相続手続きに印鑑証明が必要になるケースと印鑑証明がない時の対処法
目次
相続が起こると、預貯金や不動産など名義変更や、相続税の申告を行わなければなりません。
その時必要となる書類の中に、印鑑証明が含まれていることがあります。
相続に関する手続きにはさまざまな種類がありますが、どのような手続きには印鑑証明が必要で、どのような手続きには不要なのかご存じでしょうか?また、印鑑証明が取れない場合はどうすれば良いのでしょうか?
そこで今回は、相続手続きで必要となる印鑑証明について解説していきます。
相続で印鑑証明が必要となるケース
日本に在住している人は、国籍に関係なく、印影を住民票所在地の自治体に登録しておくことにより、登録者が請求すると、印鑑登録証明書(印鑑証明)が発行してもらえるようになります。これを「印鑑登録制度」といいます。
印鑑証明は、印影や登録者の住所・氏名・生年月日・性別などが各自治体の首長の証明印入りで発行されるため、私たちの暮らしの中のさまざまな場所で、本人証明書類として用いられています。
もちろん、この印鑑証明は、相続に関する手続きでも使われています。具体的には、以下の4つの手続きで印鑑証明が必要になります。
- 遺産分割協議書を作成する場合
- 不動産の相続登記を行う場合
- 金融機関で相続手続きを行う場合
- 相続税の申告を行う場合
遺産分割協議書を作成する場合
遺言書がなく、相続人が2人以上いる場合は、相続人同士で遺産をどのように分けるのかを話し合わなければなりません。これを「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」と言います。
協議によって決まった内容を書き記す遺産分割協議書には決まったフォームはありませんが、相続人の同意のもとで作られたことを証明するために、実務上は実印を用いて署名捺印し、複数ページにまたがる場合は契印を行います。
その時、押印された印影が実印のものであることを証明するために、印鑑証明を添付します。
不動産の相続登記を行う場合
不動産を相続すると、亡くなった人から相続人へ名義を変更するための相続登記を行います。この相続登記を行うためには、不動産を相続する相続人だけでなく、相続人全員の印鑑証明が必要となります。
ただし、以下の場合は印鑑証明を用意する必要がありません。
- 遺言書がある場合
- 相続人が1人の場合
- 家庭裁判所による調停調書や審判書がある場合
また、相続登記時に添付する印鑑証明には有効期限がありません。ですから、古いものがあればそれを添付しても大丈夫です。
なお、相続登記に添付した印鑑証明は、原本を還付してもらうことが出来ます。印鑑証明の発行は有料ですし、他の手続きにも使うため、効率よく使いまわして最低限の枚数で済ませられるように原本還付請求は必ず行いましょう。
金融機関で相続手続きを行う場合
預貯金の名義人が亡くなると口座は一旦凍結されますが、相続手続きを行うと相続人に預金の名義を変更することが出来るようになります。この時必要になるのが印鑑証明です。
金融機関は預金の相続人を遺産分割協議書で確認しますが、押印されているのが実印なのかを確認するために印鑑証明が必要になるのです。
なお、金融機関での手続きに必要な印鑑証明については「発行日より〇〇ヶ月(通常は3~6ヶ月)以内」と金融機関ごとに定められているため、詳細については事前に確認しておくことをお勧めします。
また、誰の印鑑証明が必要になるのかは、相続の状況により以下のように異なります。
- 遺言書がある場合・・・預金を相続する人の印鑑証明
- 相続人が1人の場合・・・預金を相続する人の印鑑証明
- 相続人が2人以上の場合・・・相続人全員の印鑑証明
- 家庭裁判所による調停調書や審判書がある場合・・・預金を相続する人の印鑑証明
ちなみに、金融機関での手続きについても印鑑証明の原本は還付してもらえるため、すでに手もとにある場合は改めて用意する必要はありません。
相続税の申告を行う場合
相続財産が基礎控除を超えている場合は、相続税の申告をしなければなりません。相続税の申告を行う場合は、相続人全員の印鑑証明が必要になります。
ただし、遺言書がある場合や相続人が1人の場合は印鑑証明を提出する必要はありません。
また、税務署に提出する印鑑証明は原本還付をすることが出来ないため、税務署提出分は事前に用意しておかなければなりません
印鑑証明が必要でない手続きについて
預貯金や不動産などのプラスの財産よりも、借金などのマイナスの財産の方が多い場合は、相続放棄を選択する方が多いと思います。
相続放棄を選択する場合は、家庭裁判所に相続放棄の申述手続きを行わなければなりませんが、その手続きには印鑑証明が必要ではありません。
申述書に押印する印鑑は認印でも構わないため、印鑑証明を添付する必要がないわけです。
印鑑証明がないときの対処法
上述のように、印鑑を登録するための手続きは、印鑑登録者の住民票所在地を管轄する市区町村役場で行います。
したがって、相続発生時に印鑑登録がまだしてないようであれば、お住いの市区町村役場で済ませておけば印鑑証明を発行することが出来るようになります。
ただし、相続人が未成年の場合や海外居住者の場合は、そういうわけにはいきません。
相続人が未成年の場合
民法では未成年が法律行為を行うことが認められていないため、未成年が相続人の場合は親などの法定代理人が本人に代わって相続手続きなどの法律行為を行います。
したがって、相続人が未成年の場合は、本人の印鑑証明ではなく(親などの)法定代理人の印鑑証明を提出することになります。
相続人が海外居住者の場合
相続人が海外に居住している場合、住民票所在地が日本国内に存在しないため、印鑑証明を発行することが出来ません。
このような場合は、印鑑証明の代わりに「サイン証明書」を提出します。サイン証明書は、居住地の日本領事館等の在外公館で発行してもらうことが出来ます。
まとめ
日本は、世界的にも稀な、印鑑を用いた本人証明書類を発行している国です。したがって、行政手続きをはじめさまざまな手続きで、印鑑証明の提出が求められます。
相続に関する手続きについても同様で、今回ご紹介したようなさまざまな相続手続きの際には、印鑑証明の提出が求められます。
ただし、手続きの大部分は原本の還付受けられるため、原本還付の出来ない相続税の申告を最後に回すようにすれば、印鑑証明の枚数を最低限で済ますことが出来るでしょう。