マンション売却が失敗する理由とは?失敗例から見る対策と注意点を解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

マンション売却を予定している人のために、よくある失敗例とそれを避けるためのポイントをご紹介します。どの失敗例も、事前に知っておけば避けられることばかり。これらをしっかり抑えることで、スムーズな売却と希望金額を実現させましょう。

マンション売却で失敗しやすい理由

不動産の大手総合サイトの調査によると、中古物件を売却した人のうち約4割は 「売却価格に満足していない」と回答しています。さらに半数近くの人が「予定より安い価格での売却になった」と答えています(参照:某不動産情報サイト「中古物件の“売り手”と“買い手”のキモチ調査」)

つまりマンション売却では、かなり高い割合で失敗が起こっているわけです。なぜ失敗確率が高いかというと、マンション売却は大半の人にとって人生で数少ない体験だからです。知見や経験が少ない状態で進めてしまうと、失敗するのは当然といえるでしょう。

だからこそ、マンションを売却する前に失敗例を知ることが重要なのです。では、マンション「売り出し前」「売り出し中」「売却後」のステップ別の失敗を見ていきましょう。

マンション「売り出し前」の失敗例

マンションの売り出し前にミスをしてしまうと、「いつまでたっても売却できない」「大幅値引きするしかない」など致命的な失敗につながってしまいやすいです。

査定を1〜2社しか受けない

これは、マンション売却の典型的な失敗例です。マンションの査定額は不動産会社によって変わってきます。なぜなら、1社ごとに蓄積データ、得意なエリアやジャンル、営業力などが違うからです。それによって強気の(高めの)査定、弱気の(安めの)査定の差が生まれるのです。

売却したいマンションの相場を知るには、数多くの査定を受けることがポイントです。1〜2社の査定を受けただけでマンションを売り出してしまうと、相場よりも割安または割高になってしまい、どちらもデメリットがあります。少なくとも3〜4社以上の査定を受ける、あるいは、ネットの一括査定を受けて相場を意識した価格で売り出すのがベターです。

マンション売却が苦手な不動産会社に依頼してしまう

これもマンション売却で絶対に避けたい失敗例です。査定を1〜2社しか受けず、さらにその不動産会社がマンション売却を苦手にしていたら、相場との差はますます大きくなります。しかも、売却までに期間がかかる可能性も高くなります。

一般的な不動産会社はマンションや戸建ての販売に関わったり、賃貸仲介をしたりしています。不動産会社のうち、マンション売却を得意にしているのはごく一部なのです。

最近、マンション売却の査定の主流になっているネットの一括査定には、このジャンルを得意にする不動産会社が集まっているため効率的な査定ができます。

査定価格に根拠のない不動産会社を選んでしまう

マンションは、査定額通りに必ずしも売れるわけではありません。相場よりも高い価格だと売れ残ってしまい、大幅な値引き交渉をされたりする確率が高まります。

なかには、意図的に相場よりも高い査定額を出しておいて、市場に出してから大幅値引きを持ちかけてくる不動産会社もあります。このような手口に引っかからないよう、とくに高額査定をしてきたところには、根拠(過去の売却価格の平均額データなど)の提示を求めましょう。

マンション「売り出し中」の失敗例

マンションを相場価格で売り出しはじめても、以下のような失敗をしてしまうと、大幅値引き、または売れ残りのリスクが高まります。

売り急いで期間設定を短くしてしまう

マンションを市場に出してから売却するまでの平均期間は約6ヶ月以上といわれます。長い場合だと売却までに1年近くかかる、あるいは、どうしても売れないケースもあります。

そのため、売却期間は長く設定しておくのが無難です。売却期間の設定が短いと、安い価格で指値を入れられたときに、焦ってその条件をのんでしまいやすくなります。このような失敗パターンに陥らないよう、余裕を持った期間設定をすることが大切です。

タイミングの悪い時期に市場に出す

同じマンションでも市場に出すタイミングによって売却価格は変わってきます。出来る限り、有利なタイミングで売り出すのが売却価格を高くするコツです。

中古マンションの取引傾向を1年間でみると、成約件数が多くなるのは2月・3月、平均価格が上昇するのは3月です。これは、転勤やお子さんの入学・進学などの影響で住み替え需要が高まる時期だからです。

そして、この売却に有利なタイミングの前後である1月や5月がもっとも成約件数が少なくなるタイミングです。当然ながら、好条件でのマンション売却を目指すのであれば、有利なタイミングを選ぶべきでしょう。2月・3月の絶好のタイミングで売り出すには、前年の11月頃に不動産会社に査定を受けるなどするとスムーズです。

不動産会社との関係性を築けない

不動産会社の営業マンは数多くの案件を抱えています。そのなかから、優先するタスク、後回しにするタスクを仕分けしながら仕事をしています。

当然ながら、売却するマンションが後回しにするタスクに入ってしまうと、売却期間が長くなってしまいます。優先するタスクにしてもらうには、営業マンに「このオーナーは仕事がしやすい」と感じてもらえる信頼関係が重要です。

信頼関係をつくるには、こちらの希望にこだわるだけでなく、営業マンの意見を聞きながら売却価格を設定するといった努力も必要でしょう。

内覧希望者の対応が悪い

現在、住んでいるマンションを売り出す場合、内覧者には生活感のある状態で物件を見てもらうことになります。このとき、あまりにも部屋が散らかっていたり、清掃状況が悪かったりすると大きなイメージダウンになってしまいます。

とくに内覧者が注目するポイントは、玄関周り、水回り(キッチン、お風呂、トイレ)、リビングなどです。内覧者をお迎えする前には、必要最低限の掃除をしておくよう心がけましょう。

また、内覧希望が入ったときには相手の希望日時にできる限り応えるのが鉄則です。「お互いの都合が合わない」といううちに、違う物件に流れてしまう可能性もあります。

マンション「売却後」の失敗例

マンションを売却したらひと安心……ではありません。知識が足りないと売却後に思わぬ費用負担が発生したり、減税の特例が使えなかったりする失敗例もあります。

売主の責任についての知識が足りなかった

マンション売却時、売主には「契約不適合責任」が伴います。この認識が甘かったせいでマンション売却後に思わぬ負担が発生することもあります。不動産売買における契約不適合責任とは、売買契約時の契約書に書かれていない傷や不具合があった場合、売主に下記のような責任が発生することです。

  • 追完請求:修繕や代替品の提供などで不動産を契約書通りにする
  • 代金減額請求権:追完請求が履行されない場合、買主が払った金額を減額する
  • 催告解除:追完請求が履行されない場合、買主は契約を解除できる

 など

このうち、個人が売主の場合は契約書の特約で「追完請求」だけを有効とするのが通例です。

契約不適合責任で負担を発生させないためには、契約書にマンションの不具合を漏れなく記載することがポイントになります。

税金に関する知識が足りなかった

マンション売却時には、さまざまな税金が関わります。この知識が足りなかったせいで、予想していなかった税金が発生したり、新しいマイホームに対してローン減税が使えなかったりなどの失敗が考えられます。

まずマンションを売却して利益が出たときは約20%の税金が発生します(内訳:所得税15%+住民税5%、復興特別所得税0.315%)。ここでいう売却益とは、基本的に購入価格よりも売却価格が高かった場合の差益を指します。計算式は次の通りです。

課税譲渡所得金額=譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-特別控除

ただし、税率が約20%というのは、不動産の所有期間が5年超(所有期間は譲渡した1月1日時点で計算)の場合です。これよりも所有期間が短い場合は税率が約40%、つまりほぼ倍になります。

なお、マイホームを売って得た譲渡所得には、所有期間が短い長いに関わらず、最高3,000万円まで控除できる特例もあります。ただし、この「3,000万円特別控除」には、これを使うと住み替えのために購入した新しいマイホームの「住宅ローン控除」が一定期間使えなくなるという注意点もあります。

つまり、「3,000万円特別控除」と「住宅ローン控除」どちらかメリットの大きい方の選択になるわけです(売却益に対する税金の負担がわずかな場合、「住宅ローン減税」を選択するメリットの方が大きくなります)。

その他、マンション売却時に売却損が出たときには、サラリーマンの給与所得など他の所得と売却損を相殺して所得税等を軽減できる特例もあります。こちらの特例は「住宅ローン減税」と併用できますが、「10年以上の住宅ローンがあること」などの細かな要件があるためご注意ください。

「売主の責任」「関連する税金」には専門家のフォローで対応

前項のマンション売却後の失敗例については「さわり」の部分だけ解説しましたが、「売主の責任」「関連する税金」どちらも要件や注意点がたくさんあります。そのため、専門家のサポートを受けながら売却を進めるのが安全です。

「売主の責任」については、マンション売却を得意にする不動産会社のサポートが必須です。マンション売却で実績豊富な不動産会社を選ぶと、スムーズに売却できるだけでなく、契約時のトラブル回避にもなるのです。

「関連する税金」については、税理士に相談するのが間違いありません。不動産に特化した、マンション売却の確定申告の経験が豊富な税理士を選ぶのがポイントです。

まとめ

ここではマンション売却の失敗例を「売り出し前」「売り出し中」「売却後」のステップ別に見てきました。全体を通して言えるのは、「時間がない」「早く売りたい」と焦る気持ちが、マンション売却のさまざまな失敗につながりやすいということです。

落ち着いてマンション売却ができる環境をつくるには、初動が鍵です。「実際の売却はまだ先かもしれない」くらいの段階で情報収集をしたり、査定を受けたりするのがちょうどよいのかもしれません。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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