貸家建付地とは?評価額の計算方法や節税効果・知っておくべき注意点について解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

貸家建付地(かしやたてつけち)は、広い敷地や地価の高い土地を持っている人は覚えておきたい知識です。所有地のうえにアパートやマンションを建てて貸家建付地にすれば、「家賃収入を得ながら節税すること」が可能になります。貸家建付地の基本や節税の仕組み、貸家建付地を検討する際の注意点などをわかりやすく解説します。

貸家建付地とは?なぜ相続税対策ができるのか?

所有地のうえにアパートやマンションを建てて「貸家建付地」にすれば、効果的な相続税対策が可能です。

貸家建付地とは?

たとえば、所有している土地が空き地になっている場合、「借地として第三者に貸す」「その土地に賃貸物件を建てて活用をする」といった選択肢があります。後者の賃貸物件に活用する土地を「貸家建付地」といいます。

貸家建付地には、次の2つのメリットがあります。

  • 土地の評価額を圧縮して相続税対策ができる
  • 不労所得である賃料を得られる

つまり、貸家建付地によって「家賃収入を得ながら節税すること」が可能になるわけです。貸家というと戸建ての賃貸物件をイメージされるかもしれませんが、アパートやマンションなどに活用される土地も対象です。

なぜ、貸家建付地で相続税対策ができるのか?

貸家建付地で相続税対策ができる理由については、更地の所有地と比べると理解しやすいです。更地は、所有者が自由に用途を設定できます。一方、貸家建付地になると、所有地といえども賃借人、そこに住む人がいるため自由な利用が制限されます。

この制限がある分、相続税評価額が低くなるという考え方が一般的です。このような「貸家建付地」の特性があるため、とくに資産価値の高い(=相続税評価額の高い)土地をお持ちの人は、所有地に賃貸物件を建てて相続税対策を行うことが多いのです。

貸家建付地の評価額計算方法について

所有地を貸家建付地にすると、相続税評価額をどれくらい圧縮できるのでしょうか。目安でいうと都市部の満室物件の場合、自身のために使っている所有地(自用地)と比べて「相続税評価額を約2割圧縮できる」ケースが多いです。ただ「約2割」というのはあくまでも参考です。最終的に貸家建付地の相続税評価額は、次の計算式で割り出されます。

自用地評価額-自用地評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合

実際には上記の算式で税理士が貸家建付地の評価額を計算します。詳しい算式の計算要素も以下になります。

評価額計算の要素1.自用地評価額

自用地評価額とは、所有地を自身で使った場合の相続税評価額です。一般的には「路線価方式」で評価額を割り出しますが、路線価のない地域では「倍率方式」を用います。

路線価方式

  • 一般的な自用地は路線価方式で評価する
  • 路線価は国税庁サイトで確認できる
  • 路線価×土地の面積で評価額を算出できる
    (土地の形状などにより、一定の減額要素があります。)

倍率方式

  • 路線価のないエリアは倍率方式で評価する
  • 評価額は納税通知書や固定資産評価証明書で確認できる
  • 固定資産税評価額×評価倍率(国税庁サイトで確認可)で評価額を割り出せる

評価額計算の要素2.借地権割合

借地権とは、所有地に他者の建物が建っているときの権利を指します。この借地権の割合を示す「借地権割合」(例:借地権割合60%など)は、国税庁がまとめた路線価図で確認できます。

評価額計算の要素3.借家権割合

借家権とは、第三者に建物を貸したときの賃借人(借りている人)の権利を指します。借家権割合は都道府県ごとに定められものですが、現時点では全国一律30%になっています。

評価額計算の要素4.賃貸割合

賃貸割合とは、賃貸物件の総部屋数のうち、稼働している部屋の割合のことです。一例では、総部屋数が20部屋で稼働しているのが18部屋なら賃貸割合は90%になります(※)。同じ総部屋数20部屋でも稼働しているのが16部屋なら賃貸割合は80%です。要するに、稼働率が高いほど評価額は下がります。
※部屋の面積がすべて同じ場合

貸家建付地の計算例

貸家建付地の計算例をご紹介します。下記の条件で貸家建付地の評価額を計算すると、自用地の場合よりも評価額が圧縮されます。

  • 自用地評価額:6,000万円
  • 借地権割合:60%
  • 借家権割合:30%
  • 賃貸割合:90%

6,000万円 −(6,000万円×60%×30%×90%)=5,028万円

関連記事:土地・建物の相続税評価額と計算方法とは?節税対策も合わせて紹介

貸家建付地を検討する際の注意点

このように相続税対策として有用な貸家建付地にも注意点があります。下記の内容を必ず踏まえた上でご検討ください。

注意点1.空室リスクのある立地に賃貸物件を建てない

「貸家建付地が相続税対策になるから」という理由だけで、所有地にアパートやマンションを建てることは避けるべきです。賃貸ニーズのない立地では入居者が思うように集まらず空室リスクが高まります。

その結果、「想定していたキャッシュフローを確保できない」「借入金や利子の返済を手持ち資産で穴埋めし続ける」といった状況になりやすくなります。

こういった状況を避けるには、「所有地が賃貸ニーズのある立地か否か」を不動産業者の言いなりではなく、ご自身でリサーチする必要があります。現時点の空室リスクだけではなく、エリアの人口減少などによる将来の空室リスクも勘案することが大事です。

注意点2.貸し駐車場は貸家建付地の対象外(賃貸住宅の駐車場を除く)

貸家建付地は、貸家、アパート、マンションなどの賃貸住宅に活用される土地が対象になります。あくまでも賃貸住宅のための制度のため、駐車場は貸家建付地になりません。コインパーキングや立体駐車場の場合も対象外です。

ただし、アパートやマンションの入居者用の駐車場は、貸家と一体化していると見なされ貸家建付地となります。

ちなみに駐車場は「貸宅地」として相続税評価額の圧縮をすることが可能です。更地価格の30〜40%程度が土地の評価額となります(60〜70%程度が借地権の評価割合)。

注意点3.「小規模宅地等の特例」が併用できる

貸家建付地は、200平方メートルを限度として「小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地)」が適用されます。

これにより、特例が適用された土地の相続税評価額をさらに50%減額することが可能です。とはいえ、すべての貸家建付地が「小規模宅地等の特例」に該当するわけではありません。

以下に挙げる「小規模宅地等の特例」の要件にあてはまっているのかの確認が必要です。

  • 親族が賃貸物件を相続税の申告期限までに引き継ぎ、賃貸事業を行っている(事業承継要件)
  • 対象の土地を相続税の申告期限まで所有している(保有継続要件)

※「小規模宅地等の特例」については、相続開始前3年を超えて賃貸事業に供しているなど、さらに細かい要件があります。条件が複雑な仕組みのため税理士に相談したうえで利用することをおすすめします。

貸家建付地で行う不動産経営の考え方

貸家建付地には、「家賃収入を得ながら相続税を節税する」というメリットがあります。

だからといって、不動産経営の知識なしでアパートやマンションなどを建てるのは危険です。最終的には、入居者や物件の管理を専門業者に委託して、オーナーは実務をしないケースが多いでしょう。

しかし損失が出た場合、それを負担するのはオーナーです。最低限、賃貸経営の基本知識を学んだうえで所有地を貸家建付地にするか否かをご検討ください。

まとめ

所有地のうえにアパートやマンションを建てることを「貸家建付地」といいます。この仕組みをうまく使えば、「家賃収入を得ながら相続税を節税することが可能」です。

貸家建付地を利用するときのポイントは、賃貸ニーズのない立地に強引に賃貸物件を建てないことです。たしかに相続税評価額は圧縮できますが、赤字物件を抱えて資産が流出してしまいます。

また、「貸家建付地」と「小規模宅地等の特例」を併用することで、さらに相続税評価額を圧縮することが可能です。日本経済新聞によると、相続税の申告件数があった13万件超のうち、54%で「小規模宅地等の特例」が使われています(2016年度)。広く使われている制度なので、もれなく活用しましょう。

最後になりますが、最近、「総則6項」が話題になっております。
「総則6項」とは、相続税の財産評価についての税務署内でのお達しである財産評価基本通達の条項の一つです。明確な基準が示されていないのですが、行き過ぎた節税対策は貸家建付地の評価や小規模宅地等の特例が否認されるリスクがありますので、念頭に置いておいてください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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