特定遺贈と包括遺贈の違いとは?メリット・デメリットや注意点まとめ

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

「これから遺言書を作成する」など、遺贈(いぞう)を進めたい人向けの内容です。

遺産を相続人やそれ以外の人に譲る遺贈には、「特定遺贈」と「包括遺贈」の2種類があります。
本稿の前半では2つの遺贈の内容やメリットおよびデメリットを解説。後半では、このうち、「特定遺贈」を選択した場合の注意点を紹介します。

遺贈の種類

相続税がかかるのは相続のときだけではありません。遺言書によって遺産を受け継ぐ「遺贈」の場合も相続税の対象になります。遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」の2種類があります。

遺贈とは

遺贈とは、遺言者が亡くなったとき、その人の遺言書に基づいて財産を譲ることをいいます。遺贈によって遺産を受け継ぐ人のことを「受遺者(じゅいしゃ)」と呼びます。これに対して、遺贈する人のことを「遺贈者(いぞうしゃ)」といいます。

相続の場合は、故人の意思とは関係なく、被相続人(財産を残した人)と相続人(財産をもらう人)の関係性(配偶者・子など)で「財産を相続できるか」「相続割合がどれくらいか」などが決まります。

一方、遺贈では相続人、あるいは相続人以外の身内や知人に「遺産のうち、何をどれくらい譲るか」を遺贈者が決められます。なお、受遺者となるのは、個人でも法人でも構いません。

遺贈 相続
遺産を受け継ぐ人の名称 受遺者 (法定)相続人
財産をもらえる人の範囲 相続人以外でも可 相続人に限る
相続税の課税 相続税がかかる
(通常の2割加算)
相続税がかかる

関連記事:遺贈とは?相続との違いや遺贈の種類・注意点について解説

遺贈を受ける人と対象

遺贈を受ける人(受遺者)の対象は、相続人またはそれ以外の人が対象です。ただし、配偶者、父母、子(及び代襲相続人の孫)ではない人が遺贈を受ける場合は、(近親の相続人が相続するときに比べて)相続税は2割増しになります。

特定遺贈とは

特定遺贈を行う場合は、遺言書に遺贈する「財産の内容を具体的に記述」します。特定遺贈では、「遺言書」にとくに記されていない限り、マイナスの財産(借金)を引き継ぐ必要はありません。

遺言書の文例 :遺言者は、所有する下記の土地を、遺言者の孫である山田太郎(生年月日)に遺贈する。(不動産の所在、地番・地目、地積など)

包括遺贈とは

包括遺贈では、遺言書に遺贈する「財産の割合を記述」します。包括遺贈では、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も指定された割合通りに受け継ぐ必要があります。たとえば、財産の2分の1を包括遺贈するという遺言であれば、プラスの財産とマイナスの財産の両方を2分の1受け継ぐということです。

遺言書の文例 :遺言者は、遺言者の有する一切の財産のうち2分の1を遺言者の孫である山田太郎(生年月日)に包括して遺贈する

特定遺贈と包括遺贈の違い

「特定遺贈」と「包括遺贈」の比較

上記の「特定遺贈」と「包括遺贈」の違いをまとめると、次の表の内容になります。

特定遺贈 包括遺贈
遺贈の方法 財産の内容を指定 財産の割合を指定
マイナスの財産 受け継ぐ必要なし 受け継ぐ必要あり

遺贈の放棄について

遺贈は財産をあげる人単独の意思で行えます。受遺したくない場合は放棄することができます。

「特定遺贈」では放棄方法に決まりはなく期限もありません。
「包括遺贈」の放棄は、家庭裁判所への申述が必要です。放棄の期限は「包括遺贈を受けたことを知った日から」3ヵ月以内です。

遺贈は遺贈者(財産をあげる人)のみの意思で効力が生じる単独行為です。つまり、財産をあげる人が「あの人に財産をあげたい」と考えて遺言書を残すだけで効力が生じるというわけです。さらに、遺贈することを相手方に事前に伝える必要もありません。

このような性格があることから、受遺者が遺贈を受けたことを突如知って驚かれるケースもよくあります。その際に「遺贈を放棄したい」と考えるのであれば下記のような手続きをとらなければなりません。

特定遺贈の放棄方法と期限

特定遺贈の放棄方法に決まりはありません。とはいえ後々トラブルにならないよう、遺贈放棄することを内容証明などで遺言執行者に書面で伝えるとよいでしょう。放棄の期限はとくに決まっておらず、いつでも放棄することができます。

包括遺贈の放棄方法と期限

包括遺贈の放棄は、家庭裁判所に対して「包括遺贈の放棄の申述」をして実行します。放棄の期限は「包括遺贈を受けたことを知った日」から3ヵ月以内というのが決まりです。そのため、この期限を過ぎると遺贈を承認したと見なされます。

特定遺贈と包括遺贈のメリット・デメリット

ここまでの内容で「特定遺贈と包括遺贈の違い」についてはご理解いただけたのではないでしょうか。この項目では、それぞれのメリット・デメリットについて解説します。どちらを選択するとよいかの判断にお役立てください。

「特定遺贈」のメリットは、相続トラブルのリスクが低いこと、放棄の手間が少ないことです。デメリットは受遺者が欲しい財産が、必ずしも遺言書で指定されているわけではないことです。一方、「包括遺贈」のメリットは、受遺者が欲しい財産を主張できること、デメリットは放棄の手間がかかることです。

特定遺贈のメリット・デメリット

特定遺贈のメリット

  • 遺言書で受け継ぐ財産を指定しているため、相続人と相続トラブルになりにくい
  • 放棄方法が自由で放棄の期限もないため、受遺者がじっくり考えて財産を受け取るか否かを判断できる
  • マイナスの財産を受け取らなくてもよい

※特に遺言書に指定がない場合

特定遺贈のデメリット

  • 遺言書が遺留分を侵害する内容だと、遺留分侵害額請求の対象になる
  • 受け取る財産に不動産が含まれている場合、不動産取得税の負担が発生する
  • 受遺者が「いらない」と思う財産が遺言書で指定されている可能性がある

包括遺贈のメリット・デメリット

包括遺贈のメリット

  • 遺産分割協議に参加できる
  • 相続人に「どの財産を受け取りたいか」を主張できる

※ただし、主張が必ず通るわけではありません。

包括遺贈のデメリット

  • 遺産にマイナスの財産があればそれも受け継がなければならない
  • 放棄期限が3ヶ月以内と決まっている
  • 放棄をする場合、家庭裁判所での手続きが必要になる

特定遺贈を選択する際の注意点

前項お読みいただき「譲る財産を指定できる、特定遺贈のほうがよいのではないか」と考えた人もいらっしゃるのではないでしょうか。ただし、特定遺贈を選択する場合は次の注意点があります。

現物資産だと相続税を払えない可能性

相続人以外の人が遺贈を受ける場合でも相続税がかかります。とくに配偶者、父母、子(及び代襲相続人の孫)ではない人が遺贈を受ける場合は、相続税が2割加算と負担が重くなります。

さらに特定遺贈では、譲る財産が不動産などの現物資産の場合は、受遺者に手元資金がなければ相続税を払えない可能性もあります。こういったことも考慮しながら「特定遺贈と包括遺贈のどちらを選択するべきか」を検討する必要があるでしょう。

相続人の遺留分に留意する

特定遺贈は、財産を具体的に指定する方法ですが、遺言書の内容によってはそれが問題になるケースもあります。受遺者に譲る財産の評価額が相続人の遺留分(最低限度の遺産の取り分)を超えている場合は、修正を求められる可能性があります。

そのため、遺贈者はこの遺留分を意識して遺言書を作成するのが賢明といえます。時折、「相続人の遺留分を侵害しても構わない」という考えの遺贈者も見受けられますが、相続トラブルのもとです。

遺言執行者を必ず指定する必要はない

特定遺贈で譲る財産が現物資産(例:不動産)の場合、相続発生後に登記・管理・保管などの行為が必要になるケースもあります。相続人が遺贈をこころよく思わない場合は、特定遺贈の対象になっている現物資産に対してこういった行為をしてくれない可能性があるため、遺言執行者を予め指定しておいたほうが無難でしょう。

逆にいえば、相続人が登記・管理・保管などの行為をしてくれそうなら、遺言執行者を指定する必要はないでしょう。

遺贈したい人がはじめにすべきことは専門家への相談

相続を専門分野にする税理士として補足があります。遺贈をする場合は、法的に有効な遺言書の準備が必須になります。この遺言書がなければ、「いくらあの人に財産を残したい」と考えていても現実化できません。

それを踏まえて、遺贈したい人がはじめに行うべきことは何かを考えてみましょう。これは間違いなく「相続の専門家への相談」です。ご自身でいくら情報収集をしても、先に進むケースは少ないです。専門家に相談すれば、ご自身の希望に沿った遺言書を最短の時間で作成できます。

遺言書作成については弁護士に相談するのがよいですが、相続税のことが気になる人は先に税理士に相談するのがよいでしょう。頼れる税理士がいらっしゃらない人は、相続を専門とするマルイシ税理士法人にご相談ください。

まとめ

一口に遺贈といっても、「特定遺贈」と「包括遺贈」では、メリット・デメリットがかなり違うことをご理解いただけたと思います。どちらを選ぶかで相続トラブルのリスクや受遺者の制約が変わってくるため慎重に判断する必要があるでしょう。

「本当にどちらを選ぶとよいか」については、自己判断はせずに、相続に強い税理士や弁護士などの専門家に相談して最終決定するのが賢明です。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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