不動産小口化商品とは?メリット・デメリットから選び方まで解説
目次
不動産小口化商品とは?
不動産小口化商品の概要
不動産小口化商品とは、不動産特定共同事業(FTK)法に基づき販売される、不動産投資を小口化した商品のことをいいます。
不動産特定共同事業(FTK)とは、国土交通省が主管する許可制のもと、出資を募って不動産を売買・賃貸し、その収益を投資家に分配する事業のことです。
同省の資料によると、不動産小口化商品の流通が始まったのは、1987年頃のバブル経済期だったそうです。
しかし、後のバブル崩壊によって、不動産小口化商品を扱っていた業者が倒産し、その際、投資家が被害を受けるといったことがありました。
この事態を受けて、投資家保護のために1994年に制定されたのが、不動産特定共同事業(FTK)法になります。
不動産小口化商品に関わる事業者を、一定額以上の資本金等の要件を満たす宅建業者に限定するなどし、厳格な制度のもとで運用しています。
その後、時代のニーズに応じて、2017年に、要件を緩和する代わりに投資家1人あたりの出資額を100万円以下に限定した小規模な事業の登録制度や、クラウドファンディングに対応した環境の整備も行われています。
不動産小口化が人気となっている背景
少ない元手で人気エリアの不動産投資が可能に
通常、不動産投資を個人で始めようとした場合、多額の資金が必要になります。
都心にある人気エリアの不動産を手に入れることができれば、安定した収益が期待できることはわかっていても、そのためには、数億円、数十億円もの資金が必要になります。
不動産小口化商品であれば、こうした人気エリアの不動産でも、口数に分けて購入することができます。
たとえば10億円の不動産を1,000口に分ければ、投資家は1口100万円で購入できます。
不動産小口化商品を購入した投資家は、購入した口数に応じて、対象の不動産から生じた賃貸収入や、不動産の売却益の配当を受け取ることができます。
このように、個人では手が出せないような不動産でも、不動産小口化商品であれば手持ちの資金から投資を始めることができるのです。
相続や贈与で現物の不動産と同じ扱いになる
不動産特定共同事業(FTK)法に基づく不動産小口化商品では、任意組合型、匿名組合型、賃貸借型の3つの事業形態が認められています。
任意組合型 | 投資家が任意組合契約を結んで不動産の共有持ち分を購入・出資して、投資家のうちの1人(又は数人)が委任を受けて不動産取引を営み、その収益を分配する事業 |
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匿名組合型 | 各投資家が事業者とそれぞれ匿名組合契約を結んで出資し、事業者は不動産を取得して不動産取引を営み、その利益を分配する事業 |
賃貸借型 | 転貸目的で販売された不動産の共有持ち分を投資家が購入して、事業者に賃貸し、事業者が転貸して、その収益を分配する事業 |
このうち、相続対策に効果的であるとして注目されているのが、任意組合型と賃貸借型です。
不動産投資が相続税対策に有効であることはよく知られていますが、この2つの不動産小口化商品は、「投資家=不動産オーナー」であることから、相続税・贈与税の財産評価において、現物の不動産と同じ扱いを受けることができるのです。
現在のところ賃貸型の不動産小口化商品はほとんど募集がありませんので、以下、任意組合型の不動産小口化商品を前提とした相続対策について解説を進めます。
不動産小口化を活用した相続のメリット・デメリット
不動産小口化を活用した相続のメリット
不動産の評価額で生前贈与・相続できる
相続や贈与によって財産を受け取った人は、受け取った財産の額に応じた相続税や贈与税を負担しなければなりません。
相続税・贈与税の課税対象になるのは、相続や贈与の時における、各財産の評価額になります。
不動産小口化商品を相続や贈与によって受け取った場合、不動産と同じ方法で評価額を計算することができます。
詳しくは後述しますが、不動産の評価額は、一般的には市場での取引価格よりも低くなるというしくみがあります。
このことから、現金を保有したまま相続を迎えたり、現金で生前贈与を繰り返すよりも、その現金を不動産小口化商品に置き換えたほうが、相続税や贈与税の節税になります。
遺産分割で揉めにくい
複数の相続人がいる場合、遺産の大半が現物の不動産であると、遺産分割で揉めやすくなります。
しかし、同じ不動産でも、それが同額の不動産小口化商品であれば、口数で分けることができるため、相続人が公平に遺産を分けやすくなります。
投資商品としても魅力的
相続対策のために、ハイリスクな投資をして財産を減らしてしまっては、本末転倒です。
投資のリスクを抑えるには、複数の資産に投資する分散投資が有効とされています。
不動産小口化商品は、資産の額に合わせて始められることから、分散投資に向いています。
また、不動産投資で安定したリターンを得るには、空き室になりにくい都心や駅近などの不動産を購入することが有効です。
不動産小口化商品であれば、人気の高額物件も安価で購入できることから、富裕層でない一般の方の相続対策にも活用しやすいといえます。
不動産小口化を活用した相続のデメリット
投資商品としてのリスクがある
不動産小口化商品に限ったことではありませんが、不動産投資には、不動産価値の下落リスクや、空き室リスクがあります。
また、任意組合型の不動産小口化商品の投資家は、事業に対して無限責任を負うというリスクもあります。
納税資金の確保
相続税や贈与税の納税は、原則、金銭で一括納付しなければなりません。
これも不動産小口化商品に限ったことではありませんが、保有する財産をすべて金銭以外のものに変えてしまうと、相続人が納税できないという事態に陥ることがあります。
したがって、金銭もある程度残しておくことが重要です。
融資を受けられない
自分一人で不動産を購入する場合、その不動産を担保に融資を受けることができます。
また、相続までに返済しきれなかった分は、債務控除として相続税の課税対象から差し引くこともできます。
しかし、不動産小口化商品は、複数人で不動産を共有するしくみであるため、抵当権を設定できず、その不動産を担保に融資を受けることができません。
不動産小口化商品が相続対策に有効な理由
不動産小口化商品が相続対策に有効な理由は、不動産の評価額が、不動産の実勢価格(実際の取引価格)よりも低くなりやすいことにあります。
特に、その不動産を他者に賃貸している場合、その評価額は、取引価格の4割を下回ることもあります。
不動産の相続税評価額の計算方法
不動産の評価額は、土地の場合は取引価格の8割ほど、建物は新築の5~6割ほどが目安です。
さらに、この不動産を人に賃貸すると、もとの評価額から、土地は約10%~約30%、建物は30%がさらに減額されます。
たとえば、2,000万円で購入した不動産(土地:1,000万円、建物:1,000万円)を賃貸した場合、上記の目安をもとに評価すると、土地は約600万円~約700万円、建物は約400万円になります。
土地と建物を合わせて、取引価格のおおむね5割程度の評価額にできるということです。
さらに相続では、小規模宅地等の特例によって、土地の評価額を80%または50%を減額することができます。
賃貸用建物の敷地として利用している宅地であれば、この特例によって、200㎡までの部分の評価額から50%を減額することができます。
こうした計算のしくみから、相続時の評価額は、取引価格の4割を下回ることもあるのです。
【(参考)土地が8割になる根拠はどこから?】
宅地の評価額は、国税庁の財産評価通達に基づき、「路線価方式」又は「倍率方式」によって評価します。
「路線価方式」とは、「路線価」のある道路に接する宅地を評価する方法で、宅地が接する「路線価」に、その宅地の面積を乗じて評価します。
市街地にある宅地の多くは、この方式で評価することになります。
この「路線価」は、国税庁により、その年の地価公示価格(売買の指標になる価格)等の8割程度を目安に、毎年更新されます。
したがって、宅地の評価額は、一般的に取引価格の8割が目安と言われているのです。
ただし、8割の基準となる「地価公示価格」はあくまで取引価格の指標ですから、人気の高いエリアの土地は、これを上回る価格で取引されることもあります。
こうしたエリアでは、路線価と取引価格の乖離が通常よりも大きくなり、その結果、8割を下回る評価額になることもあります。
また、路線価は、宅地の形状に応じて価額を補正します。
たとえば、贈与や相続によって取得した宅地の奥行が短すぎる・長すぎる宅地だったり、形の悪い宅地だったりすると、路線価を減額補正できるため、8割よりも低い評価額になりやすいです。
不動産小口化で行う相続対策と方法について
不動産小口化商品を活用した、生前贈与と財産分与の具体的な方法をご紹介します。
不動産小口化商品を活用した生前贈与
たとえば、お持ちの財産が仮に現金2億円で、法定相続人が、長男・次男・三男の3人であるケースで考えてみましょう。
特に何も相続対策をしなかった場合、現金2億円が、そのまま相続税の課税対象になります。
この場合、相続税の総額は約2,460万円です。
この税額を、実際に財産を取得した相続人らが、取得した財産額に応じて負担します。
それでは、現金2億円のうち、5,000万円の現金を残して、残り1億5,000万円を使い、1口200万円の不動産小口化商品を75口購入したとします。(200万円×75口=1億5,000万円)
この時点で相続が発生した場合、1億5,000万円分の不動産小口化商品は、賃貸不動産としての評価が可能です。
また、土地は小規模宅地等の特例で50%の減額ができます。
こうした計算のしくみから、不動産小口化商品の評価額が、取引価格である1億5,000万円の4割まで下がったとしましょう。
このときの相続税の総額は、約780万円になります。
この時点でも非常に高い節税効果が得られますが、ここまでは理論上、1億5,000万円で1棟の賃貸アパートなどを購入した場合と同じです。
購入したのは、1口200万円の不動産小口化商品ですから、これを、少しずつお子さんに生前贈与をすることも容易にできます。
仮に、3人のお子さんに対し、1口ずつ20年にわたって生前贈与をした場合、どうなるでしょうか。
贈与税は、財産の評価額から毎年110万円の基礎控除を差し引くことができます。
つまり、年110万円以下の贈与であれば、贈与税はかかりません。
1口あたりの評価額は100万円(※)とした場合、毎年1口ずつであれば、贈与税の負担なしで贈与をすることができます。
20年間、合計60口の生前贈与を行った結果、相続税の課税対象は、現金5,000万円と不動産小口化商品15口にまで減らせます。
このときの相続税の総額は、約140万円です。
賃貸不動産の節税効果と、不動産小口化商品による生前贈与をフル活用すれば、このように大幅な相続税対策が可能となります。
なお、同額の贈与を毎年行う場合、定期贈与として扱われないように注意が必要です。
(※)贈与税の計算には、小規模宅地等の特例が使えませんので、ここでは取引価格の5割を贈与税の評価額としています。(「不動産小口化商品が相続対策に有効な理由」参照)
不動産小口化商品を活用した財産分与
保有する財産の大半が不動産である場合、遺産分割で揉めやすいとよく言われます。
理由は、不動産を1人の相続人が相続しようとすると、他の相続人が取得できる財産がなくなってしまうからです。
前項の例のように、2億円の財産のうち、1億5,000万円が1棟の賃貸アパートとその敷地で、残り5,000万円が現金だった場合、3人の兄弟でこの財産を公平に分けるのは困難と言えるでしょう。
不動産を3分の1ずつ持ち分で相続することも可能ですが、不動産を複数名で所有すると、修繕や売却に全員の承諾が必要になるなどの不都合があります。
さらに、所有者のうち1人が亡くなると、その相続によってさらに複数の人間が所有者になり、権利関係がどんどん複雑になります。
以上のことから、一般的に、不動産の共有はおすすめできません。
このようなとき、賃貸アパート1棟ではなく、1億5,000万円分の不動産小口化商品を所有していれば、相続人は、口数で財産を分けることができます。
財産を公平に分けることは、現物の不動産と比べればそう難しくありません。
このように、遺産分割のことを考えた場合でも、不動産小口化商品を保有することにはメリットがあります。
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不動産小口化商品の選び方と注意点
任意組合型を選ぶ
相続対策として、不動産として評価できる不動産小口化商品を選ぶなら、任意組合型の商品を選ぶ必要があります。
たとえば、契約のタイプなどに「民法上の任意組合契約」や、「不動産特定共同事業法第2条第3項第1号の不動産特定共同事業契約」などと表示があるものが該当します。
匿名組合型にも任意組合型にないメリットがあるのですが、相続対策に活用したい場合は任意組合型を選ぶことがポイントとなります。
人気エリアの不動産を選ぶ
安定した収益が得られるよう、できるだけ都心の人気エリアの不動産を選びましょう。
ただし、不動産小口化商品はまだまだ市場規模が小さく、その中で人気の高いエリアの不動産を手に入れることはなかなか大変かも知れません。
そうしたときは、周辺のエリアも検討してみましょう。
5年おきに行われる国勢調査の2020年の結果を見ると、日本の総人口が減少し続ける中で、次の5都県は、前回調査よりも人口が増加し、かつ、その増加幅も拡大していますので参考にしてください。
- 東京都
- 千葉県
- 神奈川県
- 福岡県
- 埼玉県
時代に合わせた投資対象を選ぶ
日本の人口減少と高齢化は、不動産投資をする以上、避けられない社会的な課題です。
令和2年6月、国土交通省によって開催された「不動産特定共同事業(FTK)の多様な活用手法検討会」では、三大都市圏の高齢者数が2040年に向けて急速に加速する見込みである等の現状から、高齢者住宅や施設など、ヘルスケア施設への投資に、小口投資家を呼び込めないかという議論が行われています。
同省ホームページで公開されている資料によると、投資家自身が将来の入居者になることを想定した、出資特典の構想もあるようです。
不動産小口化商品が、国が管掌する事業によって販売されている以上、政策の流れに乗って投資対象を選ぶ視点も重要になると考えられます。
(参考) 国土交通省HP:不動産特定共同事業(FTK)の多様な活用手法検討会
税制改正の動向に注意
不動産小口化商品に限った話ではありませんが、相続税対策として活用されている不動産に関する税制が見直されるケースは、珍しいことではありません。
たとえば今後、不動産小口化商品の中に、実態とかけ離れた税制が適用されているものがあるなどとして問題が発生した場合、現在の扱いが変わる可能性があります。
インターネットで相続税対策の情報は手軽に得られる時代ですが、不動産に関するものは、数年前の情報を鵜呑みにしてはいけません。
これから不動産小口化商品を相続対策に活用したい方は、必ず最新の税制を確認し、不動産と税務に精通した専門家に相談してから投資することをおすすめします。
まとめ
不動産小口化商品について、相続対策の観点から解説しました。
なお、上記では触れていませんが、任意組合型の不動産小口化商品には、所得税の税務に関してもメリット・デメリットがあります。
不動産小口化商品の保有中、事業で生じた損益は、パススルー課税といって組合員(投資家)個人に帰属します。
個人に帰属した、任意組合型の不動産小口化商品の賃貸収入は、不動産所得に分類されます。
不動産所得ですので、青色申告特別控除を適用することが可能です。
しかし、マイナス(赤字)の分配があった場合、任意組合型の不動産小口化商品では、他の不動産所得の黒字から差し引くことはできない上、他の所得との損益通算もできません。
税理士に相談すれば、相続のメリット・デメリットだけでなく、所得税の税務も正しくお伝えすることができます。
まずはご相談ください。