富裕層が検討すべき相続対策とは?
目次
富裕層向け相続対策とは?
富裕層の相続対策として、お持ちの現金で別の資産を購入する方法があります。
現金の場合、相続税の課税対象になるのは、その額面どおりの金額ですので、たとえば現金1億円をお持ちの方が亡くなれば、1億円が相続税の課税対象になります。
これに対し、金融資産や不動産などの財産は、一定の方法で計算した「相続税評価額」が、相続税の課税対象になり、財産によっては、この「相続税評価額」の方が市場での取引価格よりも低くなることがあります。
❗たとえば、現金1億円で購入した不動産の評価額が8,000万円であれば、8,000万円しか相続税の課税対象にならないということです。
こうした財産に投資すれば、現金をそのまま保有しておくよりも相続税を節税することができます。
それでは投資対象として保険・上場株式・不動産の3つを比較した場合、どれがもっとも節税効率が良いのでしょうか。
保険による相続
被相続人の死亡によって支払われる死亡保険金のうち、被相続人が保険料を負担しているものは、みなし相続財産として、相続税の課税対象になります。
ただし、この死亡保険金の受取人が相続人である場合、死亡保険金のうち「法定相続人の数×500万円」まで、相続税は非課税になります。
ポイントは、①「保険料を負担する人(通常は契約者)」と「被保険者」を被相続人とする生命保険であること、②「受取人」を相続人とすることの2つです。
被相続人の現金等の財産から月々の保険料を支払うことで、保険料分の現金を、非課税枠のある死亡保険金に置き換えるようなイメージとなります。
株式による相続
上場株式は、銘柄ごとの下記①~④の価格のうち、もっとも低い値を、その銘柄の相続税評価額とします。
- 死亡日の終値
- 死亡月の終値の平均額
- 死亡月の前月の終値の平均額
- 死亡月の前々月の終値の平均額
終値とは、一日の最終取引価格のことです。
月の終値の平均額は、証券取引所のホームページなどで公開されている「月間相場表」から調べることができます。
また、一般的に権利落ち日までは価格が上昇しやすいという事情を考慮し、死亡日が権利落ちの日から配当金交付等の基準日までの間にある場合、その「死亡日の終値」は、権利落ちの日の前日以前の日のうち、死亡日にもっとも近い日の終値とする特例があります。
不動産による相続
不動産の相続税評価額については、土地は購入価額のおおむね8割、建物は5~6割ほどが目安とされています。
特に取引価格が高くなりやすい都心の土地などであれば、評価額と実勢価格(実際の取引価格)の乖離がより大きくなる傾向にあり、高い節税効果を得やすくなります。
また、購入した不動産を人に賃貸したり、小規模宅地等の特例を適用したりすれば、最終的に購入価額の4割ほどに評価額を圧縮することができます。
不動産を人に賃貸したり、小規模宅地等の特例を適用する方法は、新たに購入した不動産だけでなく、今お持ちの不動産に対しても効果のある相続対策になります。
富裕層向け相続対策なら【不動産】が効果を発揮しやすい
3つのうち、富裕層向けの相続対策として効果を発揮しやすいのは「不動産」です。
保険は非課税額に制限がある
保険にも節税効果はありますが、富裕層のための相続対策としては十分ではありません。
なぜなら、死亡保険金のうち非課税となる金額が、税法上の「法定相続人の数」によって限られるからです。
仮に相続税の課税対象となる財産の合計額が5,000~6,000万円であれば、相続税の基礎控除額(3,000万円+法定相続人の数×600万円)と合わせることで、相続税の負担をほぼなくすこともできるでしょう。
しかし、富裕層の方の相続において課税対象を無くすことは不可能であるため、保険以外の対策も合わせて行う必要があります。
なお、養子縁組をすれば「法定相続人の数」を増やすことができますが、含めることのできる人数には限りがあります。
【法定相続人の数に含めることのできる養子の上限】
被相続人に実子がいる場合 | 最大1人 |
---|---|
被相続人に実子がいない場合 | 最大2人 |
※特別養子縁組、配偶者の連れ子との養子縁組など、上限のない養子縁組もあります。
株式は確実な相続対策にならない
上場株式の場合、相続前の株価でその評価額が変動します。
そのため、確実な相続対策とはいえません。
仮に評価対象となる相続前の3か月間だけ株価が下がり、相続後に回復すれば、財産価値はそのままで節税効果だけを得られますが、そのように都合よく下がることはないでしょう。
不動産による相続対策が効果的
不動産の場合、おおむね割合で相続税の課税対象を圧縮する効果があるため、富裕層にとっては、保険よりも高い節税効果を期待できます。
また、不動産は、評価額を計算する際のしくみを活用した節税対策ですので、市場での取引価格が実際に減少したかどうかに関わらず節税効果が得られます。
この点において、株式よりも確実性の高い対策といえるでしょう。
以上から、3つの財産を比較したとき、富裕層の相続対策には不動産がベストです。
不動産相続を行う場合に検討すべき生前贈与
不動産による相続対策は、不動産を賃貸することによって、より高い節税効果を得られます。
しかし、賃貸経営にはリスクも伴いますし、その不動産を承継するお子さんなどが喜ぶとも限りません。
そうした場合は、生前贈与による相続対策も検討しましょう。
生前贈与とは
生前贈与とは、相続人などにお持ちの財産を生前のうちに渡し、相続税の課税対象となる財産そのものを減らす方法になります。
生前贈与であれば、節税効果に加えて、「マイホームが欲しい」「子供の入学資金を用意したい」など、相続人が金銭を必要とするタイミングで支援できるため、喜ぶ顔を見ることもできます。
生前贈与のポイントは、贈与を受けた人が負担する「贈与税」が非課税となる範囲で、計画的に贈与を実行することにあります。
非課税で贈与を行う方法には、主に以下の4つがあります。
①暦年贈与
贈与税は、1月1日から12月31日までの間に贈与を受けた財産の額から、年110万円を控除して計算します。
このことから、毎年110万円以下の非課税枠を活用して贈与を続ければ、贈与税はかかりません。
ただし、その贈与が定期金給付契約とみなされたり、名義預金として扱われると相続対策の効果は無くなります。
こうした扱いを受けないよう、専門家に相談しながら実行することがおすすめです。
②住宅取得等資金の贈与
直系尊属(親や祖父母など)から、成人である子や孫など(あるいは贈与年に成人を迎える子や孫など)に、住宅の新築や購入費用、増改築費用などの対価に充てるための金銭を贈与すると、一定額まで贈与税が非課税となる特例です。
現在、令和8年12月31日まで特例の適用期限が延長される予定です(令和6年度税制改正大綱・現行:令和5年12月31日まで)。
令和4年1月1日以降に行う贈与について、適用される非課税限度額は下記のとおりです。
耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋 | 1,000万円 |
---|---|
上記以外の住宅用家屋 | 500万円 |
特例を適用するには、取得する住宅や贈与を受けられる人にそれぞれ要件があります。
また、贈与税の申告もしなければなりませんので、専門家にご相談ください。
③教育資金の一括贈与
直系尊属(親や祖父母など)から30歳未満の子や孫に、この制度を取り扱う金融機関を介して、学費や習い事、それに附随する諸費用に充てるための金銭等を贈与した場合、1,500万円まで(学校等以外に支払う金銭は500万円まで)贈与税が非課税となる特例です。
通常、子や孫のために学費等を「必要な都度」支払うことは贈与税の対象になりません。
しかし、具体的な支払先がないうちにまとまった資金を贈与し、それが使用されず預貯金になった場合は、贈与税の課税対象になります。
この特例を使えば、具体的な支払先が未定であるうちにまとめて贈与しても非課税となる点にメリットがあります。
④結婚・子育て資金の一括贈与
直系尊属(親や祖父母など)から18歳以上50歳未満の子や孫に、この制度を取り扱う金融機関を介し、結婚や子育てに関する費用に充てるための金銭を贈与した場合、1,000万円まで(結婚に関する費用は300万円まで)贈与税が非課税となる特例です。
こちらの特例も、一般的な額のご祝儀や、必要な都度支払われる生活費であれば、贈与税の対象になりませんが、これらの制限を気にせず一括で贈与できる点にメリットがあります。
まとめ
富裕層の相続対策としては、不動産や生前贈与の検討が効果的です。
これらの対策を成功させるには、早めの相談がカギとなります。
たとえば、不動産は賃貸することや小規模宅地等の特例を適用することで、節税効果をさらに高めることができるとお伝えしました。
しかし、賃貸によって節税効果が得られるのは、相続の時に、その物件を実際に賃貸している相手がいなければなりません。
よって、賃貸経営をしっかりと行う必要があります。
また、賃貸物件の敷地として小規模宅地等の特例を使う場合、「貸付事業用宅地等」としてその評価額を50%減額できますが、相続開始前3年以内に賃貸を始めたケースでは、原則、この適用ができません。