住宅取得等資金贈与の非課税措置はいつまで?適用要件・注意点などを税理士が解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

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贈与税には、1,000万円もらったとしても税金がかからない、「住宅取得資金贈与の非課税制度」があります。

ただ非課税制度を利用するためには要件がありますし、税制改正により非課税控除額の上限が変更になっていますのでご注意ください。

住宅取得等資金贈与の非課税枠とは?

「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税」(通称:住宅取得資金贈与の非課税制度)とは、直系尊属(親・祖父母など)から贈与により、自己の居住用物件の新築、取得または増改築等の対価に充てるための金銭を取得した場合に適用できる特例制度です。

贈与税には110万円の基礎控除額がありますが、贈与金額が110万円を超えた場合、差額に対して贈与が課されます。

しかし「住宅取得資金贈与の非課税制度」の要件を満たした場合には、基礎控除額とは別枠で非課税控除を適用できますので、贈与金額が110万円を超えても贈与税を支払わずに贈与することが可能です。

また非課税控除額は最大1,000万円と高額ですので、相続財産を生前中に移す目的で住宅取得資金贈与の非課税制度を活用し、住宅購入資金の援助を行うこともできます。

住宅取得資金贈与の非課税制度の適用要件

住宅取得資金贈与の非課税制度には人的要件(贈与者・受贈者の要件)と物的要件があり、双方の要件を満たした場合に限り適用することができます。

人的要件

住宅取得資金贈与の非課税制度の人的要件は、次の通りです。

<贈与者・受贈者の要件>

  • 贈与を受けた時に贈与者の直系卑属(子・孫・曾孫など)であること
  • 贈与を受けた年の1月1日において、18歳以上であること
    (令和4年3月31日以前の贈与の場合は20歳以上)
  • 贈与を受けた年の受贈者の合計所得金額が2,000万円以下であること
    (新築等をする住宅用の家屋の床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は、合計所得金額1,000万円以下)
  • 平成21年分から令和3年分までの贈与税の申告で「住宅取得等資金の非課税」の適用を受けたことがないこと
    (一定の場合を除く)
  • 自己の配偶者、親族などの一定の特別の関係がある人から購入または、請負契約等により新築もしくは増改築等をしたものではないこと
  • 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を充て、住宅用の家屋の新築等をすること
  • 贈与を受けた際、日本国内に住所を有していること
  • 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、購入した家屋に居住または、同日後遅滞なくその家屋に居住することが確実であると見込まれること

受贈者が居住用家屋を所有することにならない場合、特例を適用することはできません。

また住宅取得資金の非課税制度の申告手続きを行っても、贈与を受けた年の翌年12月31日までに購入した家屋に居住していない場合は特例の対象外となるため、修正申告で特例適用を取り消す手続きが必要です。

物的要件

住宅取得資金贈与の非課税制度の対象となる住居要件は次の通りです。

<新築または取得の場合の要件>

  • 日本国内に所在する住居用物件
  • 新築または取得した住宅用の家屋の登記簿上の床面積が40㎡以上240㎡以下であり、家屋の床面積の2分の1以上を受贈者の居住用として利用すること
    (マンションなどの区分所有建物の場合は、専有部分の床面積で判定)
  • 取得した住宅が次のいずれかに該当すること
  •  1、建築後使用されたことのない住宅用の家屋
     2、建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、昭和57年1月1日以後に建築されたもの
     3、建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、地震に対する安全性に係る基準に適合するものであることにつき、一定の書類により証明されたもの

  • 上記2および3のいずれにも該当しない建築後使用されたことのある住宅用の家屋で、その住宅用の家屋の取得の日までに同日以後その住宅用の家屋の耐震改修を行うことにつき、一定の申請書等に基づいて都道府県知事などに申請し、贈与を受けた翌年3月15日までにその耐震改修により、その住宅用の家屋が耐震基準に適合することとなったことを証明書等で証明されたもの

住宅取得資金の非課税制度は令和8年12月31日までの期間限定(令和6年度税制改正大綱)

住宅取得資金贈与の非課税制度は期間限定の制度であり、令和6年1月1日から令和8年12月31日まで(令和6年度税制改正大綱・現行:令和4年1月1日から令和5年12月31日まで)に行われた贈与が対象です。

令和5年以前も同特例制度は存在しましたが、適用期間が終了するタイミングで期間延長の法律改正が行われ、令和6年度税制改正大綱により、令和8年まで特例制度を利用することが可能となっています。

省エネ等住宅とは?

「省エネ等住宅」とは、省エネ等基準に適合する住宅用の家屋のことをいい、贈与税の申告書を提出する際は、住宅性能証明書など一定の書類を添付しなければなりません。
<省エネ等基準>

  • 断熱等性能等級5以上または、一次エネルギー消費量等級6以上であること(令和6年度税制改正大綱・現行:断熱等性能等級4以上または、一次エネルギー消費量等級4以上であること)
  • 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上または、免震建築物であること
  • 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上であること

なお過去に住宅取得資金の非課税制度を適用している方については、非課税対象となった贈与金額を控除した残額が非課税限度額となります。

住宅取得資金の贈与が非課税になるための手続きとは?

住宅取得資金贈与の非課税制度を適用する場合、贈与を受けた翌年2月1日から3月15日までの期間に、税務署へ贈与税の申告書および必要書類を提出しなければいけません。

贈与税の申告書は、申告する時点で住んでいる場所を管轄する税務署へ提出することになります。

したがって贈与以降に転居した際は、引っ越し先の住所を管轄する税務署で手続きすることになりますので、提出先誤りに注意してください。

<添付書類(新築・取得用)>

  • 受贈者の戸籍の謄本
  • 源泉徴収票など受贈者の合計所得金額が確認できるもの
  • 新築に係る工事の請負契約書の写しまたは、売買契約書の写し
  • 住宅用の家屋に関する登記事項証明書
  • 次のいずれかの書類(※) ・耐震基準適合証明書 ・建設住宅性能評価書の写し
    ・既存住宅売買瑕疵担保責任保険契約が締結されていることを証する書類
     ※ 耐震改修により耐震基準に適合するものとなった住宅を取得した場合のみ添付が必要

【省エネ等住宅】に該当する場合は、次に掲げるいずれかの書類

  • 住宅性能証明書
  • 建設住宅性能評価書の写し
  • 次の①および②の書類 ① 長期優良住宅建築等計画の認定通知書の写し ②
    住宅用家屋証明書(その写し)または、認定長期優良住宅建築証明書
  • 次の③および④の書類 ③ 低炭素建築物新築等計画の認定通知書の写し ④
    住宅用家屋証明書(その写し)または、認定低炭素住宅建築証明書

住宅取得等資金贈与のデメリットと注意点

住宅取得資金贈与の非課税制度は節税効果の高い制度ですが、利用する際に注意すべきポイントもあります。

特例適用には贈与税の申告が必須

住宅取得資金贈与の非課税制度は、贈与税の申告書に特例を適用する旨を記載し、提出してはじめて特例を受けたことになります。

特例の要件をすべて満たしていたとしても、贈与税の申告書を提出していなければ特例を適用したことにはならず、贈与金額から非課税控除額を差し引くことはできません。

また贈与税の申告書は必ず申告期限内に提出しなければならず、申告期限を1日でも過ぎた場合、特例は一切適用できない点も要注意です。

他の特例制度には、期限後に申告しても特例適用を認める宥恕(ゆうじょ)規定が存在するものもありますが、住宅取得資金贈与の非課税制度には宥恕規定がありません。

したがって住宅取得資金贈与の非課税制度の申請に失敗しないためにも、必要書類を揃えて期限内に申告手続きを行ってください。

相続税の申告で小規模宅地等の特例を適用できない

相続税には土地の評価額を最大80%減額できる、「小規模宅地等の特例」があります。
小規模宅地等の特例は、被相続人が住んでいた自宅の敷地などに対して適用できる特例ですが、対象となるのは相続によって取得した土地に限られます。

住宅取得資金贈与の非課税制度を活用して自宅を建築した場合、自宅の所有者は受贈者ですので、贈与者(被相続人)が亡くなった際、自宅の敷地に対して小規模宅地等の特例は適用できません。

自宅の敷地の価値が高い場合、小規模宅地等の特例を適用した方がより大きい節税効果を得られる可能性があります。

そのため節税のために贈与税の非課税制度を活用する際は、小規模宅地等の特例と節税効果を比較することが大切です。

住宅ローンに充てることはできない

住宅取得資金贈与の非課税制度は、住宅を購入・新築するために援助してもらった資金が対象ですので、すでに購入した住宅のローン返済に充てることはできません。

そのため贈与資金は頭金として使用し、残りの金額は住宅ローンを組んで返済するなど、贈与資金の使い方も特例を適用するためにはポイントです。

登録免許税・不動産取得税の支払いに注意すること

不動産を購入・建築する際は必ず登記手続きが必要であり、その際に登録免許税および不動産取得税を支払うことになります。

住宅取得資金贈与の非課税制度は贈与税を非課税にする制度であり、登録免許税・不動産取得税を非課税にする制度ではありません。

まとめ

住宅取得資金贈与の非課税制度を適用できれば、1度に1,000万円をもらったとしても贈与税を非課税にすることも可能です。

しかし贈与を受けたのにもかかわらず、適用要件を満たしていなかったり、申告期限までに手続きをしなかった場合、多額の贈与税を支払うことになりかねませんのでご注意ください。

また節税目的で特例制度を利用する際は、相続税の小規模宅地等の特例を適用できなくなるデメリットなども考慮する必要があります。

贈与税には住宅取得資金贈与の非課税制度以外にも、節税効果の高い特例制度等がありますので、贈与する前に贈与税・相続税専門の税理士へご相談することをオススメします。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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