公正証書遺言とは?作成するメリットと手続きの進め方

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

ご自身が亡くなった後、遺産の相続をめぐって争いが起こるのを防ぐために遺言書を書き残す人が増えています。
遺言書にはいくつかの種類がありますが、その中で最も利用されているもののひとつに「公正証書遺言(こうせいしょうしょゆいごん)」があります。そこで本日は、公正証書遺言のメリットやデメリットについて初めての人にも分かるように出来るだけ丁寧に解説していきたいと思います。

公正証書遺言とは?

公正証書遺言とは

いっぽう、公正証書遺言とは、公証役場の公証人に作成してもらう遺言書のことを言います。自筆証書遺言と比べると費用が必要で、しかも公証役場に出向かなければならない面倒さはありますが、法的に正しい遺言書を作成してもらうことが出来るだけでなく、作成された遺言書の原本は公証役場で保管してもらえるため、紛失や改ざんの恐れはありません。

自筆証書遺言と公正証書遺言の違い

冒頭でお話ししたように、遺言書にはいくつかの種類があり、それらは大きく分けると以下の3つとなります。

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言

このうち、3番目の秘密証書遺言はほとんど利用されていないため、大抵の場合、多くの人が「遺言書」と言う時は、自筆証書遺言か公正証書遺言のどちらかを指すことになります。

参考:遺言書とは?遺言書の種類や効力・無効となるケースを解説

自筆証書遺言とは

文字通り遺言者が自分で筆を取り作成した遺言書のことを言います。遺言書の作成には、一部を除き、パソコンの使用は認められませんし、弁護士などの専門家に内容をチェックしてもらうこともありません。作成のための費用はまったくかからないため今すぐ書き始められる気楽さはありますが、内容が法的に正しいかどうかの検証は出来ませんし、何よりせっかく書いた遺言書が遺族に発見されない可能性や改ざんされてしまうリスクがあります。

公正証書遺言を作成するメリットとデメリット

では次に、公正証書遺言のメリットとデメリットをまとめてみます。

公正証書遺言のメリット

公正証書遺言の最大のメリットは、法的に正しい遺言書を作成することが出来る点です。せっかく苦労しながら何度も書き直して作り上げた自筆証書遺言が法的に正しくないために無効になるケースは後を絶ちませんが、公正証書遺言を選択した場合はそのようなことで心配する必要がありません。

また、上述のように作成した遺言書の原本は公証役場が保管してくれるため、遺言書の紛失や改ざんが起こる可能性もありません。

さらに、自筆証書遺言であれば開封するために家庭裁判所で検認手続きを行わなければなりませんが、公正証書遺言の場合はその必要はありません。

公正証書遺言のデメリット

いっぽう、公正証書遺言の最大のデメリットは、自分以外の人間に財産の詳細や遺言の内容を知られてしまう点にあります。公正証書遺言を作成する場合は、遺言者ご自身と公証人以外に、証人2人が立ち会わなければなりません。

したがって、最低でも、公証人を含む3名にはご自身の財産や遺言に関する内容がすべて知られてしまいます。これは、誰にも内容を知られずに遺言書を作成しておきたい人にとっては最大のデメリットです。

また、これ以外にも、公正証書遺言には作成のための費用が必要で(金額などの詳細については後ほど詳しくお話しします)、かつ、時間を割いて公証役場へ出向く必要などもあります。

公正証書遺言の作成方法と手順

では実際に、公正証書遺言を作成する場合はどのような流れで行われ、その費用や必要となる書類にはどのようなものがあるのかを確認していきましょう。

公正証書遺言の作成の流れ

公正証書の作成は、おもに以下の流れに沿って行われます。

  1. 公証役場に電話をして公正証書遺言作成依頼の旨を伝え、公証人との打ち合わせ日時を予約します。
  2. 予約日当日に必要書類(後述)を持参し、遺言の内容を公証人に伝えます。
  3. 公証人と打ち合わせをし、公正証書作成の日時を決めます。
  4. 打ち合わせ日までの間に、公正証書遺言を作成するための証人を2名準備します。
  5. 打ち合わせ日当日に、2人の証人とともに公証役場へ出向きます。
  6. 証人立会いのもとで、公証人から本人確認や質問等を受けます。
  7. 遺言者が遺言の内容を公証人に口頭で伝えます。
  8. 公証人が遺言の内容を筆記し、これを遺言者や証人に読み聞かせます。
  9. 遺言者と証人は筆記の内容が正確なことを承認し、各自がこれに署名押印します。
  10. 公証人は民法969条の方法に従い遺言書が真正に作成された旨を付記し、署名押印します。

公正証書遺言の作成費用

次に、公正証書遺言を作成するための費用についてお伝えします。
公正証書遺言を公証人に作成してもらう場合は、そのための費用が必要になります。

なお、支払う金額は遺言に記載する財産の金額に応じて以下のように定められています。

遺言に記載する財産の合計金額 手数料
100万円以下 5,000円
100万円を超え200万円以下 7,000円
200万円を超え500万円以下 11,000円
500万円を超え1,000万円以下 17,000円
1,000万円を超え3,000万円以下 23,000円
3,000万円を超え5,000万円以下 29,000円
5,000万円を超え1億円以下 43,000円
1億円を超え3億円以下 43,000円に超過額5,000万円ごとに13,000円加算した額
3億円を超え10億円以下 95,000円に超過額5,000万円ごとに11,000円加算した額
10億円を超える場合 249,000円に超過額5,000万円ごとに8,000円加算した額

ちなみに、遺産の総額が1億円以下の場合は、上記手数料に11,000円が加算されます。

では、遺産の総額が6,000万円で、3名の相続人(配偶者、長男、長女)に対して法定相続分で相続させる内容の公正証書遺言を作成した場合の作成費用を計算してみましょう。

  • 配偶者・・・相続分は6,000万円×1/2=3,000万円ですから、上記の表から手数料は23,000円になります。
  • 長男・・・相続分は6,000万円×1/2×1/2=1,500万円ですから、上記の表から手数料は23,000円になります。
  • 長女・・・相続分は長男と同じですから、手数料は23,000円になります。
  • 追加手数料・・・遺産の総額は1億円以下ですから、11,000円が加算されます。

したがって、この場合の手数料の合計は、23,000円+23,000円+23,000円+11,000円=80,000円となります。

ただし、これ以外に証人2人を公証役場に依頼する場合は、日当として一人当たり5,000円から15,000円程度が別途必要になります。

公正証書遺言の作成に必要な書類

公正証書遺言を作成するためには、以下の5つの書類を事前に用意しておかなければなりません。

  • 遺言者の本人確認書類(印鑑登録証明書または運転免許証など)
  • 遺言者の戸籍謄本
  • 登記簿謄本と固定資産評価証明書(財産に不動産がある場合)
  • 証人予定者の名前や住所、生年月日をメモしたもの(遺言者が証人を選任した場合)
  • 受贈者の住民票(財産を相続人以外に遺贈する場合)

公正証書遺言の作成する際に気を付けたい注意点

最後に、公正証書遺言を作成する際に気を付けるべき点をいくつかご紹介します。

  1. 公正証書遺言の原本は公証役場で保管されるため、自筆証書遺言のように紛失や偽造のリスクはありません。また、遺言書の作成は公証人がしてくれるため、法的に不備のある遺言書が出来上がってしまう心配もありません。
  2. 公証人は遺言人の遺言能力までチェックするわけではないため、遺言人の遺言能力に問題があった場合は、作成された遺言書自体が無効となることがあります。
  3. 公証人が作成する遺言書は遺言人の意思に基づいて作成されるため、「生前贈与が行われたか?」や、「この遺産の分け方をしたら法定相続人の遺留分が侵害されてしまうか?」などは考慮されません。したがって、作成された遺言書によっては、遺言人の死後に相続争いが起こる場合があります。
  4. 公正証書遺言を作成する場合は、遺言に記載する財産に応じた費用を支払わなければなりません。
  5. 公正証書作成日までに証人2名を用意し、当日はその証人とともに公証役場へ行かなければなりません。
  6. 万が一証人が見つからない場合は、公証人に証人を依頼することが出来ます。しかしその場合は、証人に対する日当を支払わなければなりません。
  7. 公正証書遺言は自筆証書遺言のように家庭裁判所で検認手続きを経る必要がないため、遺言者の死後ただちに遺言を執行することが出来ます。

まとめ

遺言書を作成しておくと、ご自身が亡くなった後で遺産の相続をめぐる争いが起きないようにすることが出来ます。ただし、自筆証書遺言の場合は、誰かがチェックしてくれるわけではないため遺言書自体が無効となるケースも多く、紛失や変造などのリスクも避けられません。

公正証書遺言にはそのようなリスクがほとんどないため、確実にご自身の意思を相続人に伝えるのには大変便利ですが、出来上がった遺言書には相続税がまったく考慮されていないため、本当の意味で遺言者の意思が伝わらない遺言書が出来てしまう可能性があります。

なぜなら相続税は誰が財産を相続するかで大幅に税額が変わるため、それを踏まえた上で遺言書を作らなければ、財産を公平に分けるために作ったものがかえって不公平を作り出してしまうことになりかねないからです。

したがって、公正証書遺言を作成する場合は、作成前に一度税理士などの専門家に相談し、相続税を考慮に入れた遺言書を作成することをお勧めします。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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