インボイス制度が与える影響と相続による事業承継時の注意点を解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

令和5年10月に導入されるインボイス制度は、事業者の活動に多大な影響を及ぼします。
現在事業を営んでいる方は、インボイス登録するかを検討しなければいけませんし、相続により事業を引き継ぐ場合、手続きが必要になることもあるのでご注意ください。

本記事ではインボイス制度の概要と、相続で事業承継する際の影響について解説します。

インボイス制度とは

インボイス制度(適格請求書等保存方式)とは、令和5年(2023年)10月1日から開始する制度で、複数税率に対応した仕入税額控除の方式として導入されます。
インボイス(適格請求書)は、売手が買手に対して正確な適用税率や消費税額等を伝えるもので、「区分記載請求書」に「登録番号」や「適用税率」、「消費税額等」を記載した書類やデータがインボイスに該当します。
消費税の仕入税額控除の適用を受ける場合、事業取引の買手は原則としてインボイス登録事業者から交付を受けたインボイスの保存等が必要です。

一方、売手は買手からインボイスを求められた場合には交付しなければならず、交付したインボイスの写しは保存することになります。
インボイスを交付できるようにするためには、税務署に対して適格請求書発行事業者の登録申請手続きが必要で、令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、原則として令和5年3月31日までに申請しなければなりません。
なお、買手が一定の事項を記載した仕入明細書等を作成し、売手の確認を受けたものについては、仕入明細書等を保存することで仕入税額控除の適用を受けることも可能です。

<仕入明細書等の記載事項>

  • 仕入明細書等の作成者の氏名(名称)
  • 課税仕入れの相手方の氏名(名称)
  • 課税仕入れの相手方の登録番号
  • 課税仕入れを行った年月日
  • 課税仕入れの内容
  • 税率ごとに区分して合計した課税仕入れに係る支払対価の額および適用税率
  • 税率ごとに区分した消費税額等

インボイス制度の導入による事業への影響

インボイス制度が施行された場合、仕入税額控除を適用する買手側だけでなく、インボイスを発行する立場となる売手側にも影響が出てきます。

買手側への影響(仕入税額控除の適用者)

仕入税額控除は、課税売上に係る消費税から課税仕入れに係る消費税を差し引くことをいい、要件を満たした消費税の課税事業者のみが仕入税額控除を適用できます。
しかしインボイス制度が導入されると、従来の仕入税額控除の要件にインボイスの保存等が新たに加わるため、インボイス制度に対応していない事業者からの仕入れに係る消費税は、仕入税額控除の対象外となります。
また 適格請求書発行事業者から交付されたインボイスは、交付日(提供日)の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間、保存しなければなりません。

売手側への影響(適格請求書発行事業者)

適格請求書発行事業者は、インボイスを発行するために一定の事項が記載された帳簿を作成し、交付したインボイスを保存しなければなりません。
ただし3万円未満の公共交通機関の運送や、郵便切手を対価とする郵便サービスなど、インボイスの交付することが困難な取引については、交付義務が免除されます。
適格請求書発行事業者のインボイスの写しおよびデータの保存期間は、仕入税額控除を適用する場合と同じ7年です。
適格請求書発行事業者の登録を行うかは任意であり、登録しなくても事業を継続することは可能です。

しかし、インボイスを発行できるのは適格請求書発行事業者に限られるため、取引相手の消費税の課税事業者からは、仕入税額控除を受けるためにインボイス登録の要請をしてくることも考えられます。
適格請求書発行事業者の登録をしていなかった場合、インボイス制度の施行のタイミングで取引が終了することや、登録の有無で取引に応じるかが変わることも懸念されており、事業者はインボイス制度の施行するまでに登録するか決断しなければいけません。

売上1,000万以下の事業者のインボイス制度への対応方法

適格請求書発行事業者になるためには申請手続きが必要ですが、適格請求書発行事業者の登録申請手続きを行えるのは、消費税の課税事業者のみです。
売上1,000万円以下のフリーランスや個人事業主などは、基本的に消費税の免税事業者として活動していますので、現状を維持したままインボイス登録を行うことはできません。
消費税の免税事業者から課税事業者に変更する手続きを行えば、インボイス登録の申請は可能になります。

ただし消費税の課税事業者となった場合、消費税の確定申告および納税が必要です。
消費税の申告は毎年しなければいけませんし、消費税の納税額が発生すれば、今までよりも税負担が重くなります。
インボイス登録を行わなくても、事業を続けられますし、免税事業者との取引においてはインボイス制度が施行することによる影響も少ないです。
しかし企業のほとんどは消費税の課税事業者ですので、取引を継続させるために、消費税の申告・納税が必要になったとしても、インボイス登録を行う決断を下さなければいけない免税事業者が多いのが現状です。

相続により事業承継した場合の適格請求書発行事業者の扱い

相続で親から事業を引き継ぐ場合、事業承継時期によって適格請求書発行事業者としての効力や手続き方法が異なります。

令和5年9月30日以前に相続が発生した場合

適格請求書発行事業者の申請手続きが完了し、令和5年10月1日から登録を受ける予定だった事業者が令和5年9月30日以前に亡くなった場合、登録の効力は生じません。
そのため相続人が既に登録申請書を提出していた場合を除き、相続により事業を承継した相続人については、適格請求書発行事業者の登録を受けるために登録申請手続きをすることになります。
令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、原則として令和5年3月31日までに税務署へ登録申請書を提出しなければなりません。

しかし登録申請書を提出できなかった困難な事情がある場合、事情を記載した申請書を令和5年9月30日までの間に提出し、適格請求書発行事業者の登録を受けたときは、令和5年10月1日に登録を受けたこととみなされます。
相続による事業承継は困難な事情に該当するため、令和5年9月30日までに登録申請書を提出すれば、令和5年10月1日から登録を受けることが可能です。

令和5年10月1日以後に相続が発生した場合

令和5年10月1日以後に適格請求書発行事業者が亡くなった場合、相続人は税務署に「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を提出します。
適格請求書発行事業者としての登録の効力が失われるのは、死亡届出書の提出日の翌日または、死亡した日の翌日から4月を経過した日のいずれか早い日です。
相続で事業を承継した相続人が適格請求書発行事業者の登録を受ける場合、相続人は登録申請書を提出しなければなりません。
(相続人が既に登録を受けていた場合を除きます。)

ただし相続発生日の翌日から相続人が適格請求書発行事業者の登録を受けた日の前日、または相続に係る適格請求書発行事業者が死亡した日の翌日から4月を経過する日のいずれか早い日までの期間については、相続人を適格請求書発行事業者とみなす措置が設けられています。
相続人を適格請求書発行事業者とみなす措置が適用される場合、期間中は被相続人の登録は有効であり、被相続人の登録番号を相続人の登録番号とみなすこととしています。

関連記事:【相続対策】3つの基本(相続税対策・納税資金対策・分割対策)を解説

まとめ

適格請求書発行事業者の登録を行うかは任意ですので、登録せずに事業を継続することも可能です。
しかし仕入税額控除を適用するためには、適格請求書の保管等は必須となるため、インボイス登録を行う事業者は多いと考えられています。
また 請求書発行事業者であった被相続人の事業を引き継ぐ場合には、一定期間内に手続きを行わないと、適格請求書発行事業者として活動できません。
相続が発生した際は、相続財産の分割協議はもちろんのこと、事業承継手続きや相続税の申告などやるべき作業が多いため、早い段階で税理士に相談して対策を講じてください。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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