アパート経営の経費とは?必要経費の種類や節税対策のポイント・注意点を解説

この記事の執筆者 税理士 藤井 幹久

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

【執筆者:税理士・藤井幹久】
不動産は、「売る」「買う」「保有」すべてに税金がかかるもの。アパート経営においても、至るところで税金がかかります。
しかし税金は「正しく経費計上」することで、納税額の負担を軽くすることが可能。経費にできるものできないものを見極め、きちんと申告すれば、アパート経営において節税効果を得られます。
今回は、アパート経営で必要経費として計上できるものと、計上する上での注意点について解説いたします。アパートを経営している、または今後アパート経営を検討されている人は、ぜひ本記事を参考にしてください。

アパート経営についてより詳しく知りたい方は「アパート経営とは?知っておきたい基礎知識を税理士が解説」の記事も参考にしてください。

アパート経営で必要経費として計上できるもの

不動産投資において、経費とは物件の運用に使用した費用のこと。そして、この経費は年度末の確定申告時に計上することで、納税額を軽減させることができます。

では、アパート経営で「経費として申告できる費用」には、一体どんなものがあるのでしょうか。必要経費として計上できる費用を以下にまとめました。

費用名 概 要
減価償却費 建物や付属設備、外構などの構築物に支払った費用を基に計算
修繕費/修繕積立金 建物を修繕した費用、修繕の積立金としたもので返還されないもの
借入金利息 建物購入時に組んだ投資ローンの利息分
損害保険料 投資物件が加入している火災保険や地震保険料
管理費 物件管理を依頼したときに支払う委託管理費用
仲介手数料 入居者募集のために仲介を依頼したときの手数料
青色専従者給与 所定の手続をして家族従業員に支払った給与
広告宣伝費 入居者募集のために不動産会社に支払う広告費
交通費 物件の管理のためにかかった電車代やバス代など
新聞図書費 アパート経営に関する書籍の購入費用
租税公課 不動産取得税、事業税、印紙税、固定資産税など
水道光熱費 共用灯やエレベーターの電気代など、共用部分の光熱費
消耗品費 物件の掃除用品や筆記用具の購入費用
通信費 管理会社などとの連絡に使用した電話・プロバイダ使用料

上記の表をみてわかるように、アパートを購入または維持管理のために使用した費用は、経費として計上することができます。

減価償却費は大きな節税効果がある

経費の中でも、扱いが難しい減価償却費。

減価償却とは、高額かつ価値が減少しにくい物を購入したときに「一度に経費するのではなく、数年数回に分けて経費とする」ことです。減価償却費に該当すると、一度の購入費用を「耐用年数」にわたり経費化することになります。

上記の表でも紹介したように、減価償却費として計上できるのは「建物購入費」「附属設備購入費」「外構費用」など、購入から時間の経過とともに緩やかに劣化していくものです。土地や借地権など、時間の経過とともに価値が下がらないものに関しては、例え高額な買い物であっても、減価償却費として計上できません。

家族に経営を手伝ってもらった費用も経費に

アパート経営も、立派な事業のひとつ。そして経営に関する費用であれば、経費として計上できます。例えば、家族にアパートの清掃を手伝ってもらったり、チラシやウェブサイト作成をしてもらったりしたときに、かかる費用や手間賃は経費とすることが可能です。

ただし、家族への給与を経費とする場合は「青色事業専従者給与」として手続をしなければいけません。税務署へ行き、青色申告の申請書を提出することから始めましょう。その後、家族を「青色事業専従者」として申請すれば、家族への給与も経費に含めることができます。ただし、青色事業専従者とできるのは、アパートの室数が10室以上など「事業的規模」に該当する場合のみとなるためご注意ください。

アパートの経営で必要経費として計上できないもの

アパート経営上、必要な費用であっても「経費として計上できない費用」もあります。確定申告書に経費として認められない費用を記載してしまうと、税務署から税務調査などで経費としての計上を否認されて追徴課税されるリスクがありますので、注意してください。

経費計上できない費用は、以下の通り。

費用名 概 要
土地の購入費用 アパートが建っている土地の購入費用
日々の生活費 オーナーの生活に関する費用
借入金の元本 建物購入時に組んだ投資ローンの元本分
所得税や住民税 オーナーの個人に対する所得税や住民税

繰り返しますが、経費計上できるのは「アパート経営に関わる費用」のみ。オーナーの生活費や自宅の維持管理費などは、経費として認められません。また、土地代や投資ローンの元本も、経費計上できません。

土地代は経費にも減価償却にも該当しない

土地の購入費用は、経費にも減価償却費としても処理できません。土地は経費として勘定するのではなく、後日売却した際の売却原価として使用するものだとイメージした方がわかりやすいと思います。

土地は、時間の経過とともに価値が減るものではありません。耐用年数もありませんし、使って減るものでもないのです。一方で、減価償却資産とは「高額かつ価値が減少しにくい物」。土地は価値が「減少しない」ため、減価償却資産に該当しないのです。

賃貸併用住宅を購入した場合は割合按分

オーナーの生活費に関しては、経費計上できないとご説明しました。では、アパートの一部をオーナー宅としている賃貸併用住宅の場合はどうしたらいいのでしょうか。

賃貸併用住宅の場合、「賃貸エリア」と「居住エリア」を割合按分した費用を算出し、経費計上します。例えば、賃貸エリアと居住エリアが半々であった場合、費用の50%までを費用として計上可能です。

ローンの元本は経費にはできない

また、ローンの利息は経費計上できても元本は経費として認められませんので、こちらも注意しましょう。

なぜならば、元本は建物購入費用で減価償却費として計上できるからです。ローンの元本を経費にしてしまうと、2重の経費となってしまいます。一方で、利息は建物購入費用というよりもお金を分割したことに対する支払いです。そのため、元本は経費になりませんが、利息は経費計上できるという考え方となります。

アパート経営が影響する税金

正しく経費計上すれば、税負担を減らすこともできます。では、アパート経営ではどの税金に影響がでるのでしょうか。

固定資産税等

固定資産税・都市計画税は、土地や建物を所有している場合に支払う税金。固定資産税・都市計画税は、その土地にある建物が賃貸物件(住宅)であった場合は、更地であった場合と比較して、固定資産税で最大1/6、都市計画税で最大1/3程度で済みます。

これは、土地の税金を決めるルールが深く関係していることが大きな理由です。固定資産税等は更地の税金が一番高く、生活に必要な「住宅」が建っている土地では、税金が安くなるという特性をもっています。そのため、住宅であるアパートなどが建っている土地では、固定資産税等が安くなりやすいのです。

所得税

そもそも所得税とは、所得に対して支払う税金。この所得税は、経費が増えれば増えるほど、税金が安くなるという特性があります。

所得税の課税対象は、以下の計算式で算出されます。

「総収入金額ー必要経費=不動産所得(所得税の課税対象)」

不動産の場合は、家賃収入などが総収入金額。そして、必要経費は、このページの上部でご紹介してきた経費です。上記の式に当てはめると、必要経費が多ければ多いほど、所得税の課税対象となる不動産所得がが少なくなることが、お分かりいただけると思います。

住民税

住民税とは、居住している都道府県、市区町村に支払う税金です。
この住民税は、所得税の計算と一部連動しており、ほぼ課税所得の10%が住民税となります。つまり所得が少ないほど、住民税もまた安くなるという仕組みなのです。

経費を計上する上での注意点

それでは最後に、経費計上するときの3つの注意点について紹介いたします。

注意点1.経費である証拠を保管する

アパート経営で使用した費用を経費とするために、支払った証拠をきちんと保管しておきましょう。レシートや領収書で構いません。このとき、「消耗品を購入した領収書」「交通費のレシート」など、できるだけ細かく管理することが大切です。

注意点2.経費にできるかできないかの線引きが難しい物がある

支払った費用の中には、経費として計上できるか否か、判別が難しい支出もあります。

「この費用は経費になるの?」
「経費として認められるかどうかわからない」

このように、必要経費になるかどうか不明な点は、以下の項目に該当するかどうか確認してみてください。

  • アパート経営に直接関連した費用
  • アパート経営をする上で必要性があるか?
  • アパート経営に関する部分の経費として明確に区分できるか?

過去の判例等を参照にすると、この3つを満たした場合にはほぼ必要経費となっています。

注意点3.最適な経費計上ができるか不安なときは税理士に相談

正しく経費計上できれば、税負担を軽減できる可能性があるとご説明してきました。
そのため、「どの費用がどの経費項目に該当するのか」きちんと見極めることが大切。数あるレシートや領収書を細かく分別し、然るべき項目に振り分けることができなければ、適正な経費計上ができないのです。

もし、きちんと経費計上する自信がないときは、税理士に確定申告を依頼するという方法もおすすめです。税理士は、税金のことが全くわからなくても、経費計上をお任せしても、適格に対応してくれる頼もしい存在です。

ただし、年明けの確定申告時期間近になると、依頼できる税理士も少なくなります。経費計上に不安を感じるときは、お早めにご相談してみてください。

まとめ

アパート経営において、経費計上は税金に大きな影響を与えます。トリッキーなテクニックを使わずとも、正しく申告するだけで税負担を軽減できる可能性があります。

もし経費計上に不安を感じるときは、不動産に強い税理士に確定申告を依頼するのもひとつの手段です。間違えて申告してしまい、税務署から追徴課税を受けて税金を無駄に支払うよりも、税理士に依頼して効率よく節税効果などを得た方が、お得になることが多いです。

監修者情報

税理士

藤井 幹久

Fujii Mikihisa

マルイシ税理士法人の代表税理士です。責任者として、相談業務から申告実務までの税理士業務に取り組んでおります。また、不動産税務と相続税・相続対策を主として、提携の税理士やコンサルタント及び弁護士等の他の士業と協業しながら、「不動産と相続」の問題解決に努めております。

相談業務を最も大切に考えており、多いときには月に100件以上の相談対応をしています。セミナー・研修の講師や執筆を数多く行っており、「大手不動産会社の全国営業マン向け税務研修の講師」「専門誌での連載コラムの執筆」「書籍の執筆」など多くの実績があります。

税理士業界の専門誌において「不動産と相続のエキスパート税理士」として特集されるなど、その専門性の高さと実績を注目されている税理士です。

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