相続の単純承認とは?限定承認・相続放棄との違いを解説
目次
相続が起こると相続人は財産を相続することになりますが、「相続しない」という選択肢を選ぶことも出来ます。
またそれ以外にも、部分的に相続することを選択することも出来ます。
このように、財産を相続する場合にはいくつかの選択肢があり、相続人はその中からどれか一つを選択しています。 そこで本日は、財産の相続方法で最も多くの人が選択している「単純承認」についてじっくりと解説していきます。
相続における単純承認とは?
冒頭でお話ししたように、財産を相続する方法にはいくつかの種類があります。具体的には、相続が起こると以下の3つの相続方法のどれかを選択することになります。
- 単純承認
- 限定承認
- 相続放棄
単純承認とは?
相続財産には、プラスだけでなくマイナスの財産も含まれています。現金預金や土地建物などの不動産はプラスの財産ですが、亡くなった方の医療費の未払分や借金などはマイナスの財産になります。
単純承認とは、これらプラスの財産もマイナスの財産もすべてを丸ごと相続することをいいます。
民法では、『単純承認を選択した場合は無限に被相続人の権利義務を承継する。』(民法920条)
と定めており、単純承認を選択した場合は被相続人(亡くなった方)のプラスの財産もマイナスの財産も金額に関係なくすべて引き受けることになります。
したがって、プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合は、相続したプラスの財産ではマイナス分を支払うことが出来ないため、相続人がその分を背負うことになります。
限定承認との違い
限定承認とは、相続したプラスの財産の範囲内でマイナスの財産分も背負う相続方法のことをいいます。
たとえば、プラスの財産よりもマイナスの財産の方が圧倒的に多い場合、誰も財産を単純承認で相続したいとは思わないでしょう。しかし、プラスの財産の中には、今住んでいる家や事業で使っている不動産などが含まれている場合があります。
そこで民法では、プラスの財産の中から相続したい財産だけを選択し、その評価額と同じだけのマイナス分を相続する相続方法を認めています。これを「限定承認」といいます。
なお、限定承認を選択するためには、相続開始日(正確には相続の開始があったことを知った日。以下同じ)から3ヶ月以内に家庭裁判所で限定承認のための手続きを行わなければなりません。
相続放棄との違い
プラスの財産よりマイナスの財産の方が多く、プラスの財産の中に特に相続したいと思うような財産がない場合があります。このようなケースでは、財産を相続するメリットが何もありません。
そこで民法では、プラスもマイナスも含めた相続財産の一切を相続せずに相続権を放棄することを認めています。これを「相続放棄」といいます。
相続放棄をすると、そもそも初めから相続人ではなかった扱いになるため、被相続人が生前どれだけ負債を抱えていたとしても、それらを返済する義務を背負うことはありません。
ただし、限定承認と同じように相続放棄を選択する場合も、相続開始日から3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きを行わなければなりません。
単純承認の手続き
限定承認や相続放棄を選択した場合の手続きについては、先程お話しした通りです。では、プラスもマイナスもすべての財産を相続する単純承認を選択した場合は、どこでどのような手続きが必要になるのでしょうか?
単純承認を選択した場合の手続き方法について
単純承認を選択した場合は、手続きの必要はありません。
民法では、単純承認の手続きを以下のように定めています。
相続人が第915条第1項の期間内(=相続開始日から3ヶ月以内)に限定承認又は相続の放棄をしなかった場合は、相続人は、単純承認をしたものとみなす。(民法921条第2項)
ですから、何もしないで3ヶ月が経過すると、自動的に単純承認を選択したことになるわけです。
法定単純承認とは?自動的に単純承認となる?
限定承認や相続放棄を選択するためには、相続開始日から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きを行わなければなりません。
いっぽう単純承認を選択する場合は、相続開始日から3ヶ月が経過するまで待つ以外にも、単純承認とみなされることがあります。
民法921条には、相続人が単純承認をしたとみなす場合を定めた規定が書かれています。この規定に該当し、単純承認したとみなされた場合のことを「法定単純承認」といいます。
相続人が法定単純承認を選択したとみなされてしまうケースは、以下の3つです。
ケース① 相続開始日から3ヶ月以内に限定承認や相続放棄を行わなかった場合
上述のように、限定承認や相続放棄を選択する場合は、相続開始日から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きを行わなければなりません。したがって、相続開始日から3ヶ月以内にこれらの手続きが行われていない場合は、自動的に単純承認を選択したものとみなされます。
ケース② 相続人が相続財産の一部もしくは全部を処分した場合
上述のように、相続財産にはプラスの財産とマイナスの財産があります。仮にプラスの財産が現金100万円、マイナスの財産が借入金1億円であったとします。
圧倒的に負債の方が多い訳ですから、この場合は相続放棄を選択した方が良いはずです。しかし、現金100万円を放棄してしまうのはもったいと考えた相続人が、相続放棄前に100万円分を勝手に処分してしまったらどうでしょう?
これでは、相続人のみが不当に利益を得て、被相続人に1億円を貸した債権者だけが損をしてしまいます。
このような行為を防ぐために、民法では、
相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき、相続人は単純承認したものとみなす。(民法921条第1項)
と定めています。
ただし、相続財産を保存するための保存行為や、相続財産の短期賃貸借に関しては民法921条第1項に抵触することはありません。
遺品の整理はどうなる?
限定承認や相続放棄を選択予定であっても、相続財産を一部でも処分してしまうと法定単純承認を選択したものとみなされてしまいます。
では、遺品の整理はどうなるのでしょうか?遺品は当然相続財産に含まれます。しかし、限定承認や相続放棄の手続きが済むまでは、アルバムや衣服の整理なども出来ないのでしょうか?
換価性の有無で判断する
遺品の中でも換価性のないもの(アルバムや古い服・被相続人の愛用品など)に関しては、処分をしても法定単純承認とはみなされません。ですから、遺品整理をしたからと言って限定承認や相続放棄が選択できなくなることはありません。
ただし、換価性がないと思って処分したものが実は換価性があった場合などがあるため、気を付けなければなりません。アンティークウォッチやコレクターズアイテムなど、普通の人には無価値に思えても収集家にとっては垂涎の品として高額で売買されているものもあるからです。
こういったケースをご心配される方は、弁護士や司法書士などに事前に相談してから遺品整理などを行った方が良いでしょう。
ケース③ 相続財産の一部または全部を故意に隠匿・消費・財産目録への未記載をした場合
相続人が相続債権者に対して背信行為を行った場合は、法定単純承認とみなされます。相続財産の一部を故意に隠したり、見つかる前に使ってしまったり、相続財産の目録から外してしまうと、被相続人の債権者は一方的に不利益を被ってしまいます。したがって、このような場合には、問答無用で法定単純承認とみなされます。
ちなみに、限定承認や相続放棄の手続きが終わった後でこのような背信行為が発覚した場合は、限定承認や相続放棄は破棄され、法定単純承認をしたものとみなされるため、こういった行為は絶対に行なわないように心がけましょう。
まとめ
相続方法として単純承認を選択する場合は、限定承認や相続放棄とは違い、特に何もする必要はありません。しかし、限定承認や相続放棄を選択する場合でも、法定単純相続の要件に該当してしまい、それらの相続方法を選択できなくなってしまう場合があるため注意しなければなりません。
最悪の場合莫大な借金を背負うことになりかねませんので、ご心配な方は、できるだけ早い段階で弁護士や司法書士などの専門家に相談しておいた方が良いでしょう。