現金手渡しによる生前贈与は税務署にばれない?効果的な贈与の方法

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相続税は遺産に対して課される税金なので、生前中に財産を相続人へ移動させることで相続税を節税することが可能です。
ただ無償で財産を渡すと贈与税の対象となりますし、現金手渡しによる贈与にはリスクが伴いますのでご注意ください。
本記事では現金手渡しによる生前贈与の危険性と、贈与税・相続税を節税するための贈与方法について解説します。

関連記事:生前贈与とは?相続との違いやメリット・デメリット・注意点を解説

生前贈与の手段として現金手渡しを避けた方がいい理由

生前贈与とは贈与者が生きている時点で財産を無償で渡す行為をいい、贈与税は財産をもらった「受贈者」が課税対象となります。
贈与する手段に規定はありませんし、現金で直接贈与すれば税務署にバレないと思うかもしれません。
しかし税務署は色々な手段を用いて情報収集しますので、現金手渡しならバレないという保証はどこにもないです。

現金手渡ししても生前贈与はバレる

現金手渡しであっても、税務署から贈与事実を隠し通すことはほぼ不可能なので止めましょう。
税務署には強力な調査権限が与えられており、税務調査で必要と認められる場合、銀行口座をすべて調べることが可能です。
大金を自宅に保管している人はいませんので、現金手渡しする場合、銀行からお金を下ろしますし、もらったお金をそのまま自宅に管理するのは危ないので、受贈者は現金を銀行へ預けるのが一般的です。
ただ銀行からお金を出し入れすれば履歴が残り、税務署は入出金履歴から贈与事実を把握することができますので、現金手渡しによる生前贈与もバレてしまいます。
また現金手渡しの場合、脱税の意図が無くても故意に申告逃れをした指摘され、重加算税の対象となるケースもありますのでご注意ください。

暦年課税贈与が認められず課税対象になる可能性

贈与税は贈与したタイミングが課税対象となりますので、毎年贈与した場合、その年ごとに贈与税の計算を行います。
贈与税には110万円の基礎控除額があり、控除額以内の贈与であれば非課税で、贈与税の申告も不要です。
ただし贈与税の申告もせず、贈与した事実を確認できる書類等がないと税務署は毎年贈与したと認めず、一括で贈与したとみなすことがあります。
1,000万円を毎年100万円ずつ手渡しで毎年贈与していた場合、1年間の贈与金額の合計は110万円以内なので贈与税がかかりません。
しかし税務署が最初から1,000万円をもらうことが決まっていたと判断した場合、定期贈与として1,000万円に対して贈与税を課すことがあるので要注意です。

生前贈与を現金手渡しした際の贈与税はどれくらい?

贈与税は1年間でもらった贈与金額の合計が多いほど納税額が多くなります。
そのため贈与税の節税を考える場合には、贈与金額に応じた税額がどの程度になるか、事前に把握しておきましょう。

1年間の贈与金額が110万円以下の場合の贈与税額

贈与税の基礎控除額110万円は、1月1日から12月31日までの1年間でもらった贈与金額の合計から控除する金額です。
1年間の贈与が110万円以下であれば課税対象金額はゼロになりますので、贈与税は発生しません。
また12月31日と翌年1月1日に贈与を受けた場合、2年分の基礎控除額を利用することが可能です。
贈与税は受贈者ごとの合計贈与金額で判断するため、複数人の贈与者から財産をもらった場合は合算する必要があります。
たとえば4人の贈与者から50万円ずつの贈与を受けた場合、贈与金額の合計は200万円となり、110万円の基礎控除額を超えることになるのでご注意ください。

1年間の贈与金額が110万円以上の場合の贈与税額

1年間の贈与金額が110万円を超えた場合、贈与税額が発生し、贈与税の申告・納税手続きが必要です。
贈与税の税率には「一般税率」と「特例税率」の2種類あり、贈与を受けた年の1月1日時点で18歳以上(※)の人が両親や祖父母など直系尊属からもらった財産(特例贈与財産)に対しては特例税率を適用します。
一般税率は、特例税率の対象となる財産以外の贈与(一般贈与財産)を受けた際に適用することになり、税率は一般税率よりも特例税率の方が低く設定されています。
※ 18歳とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。

【一般税率の速算表】

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

【特例税率の速算表】

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

贈与金額から110万円を控除した金額が大きいほど贈与税の税率は高くなるため、一括よりも複数年に分けて贈与した方が節税できます。
たとえば1度に1,000万円の贈与を受けた場合、890万円が贈与税の課税対象金額になりますが、2年に分けて受け取れば基礎控除額を2回適用できるため、課税対象金額は780万円(390万円×2年)です。
課税対象金額が少なくなれば税率は低くなるため、分割贈与も贈与税の節税手段の一つです。
なお毎年贈与した事実を否認されないためには、贈与契約を毎年締結し、契約内容に沿って贈与を実行してください。

生前贈与を現金手渡しで行う際の注意点

現金贈与する方法自体は認められていますし、贈与を受ける側も現金だと自由にお金を使えるので便利ですので、現金贈与する際のポイントをご紹介します。

贈与契約書は必ず作成する

現金を手渡しして贈与する場合は、贈与契約書の作成をオススメします。
贈与は契約書が無くても行えますが、贈与した事実を証明できる書類などが無いと、税務署に現金贈与の事実を否認される可能性があります。
贈与を否認されないために重要なのが、物的証拠を残すことです。
契約書は証拠として効力がありますし、証拠の提示を求められた際に提出しやすいメリットもあります。

贈与契約書は必要な事項が記載されていれば当事者間で作成してもいいですし、契約内容の不備がないか確認したい場合は、専門家に契約書をチェックしてもらう方法もあります。
なお契約書に「毎年100万円を10年間贈与する」などと記載している場合、契約書を作成した時点で1,000万円の贈与を受ける権利を得たとして、定期贈与の対象になる可能性もありますのでご注意ください。

関連記事:【税理士解説】贈与契約書とは?税務調査で否認されない書き方と注意点

贈与した事実を確認できる書類は保管しておくこと

贈与契約書と同じくらい重要になるのが、実際に贈与したことを証明できる書類を保管しておくことです。
贈与事実を確認できる書類としては、領収書を作成したり、通帳の入出金の履歴などがあります。
また贈与契約書の作成も大事ですが、契約書を作成しただけで実際にお金が移動していなければ贈与したと認められません。
毎年贈与契約書を作成しても、契約書と違う形で現金を手渡ししていれば、実際に受け取った金額が贈与税の課税対象となります。

相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される

相続税の節税のために生前贈与を行う際は、相続開始前7年以内の贈与財産の加算制度に注意してください。
相続開始前7年以内に、亡くなった人から「相続財産」を取得した人へ贈与が行われていた場合、贈与財産の金額を相続税の計算に含めなければなりません。
※令和5年度税制改正により生前贈与加算が相続開始前3年から7年となりました。
この改正は、令和6年の贈与から影響を受けることになります。
令和9年の贈与から1年ずつ加算年数が増加していき、令和13年からの贈与は、7年以内の加算となります。
ただし、以前に比べ4年の延長がなされたため、延長された4年間に受けた贈与は、合計100万円まで相続税が課税されません。
なお、相続税には基礎控除額があり、相続財産の総額が基礎控除額以内であれば、相続税はかかりません。

<相続税の基礎控除額の計算式>
3,000万円+600万円×法定相続人の人数=相続税の基礎控除額

節税効果のある正しい生前贈与のしかた

正しい生前贈与を行うためには、贈与する目的を明確にする必要があります。
贈与税と相続税のどちらを節税したいかでやり方は変わりますし、対策できる期間によっても用いる節税手段は異なります。

贈与税の110万円控除は最大限活用すること

長い期間をかけて贈与税・相続税を節税するのであれば、贈与税の110万円控除を最大限活用しましょう。
110万円控除は受贈者ごとに毎年利用できますので、子が3人いるご家庭であれば330万円の財産を無税で渡すことが可能です。
また110万円の贈与を10年継続すれば、贈与税を支払わずに合計3,300万円分の財産を移動させることもできるなど節税効果は絶大です。
生前贈与を実行する際の注意点としては、定期贈与を疑われないために毎年贈与契約書を作成し、お金を授受した証拠を残すようにしてください。
亡くなる直前の贈与は、相続開始前3年以内の贈与加算の対象となるため、元気なうちから計画的に贈与することが重要です。

贈与税の特例制度は積極的に活用すべき

贈与税には特例制度があり、500万円や1,000万円を贈与しても非課税になる制度がいくつも用意されています。

【主な贈与税の特例制度の種類】

  • 住宅取得等資金の贈与の非課税特例
  • 教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税制度
  • 結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度
  • 相続時精算課税制度
  • 配偶者控除(おしどり贈与)

特例を適用するためには、年齢や贈与財産の種類、贈与財産の使い道などの適用要件をすべて満たす必要があります。
贈与税の110万円の基礎控除額とは違い、誰でも適用できる控除ではありませんが、条件が整えばかなりの節税効果を期待できます。
なお特例を適用する際は必ず申請手続きをしなければならず、期限内に手続きが完了していないと特例は適用されませんのでご注意ください。

贈与税・相続税対策の相談は税理士へ

贈与税・相続税の節税が必要になるかどうかは、家庭ごとに異なります。
贈与金額が110万円以下であれば、対策する必要もありませんし、数千万円の財産を生前に渡したい場合、贈与税の特例制度の活用も検討しなければなりません。
また贈与ではなく、相続により財産を取得した方が節税になるケースもありますので、節税方法のご相談は税理士にしてください。

まとめ

財産を渡す方法は様々存在しますが、現金手渡しで贈与する際、贈与契約書の作成や贈与した事実が確認できる書類は必ず保管してください。
贈与事実が否認されれば、一括で贈与を受けたとみなされる可能性もあります。
また生前贈与による節税は、相続税のことまで踏まえて実行しないと逆効果になることもあるので要注意です。
贈与税・相続税の制度は毎年変更・改正されていますので、税理士へご相談していただき、最新情報に基づいた節税策を講じてください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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