二世帯住宅は相続税対策に有効?不動産税理士が節税方法を解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】

二世帯住宅は子育てや介護を理由に建てられることが多いですが、相続税を節税する目的で建築するのも選択肢の一つです。
相続税の節税効果を高めるためには、建物の登記方法や二世帯住宅を相続する人もポイントになりますので、今回は二世帯住宅の相続税の節税効果と対策する際の注意点について、不動産税理士が詳しく解説します。

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相続税対策に有効な二世帯住宅とは?

二世帯住宅とは、同じ建物の中で親世帯と子世帯が一緒に暮らしている住宅をいいます。
相続税は亡くなった人の財産に対して課される税金で、相続開始時点の財産を基に税額計算を行います。
不動産は購入費用を支払った人の名義にするのが原則ですので、父の相続が発生した場合、父が購入した二世帯住宅は相続税の課税対象です。

一方、父と子の共有名義で二世帯住宅を建築した場合、父の相続が発生した際に相続税の対象となるのは父名義の部分だけですので、父と子がそれぞれお金を出して二世帯住宅を建築し、共有名義で登記することで相続税の対象財産を減らすこともできます。
また、二世帯住宅の敷地として使用している土地については、特例を適用することで相続税評価額を80%減額することができるため、特例を適用できるような状況を整えるのもポイントです。

関連記事:効果的な相続税対策・節税方法9選を税理士が解説【2023年完全版】

二世帯住宅で相続税を節税する方法

二世帯住宅が相続税対策として効果がある最大の理由は、小規模宅地等の特例を適用できる点にあります。

小規模宅地等の特例は評価額を80%減額できる

小規模宅地等の特例は、亡くなった人(被相続人)が居住用や事業用として利用していた土地を、相続人等が取得した際に適用できる特例制度です。
小規模宅地等の特例は土地の種類によって対象となる面積や節税効果が異なり、二世帯住宅に対して適用できる「特定居住用宅地等」は、面積330㎡までの土地の相続税評価額を80%減額することができます。
特定居住用宅地等を適用するためには、被相続人が住んでいた自宅を相続人が取得し、相続後も引き続き住み続けることが基本的な要件となっています。

別居している人が特定居住用宅地等を適用できるケースもありますが、被相続人に同居人がいると特例の適用対象外となるため、原則配偶者または同居親族が自宅を相続して特例を受けることになります。

二世帯住宅は何度でも小規模宅地等の特例が使える

相続税を節税する視点で考えた場合、高齢夫婦の一方が亡くなった際は、配偶者の相続も近いうちに発生することも想定して対策を講じなければなりません。
夫の相続の際に妻が自宅を取得すれば、小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)を適用することができますし、妻の相続が発生したときにおいても、要件を満たせば小規模宅地等の特例を再び適用することが可能です。
相続開始時点で被相続人の同居人が不在の場合、特定居住用宅地等の要件を満たすのは難しいです。
しかし、二世帯住宅であれば同居人の子が自宅を相続すれば、適用要件をクリアできますので、次の相続でも小規模宅地等の特例を適用できるような状況を整えるのも、相続税を節税するためには重要です。

特例以外の相続税の節税効果

二世帯住宅に対する相続税の節税は、小規模宅地等の特例の適用が効果的ですが、二世帯住宅を購入するだけでも十分な相続税の節税効果が見込めます。
土地の相続税評価額は、国税庁が公表している路線価や評価倍率を用いて算出するのですが、路線価等で計算した土地の評価額は時価の80%程度とされています。

土地を3,000万円で購入した場合、相続税の計算上の価値は2,400万円程度になるため、相続財産を現金・預貯金から土地に替えただけで、600万円分の相続税評価額を抑えることが可能です。
建物の相続税評価額については、市区町村の固定資産税評価額をそのまま用いることになりますが、建物の固定資産税評価額は購入金額よりも低いことが多いため、生前に二世帯住宅を建築するだけでも相続税の節税効果を得ることができます。

関連記事:不動産の相続税の計算方法とは?土地建物の評価方法や特例についても解説

相続税対策に二世帯住宅を行う場合の注意点

二世帯住宅には相続税の節税効果が期待できる一方で、小規模宅地等の特例を適用する際にはいくつか注意点があります。

小規模宅地等の特例を適用するには相続税申告書の提出が必要

小規模宅地等の特例は、相続税の申告書に特例を適用する旨を記載して、はじめて受けることができる制度です。
無申告の状態だと特例を適用したことにはならないため、小規模宅地等の特例の適用で相続税の納税額が0円になる場合でも、相続税の申告書の提出は必須です。
また小規模宅地等の特例を適用するためには、遺産分割協議が完了していることも要件となっています。
遺産分割協議は、相続人が遺産をどのように分けるかを話し合うことをいい、遺産の分け方が決まったときは遺産分割協議書を作成することになります。

遺産分割協議書は相続人全員の同意が無いと作ることができず、小規模宅地等の特例を適用するためには遺言書がある場合を除き、提出が必要です。
相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合、小規模宅地等の特例を適用することができません。
ただし、相続税の申告書と一緒に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出すれば、その後に遺産分割協議がまとまったタイミングで、小規模宅地等の特例を適用した修正申告書や更正の請求書を提出することが可能です。

特例適用には居住要件だけでなく保有要件もある

小規模宅地等の特例の特定居住用宅地等は、基本的に被相続人と一緒に住んでいた人を対象とする制度ですが、居住要件だけでなく保有要件もあります。
保有要件は、相続税の申告期限まで所有者として適用対象地を保有していることを求めるもので、申告期限前に相続した不動産を売却してしまうと、小規模宅地等の特例は受けられません。
自宅を相続するのが配偶者であれば、居住要件と保有要件はありませんが、同居している子が自宅を引き継ぐ際は、申告期限が到来する前に売却や贈与を行わないよう注意してください。

区分所有建物だと原則適用することができない

二世帯住宅にも色々な建築構造がありますが、小規模宅地等の特例を適用する観点で考えた場合、区分所有登記は避けた方がいいでしょう。
区分所有登記とは、建物の中で部屋ごとに所有権の対象となるように登記する方法をいい、二世帯住宅でも1階と2階を別々に登記することができるケースもあります。
区分所有登記は単独名義で登記を行えるメリットがある一方で、親世帯と子世帯の生活基盤が別々であるとみなされ、特定居住用宅地等の適用対象外となる可能性が高いです。
そのため二世帯住宅を建築する際は、建物を区分所有登記するのではなく建物全体で登記するのが望ましく、現時点で区分所有登記となっている場合には、税理士や司法書士に相談して対策を講じる必要があります。

二世帯住宅の相続税の節税事例と二次相続の考え方

二世帯住宅で相続税を節税する具体的な事例と、二次相続の注意点をご紹介します。

一次相続時のポイント

二世帯住宅に住んでいるのが被相続人と配偶者および子の場合、相続税を節税するのであれば、自宅は子が相続することが望ましいです。
子の相続が発生するまでには期間がありますし、短期間で相続が発生してしまったとしても、子の配偶者や同居している子の子が自宅を相続すれば、小規模宅地等の特例を適用することが可能です。
配偶者は特定居住用宅地等の要件が緩く、1億6千万円までの相続財産が非課税になる「配偶者の税額軽減」を適用することができます。

しかし、配偶者は子よりも先に相続が発生する可能性があることから、配偶者が大半の相続財産を引き継いでしまうと、配偶者が亡くなった際に多額の相続税を支払うリスクもある点には注意が必要です。

二次相続時のポイント

相続に関連するトラブルは、相続人の仲が良好だと思っているケースほど起こりやすく、対策を講じていなかったことが要因で、遺産分割が長期化することも珍しくありません。

一次相続の次に発生する相続を「二次相続」といい、一般的には一次相続の配偶者が亡くなった際の相続を指すことが多いです。
二次相続の懸念点としては、兄弟姉妹間で遺産分割協議が難航する可能性がある点です。
民法上は兄弟姉妹の法定相続分は平等ですので、兄弟姉妹が2人の場合には、遺産をそれぞれ2分の1取得する権利があります。

主な財産が預貯金であれば、法定相続分等に応じて分けることもできますが、メインの遺産が自宅のみの場合、自宅を引き継がない相続人から自宅の価値に相当する半分を金銭で要求してくることも想定されます。
自宅を引き継ぐ相続人が他の相続人に対して金銭を支払えない場合、自宅を売却して財産を分けることを主張してくることも考えられますので気を付けてください。
なお、相続トラブルを避ける手段は、生前中に財産を贈与する方法や遺言書を作成するなどいくつもありますので、対策する際は専門家に相談することをオススメします。

まとめ

二世帯住宅を建てる場合、親と子の共有名義にすれば相続対象になる金額は少なくなりますし、小規模宅地等の特例を適用することで評価額を80%減額することも可能です。
ただ自宅を相続する人を間違えてしまうと特例は受けられませんので、実際に相続税の手続きをする際は専門家に相談してください。

二世帯住宅で小規模宅地の特例を活用する際によくある質問

Q1.小規模宅地等の特例の対象となる土地とは?

小規模宅地等の特例は、居住用や事業用として利用していた土地を対象とする制度です。
適用要件・限度面積・減額割合は対象となる土地の種類によって異なりますが、自宅の敷地に対して特例を適用する場合、相続税評価額を最大80%減額することができます。

Q2.小規模宅地等の特例を適用する際にやるべきことは?

小規模宅地等の特例を適用するためには、相続税の申告が必須です。
適用要件を満たしたとしても、小規模宅地等の特例を適用する旨を記載した相続税の申告書を提出しないと適用したことにならないため、特例の適用で納税額がゼロになる場合でも申告書を作成する必要があります。

Q3.特定居住用宅地等を適用できる人は?

特定居住用宅地等は、基本的に被相続人と一緒に住んでいた人が適用することを前提としています。
配偶者が自宅の敷地を相続した際は特段の要件はありませんが、同居していた相続人が特例を適用するためには、申告期限までに自宅を所有し、住み続ける必要があります。
同居していない相続人が特定居住用宅地等を適用できるケースもありますが、被相続人が一人暮らしであったことや、別居していた相続人に持ち家が無いなど、適用するためのハードルは高いです。

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マルイシ税理士法人は、不動産と相続を専門とする税理士事務所です。
相続税は税金の中でも特に専門知識が必要な税金であり、不動産は相続財産の金額構成比で最も割合が高い財産です。
一次相続の相続税を節税しても、二次相続の相続税の支払いが多くなっては意味がありませんので、トータルの相続税の納税額を抑えたい方はマルイシ税理士法人にご相談ください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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