生前贈与とは?相続との違いやメリット・デメリット・注意点を解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

配偶者や子供へ財産を引き継がせる方法としては、相続と贈与の2種類があります。
ご自身が亡くなった後で「遺言書」などをもとに財産を引き継がせる相続に対し、贈与は生前に行うものであるため、相続とはさまざまな点がことなり、またそれにより注意すべき点も違います。

生前贈与に焦点を当て、相続とはどのように違うのか、また生前贈与をどう活用すれば相続で得をし、そのためにはどのような点に気を付けなければならないのかについて解説していきたいと思います。

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生前贈与とは

生前贈与という言葉はこれまでに何度も耳にしたことがあると思いますが、そもそも生前贈与とはどのような行為を指し、それにはどのような種類があるのでしょうか?

この章ではまず生前贈与とは何かを定義し、次にその種類について解説していきます。

生前贈与とは

生前贈与とは、自分が生きている間に誰かに自分の財産を分け与えることをいいます。財産を与える対象は配偶者や子供などの親族である場合が多いですが、もちろん他人に与えても生前贈与となります。

民法における生前贈与

民法では、贈与の性質を以下の3点により規定しています。

  • 片務契約である・・・財産を与えるもの(贈与者)だけが財産を与える責任を負い、もらう側(受贈者)には何の責任もない
  • 諾成契約(だくせいけいやく)である・・・契約書などを作成していなくてもお互いの合意だけで成り立つ
  • 無償契約である・・・財産を無償で与える

この3点を満たすものを民法では贈与と規定しており、相続税・贈与税における贈与でもそれを踏襲しています。そのため、たとえば親が子供に内緒で通帳を作り、そこに毎年お金を振り込む行為はお互いの合意が認められないため、贈与とは認められません。

相続税におけるみなし贈与

上述した民法上の定義以外にも、相続税では以下のような場合に相続があったとみなし、相続税を課税します。これを「みなし贈与」といいます。

  • 低額譲渡による利益
  • 受取人が保険料を負担せずに取得した保険金
  • 受取人が保険料や掛金を負担せずに取得した定期金
  • 債務免除等による利益
  • その他、金銭の受渡しをせずに不動産の名義変更などをした場合など

たとえば時価100万円のものを10万円で譲渡した場合、無償契約ではないため民法上贈与とはなりませんが、譲渡された側は90万円分得をしているため、相続税法ではこれをみなし贈与として贈与税を課税するわけです。

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生前贈与の2つの制度

生前贈与には2つの制度があります。一つが「暦年贈与制度」で、もう一つが「相続時精算課税制度」です。

暦年贈与制度とは

暦年贈与制度(れきねんぞうよせいど)とは、暦年(1月1日から12月31日の間)に毎年贈与を行うことをいい、これは実際に多くの人に活用されている贈与の方法です。

贈与税には基礎控除という非課税枠があり、基礎控除は年間110万円と定められているため、その金額の範囲内で暦年贈与を行うのであれば、基本的に贈与税が課税されることはありません。110万円を超える部分には、その超えた部分の金額に応じて、10%~55%の税率が段階的に適用されて贈与税が課税されます。

相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度(そうぞくじせいさんかぜいせいど)とは、この制度を活用した贈与の合計額が2500万円に到達するまでは、生前にいくら贈与しても贈与税がかからないという制度です。

相続時精算課税制度を活用するためには税務署へ届け出が必要で、贈与者は受贈者の父母や祖父母などの直系尊属でなければならず、受贈者は贈与者の子または孫などの直系卑属でかつ18歳以上でなければなりません。
※ 18歳とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。

また、一度相続時精算課税制度を選択すると、その贈与者からの贈与について暦年贈与制度を使うことは二度とできなくなるだけでなく、相続時にはこの制度を活用して受けた贈与財産のすべてを相続財産に足し戻さなければならないなどのさまざまな制約があります。

令和6年以降の相続時精算課税贈与については、上記の2,500万円の枠とは別に、110万円までの基礎控除が設けられるという改正がなされました。
これによりの110万円以内の贈与には贈与税がかからず、また、これは相続財産として精算されることもないため相続税もかかりません。相続税がかからない場合には贈与の都度、贈与税の申告も必要ありません。

関連記事:相続時精算課税制度とは?制度の仕組みとメリット・デメリット

生前贈与のメリット

生前贈与には、おもに以下の2つのメリットがあります。

  1. 相続財産を減らすことで相続税を節税できる
  2. 贈与する相手を自由に選べる

生前贈与のメリット① 相続財産を減らすことで相続税を節税できる

暦年贈与制度を活用し、毎年110万円以内の贈与を繰り返し行うと、亡くなるまでの間に贈与税は非課税のままで相続財産を減らすことができます。その結果、相続税の節税ができることになります。

ただし、暦年贈与制度でなく相続時精算課税制度を選択した場合は毎年110万円を超える部分は相続時に贈与を受けた財産のすべてを相続財産に足し戻すため、相続税の節税にはなりません。

生前贈与のメリット② 贈与する相手を自由に選べる

相続の場合、遺言書を作成しない限り相続人の指定はできません。そのため、遺言書を作成しない場合は法定相続人同士の話し合いにより、財産の分配方法が決められます。

しかし、贈与であれば贈与する相手を自分で自由に選ぶことができます。たとえば2,000万円の財産を長男に贈与したいのであれば、相続時精算課税制度を活用し、生前にまとまった財産を、自分の指定する相手に贈与することもできます。

もちろん暦年贈与制度の場合も同様で、非課税の範囲内で親族でも他人でも誰にでも、ご自身の望む相手に望む金額を贈与することができます。

生前贈与のデメリット

いっぽう、生前贈与にはいくつかのデメリットもあります。その中でもおもなものは以下の2つとなります。

  1. 税務署に否認されることがある
  2. 亡くなる前7年間の贈与は相続税の対象となる(暦年課税制度の場合)

生前贈与のデメリット① 税務署に否認されることがある

親が子に毎年110万円を10年間暦年贈与し続けた場合、贈与税は課税されません。しかし、親の相続が発生した後、税務調査などにより税務署に贈与があった事実を認められなかった場合、名義が子になっているだけの親の財産(これを名義財産といいます)として、合計1,100万円を相続財産に加算して相続税が課税されてしまいます。

親の預金口座から子の預金口座に振込を行ったりするなどして資金の移動は行っているものの、贈与があった事実を税務署に証明できないと、相続税の節税目的で行ったはずの生前贈与が否認され、想定外の相続税が課税されてしまう可能性があります。

このように、形式的には非課税の要件を満たしていても、実質的に要件を満たしていないとみなされた場合には、税務署に否認され、贈与税が課税されてしまうことがあります。

生前贈与のデメリット② 亡くなる前7年間の贈与は相続税の対象となる

相続税対策として暦年贈与を始めても、亡くなる前7年間の贈与は贈与とはみなされず、相続財産に算入されて相続税の課税対象となります。

ですから、仮に亡くなる7年前に相続税対策として暦年贈与を開始したとしても、残念ながら相続税対策としての効果はまったくありません。

このように、生前贈与にはさまざまなメリットがある反面、これらのデメリットもあります。

※令和5年度税制改正により生前贈与加算期間が相続開始前3年から7年となりました。この改正は、令和6年1月1日以後の贈与から影響を受け、令和13年の贈与から、7年以内の加算となります。
ただし、このように以前に比べ4年の延長がなされたため、延長された4年間に受けた贈与は、合計100万円まで相続税が課税されません。

生前贈与の注意すべき点

生前贈与にはさまざまなメリットやデメリットがあります。それらを踏まえたうえで、注意すべき点はおもに以下の3つです。

  1. 贈与契約書を必ず作成する
  2. 受贈者に贈与を知らせる必要がある
  3. 預金通帳は受贈者の印鑑を使用する
  4. 贈与税の申告と納税を行う

生前贈与の注意すべき点① 贈与契約書を必ず作成する

贈与は、契約書を作成しなくても、双方の合意があれば成立します。しかし、契約書がなければ合意があったことを証明するのは難しいため、生前贈与を行う場合は必ず贈与契約書を作成し、双方の合意に基づく贈与であることを明確にしておきましょう。

関連記事:【税理士解説】贈与契約書とは?税務調査で否認されない書き方と注意点

生前贈与の注意すべき点② 受贈者に贈与を知らせる必要がある

親が子に内緒で子供名義の通帳を作り、暦年贈与を行うことがあります。生前にお金を渡すと使ってしまうため、子供に内緒で贈与をし、ご自身が亡くなった後で子供が困らないように確実に子供にお金が渡るような心づかいからされた贈与ではありますが、残念ながらこれでは贈与とは認定されません。

贈与には双方の合意が必要ですが、受贈者に贈与の事実を知らせなければ、合意を認めることはできません。

ですから生前贈与を行う場合は、必ず受贈者にその事実を知らせておかなければなりません。通帳は受贈者である子が必ず管理しましょう。

生前贈与の注意すべき点③ 預金通帳は受贈者の印鑑を使用する

贈与契約書を作成し、贈与の事実を受贈者に知らせておいても、預金通帳の印鑑が親などの贈与者のものであると、実際には子の知らないところで親が勝手に行っていたのではないかと疑われてしまう危険性があります。

そのため、生前贈与でお金を振り込む場合、受贈者の預金通帳の印鑑は受贈者のものを必ず使用するように心がけましょう。

生前贈与の注意すべき点④ 贈与税の申告と納税を行う

年間110万円を超える贈与があった場合、受贈者は必ず贈与税の申告と納税を行いましょう。

相続税の節税は税理士へ

相続税の節税に生前贈与は有効ですが、一歩間違えば否認されてしまう落とし穴があちこちにたくさんあります。上記の注意点を満たさないと、せっかく行った生前贈与が無駄になってしまう可能性があります。

さらに、2次相続まで考えた場合、必ずしも年間110万円までの暦年贈与で相続財産を減らしておくことが相続税の節税にとってベストであるとは限りません。場合によってはむしろ110万円の基礎控除額を超えた贈与を行い、贈与税を支払った方が、トータルで見た場合相続税の大幅な節税に繋がることもあります。

財産の状況は個人によってことなるため、どの方法がもっとも有効な節税方法になるのかはシミュレーションをしてみなければ分かりません。こういった高度な専門知識が必要なタックスプランニングは、相続を専門とする税理士でなければできません。

ですから、相続対策をお考えの方や暦年贈与による節税をお考えの方は、ぜひ一度、相続に強い税理士に相談してみて下さい。本当にその方法がベストなのかどうかがわかるでしょう。

まとめ

相続財産を減らし、相続税の節税にもつながる暦年贈与は誰でも簡単に始めることができるため、相続税でご心配の方はできるだけ早い時期から始めた方が良いでしょう。

ただし、亡くなる前3年間の贈与は贈与とはみなされないため、その点は注意しておかなければなりません。

また、生前贈与は後日税務署に否認される場合があるため、贈与契約書を作成するなどの注意点を踏まえて行わなければなりません。

相続税節税のための暦年贈与は、必ずしも年間110万円以内の贈与が最適な相続税の節税になるとは限りません。たとえば、相続税の最高税率が適用されるケースであれば、むしろある程度贈与税を支払う贈与を生前に行っておいた方が相続税の節税に繋がります。

これらを考慮に入れると、相続税でご心配な方は、まず相続に強い税理士に相談してから生前贈与を行った方が良いでしょう。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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