当権を設定することはできませんし、誰かに貸したり売却したりすることも相続人全員の総意がなければできません。

預貯金の場合は、解約して法定相続分で分けようとすると、その都度相続人全員の署名押印が度必要になります。また、株式などの有価証券については、いつ売却するかで売値が変わるため、相続人全員の総意を得るのは難しく、実質的には「塩漬け」となってしまいます。

このように、成年後見人を選任しないと、相続そのものはできても実際に財産を分けるのはほぼ不可能になってしまいます。

まとめ

相続人の判断力に問題が生じてしまうと、遺産分割協議を行うことが出来なくなってしまいます。
ただし、成年後見人を選出すれば、こういった事態を回避して遺産分割協議を行うことが出来るようになります。

しかし、相続税は遺産の分割方法によって大幅に変わります。したがって、もし相続税の節税を考えるならば、遺産分割協議を済ませる前に税理士などの専門家に相談をしておくのが良いでしょう。

相続時の税金に関する悩みはマルイシ税理士法人へ相談

相続人の中に認知症などにより判断力が不十分な方がいる場合は、遺産分割協議を行うために成年後見人を選出するための準備をしておかなければなりません。

ただし、遺産分割協議を行う前に、財産の相続方法によって相続税がどのように変化するのかを正しく把握しておかなければなりません。なぜなら、相続税は、誰がどの財産を相続するかによって税額が大幅に変わるからです。

特に、不動産を相続する場合は、誰が相続するのかに加え、評価方法によって金額が大幅に変わることがあるため要注意です。しかし、このような特殊な業務に対応できる専門家は、税理士の中でもほんの一握りしかいません。

マルイシ税理士法人には不動産と相続税に関する業務を専門的に行っている税理士が在籍しており、経験や実績も十分にあります。成年後見人についてはもちろんのこと、相続全般について、知りたいことや不安がある方は、マルイシ税理士法人の無料相談をぜひお気軽にご利用ください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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